ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
「急ごう。ハーマイオニーなら、フラメルの正体を知っているかもしれない」
図書室にもどりハーマイオニー達と合流するため早足で城を駆ける。
「――遅いわよ、ハリー! 待ちくたびれて地下牢から様子を見に来てみれば……怪我はない!? あの野蛮な大男に、何か無礼な真似をされなかったでしょうね!」
重厚なオーク材の書架が迷宮のように連なる図書室の最奥。かすかに揺れる蝋燭の明かりの下で、ドラコニアはハリーの姿を認めるなり駆け寄ってきた。
陶器のように白い頬をわずかに上気させ、ハリーのローブの裾をつかんで念入りに全身の無事を確かめるその仕草は、貴族の令嬢というより、巣立ち前の雛を案じる小鳥のようだった。
「げっ、マルフォイ!? なんでお前がまだ図書室にいるんだよ」
「 う、うるさいわね! ハリーの身に何かあったら、誰が責任を取るのよ!」
背後では、積み上げられた分厚い魔道書に埋もれるようにして、ハーマイオニーが羽根ペンを片手に、知的な情熱で瞳を輝かせていた。
「ふたりとも、声を落として! ピンス夫人に気づかれたら、連帯責任で放り出されるわ! ……それで、ハリー。何か手がかりはつかめたの?」
「ああ、とんでもない大収穫だぜ! ニコラス・フラメルだ! あの巨大な三つ首犬が守ってるのは、そいつとダンブルドアに関係するものらしい!」
「ニコラス・フラメル……? どこかで目にしたような気がするけれど……現代の著名な魔法使いの年鑑や、二十世紀の大魔法使いたちの記録には載っていなかったはずよ。もっと歴史を遡る必要があるかもしれないわね」
冷たい夜気を含んだ図書室には、古びた羊皮紙と革表紙の乾いた匂いが満ちていた。消灯時間を告げる鐘の音が遠くの尖塔から低く響き、四人の影を長く引き伸ばす。
映画の知識を持つハリーにとって、フラメルが「賢者の石」の創造者であることは周知の事実だった。しかし、それを不自然にならない形で伝え、どうにかしてこの優秀すぎる少女たちに「自力で見つけさせた」と思わせなければならない。その綱渡りのような誘導に、ハリーの神経は再び張り詰めていた。
「今日はここまでにしておこう。焦ったところで、これ以上の進展はないだろうしね」
焦燥を押し殺し、息を潜める子供たちの間で、謎を解くための断片が机の上に散らばっていく。
「ええ、ハリーの言う通りね。ピンス夫人の見回りも本格化してきたわ。焦って禁書に触れ、追い出されるより、役割分担を決めて長期戦で挑むべきよ」
「ふん、賢明な判断ね。夜更かしをしてハリーの肌にクマでもできたら、スリザリンの品格に関わるもの。……ほら、ハリー。地下牢へ戻るわよ。ウィーズリー、ハリーを夜風にさらした罪は忘れていないからね!」
「なんで僕のせいになるんだよ!? ……まあ、助かったぜ。これ以上頭を使ったら、耳から煙が出そうだったしな。おやすみ、ハリー!」
* * *
冷たい石造りの回廊に囁き声が響いてから数週間。季節は足早に巡り、スコットランドの厳しい冬がホグワーツを純白の雪で覆い尽くしていた。
「 ――そして結局、クリスマス休暇の前日になっても手がかりはゼロなんて! 私、休暇中も家でマグルの百科事典を片っ端からひっくり返して探してみるわ!」
空き時間を見つけては、図書室の禁書に近い埃っぽい棚まで調べ上げた四人だった。しかし、「ニコラス・フラメル」の名は、まるであらかじめ歴史から削ぎ落とされたかのように、頑なに少年少女たちの前から姿を隠し続けていた。
「ハリー……本当に、クリスマス休暇をこんな寒々しい城で過ごすつもりなの? マルフォイの屋敷なら、最高級の料理と暖炉、それに……わ、私が案内してあげるのに……!」
