説明が足りないので世界観やキャラ理解のために書いてます。ただ、よくわからない部分が多すぎるので設定ミスがある場合は、申し訳ないです。
名前が出てないのでわかりづらいかもしれないですが、ゲームのチュートリアル前までの話。ゲームのメインヒロイン? のイリアと出会うところまで書きました。
フラン公領。それが僕の治める、小さな国の名だ。
街の至る所で風車が回り、丘には美しい花々が咲き誇る。そんな穏やかな領地だ。
アドリア大陸の最南端に位置するため、大陸の中心地に住むものたちからは辺境国家などとも言われている。
自分で言うのもなんだが、僕はこの国を誇りに思っている。そして、この地を代々治めてきた先代の領主たちのことも。
彼らは国の発展よりも、領民の安寧と幸福を優先してきたからだ。
国の繁栄と経済の発展。それこそが、上に立つ者の考えるべきこと。そう語る者もいるが、民あっての国。
国の発展のために彼らが犠牲になることを、僕は正しいとは思えなかった。
──きっと、先代の領主様方も同じように考えていたのだろう。
とはいえ無論、彼らの考えが間違ってるとも思ってはいないが。
「結局はスタンスの違いってだけだからなあ。それに国よりも領民の安寧を優先した結果、他国に比べて色々と遅れていたことも事実だし……」
領主館の窓から覗く景色に視線を向ける。
遠くに広がる青い海と、緑に溢れた風景。その中には、日々の暮らしを営む領民たちの小さな姿もあった。
「領主様、お茶が入りました」
「ああ。アイリス、ありがとう」
「お礼は必要ありません。私の仕事ですから」
アイリスと呼ばれた桃色の髪の少女が、淡々と返事をした。
「うん、いつもながら、美味しいね」
「ありがとうございます」
アイリスはわずかに口元を緩め、嬉しそうに答えた。彼女が淹れてくれたのは、この街の数少ない名物の一つ。丘に咲く花を使ったお茶だ。
従者として僕を支えてくれている彼女の淹れるお茶が、僕は好きだった。
仄かに香る花の香りが鼻腔をくすぐり、執務に疲れた頭をスッキリさせてくれる。
仕事の合間、休憩の時はいつも飲んでいる。格別な一杯だ。
「ふう。それでアイリス、他国からの返答は……」
「残念ながら、何も」
「……そうか」
予想していたことではあったが、やはり返答がないと分かると肩を落とさずにはいられなかった。
もっとも、無理もない話だ。突如として世界を襲った『厄災』によって、国と国との交流はほとんど途絶えてしまっている。
魔女の呪いか、神の怒りか。
その正体すら分からない災いは、世界を大きく変えてしまった。
今では他国の安否さえ分からず、助けを求めることも、差し伸べることもできない。
「領民の様子は?」
「今はまだ。ただ、時間の問題かと」
世界を襲う『厄災』を魔女の仕業と断じた教会による魔女狩り。
迫害と偏見によって追い詰められた少女たちがその特異な力を暴走させ、さらなる混乱を世界に招いてしまった。
更に悪いことに、国と国との交流さえ途絶えてしまった。
いくつもの重なった凶事による不安の影は、辺境国家であるこの国にも迫っていた。
「領主様。近頃は山賊も増えていると報告が入っております。その中には、魔女がいるとも。いざという時は、このアイリス。この身を捧げる覚悟で、貴方をお守りします。それが貴方に拾われた、私の為すべきことですから」
背後から伝わる彼女の強い決意に、僕は思わず首を横に振った。
「アイリス、そんなことを考える必要はないよ。君は、君自身のために生きていいんだ」
「いえ、貴方がいなければ、今の私はいません。それに私は……魔女ですから」
悲しげに目を伏せるアイリスに、僕は小さく呟く。
「魔女か……」
窓から見える青空とは裏腹に世界を覆う不穏の影は未だ晴れることはない。
何から手をつければいいのか。それさえ分からないほど、問題は山積みだった。
僕は一度、花の丘に住むとある一家のことを思い、小さく溜息を吐いた。
そして、机に積まれた書類へと視線を戻したのだった。
*
「領主様、そろそろ目的の森林になります」
