翌日、俺は雑用の合間に、別の任務を経験した若衆から話を聞いて回った。
倉庫の任務に参加した連中は、俺以外誰も戻っていない。現場のことを知る人間はいないため、ほかの任務では誰が手配を担当しているのか、少しずつ探ることにした。
「任務の手配って、いつも誰がやっているんですか?」
「仕事によるだろ。上から指示が来ることもあるし、担当の奴が決めることもある」
「倉庫の件で失敗したので、次は事前に確認できることがあればと思いまして」
「俺たちに選べる仕事なんてないさ。指示された場所に行くだけだ」
それ以上は聞けなかった。
別の若衆にも声をかけてみたが、詳しいことを知らない者ばかりだった。何人かと話しているうちに、俺の方を気にする視線が増えてきた。
夕方、廊下を歩いていると、先ほど話をした若衆が別の男とこちらを見ていた。俺が近づくと、二人は会話をやめた。
余計なことを聞きすぎたらしい。
ただの確認だと言い張ることはできる。だが、入ったばかりの人間が任務の手配について探っていれば、不審に思われても仕方がない。
俺はそれ以上聞き回るのをやめた。
翌朝、再びジュンに呼び出された。
部屋にはジュンのほかに二人の男がいた。どちらも見覚えはない。俺が入ると、片方が顔を上げた。
「こいつか。元の事務所を売って入ってきたっていう新入りは」
「そうだ」
ジュンは短く答えた。
男は俺を上から下まで眺めた。
「倉庫の任務から戻ったのも、こいつ一人なんだろ?」
「戦闘中にはぐれました。荷物を確保して、撤退しました」
「仲間を置いて逃げたわけか」
もう一人の男が口を挟んだ。
「剣契と手を組んでたんじゃないのか。仲間を始末して荷物を持ち帰れば、自分だけ手柄を立てられる」
「協力なんかしていません」
「元の仲間を売った奴が言っても、説得力がねえな」
二人は顔を見合わせて笑った。
俺は反論しなかった。元の事務所を裏切ったのは事実だ。こいつらに何を説明しても、信じる気がないなら意味はない。
「何か言い返さないのか?」
「任務の報告は、ジュンさんに済ませています」
「ふん。口だけは達者だな」
男が舌打ちした。
ジュンはしばらく二人を見ていたが、やがて口を開いた。
「もういい。剣契がいた理由を調べる」
「ですが、こいつが――」
「倉庫の場所と回収の日時を知っていた人間を洗い出せ」
男の言葉を遮り、ジュンは俺に目を向けた。
「お前がやれ」
「……承知しました」
「それと、昨日から任務の手配について聞き回っているそうだな」
心臓が一度だけ強く打った。
「次の任務に備えて、手配の流れを確認していました」
「俺に聞けば済む話だと思わなかったのか?」
すぐには答えられなかった。ジュンに直接聞けば、何を探っているのか説明しなければならない。
「自分で確認できることは、先に調べようと思いました」
「余計なことまで調べるな。必要なことだけ報告しろ。勝手な真似はするな」
「承知しました」
話はそれで終わった。
俺が部屋を出ると、背後から声が聞こえた。
「本当にこいつに任せるのか? 情報を漏らしたのが本人かもしれないぞ」
「だから調べさせる」
「使えなければ、それまでだ」
扉を閉め、廊下を歩いた。
ジュンも俺を疑っている。調査を任されたのは信用されたからではなく、疑いを晴らせるかどうか試されているだけだろう。
断ることはできない。何も見つけられなければ、疑いは残ったままだ。
まずは倉庫を調べ直すことにした。
その日の仕事を終えると、周囲を確かめてから現場へ向かった。正面を避け、以前逃げるときに使った裏手の通路から中に入る。
戦闘の跡はまだ残っていた。壊れた木箱や床の傷はそのままだが、荷物を運び出した跡もある。誰かが片づけを始めているらしい。
俺は木箱の周囲を調べた。やがて、破片に紛れて小さな金属部品を見つけた。
拾い上げて眺める。武器の一部に見えるが、作りが妙に複雑だった。
俺たちは荷物を回収するよう命じられただけで、中身については詳しく聞かされていない。わざと伏せられていたのか、それとも俺たちに説明する必要がなかったのか。
部品を懐にしまおうとしたとき、外から足音が聞こえた。
俺はすぐに木箱の陰へ身を隠した。足音は二人分。裏口の近くで止まり、男たちの話し声が聞こえてきた。
「ここも片づけるのか?」
「知らねえよ。残ってるものを確認しろって言われただけだ」
「面倒な仕事だな。あの任務のせいで、こっちまで駆り出されるとは」
「余計なことを言うな。上の連中も神経質になってるんだ」
声の主は黒雲会の人間らしい。
俺は息を潜めた。
「それにしても、剣契が来るなんて聞いてなかったぞ」
「あたりまえだ。知ってたら、あんな人数で行かせるわけがない」
「じゃあ、誰かが漏らしたってことか?」
「さあな。だが、荷物のことを知ってる奴は限られてたはずだ」
少し間が空いた。
「中身まで知ってた奴は、もっと少ないだろうけどな」
「おい、そういう話はやめろ。聞かれたら面倒だ」
二人はそれきり話を切り上げ、歩き去った。
足音が遠ざかってから、俺はようやく身を起こした。
荷物の中身を知っていた人間は、かなり限られているらしい。
剣契が荷物を狙っていたのか、誰かが襲撃を利用したのか。今の会話だけでは分からない。だが、少なくとも荷物の中身について知っている人間がいることは確かだった。
俺は周囲を調べ直したが、ほかに手がかりは見つからなかった。
懐の部品を指で確かめる。これが何なのか分かれば、荷物の正体に近づけるかもしれない。
ジュンへの報告は、まだ早い。確かなことが分からないうちに話せば、また疑われるだけだ。
俺は部品をしまい、倉庫を後にした。
まずは、これが何なのかを調べる。
そのうえで、荷物の中身を知っていた人間を探すことにした。