ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
この作品のハリーは自分がダンブルドアに疑われてるとは夢にも思ってないため、ちょこちょこダンブルドアに対して詰めが甘いです。
翌日の放課後の図書館の最奥、背の高い書架に囲まれた薄暗い閲覧席は、異様な緊張感に包まれていた。テーブルを挟んで、赤毛の少年とプラチナブロンドの少女が互いを猛烈に睨み合っている。
「おいハリー、なんでマルフォイがここにいるんだよ!? 僕たちだけの秘密の話じゃなかったのか!?」
「 それは私のセリフよ、お間抜けウィーズリー。誰のおかげでハリーが寮内で守られていると思っているの? あなたたちみたいな軽薄な連中にハリーを巻き込ませないために、私が監視役として来てあげたのよ」
「二人とも静かにして! ピンス司書に見つかったら追い出されちゃうわ! ……それにしてもハリー、三階の廊下にいたあの怪物が『ケルベロス』だなんて本当なの?」
ハーマイオニーが机の上に広げた重厚な魔法生物の図鑑を指先でトントンと叩く。ドラコニアは不愉快そうに腕を組み、ロンは拳を握りしめ、ハーマイオニーは真剣な眼差しで僕を見つめていた。水と油のように反発し合う三人の視線が、中心に座る僕へと一斉に集まる。
僕が両手を広げて穏やかな微笑みを投げかけると、ピリついていた空気がふっと緩んだ。三人は毒気を抜かれたように息を呑み、それぞれの形で口元を結ぶ。
「みんな落ち着いて。目的は同じ、あの落とし戸の秘密を解き明かすことだよ」
「……ハリーがそう言うなら、我慢するけどさ。でも、あいつが余計なことを言い出したら僕だって黙ってないぞ」
ロンは唇を尖らせてそっぽを向いたが、それ以上の反論はやめた。ハリーの言葉には逆らえないといった様子で、不承不承ながらも席に深く座り直す。
「ハリーの言う通りよ。くだらない言い争いをしている時間なんてないわ。……それでね、落とし戸についてだけど、あれだけの怪物を配置して隠すほどのものよ。普通の貴重品なわけがないわ」
ハーマイオニーが分厚い本を引き寄せ、声を潜めて熱心に語り出す。その横で、ドラコニアは腕を組んだままフンと鼻を鳴らしたが、その視線はハリーの穏やかな顔へ、どこか熱っぽく注がれていた。
「 ええ、私も父から聞いたことがあるわ。グリンゴッツの最も厳重な金庫が、夏休みの間に破られかけた事件があったでしょう? 何も盗まれなかったと報道されていたけれど……父の話によれば、その直前に『中身』がどこかへ移送されたらしいのよ。もし、その行き先がホグワーツだとしたら……?」
ドラコはロンたちを見下すように顎をしゃくりつつも、ハリーの役に立ちたい一心で、マルフォイ家の極秘情報を惜しげもなくテーブルの上に投じてみせた。
「さすがドラコニアだ、素晴らしい洞察力だよ。グリンゴッツの事件と繋がっている可能性は僕も極めて高いと思っていたんだ」
僕が称賛の眼差しを向けると、ドラコニアは一瞬息を詰まらせ、その青白い頬をみるみるうちに桜色へと染め上げた。組んでいた腕が微かに解け、視線を泳がせながらも、隠しきれない優越感に口元を綻ばせる。
「 べ、別に……このくらい、純血の貴族として当然の教養よ。あなたのために少し情報を整理してあげただけなんだから、そんなに改まって感謝することないわ」
強がりながらも、ドラコニアはハリーに褒められたことがたまらなく嬉しいらしく、背筋をピンと伸ばして勝ち誇ったようにロンとハーマイオニーを横目で見下ろした。
「ぐっ……グリンゴッツが破られた話なら、僕だって預言者新聞で読んだよ! でも、まさかあの学校の怪物と関係があるなんて……本当なのか?」
