ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
黒い湖の底深くに位置するスリザリン談話室は、粗削りの石壁に掛けられた緑色のランプが仄暗い光を投げかけ、冷ややかな静寂に包まれていた。ドラコニアが淑女としての私用で自室へ引き上げているその隙を突くように、重厚な革張りソファを取り囲む複数の影がハリーの前に立ちふさがった。
その中で前にでる三人、パンジー・パーキンソン、マーカス・フリント、セオドール・ノット。
「ねぇ、ポッター。最近、ずいぶん目障りな連中と仲良くおしゃべりしている姿を城中で見かけるけれど、どういう風の吹き回しかしら?」
先陣を切ってきたののは特徴的な顔立ちの少女(パグ犬みたいな)のパーキンソンであった。
それに続くようにフリントも口を開く。
「グリフィンドールの落ちこぼれのウィーズリーに、あの泥――マグル生まれの生意気な小娘だ。スリザリンの看板を背負いながら、あんな連中とつるむなど、寮全体の恥晒しだとは思わんのか?」
「 それだけじゃないわ。あろうことか、あの純血の名門たるマルフォイ家のドラコニアまで誑かして……! あの子、最近あなたの前だとすっかり骨抜きじゃない。いったい何の真似のつもり?」
憤慨するパーキンソンに続き最後にノットも鋭くハリーを見据える。
「『生き残った男の子』だからと大目に見てきたが、調子に乗りすぎているんじゃないか?僕たち純血の秩序を乱す気なら、それ相応の覚悟があるんだろうな」
フリントが威圧するように大柄な体躯をハリーの前に突き出し、取り巻きの上級生たちが冷酷な笑みを浮かべて腕を組む。天井に吊るされた鎖から垂れる鈍い光が、彼らの冷淡で疑念に満ちた瞳を緑色に染め上げていた。
湖底の波打ちを映し出す窓ガラスの向こう、巨大イカの黒い影がゆらりと揺らめく。
逃げ場のない地下の密室で、スリザリン特有の冷徹な査問がハリーへと向けられていた。
ハリーは冷ややかな微笑みを浮かべ、ゆったりとソファに深く腰掛ける
「君たちは、敵を監視するのに遠くから眺めるだけで十分だとでも思っているのかい?」
「 ……何だと? 敵を監視する、だと……?」
「まさか、あの落ちこぼれやマグル生まれを泳がせて、情報を吸い上げているとでも言うの?」
「ふん……『友を近くに置け、だが敵はもっと近くに置け』というわけか。グリフィンドールの連中に無防備な顔を見せて油断させ、手のひらで転がしていると?」
背筋を伝う冷や汗がローブの下でじっとりと滲み、心臓は早鐘のように乱れ打っていた。もし一歩でもボロを出せば、純血主義の牙が容赦なく襲いかかってくる極限の密室。だが、社会人時代で培ったポーカーフェイスと映画の知識という唯一の武器が、ハリーの仮面を鉄壁の硬度で保たせている。
「だがドラコニアはどうなんだ。あの誇り高いマルフォイの娘が、お前の前でだけあんなに毒気を抜かれているのはどう説明する。まさか、マルフォイ家さえも手駒にする気じゃあるまいな?」
「そうよ……! ドラコニアをあんな腑抜けにさせて、もしルシウス様に知られたらどうなるか分かっているの!?」
「いや、待てパンジー。もしハリーが、純血主義の急先鋒であるマルフォイの信頼を完全に掌握しているのだとしたら……それは単なる誑かしなどではない。スリザリンの頂点に立つための布石だ」
ゆったりと組まれた足、感情を削ぎ落とした静かな視線、そして嘲笑を孕んだ口元。そのあまりにも自然で不敵な佇まいは、上級生たちに「この一年坊主は、我々の想像を絶する深謀遠慮を巡らせている」という強烈な錯覚を植え付けていた。
談話室の暖炉でパチパチと爆ぜる炎が、揺らめく影を石壁の蛇の彫刻に落とす。威圧的に見下ろしていたフリントの眉間にわずかな戸惑いが走り、ノットの鋭い瞳には底知れぬ警戒と、ある種の敬畏が混じり始めていた。
冷たい視線でフリントを見据え、静かに告げる
「誰が駒で誰が味方か、僕がいちいち君たちに解説しなければ理解できないのかい?」
少し声を和らげ、狡猾な笑みを浮かべる。
「ドラコニアは素晴らしいパートナーだよ。彼女と共に、僕はスリザリンに最大の利益をもたらすつもりだ」
「最大の、利益……? 一年坊主の分際で、寮全体の覇権を口にするというのか……」
「フリント、もう十分だろう。ポッターの言葉には理がある。グリフィンドールを手玉に取り、マルフォイ家と手を組んでスリザリンを頂点へ導く算段だというなら、僕たちが口を挟む余地はない」
「で、でも! ドラコニアを『パートナー』だなんて、そんなのルシウス様がお認めになるわけが――」
「 ――誰が私の許可なく、私の父上の名前を出していいと言ったのかしら、パンジー?」
談話室の螺旋階段から、冷ややかな、しかしどこか上擦った声が響いた。優雅にローブの裾を払いながら歩み寄ってきたドラコは、白磁の肌を耳の付け根まで鮮やかな朱色に染め上げ、ハリーから必死に視線を逸らしながらフリントたちを睨み据えた。
「ハリーの言う通りよ。私とハリーが何を企み、どう動こうと、あなたたちにとやかく言われる筋合いはないわ。……そ、それに、パートナーだなんて……別に、私が認めてあげたわけじゃないんだから勘違いしないでよね、ハリー!」
「フン……マルフォイ家の息女がそこまで肩入れするなら、これ以上は聞くだけ野暮だな。ポッター、その大言壮語、せいぜい結果で示してみせるんだ」
フリントは忌々しげに舌打ちをして背を向け、取り巻きたちも潮が引くように離れていく。ノットだけが意味深な一瞥をハリーに投げかけ、静かに自室へと戻っていった。
だが――仮面の下のハリーの内心は、絶叫と冷や汗の嵐で完全にパンク寸前だった。(危なすぎる! 映画の知識と就活の面接仕込みのハッタリだけで乗り切ったけど、一歩間違えたら闇の呪文で消し炭にされてたぞ……!? 胃に穴が開きそうだ……!)
