ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
ドラコニアが満足げに寝室へと引き上げ、談話室から人気が完全に引いた後、僕は地下宿舎の自室の扉を固く閉ざした。
部屋の隅、ベッドの天蓋の影に身を潜め、ローブの袖から柊の杖を滑り出させる。先端を自らの足元へと向け、極めて微小な魔力の波長を意識しながら、喉の奥で呪文を小さく紡いだ。
「 ――クワイエタス。……シレンシオ」
足元から波紋のように広がった不可視の魔力が、靴底と石畳の接地音を完全に呑み込む。試しに床を強く踏み鳴らしてみるが、埃ひとつ舞い上がる気配もなく、まるで真空の中で動いているかのように完全な静寂が保たれていた。
続けて、衣服の擦れる音を殺す処置と、暗がりで輪郭を曖昧にする初歩的な光屈折の術式を重ねる。透明マントほどの完全消失とはいかないまでも、夜の闇に紛れて移動する分にはこれで十分すぎる性能だ。
(完璧だな。フィルチの聴覚とミセス・ノリスの嗅覚を欺くため、匂いを消すハーブの小袋もポケットに仕込んである。あとは時間通りに、二人の『グリフィンドール生』と合流するだけだ)
柱時計の長針が重々しく重なり、深夜の静寂が城全体を包み込む。僕は無音の足取りで寝室の扉を開け、闇に沈むスリザリンの談話室を抜けて、冷たい廊下へと影のように滑り出した。
消音の魔力を纏った足取りで、地下の湿った冷気を切り裂きながら螺旋階段を登っていく。周囲は油絵の住人たちの寝息と、古い石壁が軋む微かな音だけが支配する完全な静寂だ。
歩みを進めながら、僕は脳内の引き出しをめくり、万が一の遭遇シナリオに対する「言い訳」のカードを整理していた。
(最悪のケースは三つ。第一に管理人フィルチ。奴に捕まりかけた場合は、消音を解いてわざと無防備な新入生を演じる。「夜中に喉が渇き、厨房を探して迷子になった」――これに怯えたような瞳を添えれば、減点は免れずとも単なる不注意として処理できる。第二に寮監のスネイプ。奴が相手なら言い逃れは難しいが、「マグルの家での悪夢にうなされ、気分転換に歩いていただけです」と殊勝に告げ、ポッターという名への嫌悪感を逆手に取って冷笑を誘い、追い返されるルートを狙う)
そして第三のケース――もし、夜回りのダンブルドアに鉢合わせた場合。
(あの大魔法使いには、いかなる小細工も通用しない。下手に嘘を吐けば「底知れぬ狡猾さ」として疑念を深めるだけだ。その時はただ『夜の城の美しさに惹かれた純粋な好奇心』として振る舞い、過ちを認めて頭を下げるのが最善手になる)
あらゆる不測の事態への応答を完璧にシミュレートし終えたところで、前方の角の向こう、時計塔の踊り場から微かな気配が漂ってきた。闇の帳を透かして目を凝らすと、二つの小さく揺れる人影――息を潜めて僕を待つ、ロンとハーマイオニーの姿がそこにあった。
僕は杖の先をわずかに人差し指で覆い、指の隙間から蛍の光ほどの小さな燐光を二度、瞬かせるように灯した。
暗がりの中で身を固くしていた二つの影が、その光に反応して小さく息を呑むのが分かった。無音の術式を保ったまま、僕は滑らかな足取りで闇から抜け出し、二人の前へと静かに歩み寄った。
「……うわっ! び、びっくりした……! 足音がまったく聞こえなかったぞ、ハリー……!」
心臓を押さえて青ざめるロンを、ハーマイオニーがすかさず鋭い目つきで小突いた。
「声が大きいわ、ロン! ……それにしてもハリー、今の……消音の呪文ね? 一年生の教科書には載っていない高度な応用よ。無音で歩くなんて、一体どうやって……」
知的好奇心と驚きで瞳を輝かせるハーマイオニーを制するように、僕は人差し指を唇に当て、静かに囁いた。
