ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
主人公+ハリー+トム=グリンデルバルド
ハリーは机の上のランプの灯りに照らされながら、静かにペンを走らせていた。表面上、彼は明日への備えに余念がない、極めて優秀で勤勉なスリザリン生そのものである。
しかし、その思考の深淵では、先ほど行われた「社会的合意の形成」――トロール事件という名の、極めて危険な賭け――の検証が行われていた。
(……最高の、そして最悪の手法だった)
冷徹な計算が、暗い部屋の中で独り言のように響く。
(ハーマイオニーをトロールが襲撃する前に救出する。それそのものは簡単だった。どんな手を使ってでも、あの女子トイレから別の場所に移動させればよかったんだから。だが僕はあえてそれをしなかった。ハーマイオニーを危険に晒す。……喉の奥が焼けるほど嫌だった。でも、そうでなければ、あの三人と僕の間に、これほど強固な「秘密の共有」は生まれない。ロンを巻き込み、ドラコニアの忠誠に近い執着を引き出し、ハーマイオニーの絶対的な信頼を得る。この『共犯者』という言葉一つで、寮の壁を超えた、僕だけの強固な基盤(ベース)が完成したんだ)
彼は、自らの内側に広がる「冷酷な論理」に、戦慄に近い感覚を覚えていた。
まるで、相手の感情や安全を、チェスの駒のように動かして最適解を導き出すような感覚。それは、かつて彼がビジネスの世界で、顧客の心理を読み、時に倫理の境界線上で取引を成立させてきた技術の延長線上にあるものだった。
(……でも、何かがおかしい。おかしいんだ)
突如として、心臓がドクンと大きく跳ねた。冷静な思考の裏側で、本物の「ハリー・ポッター」としての意識が、激しい焦燥感と共に悲鳴を上げ始める。
(僕は、あの子たちを助けたくて、死ぬほど怖かった。なのに、どうしてこんなに……『計算通りだ』なんて、自分を肯定できてしまうんだ!? 罪悪感が、まるで薄い膜を一枚隔てた向こう側の出来事みたいに、実感を伴わない!)
胸の奥に、泥のような重苦しさが沈殿する。
彼の中に宿る「何か」が、彼が人を欺き、操作することに対して、あまりにも寛容な精神を与えているのではないかという、底知れぬ恐怖。
(僕は、ただハッピーエンドを目指したいだけなんだ。みんなを傷つけたくない。……でも、そのためには、僕自身が怪物にならなければならないのか……?)
震える指先を隠すように、ハリーは強くペンを握りしめた。
ランプの炎が、彼の影を壁に長く、歪に映し出していた。その影は、まるで巨大な翼を持つ、未知の怪物のように見えた。
***
一方、ホグワーツ城の最上階。校長室。
窓から差し込む月光が、銀色の装飾品を冷たく照らし出していた。
アルバス・ダンブルドアは、深く、重い溜息とともに、目の前の報告を聞き届けていた。
「 ……ポッターは、まるで自分がすべてを掌握しているかのように振る舞いました。あの子が責任を一身に背負い、周囲の生徒たち――それも、本来なら敵対関係にあるはずのグリフィンドールとスリザリンの生徒たちを、瞬時にして「共犯者」という連帯感で結びつけたのです。あんなに若く、危うい少年が、あのような……計算高い振る舞いをするとは」
マクゴナガルの声は、驚愕と、どこか拭いきれない不安に震えていた。続いて、影の中からスネイプの低い声が、毒を含んだように響く。
「 ……冷静でしたよ、校長。トロールという理不尽な暴力の真っ只中で、あの少年はまるで舞台の脚本を読み上げている役者のように、完璧な「演技」を見せた。感情に流されるのではなく、状況を支配しようとする……極めてスリザリン的な、そして、非常に不気味なほどに洗練された手口だ」
ダンブルドアは、何も答えず、ただ静かに、壁に掛かった銀色の計器を見つめていた。
(……ヴォルデモートか)
脳裏に浮かぶのは、かつて世界を恐怖に陥れた、あの剥き出しの、破壊的な闇の力。すべてを焼き尽くし、ただ孤独に君臨しようとした、あの影。
だが、今報告されているハリー・ポッターの姿は、それとは決定的に何かが違っていた。
(……いや、違う。あの破壊的な嵐ではない)
ダンブルドアの瞳に、かつて見た「別の影」が、朧げに重なる。
それは、言葉によって人々を魅了し、理想という名の熱狂を植え付け、世界を自らの色に染め上げようとした、あの男の姿。
(ゲラート……)
かつてゴドリックの谷で、若きダンブルドアを魅了してやまなかったあの男。ゲラート・グリンデルバルドの姿が、十一歳の少年の影に重なる。
グリンデルバルドもまた、人を支配するために力を用いはしなかった、いや必要がなかった。
彼は他者の心に入り込み、彼らの理想を肯定し、自らを「より大いなる善」のために犠牲にする指導者として振る舞った。だからこそ、純血も混血も、あらゆる魔女や魔法使いが自発的に彼へ魂を捧げたのだ。