「待って、辻褄が合うわ! 世界で最も安全な場所から、もう一つの最も安全な場所――ダンブルドアのいるホグワーツへ移されたんだとしたら……。盗まれたがっていたその『中身』こそが、あの犬が守っているものの正体よ!」
ハーマイオニーはドラコニアへの対抗心を露わにしつつも、知的好奇心を刺激されて目を輝かせた。二人の少女のプライドと少年の対抗心が、ハリーの掌の上で完璧に一つの推進力へと変換されていく。
「で、ハリーあなたはその移送にダンブルドアが関わっていると思う明確な理由があるの?」
ドラコニアが身を乗り出し、秘密を共有する唯一の理解者のような距離感で、ハリーの顔を覗き込んできた。
「 学期が始まる前、僕はハグリッドと一緒にダイアゴン横丁へ行ったんだ。その時、彼はダンブルドア校長の個人的な頼みで、まさにその『七百十三番金庫』から小さな汚れた包みを取り出していた。……金庫が空になったその日に、侵入者が現れたんだ。」
図書館の空気が、まるで氷が張ったかのように張り詰めた。ハリーの低く落とした声に引き寄せられるように、三人が身を乗り出して息を呑む。
「な、713番金庫……!? 預言者新聞に載ってた、侵入された金庫の番号そのものじゃないか!」
ロンは目を丸くして鳥肌が立った腕をさすり、恐怖と興奮で喉を鳴らした。
「 やっぱり……! ハグリッドがダンブルドアの命を受けて、破られる直前に持ち出したんだわ。でも、そんな危険を冒してまで守る『小さな包み』って一体何なの……?」
ハーマイオニーが羊皮紙に素早くメモを取りながら、知的な鋭い視線を巡らせる。その隣で、ドラコニアはハリーとの距離が触れ合いそうなほど近づいていることに気づき、わずかに頬を染めながらも、真剣な顔つきで唇を噛んだ。
「 713番金庫は、最深部にある最高機密の金庫よ。ゴブリンの鍵すら使わない、指先でしか開けられないような場所……。そんなところに預けられていた、掌に収まるほどの小さな包み……。歴史上、そこまで厳重に隠蔽された遺物なんて、限られているわ」
ドラコニアはハリーを見上げ、その灰色の瞳を揺らしながら囁いた。
「ハリー……あなた、本当に恐ろしい事件の核心にいるのね。でも、安心なさい。私がついてるわ。父にそれとなく探りを入れさせて、その包みの正体を暴いてみせる」
「ありがとうドラコニア。ただ深入りは禁物だ。この話は絶対に他言無用、僕たち四人だけの秘密にしよう」
ハリーの真摯な眼差しと低い囁きが、薄暗い閲覧席の空気をひときわ重く引き締めた。
「も、もちろんさ! 誰にも言わないよ。フレッドとジョージにすら話すもんか……ハリーが僕を信じてくれたんだからな」
ロンはゴクリと喉を鳴らし、誇らしげに胸を叩いた。彼にとってハリーから『秘密の共有者』として選ばれたことは、計り知れない名誉だった。
「ええ、約束するわ。校則違反も気になるけれど……この謎は、きっと学校全体の安全に関わる重大事よ。図書館の本を片っ端から当たって、あの包みの手がかりを調べるわね」
ハーマイオニーは責任感に燃える瞳を輝かせ、分厚い本の背表紙を固い決意とともに撫でた。そしてドラコニアは、ロンとハーマイオニーの言葉を鼻で笑う素振りを見せつつも、ハリーの真剣な瞳を真っ向から受け止めると、その陶器のような白い指先をそっと机の上で進めた。
「当たり前でしょう。マルフォイの名にかけて、秘密は守るわ。……それに、これはあなたと私の――いえ、私たちの問題よ。誰にも邪魔なんてさせないわ」
ドラコニアの冷たく澄んだ灰色の瞳には、ハリーを独占したいという仄暗い執着と、彼を守らねばならないという切実な庇護欲が混ざり合って揺れていた。二つの対立する寮の優等生と問題児たちが、いまや完璧に一人の少年の意図の下で結束を固めている。