クリスマス休暇前日の大広間には、ハグリッドが森から運んできた十二本の巨大なモミの木が誇らしげにそびえ立ち、ヤドリギの小枝や輝く氷柱が祝祭の訪れを告げていた。
帰省用のトランクを抱えた生徒たちが楽しげに別れの挨拶を交わす喧騒の片隅で、ドラコニアは駅へ向かう馬車を前に、ハリーの手を両手で包み込むように握りしめていた。
白い息を弾ませ、名残惜しさに潤んだペールグレーの瞳は、純血の名門としての冷徹なプライドなど、とうに雪に溶かしてしまったかのようだった。
「マルフォイ家なんて行ったら息が詰まりそうだろ。ハリー、休暇中は俺と魔法使いのチェスで勝負三昧だな!」
「誰が、あなたのような赤毛の駒潰しとハリーを遊ばせるものですか! いいこと、ハリー。贈り物を載せたフクロウを毎日飛ばすから、絶対に返事を寄越しなさいよね!」
家族のもとへ帰るハーマイオニーとドラコを見送り、城に残るのはハリーとロン、そして数人の生徒たちだけとなった。
映画の知識をなぞるならば、この静まり返った休暇こそ、クィレルやスネイプの不穏な影が動き出し、見えない透明マントやみぞの鏡という運命の鍵がハリーの手に渡る、決定的な転換点であった。
クリスマス前日、ロンの誘いを受るかたちでグリフィンドール塔へ向かう。
「よく来てくれたよ、ハリー! スリザリンの奴らがみんないなくなったんなら、遠慮することなんかないさ」
螺旋階段を登りつめた先、七階のグリフィンドール塔前は、地下牢の静寂とは対照的な熱気と笑い声に包まれていた。
「おや、誰かと思えば緑のネクタイを締めた有名人じゃないか。太った婦人が『蛇の立ち入りは禁じられてます』って門前払いを食らわせようとしてたぜ!なぁジョージ!」
「ああ、フレッド!だがご安心を、ミスター・ポッター。ウィーズリー特捜隊の手引きがあれば、七階の要塞だってフリーパスだ。さあ、火のそばへどうぞ!」
「やぁ、フレッド、ジョージ。しっかり話すのは初めてだね、いつもロンから2人の話を聞いてるから、あまりはじめましてな気はしないけど」
ピンクの絹ドレスを着た『太った婦人』の肖像画が目を丸くして見守るなか、赤毛の双子は左右からハリーの肩を組み、まるで昔からの悪友のように談話室の入り口へ引き入れた。
「フレッド、ジョージ、他寮の生徒を無断で談話室へ招き入れるのは規則違反だぞ! ……とはいえ、ポッター、君が礼儀正しい生徒であることは知っている。静かに過ごすなら監督生として目をつぶろう」
「ありがとうございます、パーシー。もちろん、迷惑はかけないように気をつけるよ」
ハリーは人好きのする完璧な笑みを浮かべてクッションの沈み込む肘掛け椅子に腰を下ろした。普段は寮の垣根に阻まれているが、双子の破天荒な社交性と、営業時代に培ったハリーの相槌の巧さは恐ろしいほど噛み合っていた。
「ほら出た、歩く校則本め。まあパーシーの小言は放っておいて、休暇の計画を立てようぜ。まずは凍った黒い湖での雪玉射撃大会だ」
「クィレル先生のターバンを狙うと罰則食らうから、次はフィルチの帽子だな。それから、談話室の暖炉でトーストとマシュマロの無限焼き尽くし耐久レース!」
「魔法使いのチェスもやろう。ハリー、ルールは知ってるか? マグルのチェスと違って、駒が自分の意志で殴り合うんだ。僕が手加減なしで教えてやるよ」
円形の部屋の中では、大理石の暖炉が轟々と爆ぜ、緋色と金色のタペストリーが柔らかな冬の光を吸い込んでいた。
(……ふぅ、パーシーの説教を食らいかけたけど、双子のノリに助けられたな)
相手の自尊心をくすぐりつつ、悪戯の輪を広げる会話術に、フレッドとジョージは早くも目を輝かせている。
テーブルの上にはトーストフォークとバター、山盛りのマシュマロが並び、ロンは年季の入った木製のチェス盤を誇らしげに広げ始めた。冷え切った地下牢の孤独を抜け出し、手に入れたのは温かな火と騒がしい仲間たちの時間だった。外では吹雪が尖塔の窓を叩いていたが、城の内部には、休暇ならではの無防備で心地よい時間が流れ出していた。