僕はアイリスと数人の護衛を連れ、町外れの森へと向かっていた。
「山賊が出るって話だけど」
「はい。少し前に遠方より来た騎士団が掃討したそうなのですが、その際の生き残りがいたのでしょう」
「生き残りか……なら、そう人数はいないと見ていいな」
馬に跨りながら、護衛たちを見る。
人数はそう多くない。従者であるアイリスを除けば、護衛はわずか五人ほどだ。
山賊がいる森に出向くには少々心許なく感じる人数だが、不安定となりつつある領地から動かせる人数はこれぐらいが限界であった。
「しかし、教会の騎士団が来ていたという報告は上がってなかったんだけどな」
「どうやら、秘密裏に動いていたようです。理由はわかりませんが、恐らくは山賊の中にいたらしい魔女が目的かと」
「まあ、聖槍教会の人たちが動くとしたら、それが理由だろうね。僕に報告や認可を取らなかったのは……わからないけど」
魔女を狩るのが彼らの仕事とはいえ、フラン公領は僕が治める土地だ。
それを何の報告もなく、勝手に騎士団を送り込んで山賊や魔女を狩っていたというのは、なんとも……面白くない。
端的に言って、不愉快であった。
「それより領主様、今回の調査。私がおそばにいるとはいえ、領主様本人がおらずとも良かったのではないですか?」
「危険だからかい」
「はい。昨今の状況を鑑みても、山賊程度で領主様が危険な場所に出られるのは些か軽率かと」
アイリスの諫言に、周囲の護衛たちも同意するように頷く。
「いざという時、国に貴方がいなければ指揮する者がおりません。山賊の捕縛だけなら我々だけで十分です。今からでも領主様は戻って──」
「その話は何度もしただろう? ここは僕の領地で、僕はここを治める領主だ。魔女がいて、被害も出ている。僕自身が解決に出向くのが、疲弊した領民の心の慰めとなる。それが、領主たる僕の責任だよ」
心配そうに、しかし咎めるような視線を向けてくるアイリスに、僕は少し困りながらも強く答えた。
これが僕の仕事であり、今さら引き返すつもりはない。その意思を伝えるために。
少しの間、意思をぶつけ合うように僕とアイリスは見つめあった。
5秒ほどで、アイリスの視線が逸れた。
「仕方ありませんね。皆さん、領主様がこう言っている以上、全力で領主様を死守する必要があります。何があっても、必ず守り抜きますよ」
「すまないね。みんなも、よろしく頼む」
諦めたアイリスと、護衛の者たちが一層決意を固め、僕の周囲を囲んだ。丁度、中心に僕がいる形になるように。
森はもう目前にまで来ていた。
「──ここからは徒歩となります。この森は狭いので、馬で走るには不向きです」
アイリスに言われ、馬から降りる。
すると、彼女がすぐさま傍らに寄り添った。
些か、過保護過ぎやしないかと苦笑いをしてしまったが、悪くはないと思う。
「変だね」
「はい。森が、静か過ぎます」
森から感じる異様な雰囲気に小さく呟いた僕に、アイリスが同意した。
おかしいと感じたのは、周囲の護衛たちも同じようで、いつでも剣を抜けるように彼らの手はそっと腰に添えられていた。
「領主様、後ろに。決して我々から離れないでください」
「うん」
護衛の一人が僕の前を歩く。
僕もいつでも動けるように警戒を強くした。
森に足を踏み入れてしばらく。昼間だというのに、辺りは薄暗く、木々が鬱蒼と生い茂っている。頭上を覆う枝葉は陽光を遮り、森の奥は昼間とは思えないほど暗い。
鳥のさえずりも、獣の鳴き声さえも聞こえてこない。まるで、森そのものが息を潜めているかのようだった。
一寸先の闇に気圧されるように、一歩一歩森の中を進む僕の額に汗が一筋流れた。
「領主様、やはり今の森は危険すぎます。何があるかわかりません。引き返しましょう」
「アイリス……いや、残念だけどそういうわけにもいかないようだよ。護衛の人が良くないものを見つけたようだ」
「え?」
先頭を歩く護衛が何かに気づいたように足を速め、一本の木へと駆け寄った。
後を追った僕たちが目にしたのは、一本の木に縫い止められるようにして息絶えた男だった。