書架の陰からピンス司書の鋭い靴音がコツコツと近づいてくるのが聞こえ、四人は一瞬だけ目配せを交わした。
「司書が来る。今日のところは解散しよう、それまでお互いに可能な限り情報を集めよう」
ピンス司書の厳しい視線を背中に感じながら、四人は目立たぬよう別々に閲覧席を後にした。
それから数週間、図書室の片隅や中庭の木陰で密かに接触を重ねたものの、あの「小さな包み」の正体に繋がる決定的な手掛かりは得られないまま、時は流れた。季節は足早に移ろい、スコットランドの高地には凍てつくような秋風が吹き抜け、城内はカボチャの甘く香ばしい匂いとハロウィンの浮き立つ空気に包まれていく。
そして、運命の十月三十一日。フリットウィック教授による呪文学の授業で、例の事件は起きた。
「ウィンガーディアム・レビオサー! ……ちくしょう、浮かないじゃないか! ウィンガーディアム・レビオッサーッ!」
羽を浮かせようと腕をがむしゃらに振り回すロンの横から、我慢ならないといった鋭い声が飛んだ。
「 やめなさい、ロン! 誰かの目を突く気? それに発音がまるで間違っているわ。『ウィンガーディアム・レビオーサ』よ。『オ』を長く、綺麗に発音するの。『サー』じゃないわ!」
「そんなに偉そうに言うなら、自分でやってみせろよ!」
ハーマイオニーは誇らしげに手首を軽くスナップさせ、完璧な発音を響かせた。ふわりと宙に浮き上がる羽。フリットウィック教授の「素晴らしい、グレンジャー嬢!」という歓声が教室に響き渡る。だが、その完璧さが、ロンの劣等感に火をつけた。
授業が終わり、石造りの廊下に生徒たちが吐き出されると、ロンの苛立ちは爆発した。
「 ――あいつの鼻持ちならない態度、見たかよ!? 『ウィンガーディアム・レビオーサ』だってさ! 本当に悪夢みたいな女だ! あんな調子だから誰にも友達ができないんだ!」
廊下の雑踏の中、ロンの悪態は周囲へ容赦なく響き渡った。
その直後、人混みを掻き分けるようにして走り去る小柄な影があった。ボサボサの豊かな髪を激しく揺らし、真っ赤にした目から涙を零しながら、ハーマイオニーが駆け抜けていく。ロンとぶつかりそうになりながらも、彼女は一度も振り返らずに女子トイレの方向へと姿を消した。
「 あ……き、聞こえてたのかな……。でも、本当のことだしさ……」
気まずそうに視線を泳がせるロンの隣に、冷ややかな足音が近づいてくる。スリザリンのローブを優雅に翻したドラコニアが、信じられないほど冷酷で侮蔑に満ちた視線をロンに突き刺していた。
「 自分の無能を棚に上げて、優秀な女の子を泣かせるなんて。どこまでも品性下劣ね、ウィーズリー。……ハリー、あんな野蛮人、放っておきなさい。今夜はハロウィンのご馳走よ。大広間へ行きましょう?」
ドラコニアはハリーの腕にそっと手を添え、甘やかな声で促した。しかし、映画の記憶を持つハリーの頭裏には、この後に起きる『トロールの襲来』と、女子トイレに一人閉じ籠もるハーマイオニーの姿が鮮明に浮かび上がっていた。
「ロン、流石に言い過ぎだ。
もちろんハーマイオニーの対応にも問題があるけど、友達の有無について言うのは違うし、僕たちは友達だろう?」
ロンの肩を掴んで鋭く諭す
ハリーの静かで、しかし芯の通った強い言葉に、ロンは弾かれたように体を強張らせた。その緑の瞳に宿る真摯な光を受け止めきれず、赤毛の少年はバツが悪そうに視線を足元へと落とす。
「……ごめん、ハリー。僕……頭に血が上っちゃってさ。あいつが偉そうにするから、つい……。でも、友達がいないなんて言うのは、確かに言い過ぎだった。ハリーの言う通りだよ。僕たち、友達だしな……。次に会ったら、ちゃんと謝るよ」