「 詳しい理屈は無事に戻ってから話すよ。今は時間との勝負だ。フィルチが二階の回廊を抜けるタイミングに合わせて、一気に三階へ上がるよ。二人とも、僕のすぐ後ろについてきて」
二人はゴクリと唾を呑み込み、真剣な面持ちで力強く頷いた。僕たちは深夜の冷たい空気を切り裂き、禁断の三階廊下を目指して慎重に歩みを進め始めた。
螺旋階段の薄暗い踊り場、冷え切った石壁に身を寄せながら、僕は二人の目を真っ直ぐに見据えて、低く、しかし凛とした声で囁いた。
「もし誰かに見つかったら、僕が囮になるから二人は逃げるんだ。僕ならスリザリンの減点で済むし、うまく言い逃れができる算段もある。君たちを巻き込むわけにはいかないからね」
自己犠牲を厭わぬ高潔な友の顔。その一言に、ロンは赤毛を揺らして激しく目を見張り、胸を打たれたように喉を詰まらせた。
「 な、何言ってるんだよハリー……! そんなの、僕たちが卑怯者みたいじゃないか……! 君一人に押し付けるなんて、絶対にできないぞ!」
「 ロンの言う通りよ。規則を破ってここにいるのは私たちも同じ。あなただけに背負わせるなんて論理的じゃないわ。……でも、ありがとう、ハリー。そこまで私たちのことを考えてくれていたなんて……」
ハーマイオニーは潤んだ瞳に強い信頼と敬意を宿し、杖を握る小さな手をきつく引き締めた。彼女にとって、規則を破る恐怖を塗りつぶすほどの「忠誠心」が、今この瞬間に完全に芽生えたのが手に取るようにわかる。
恐怖を共有し、命運を預け合う疑似的な戦友意識。グリフィンドール特有の義侠心を完全に掌握した手応えを胸の内で噛み締めながら、僕は満足の笑みを微塵も見せず、ただ頼もしい笑みを二人へ向けて階段を登り始めた。
三階の廊下は、まるで城そのものがそこを忌避しているかのように、一段と冷え切った空気が澱んでいた。重々しい樫の木の扉が、僕たちの行く手を遮るように静まり返っている。
重々しい樫の扉の前で立ち止まり、僕は背後の二人に鋭い視線を送って、小声で的確な指示を飛ばした。
「ロンは退路の確認、ハーマイオニーは角の警戒を頼む。いつでも駆け出せるように足場を確保して、僕の合図があったら迷わず階段へ走るんだ。いいね?」
二人は緊張に顔を強張らせながらも、僕の統率力に完全に身を委ね、淀みない動作で陣形を整えた。ロンが背後を振り返り、ハーマイオニーが杖を握りしめて回廊の暗がりを睨み据える。
呼吸を整え、僕は柊の杖の先端を鍵穴へと滑り込ませた。魔力の波長を極限まで絞り込み、金属が軋む音さえも抑え込むように、明確な発音で呪文を紡ぐ。
「 ――アロホモラ」
杖先から微細な火花が散ると同時、カチリと微かな重い手応えが伝わり、頑丈な閂が静かに外れた。蝶番の擦れる嫌な音を立てぬよう、慎重に数インチだけ扉を押し開く。
その隙間から漏れ出てきたのは、噎せ返るような獣の生臭い呼気と、床の石畳を微かに震わせるほどの、地響きのような唸り声だった。
「少しだけ中を見るよ。二人は絶対に入らず、そこで待機していて」
「おい、ハリー、待てよ……!」
ロンが引き留めようと伸ばした手をすり抜け、僕は静かに扉を押し開けて隙間から足を踏み入れた。消音の術式を効かせた靴底が、埃っぽい石床に音もなく沈む。
部屋の中は、天井の隙間から差し込む青白い月明かりだけが頼りの薄暗がりだった。そして、その中央に横たわる巨大な質量――床の半分以上を占拠する毛むくじゃらの巨体が、規則正しい呼気とともに微かに上下している。
(フラッフィー……ハグリッドの三頭犬だな)
三つの獰猛な巨大な頭部。そのうち中央の頭が、低く雷鳴のような鼾を立てながら床に巨大な顎を預けている。足元には映画の記憶通り、頑丈な鉄の落とし戸。その下へと続く仕掛けの存在を、僕は鋭い視線で即座に捉えた。