その胸には一本の矢が突き刺さっており、身体を貫通した矢尻は背後の幹にまで達している。
「これは……」
「遺体、だね。騎士団との戦闘によるものかな」
眉間に皺を寄せながら、その遺体に近づく。
「すごいね。心臓を正確に射抜いたうえ、木にまで突き刺している」
「はい。相当な腕前か、あるいは尋常ではない力の持ち主でしょう。そして、姿から見て山賊の一人」
「騎士団にやられたのかな」
「それはまだ、なんとも」
死んでから時間が経っているためか、異臭を放つ遺体のそばにしゃがみ込み、その様子を確かめる。
動物の毛皮などから剥ぎ取って作ったであろう荒れた衣服は明らかに上等なものではなく、騎士団のものとは思えない。
十中八九、森に潜んでいた山賊の一人である。
「領主様、恐らくは騎士団によるものではありません」
遺体を見ながらアイリスと話していると、護衛の一人が周囲を見回しながら言った。
「周囲を見てください。ほとんど戦闘の跡がありません。騎士団と争ったならこうはなりません。もっと荒れ果てているはずです。仮にその山賊が逃げていたとしてもです」
彼の言葉に頷く。
確かに周囲に争った形跡はなかった。
「だとすると、この山賊はなぜ……」
「わかりません。いえ、一つだけ可能性はあります。足跡は一人分、そしてこの矢は男の身体を貫いたうえで、背後の木にまで深々と突き刺さっています。並の弓の威力ではありません」
護衛の一人が、恐れを隠すこともなく語る。
恐怖を滲ませるその言葉の先には、『魔女』の存在が見えていた。
「先へ進もう」
アイリスと周囲を取り囲む護衛たちにのみ聞こえるように発した言葉に、応える者はいなかった。
*
調査を始めて、どれほど経っただろうか。
森は奥へ進むほど暗くなり、木々の落とす影も濃くなっていった。
「もう、だいぶ奥まで来たと思うんだけど。一旦引き返すべきかな」
「はい。これだけ探して生存者が見つからない以上、引き返すのも一つの手でしょう。山賊たちはすでに森を離れた可能性もあります。ただし、最後まで油断はなさらないでくださいね、領主様」
立ち止まり、歩いてきた森の道を振り返る僕に、アイリスの嗜める声が届く。
疲れからきた心の緩みを見咎められたようだった。
「ここまで何人か山賊や騎士団の遺体は見つかったけど、生存者はなし。とりあえず今回の調査はこれで終わりにしよう」
「領主様、道中見つかった騎士団と山賊の遺体はどうしましょう」
「流石に放っておくわけにはいかない。とはいえ今回は人手の問題から連れ帰るのは無理だ。それは次回、人を連れてくるしかないな」
悩ましい問題に頭を掻きながら護衛の一人に答える。
今の情勢では、領地からあまり人手を割きたくない。死者を悼む気持ちはもちろんあるが、これだけの遺体を運び出すとなると、正直なところ頭が痛かった。
「それじゃあ、アイリス。最後まで気を引き締めて帰るとしよっか」
「はい」
そう言ってアイリスを促し、来た道へと振り返った。
その瞬間、僕たちは揃って息を呑んだ。
「──え?」
僕たちが歩いてきた道の真ん中に、いつの間にか一人の少女が立っていた。
赤黒い瘴気を身に纏い、血走った双眸からは尋常ではない敵意が放たれている。
「いつの間に!? 領主様、下がって!!」
固まった僕を押しのけるように、誰よりも先にアイリスが動き、前に出た。
その手にはすでに長剣が抜かれており、前方に立つ少女に向けられている。
護衛たちもまた、同じように硬直した意識から回復すると同時に僕の周りを囲み、剣を抜いた。
「生存者か。あの身体から出ている赤い靄は……彼女が話に聞いていた魔女かな」
「当たりだと思います。普通の人は全身からあのようなものを発することはありません」
「アイリス、話はできると思う?」
「あまり、期待できそうにありませんね。ただ、試してみる価値はあるかと」
少女の様子は尋常ではなかった。血走った目でこちらを睨みつけ、荒い呼吸を繰り返している。
「フーッ……フーッ……」