ロンは耳まで真っ赤にしながら、頭を乱暴に掻いて小さく息を吐いた。ハリーに見捨てられたくない、失望されたくないという焦燥が、意固地なプライドを打ち砕いたのだ。
その様子を横目で見ていたドラコニアは、ハリーがロンを厳しく窘めたことには満足しつつも、なおもグリフィンドール生同士の絆を重んじるハリーの態度に、わずかに不満げな色を浮かべた。
「 フン、反省するくらいなら最初から言わなければいいのよ。でも……ハリーがそこまで言うなら、私はもう口を挟まないけれど。……ハリー、そろそろ行きましょう? 大広間の宴が始まってしまうわ」
ドラコニアはハリーのローブの袖をそっと引き、促すように見上げてくる。
廊下にはカボチャのタルトやローストチキンの芳しい匂いが漂い始め、生徒たちの浮き足立った足音が大広間へと向かって流れていた。だが、ハーマイオニーが向かった薄暗い女子トイレの方向には、すでに不穏な静けさが立ち込め始めている。映画の筋書き通りなら、今夜、地下牢から解き放たれるトロールがそこへ向かうはずだった。
大広間は、千匹ものコウモリが羽ばたき、無数のジャック・オー・ランタンが宙に浮かぶ幻想的な熱気に包まれていた。テーブルには山盛りのローストビーフ、パイ、甘い糖蜜タルトが並び、生徒たちの笑い声が天井高く響き渡っている。
スリザリンの長机では、ドラコニアが満足そうにハリーの隣を陣取り、甲斐甲斐しく料理を取り分けていた。
「ほら、ハリー。この糖蜜タルト、焼き立てよ。……グリフィンドールの席で下品にかき込む連中と違って、ここは落ち着いて味わえるでしょう?」
ドラコニアは淡い笑みを浮かべ、ハリーの皿にタルトを乗せながら上機嫌に語りかける。遠く離れたグリフィンドールの長机に目をやると、ロンは居心地が悪そうにフォークを弄んでおり、その隣にあるはずのハーマイオニーの姿は――やはり、どこにも見当たらなかった。
時間は、刻一刻と迫っていた。
ハリーが食事を進めながら神経を尖らせていたその時、大広間の巨大な扉が乱暴に開け放たれた。
「ト、トロールだぁぁぁッ!! 地下牢に……トロールが……ッ!」
ターバンを巻いたクィレル教授が、顔面を蒼白にして広間へと転がり込んできた。恐怖に引きつった叫び声が、一瞬にして祝祭の喧騒を断ち切る。
「……お、お伝えせねばと……思いまして……」
クィレルは教職員テーブルの前まで辿り着くと、白目を剥いてそのまま床へと派手に倒れ込み、意識を失った。
次の瞬間、大広間は阿鼻叫喚の坩堝と化した。悲鳴が天井を揺るがし、生徒たちが我先にと出口へ押し寄せようとする。食器が割れ、椅子が倒れるパニックの渦中、壇上のダンブルドアが立ち上がり、杖を喉元に当てて雷鳴のような声を轟かせた。
「静粛にッ!!」
絶対的な威厳に満ちた声が広間を制圧し、生徒たちの動きが凍りつく。
「 パニックを起こしてはならん。監督生は、直ちに各寮の生徒を率いて寝室へ戻りなさい。教師陣は私と共に地下牢へ向かう!」
ダンブルドアの指示が飛ぶや否や、各寮の監督生が声を張り上げ始めた。スリザリンの監督生も立ち上がり、「一列に並べ、地下牢へ戻るぞ!」と指示を飛ばすが、ドラコニアはハリーの腕をギュッと強く掴み、青ざめた顔で身を寄せてきた。
「ハリー……! 地下牢にトロールがいるなら、私たちの談話室は危険なんじゃなくて……!? 私のそばを離れないでね!」
ドラコニアが恐怖に怯えながらハリーにしがみつく一方で、大広間の出口付近では、ロンが青ざめた顔で立ち尽くし、ハリーに向かって絶望的な視線を投げかけていた。
『ハーマイオニーが、まだ女子トイレにいる』――ロンの口元が、無言でそう動いていた。