だが、部屋の空気が微かに動いた瞬間、左側の頭の巨大な耳がピクリと跳ね上がり、湿った巨大な鼻腔が蠢いて、僕のわずかな気配を嗅ぎ取ろうと蠢き始めた。
扉のわずかな隙間から中を覗き込んでいたロンとハーマイオニーは、月明かりの下で蠢く三つの巨大な頭部を目にした瞬間、言葉を失って完全に凍りついていた。ロンの顔からはサッと血の気が引き、ハーマイオニーは悲鳴を飲み込むように両手で口を覆い、恐怖で膝を震わせている。
その愕然とした表情を横目で冷静に確認すると、僕は一切の躊躇なく一歩後退し、音を立てずに扉を静かに引き戻した。
カチャリ、と微かな音を立てて扉が閉まり切ると同時、僕は二人の肩に手を置き、低く張り詰めた声で告げた。
「 下がろう、僕たちの手には負えない怪物がいる。……急いで、足音を立てずに階段へ」
「あ、あ、あんなの……! あんな化け物を学校で飼ってるなんて、正気じゃないぞ……!」
「 なぜあんな……床に落とし戸があったわ。何かを、何かとても危険なものを守っているんだわ……!」
パニック寸前の二人を促しながら、僕たちは素早く禁じられた廊下を離れ、影に紛れるようにして階段を駆け下り始めた。夜の静寂が支配する回廊へ滑り込み、ひとまず追手のない安全圏まで距離を取る。二人の荒い息遣いだけが、冷たい壁に反響していた。
安全な階下まで降り、冷え切った柱の陰に身を滑り込ませると、僕は息を整えながら二人の目を覗き込んだ。興奮と恐怖でまだ瞳孔が開いている二人に、低く落ち着いたトーンで語りかける。
「ひとまず今夜はここまでだ。寮に戻ろう、これ以上の夜歩きはリスクが高すぎる。詮索を続けるにしても、まずは無事に朝を迎えることが最優先だ」
「 ああ……全くだよ。心臓が口から飛び出るかと思った……。ハリー、君があそこで引き返してくれなきゃ、僕らは確実に犬の餌だった」
「ええ、ハリーの言う通りね。これ以上うろついてフィルチや監督生に見つかったら、謎を解くどころじゃないわ。……明日の授業のあと、また図書館で情報を整理しましょう」
二人は僕の判断に深く頷き、絶対的な信頼を込めた視線を寄越した。感情に流されず、常に最善の撤退路を確保するリーダーとしての振る舞いが、彼らの胸に鮮烈な安心感を刻み込んだようだ。
僕たちは気配を殺しながら分岐路で別れ、ロンとハーマイオニーはグリフィンドール塔へ、僕は一人、地下深くのスリザリン寮へと足を向けた。
冷え切った地下回廊の石壁に合言葉を告げ、談話室の隠し扉をくぐる。緑色の炎が燻る暖炉の前に、腕を組んで佇む華奢な人影
「遅かったわね」
――シルクのようなプラチナブロンドを揺らし、不機嫌そうに尖らせた唇でこちらを睨みつけるドラコニア・マルフォイの姿があった。
「夜風に当たりに行っていただけだよ。君こそ、まだ起きていたのかい?」
僕は何食わぬ顔で歩み寄り、冷えた指先を温めるように暖炉の緑の炎に手をかざした。
ドラコニアは眉をきゅっと吊り上げ、絹のような金髪を肩先で跳ねさせながら、ずいと一歩詰め寄ってきた。淡い灰色の瞳が、夜歩きの秘密を暴こうとする探偵のように鋭く僕を射抜く。
「夜風? ふん、スリザリンの地下牢から抜け出して、わざわざ城の上層まで風を浴びに行くなんて、ずいぶん優雅なことね。……嘘をおっしゃい。あなたのローブ、微かに埃と……何か異様な獣の匂いがするわ」
彼女は小鼻を微かに蠢かせ、わざわざ僕の胸元に顔を近づけてクンと息を吸い込んだ。至近距離から漂う高価な薔薇の香水と、少女特有の甘い体温。映画の嫌味な少年とは似ても似つかない、思わず息を呑みそうになるほどの可憐な仕草に内心で激しく動揺しつつも、僕は完璧なポーカーフェイスを維持した。