まるで縄張りに踏み込んだ侵入者を威嚇する獣のよう。少しでも刺激すれば、今にも襲いかかってきそうだった。
彼女の手には弓と矢。
まだこちらに照準を合わせられてはいないが、いつでも撃てる態勢になっている。
(最初に見た山賊を射殺した弓矢か………)
弓矢、そして魔女。
この2つが合わさっている以上、山賊を射った犯人はほぼ確定でいいだろう。
「なら………君、僕はフラン公領の領主だ! 落ち着いて話がしたい。一度、武器を置いてくれないか」
あまり刺激しない方がいいと、ゆっくりと一歩踏み出す。
敵意がないことを示すため、両手を胸の高さまで上げ、手のひらを少女へ向けた。そしてこちらを睨み続ける少女に近づこうとした………その瞬間だった。
僕の身体が弾かれるように飛んだ。
「!?」
誰かに抱えられ、横へ跳んだのだと気づいた直後、背中に激しい衝撃が走った。
ほぼ同時に、何かが砕けるような音が森に響いた。
「なにが……アイリス!?」
「伏せていてください領主様!」
突然のことに動転しながら、僕を抱えながら横に飛んだらしいアイリスを見る。
彼女は鋭い眼差しを魔女である少女へ向け、その背後には、木の幹に深々と突き刺さった矢があった。
(アイリスに助けられなければ、今頃は………)
放たれた矢の位置は、明らかに僕の立っていた場所。
恐れから、無意識に喉が鳴った。
「護衛! 領主様を安全な場所へ。私が道を開きますから、領主様を連れて逃げてくださいっ!!」
「はい!」
突然のことに固まってしまった僕を他所に、アイリスは剣を少女に向け、護衛たちへ声を張り上げていた。
「アイリス!?」
「彼女の力は暴走しかけています。このままでは『クリファの魔女』になってしまう。交戦は危険です!!」
「──クリファの…魔女っ!?」
クリファの魔女。それは、自らの力を制御できず、暴走した魔女たちの呼び名だ。
その力は強大であり、呪いと化した力は国一つ滅ぼせるほどらしい。
『災い』とは別に、今の混乱した世界を作り上げている存在の一つ。
「なぜわかる!」
「同じ魔女としての勘です。それより、今の彼女は何をするかわかりません。早く!」
「くっ、アイリス。生きて戻ってこい!!」
「わかっています!!」
護衛たちに支えられながら立ち上がる。
それを見たアイリスが矢をつがえた少女へと一足飛びに迫った。
「!?」
少女が弓を引き絞るより早く、間合いを詰めたアイリスが長剣を振る。
「領主様、今です!!」
アイリスは剣を避けた少女を追い、再び間合いを詰める。そして、長剣を横薙ぎに振るった。
その一撃は少女を斬るためではなく、道の端へ追いやるためのものらしい。
剣を避けた少女が、道の脇へと後退していく。
アイリスが開いたその道を一気に駆け抜ける。
一瞬だけこちらを見て矢を向けようとした彼女を、アイリスの剣が遮った。
少女の視線がアイリスへと向かう。
次の瞬間、標的を変えた少女が矢を放った。
「くっ!」
アイリスが長剣を振るい、迫る矢を弾き飛ばした。
しかし、その衝撃に彼女の身体がわずかによろめいた。
「……強いッ」
アイリスは剣を握り直すと、後退する少女へ再び踏み込んだ。
『うぅ……許さない。許さないィッッッ!!』
「はあっ!!」
一目散に来た道を駆け戻る僕たちの背後では、風を切る矢の音と、アイリスの鋭い掛け声。そして、苦しげな少女の叫びが響いていた──。
*
護衛と共に逃走に成功した僕たちは、森から少し離れ、その入り口を見ていた。
森の外は中とは打って変わって明るく、髪を撫でる風も涼やかだ。
だが、その心地よさを感じる余裕は、今の僕にはなかった。
「領主様、ひとまず安全は確保できたかと思われます。ご指示をお願いします」
森を見つめる僕に、護衛の一人が声をかけてきた。
その表情には焦りが滲んでいる。先ほどの魔女への恐怖も、まだ消えていないのだろう。
早く次の行動を決めなければならない。それは分かっている。
けれど、どうしても森から目を離すことができずにいた。
(僕にもっと力があれば……)