クリスマスの朝、スリザリンの地下寝室は、湖底を抜けて届く蒼白色の光に冷たく満たされていた。
石造りの頑丈な四柱ベッドの上で、ハリーは目を覚ました。他の五つのベッドの天蓋カーテンはすべて開け放たれ、シーツには皺一つなく、部屋にはハリー自身の呼吸音と、遠くで時折響く湖水の軋むような重い水音だけが漂っていた。誰もいない。凍てつくような静寂だった。
だが、ハリーの足元には、たしかに色とりどりの包みが積み上がっていた。
「……プレゼント、か」
人生で初めてと言っていい、自分宛てのクリスマスプレゼント。前世の記憶を持つハリーにとっても、あるいは虐待同然に育てられたこの身体の持ち主にとっても、それは本来なら胸を打つ温かな光景であるはずだった。
ハリーはベッドから這い出し、寒さに震えながら丁寧に包みを開けていった。
ハグリッドからは、手削りの不格好だがどこか味のある木笛。
ハーマイオニーからは、分厚いリボンで飾られたマグルの書籍が複数入った箱。
ダーズリー一家からは、薄汚れた茶封筒に入った五十ペンス硬貨がたった一枚――これには苦笑すら漏れなかった。
ウィーズリー夫人からは、手編みのエメラルドグリーンのセーターと、ずっしり重い自家製のファッジの缶。ロンが実家に手紙で頼んでくれたのだろう、その温もりが毛糸の編み目からじんわりと伝わってくる。
そしてドラコニアからは、豪奢な銀の包装紙に包まれた、最高級の鷲羽ペンと純銀のインク壺だった。添えられた短いカードには、気取った流麗な筆跡で『ウィーズリーの粗悪なインクで汚い文字を書かないように。――ドラコニア・マルフォイ』とだけ書かれており、ハリーは思わず口元を緩めた。
だが――最後の包みを開け終えた瞬間、ハリーの笑みが凍りついた。
足元の絨毯には、剥ぎ取られたリボンと包装紙の残骸が散らばっているだけだった。
そこにあるべきものが、ない。
「……嘘だろ?」
ハリーは膝をつき、ベッドの下を覗き込んだ。シーツを乱暴にめくり上げ、枕の下、トランクの隙間、果ては羽毛布団の裏側まで、凭れかかるようにして手探りで探した。
銀色に光り、水のように波打つ、あの奇妙な手触りの布――父ジェームズの形見であり、死の秘宝の一つである『透明マント』。
映画の知識通りなら、ダンブルドアから匿名のメッセージと共に、このクリスマスの朝に届くはずの最重要アイテム。
それが、どこにも見当たらなかった。
(なんでだ……!? どうして届いてないんだ!?)
ハリーの背筋を、地下牢の底冷えとは比べ物にならない冷たい汗が伝った。
脳裏で営業マン時代の高速なリスク計算と思考の嵐が吹き荒れる。
(僕が……スリザリンに入ったからか? ダンブルドアが僕を警戒してしまった? 映画では『有効に使え』って返してくれたはずだ。なのに、スリザリンの制服を着て、蛇の連中と仲良くやってる僕には、危険すぎて渡せないと判断された……!?)
ポーカーフェイスを保つ必要のない無人の部屋で、ハリーの顔はみるみる青ざめていった。
内心のビビりな性格が一気に頭をもたげる。透明マントがないということは、夜の図書室の禁書区画に行くことも、フラッフィーの部屋に忍び込むことも、今後の数々の危機を回避することも、すべて『丸腰』で挑まなければならないということだ。それどころか、偉大なる白の魔法使いから「潜在的な闇の魔法使い」として完全にマークされている可能性すらある。
「……まずい。これは、本当にまずいぞ……」
ハリーは震える指先で眼鏡を押し上げ、冷たい床の上に立ち尽くした。誰もいないスリザリンの地下室が、まるで自分を閉じ込める冷酷な石の檻のように思えてならなかった。
アイテム透明マントの入手イベント発生のためのダンブルドアからの好感度が足りません。
組み分けからやり直しましょう。