心臓が肋骨を突き破らんばかりに跳ね上がるのを必死に抑え込み、ハリーはあくまで冷徹な笑みを崩さず優雅に息を吐き出す。しかし、背後から突き刺さるドラコニアの視線は、純血の傲慢さなど微塵も残っておらず、ただ恋情と羞恥心に激しく揺れ動く一人の少女のそれであった。
ドラコニアに向き直り、穏やかに微笑む
「助かったよ、ドラコニア。君が来てくれなければ、少し話が長引くところだった」
「 べ、別にあなたを助けたわけじゃないわ! 部屋に戻ろうとしたら、あいつらがギャーギャーうるさかったから注意しに降りてきただけよ!」
「そ、それより……さっき言ったこと、本当なの? す、素晴らしい……パートナー、だなんて……」
「もちろん本当さ。君ほど聡明で気品があって、頼りになる仲間は他にいないと思っているよ」
「なっ……! な、なによそれ! そういう恥ずかしい台詞を、どうしてそんな真顔でサラッと言えるわけ!? ば、馬鹿ハリー……!」
ハリーは必死に顔面の筋肉を統制し、余裕に満ちた聖人のごとき柔らかな笑みを張り付かせていた。映画知識のドラコといえば嫌味な少年だったはずが、目の前にいるのは白磁の肌を林檎のように真っ赤に染め、プラチナブロンドの毛先を指で弄りながら上目遣いにこちらを窺う、可憐極まりない美少女である。精神衛生上、毒以外の何物でもない。
「ふん、でも……そうね。あなたがそこまで言うなら、パートナーとして相応しい働きをしてあげなくもないわ。……感謝なさいよね」
暖炉の緑がかった炎が、ドラコニアの華奢な肩と揺れるローブの輪郭を照らし出す。彼女はハリーの穏やかな眼差しに耐えかねたようにふいと横を向いたが、その耳たぶは熟れた果実のように紅潮し、小刻みに揺れる睫毛が隠しきれない胸の高鳴りを雄弁に物語っていた。
上級生たちの疑惑の目をそらし、寮内での孤立を免れるための権謀術数――ハリーにとっては単なる生存戦略のハッタリに過ぎなかった台詞が、ドラコニア・マルフォイという純血の令嬢の心に、消えない刻印のように深く刻み込まれてしまっていた。
『ドラコニア、お前はマルフォイの血を継ぐ誇り高き娘だ。付き合う相手は厳格に選び、劣る者には慈悲など見せるな』
『僕たち四人で背中を預け合えば、隙はない』
『マルフォイさん、その……この変身術の注釈、すごく分かりやすかったわ。ありがとう』
『 ま、ハリーが信じるって言うなら……僕も文句は言わないよ。お前も結構、物知りだしさ』
『ドラコニアは素晴らしいパートナーだよ。彼女と共に、僕はスリザリンに最大の利益をもたらす』
「――パートナー、だなんて。そんなの……反則じゃないの……」
幼い頃から冷徹な純血主義を刷り込まれ、名門の重圧に押し潰されそうになりながら育ってきたドラコニアにとって、他者とは常に「利用するもの」か「見下す対象」でしかなかった。だからこそ、ハリーがウィーズリーやマグル生まれの少女との間を取り持とうとした当初、彼女の心は激しい反発と困惑に満ちていた。裏切り者と泥――賎民と机を並べるなど、名家への侮辱そのもののはずだった。
だが、ハリーはドラコニアを突き放すどころか、その頑なな仮面の裏にある孤独に寄り添うように微笑み、誰よりも自分を尊重してくれた。図書室でぎこちなく始まった四人の勉強会は、いつしか互いの知恵を補い合う心地よい居場所に変わり、傲慢な意地を張る必要のない安らぎをドラコニアに与えていた。敵対するはずの赤と緑の境界線を鮮やかに溶かしてみせたハリーの背中は、彼女の目に誰よりも気高く、英雄そのもののように映っていたのだ。
そして先ほど、談話室の階段の踊り場で息を潜めて聞いた言葉――『素晴らしいパートナー』。家柄や血筋という鎧を剥ぎ取った「ドラコニア自身」を認め、対等な半身として未来を誓うかのようなハリーの響きは、少女の胸の奥底を激しく打ち震わせた。冷ややかな湖底の部屋で、紅潮した頬を押さえながらハリーの整った横顔を見つめるドラコニアの瞳には、もう純血の矜持など微塵もなく、生まれて初めて抱く甘く切ない熱情だけが溢れ返っていた。
ドラコニア好感度メーター
★★★★★★★★★★❘