森に入る前、アイリスが何度も僕を止めようとしていたことを思い出す。
もし、あの忠告に従っていれば。
僕がいなければ、アイリスは護衛たちと共に戦うことも、全員で撤退することもできたのではないか。
そんな考えが幾度も脳裏をよぎる。
だが、今は後悔に囚われている場合じゃない。
僕は領主としての最善を果たすべく、強く目を閉じる。
叶うなら、今すぐ森へ戻りたい。その思いを振り払うように、かぶりを振り護衛へと向き直る。
そして、領主として指示を出した。
「……護衛を一人ここに残す。僕たちは街へ戻り、救助隊を編成して引き返す。残る者は、アイリスが森から出てきた際の連絡役を頼む」
「はっ!」
そうして護衛を一人残し、僕たちは馬を走らせた。
誰も口を開かない。
ただ、森に残したアイリスの無事を願う気持ちは、皆同じだったと思う。
そして、およそ三十分後。
行きの半分ほどの時間で、僕たちは街へと戻ってきた。
「すぐに救助隊を編成する。動かせる人員を集めてくれ」
「はい!」
街へ戻った僕はすぐさま兵士の1人に命令を下した。
馬を走らせ、慌ただしく帰還した僕たちを見て、領民や城の者たちは何事かと驚いていた。だが、今は説明している暇などない。
今は、1秒でも早くアイリスを助けに戻らねばならないのだから。
そのため、この瞬間の来客は迷惑極まりなかった。
「すまない。もう一度言ってくれ。なんだって?」
努めて冷静であれ。そう自身に言い聞かせながら、兵を集めているはずの隊長の答えを待つ。
「はっ! なんでも領主様に是非お会いしたいという者がおりまして」
「悪いが今は人に会っている場合じゃないんだ。後日、改めてきてもらうように言ってくれ」
苛立ち混じりの返答に、隊長は言いづらそうにしながらも毅然とした口調で答えた。
「しかし、その者は教皇の印章が押された書状を所持しております。教皇から重要なものを預かっているとも」
「……教皇から?」
「はい。教皇の使者を追い返したとなれば、今後の教会との関係にも支障をきたしかねません。アイリスを助けに行きたいお気持ちは察しますが、今はお会いになるべきかと」
彼の言葉に、思わず机を叩きそうになった。
教皇からの使者。
間違いなく、重大な案件。
領主として考えるなら、従者一人の救助を後回しにしてでも、面会を優先すべきなのだろう。
そう、頭では理解しながらも、苛立ちを抑えられない。
「……わかった。使者という人物と会おう。客間に迎えてくれ」
「はっ」
「面会は可能な限り早く済ませる。救助隊の編成も急いでおいてくれ」
「わかりました」
隊長が部屋を出ていくのを見届け、僕は長く息を吐く。自分でも呆れるほど、深いため息だった。
僕はそれ以上何も言わず、部屋を後にした。
ほどなくして、僕は客間の扉を開いた。
そして、思わず目を丸くした。
来客を迎え入れるための客間。
その部屋のソファーに腰掛けていたのが、どこにでもいそうな黒髪の少女だったからだ。
(教皇からの使者と聞いていたんだが……)
そう感じてしまったのも仕方ないことだと思う。
教皇の使者と聞いて、僕は祭司のような堅苦しい礼服をまとった人物を想像していた。
しかし、ソファーに座る少女の姿はまるで町娘にしか見えない。
教皇の印章が押された書状を持っていなければ、とても信じることはできなかっただろう。
ちらりと少女の傍らに置かれた白い布の包みに目を向ける。中には、細長い何かが収められているようだった。
教皇からの預かり物だというが、剣を預けてもそれだけは手元に置いておきたいと譲らなかったらしい。
よほど大切なものなのだろう。
「お待たせしました。今は何かと立て込んでおりまして、私がこのフラン公領を治める領主です」
視線を戻し、僕が名乗ると少女はすっと立ち上がった。
その瞳には、なぜか期待に満ちた光が宿っている。
「初めまして。突然ですけど、私と一緒に世界を救ってくれませんか」
「………………は?」
教皇の使者らしからぬ、そのあまりにも唐突な言葉に、僕は一瞬、アイリスのことすら忘れて呆然としたのだった。