「 私が気づかないとでも思ったの? あなたがこっそり抜け出した後、ずっとここで待っていたのよ……もし監督生やスネイプ先生に見つかりでもしたら、スリザリンの減点になるでしょう! ……別に、あなたを心配したわけじゃないけれど!」
ぷいっと横を向いたその白い頬が、暖炉の炎とは別の熱でほんのり朱に染まっている。腕を組み直し、ツンと澄ましてみせる姿は、隠しきれない独占欲と警戒心が入り混じっていた。
僕が一歩踏み込み、彼女の耳元へと顔を寄せると、ドラコニアはびくりと華奢な肩を跳ねさせた。さらりとしたプラチナブロンドの毛先が僕の頬をかすめ、至近距離から高価な薔薇の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
「 スネイプ先生には内緒にしてくれるかい? 君だけに話したい秘密があるんだ」
密やかで熱を含んだ囁き声を落とすと、ドラコニアの白磁のような耳朶が、目に見えて一気に鮮やかな朱へと染まり上がった。
「なっ……! な、なによ急に、近すぎるわ……っ!」
彼女は慌てて半歩後ずさり、胸元を両手で押さえながら、つり上がった灰色の瞳をこれ以上ないほど見開いて僕を凝視した。普段の尊大で冷徹な純血貴族の仮面は完全に剥がれ落ち、ただの動揺した少女の顔が露わになっている。
「わ、私だけに……秘密? ……ふ、ふん、別にあなたが誰とどこで何をしていようと、私には関係ないのだけれど……。ま、マルフォイの名にかけて、軽率な告げ口なんて趣味の悪い真似はしないわよ。……それで? なんなのよ、その……『秘密』っていうのは……」
拒絶するどころか、彼女は潤んだ瞳で探るように僕を見上げ、組んだ指先を落ち着かなげに弄びながら、じっと次の言葉を待っていた。完全に僕のペースへと引きずり込まれている。
僕は談話室の影を気にするように視線を走らせ、一段と身を寄せて声を落とした。薄暗い緑の光の中、二人の距離は吐息が触れ合うほどに縮まる。
「 実は、三階の廊下に入り込んでしまってね……そこに怪物がいたんだ」
「 ――っ! さん、階の……!? あなた、ダンブルドアがあんなに厳重に警告した場所へ、本気で行ったの……!?」
ドラコニアは短く息を呑み、思わずといった様子で僕のローブの袖口を両手で強く握りしめた。小柄な指先が微かに震えている。
「バカじゃないの!? 『最も苦痛に満ちた死』って言われていたのよ!? もし怪我でもしていたらどうするつもりだったのよ……っ!」
声が高くなりかけた彼女は、自ら慌てて口元を手で押さえ、周囲を盗み見た。咎めるような厳しい眼差しの奥には、憤りよりも遥かに濃い安堵と、純粋な恐怖が滲んでいる。
「……それで、怪物って何なのよ。何がいたの? 怪我はないの、本当に……?」
袖を掴んだ手を離そうともせず、彼女は真剣な眼差しで僕の顔を見つめ返し、小刻みに問い詰めてきた。完全に警戒の鎧を解き、秘密を共有する共犯者の目になっていた。
僕の体温が重なった瞬間、ドラコニアはびくりと全身を震わせ、掴んでいた袖からパッと手を離しかけた。だが、僕の指がそれを優しく包み込むと、彼女は抵抗を諦めたように硬直した。
「心配してくれてありがとう、ドラコニア。三つの頭を持つ巨大な犬だったよ」
緑の暖炉の光に照らされた彼女の横顔が、見る見るうちに耳の先から首筋まで真っ赤に染まっていく。普段の気位の高さはどこへやら、視線をあちこちに泳がせながら、蚊の鳴くような声で呟いた。
「べ、別に心配なんてしてないって言ったじゃない……! あなたが死んだら、私の好敵手が消えて退屈になると思っただけよ……っ」
強がりながらも、重ねられた僕の手を振り払おうとはしない。むしろ、その柔らかな指先が僕の手のひらをぎゅっと握り返してくる。