純血の誇りに凝り固まったマルフォイの心を解きほぐし、マグル生まれの孤独な秀才に居場所を与え、貧しき純血の少年を懐柔する。寮の垣根さえ軽々と飛び越え、彼らを「共犯者」という甘美な絆で縛り上げるその手腕。
もし、ハリー・ポッターが意図してこれを成し遂げているのだとすれば。
ヴォルデモートのような剥き出しの悪意よりも、遥かに美しく、遥かに抗いがたい「正義の仮面を被った怪物」が、今まさに孵化しようとしているのではないか。
「セブルス。子供たちの絆を頭から疑うのは酷というものじゃよ。……だが、見守り続けねばならん。あの少年が紡ぎ出す糸が、ホグワーツを、そして魔法界をどこへ導くのかをね」
ダンブルドアは穏やかな笑みを貼り付けたまま、机の上で組んだ両手の指先に、微かに力を込めた。
***
『ドラコニアは名門の重圧に一人で耐えているんだ。本当はすごく繊細で、寂しいだけなのかもしれない』
『ええ、きっとそうね。不器用だから、ああやって強がることで自分を守っているんだわ』
『ま、あいつがそんなに苦労してるなら……ハリーの顔を立てて、ちょっとくらいは大目に見てやるよ』
暖炉の爆ぜる音を聞きながら、ハリーの脳裏を過ぎったのは、図書室で三人を引き合わせたあの日の鮮明な記憶だった。映画の知識だけを頼りに、ロンとハーマイオニーの純朴な正義感と保護欲を煽り、ドラコニアの頑なな誇りを巧みにくすぐって同じ机に座らせた。全ては自分が生き残り、原作通りの悲劇を回避してみんなを救うための「生存戦略」であり、計算づくの誘導だったはずだ。だが、ドラコニアがこれほど無防備に自分を信じ込み、グリフィンドールの二人までもが寮の壁を越えて手を取り合っている光景は、あまりにもハリーの描いた筋書き通りに転がりすぎていた。
その完璧な謀略の成功の裏で、ハリーは自らの精神の奥底に忍び寄る、底知れぬ冷徹さに戦慄していた。前世の常識的な感覚であれば、まだ無垢な十一歳の子供たちの善意を弄び、平然と嘘八百を並べ立てたことに対して、耐えがたい罪悪感や良心の呵責に苛まれていたはずなのだ。だが今、彼の胸中にあるのは「障害を一つ排除できた」という、氷のように凪いだ平穏だけだった。人を騙し、感情を駒のように配置することに対する忌避感が、恐ろしいほどに抜け落ちている。――まるで魂の半身に、他者の尊厳を踏みにじることを呼吸のように自然と見なす、邪悪で冷酷な怪物が巣食っているかのように。
(待て、落ち着け……! 僕はみんなを助けたいだけだ。結果的に全員がハッピーエンドを迎えられるなら、手段なんて何だっていいはずだ)
胸の内でそう強弁しながらも、指先にじわりと滲む微熱のような違和感を拭い去ることはできなかった。嘘を吐くこと、人を誘導すること、他者の感情を取引材料にすること――それらに対する生理的嫌悪が、まるで麻酔を打たれたかのように鈍麻している
(そうだ、自分の良心の麻痺だの精神の異常だの、哲学的な悩みに浸っている場合じゃない! 生き残らなきゃ元も子もないんだ……!)
ハリーは心の内で激しく首を振ると、氷のように冷えかけた思考の焦点を、目下最大の破滅要因――『賢者の石』へと強引に引き戻した。今日のトロール侵入は偶然などではなく、何者かが注意を逸らすために仕組んだ陽動。そして映画の知識が告げる通り、四階の廊下の先には三頭犬フラッフィーが眠り、その深奥にはどんな金属も黄金に変え、不老不死の命をもたらす錬金術の極致が眠っている。
映画の筋書き通りなら、真の黒幕はスネイプではなく、後頭部にヴォルデモートを寄生させたクィレルだ。石が奪われれば史上最凶の闇の帝王が肉体を取り戻し、魔法界は血の嵐に見舞われる。だが、クィレルを指差して告発したところで、「なぜ一年生のお前がそれを知っているのか」と問い詰められれば終わりだ。かといって手をこまねいていれば、いつ最悪の結末を迎えるか分からない。守るべきは自分の命、そして今や奇妙な絆で結ばれつつあるドラコやロン、ハーマイオニーの未来だった。
「ハッピーエンドにする」という大義名分を掲げながら、ハリーの脳裏では冷徹な打算と張り裂けんばかりの焦燥が火花を散らしていた。石の防衛線、クィレルの動向、そして味方となった三人の手駒――いや、大切な仲間たちをいかに配置し、死線を潜り抜けるか。盤上の駒を動かす冷酷な知性と、全員を救いたいという不器用なお人好しのエゴが、ハリーの中で激しくせめぎ合っていた。
ドラコニア好感度メーター
★★★★★★★★★☆
ロン信頼度メーター
★★★★★★★☆☆☆
ハーマイオニー信頼度メーター
★★★★★★★★☆☆
ロンの信頼度がハーマイオニーよりやや低いのは、どうしても家族から聞かされてきたスリザリンへの偏見が抜けきってないからです。
ダンブルドア警戒度メーター
★★★★★★★★★☆
ハリーからのダンブルドア信頼度メーター
★★★★★★★★★★