「……それにしても、三つの頭を持つ犬ですって? ケルベロス……ギリシャの極めて危険な魔法生物よ。そんなものが城内にいるなんて正気の沙汰じゃないわ。あのボケ老人、生徒を危険に晒して何を考えているの……?」
ドラコニアは眉をひそめ、冷徹な思考を取り戻そうと唇を噛んだ。しかし、繋がれた手から伝わる彼女の微かな震えと速い脈拍は、恐怖だけでなく、僕への意識で胸を高鳴らせていることを如実に物語っていた。
「あの犬の足元に落とし戸があった。城の中で、何か重要なものが隠されている」
僕が真剣な声音で告げると、ドラコニアは繋いだ手の感触も忘れたかのように、息を呑んで僕の瞳を凝視した。理知的な光が彼女の灰色の双眸に宿り、純血貴族の後継者としての鋭い勘が働き始める。
「 落とし戸……? 危険な猛獣を番犬にして、その下にある『何か』を隠しているっていうの……?」
暖炉の緑の炎が、陰影を帯びた彼女の端正な横顔を妖しく照らし出す。ドラコニアは自由な方の手を口元に当て、小さく息を漏らしながら思考の海に沈んでいった。
「ダンブルドアが私腹を肥やすための財宝、なんて安っぽいものじゃないはずよ。あんな怪物を配備してまで厳重に封印しなければならない代物……もしそれが城の外に漏れたら、魔法界全体を揺るがすような『何か』だわ」
彼女はふっと顔を上げ、僕の手を握る力をわずかに強めた。その瞳には、校則を破ることへの恐怖ではなく、僕と共に禁忌の謎へと足を踏み入れる高揚と、奇妙なまでの熱が宿っていた。
「 ……ハリー。あなた、まさか一人でその落とし戸の先を暴く気じゃないでしょうね? そんな危険な真似、絶対に許さないわよ。調べるなら……私にも協力させなさい。マルフォイ家の情報網を使えば、何が隠されているのか突き止められるかもしれないわ」
ツンと顔を背けながらも、彼女は僕から視線を離せず、共犯関係を結ぶことを自ら願い出るように囁いた。
僕が優しく微笑みながら、彼女の華奢な手を両手で包み込むように握り直すと、ドラコニアは息を詰まらせ、陶器のように白い顔をたちまち林檎のように赤く染め上げた。
「 君が味方でいてくれるなら心強いよ、ドラコニア」
「――っ! み、味方だなんて、そんな大げさなものじゃないわよ! 私はただ、スリザリンの生徒が勝手に死んで寮の評判を落とされたら困るから……そう、マルフォイの名誉のためよ!」
慌てふためいて視線を泳がせながら、ドラコニアは早口で捲し立てた。しかし、僕の手から自分の手を引き抜こうとする気配は微塵もなく、むしろその小さな指先は、確かな温もりを確かめるようにきゅっと僕の掌を握り返してくる。ツンと上を向いた鼻先と潤んだ瞳が、隠しきれない喜びと優越感で満ちていた。
(よし、これで三者すべてに網を張れた)
表面上は誠実で頼もしい少年を演じつつ、僕の内心の冷徹な計算機は乾いた音を立てて微笑んでいた。
グリフィンドール側ではロンとハーマイオニーの知的好奇心と正義感を刺激して落とし戸の謎を追わせ、スリザリン側ではドラコニアを『唯一の共犯者』として囲い込み、マルフォイ家の情報力と庇護を引き出す。互いの陣営を掌の上で転がし、情報格差をコントロールする完璧な布陣だ。
「……とにかく、今夜はもう自分の寝室に戻りなさい。怪我がないのは分かったけれど、そんな危険を冒した直後なんだから。……いい? 何か分かったら、真っ先に私に報告すること。絶対に、抜け駆けなんて許さないんだからね」
名残惜しそうに、けれど決然と僕の手を解放したドラコニアは、威厳を取り繕うように胸を張った。だが、暖炉の緑の光に照らされたその耳朶は、いまだに熱を帯びた朱色のままだった。