ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
「ロンのところへ行こう。誰かと話していないと、不安で押し潰されそうだ」
ハリーはウィーズリー夫人が編んでくれたエメラルドグリーンのセーターに素早く袖を通すと、冷え切った地下牢を飛び出した。階段を駆け上がる靴音が、静まり返った石造りの廊下にやけに甲高く響く。
胸の奥で早鐘が鳴り止まない。ポーカーフェイスで覆い隠す前の、生々しい恐怖が胃の腑を締め付けていた。透明マントが渡されないという事実は、映画シナリオの単なる欠落ではない。この世界の絶対的権力者であるダンブルドアが、ハリー・ポッターという存在に対して明確な疑念と警戒の目を向けている証拠に他ならなかった。
七階へと続く動く階段を息を切らしながら登りつめ、グリフィンドール塔の肖像画の前へとたどり着く。昨日双子から教わっていた合言葉を囁くと、『太った婦人』はクリスマスの朝に免じてか、眠たげに微笑んで額縁を前へとスイングさせた。
穴をくぐり抜けた瞬間、全身を包んだのは薪が爆ぜる芳しい匂いと、圧倒的な暖気の波だった。
「お、ハリー! メリー・クリスマス! うわ、母さんのセーター、着てくれたんだな!」
暖炉の前のふかふかの絨毯の上で、ロンは手足を投げ出して笑っていた。彼の胸には、渋いマルーン(えんじ色)の毛糸で大きく『R』の文字が編み込まれている。周囲には派手な包み紙の残骸や、爆発して中からプラスチックのネズミが飛び出した魔法のクラッカーの破片が散らばっていた。
「メリー・クリスマス、スリザリンの小さな坊や! ほら見ろよジョージ、ハリーのセーターには『H』の文字すら入ってないぜ」
「母さんはハリーが自分の名前を忘れる心配はないと思ってるのさ。俺たち双子なんて、胸の頭文字がなけりゃどっちがどっちか家族にすら忘れられるっていうのに!」
双子もまた、それぞれ黄色と青のド派手なイニシャル入りセーターを着込んで、ハリーの両脇から頭を小突いてきた。二人の手には、早くもハニーデュークス製のいたずら菓子が握られている。
「ハリー、顔色が少し悪くないか? ……あ、そうか。スリザリンの連中はみんな帰省したんだろ。あんな陰気な地下室で一人で起きたら、誰だって気が滅入るよな。ほら、母さんのファッジを食べろよ。飛び切り美味いんだから!」
ロンは無造作にファッジの缶を差し出しながら、無邪気な笑みをハリーに向けた。何一つ疑わず、何一つ裏のない純粋な好意。それが、冷や汗をにじませていたハリーの強張った神経を、わずかに緩めていく。
だが、談話室の窓から見える城の最上階――校長室の尖塔は、灰色の冬空に向かって冷酷な刃のように鋭く聳え立っていた。そこに座す老魔法使いの真意は、雪雲の奥へと深く隠されたままだ。
「校長先生は、休暇中もずっと城にいらっしゃるのかな」
「ダンブルドア? そりゃいるさ。さっき大広間で、爆発するクラッカーから本物の生きたハツカネズミを取り出して笑ってたよ」
ハリーはファッジを小さくかじりながら、暖炉の赤い爆ぜ火を見つめて自然な笑みを繕った。
「あの人は城の一部みたいなもんだからな。魔法省の連中から手紙の山が届こうが、休暇中はレモン・キャンデーを舐めながら平然と無視してるって噂だぜ」
「なんだいハリー、新入生が校長先生に個人的な用事かい? まさか『スリザリンの部屋が寒すぎるので暖房を増やしてください』って陳情に行く気か?」
「いや、ただ……すごく偉大で多忙な人だから、クリスマスくらいはどこか別の場所で過ごしているのかと思っただけだよ」
双子は「校長が休暇をどこかで過ごすなら、きっとお菓子工場だな」と下らない冗談を言い合い、ロンとチェスの駒を動かし始めている。
(ダンブルドアは城にいる。……だが、いきなり校長室へ突撃するわけにはいかない)
営業マンとしての思考回路が冷徹に状況を整理していく。校長室の合言葉すら知らない一年生が、唐突に「父の形見のマントはありませんか」と聞きに行けば、あまりにも不自然で不審がられる。そもそも、前世の記憶にあるダンブルドアは温厚で慈愛に満ちた偉大な教育者だ。スリザリンに入ったとはいえ、まだ十一歳の子供を悪者扱いして意図的に形見を没収するような陰険な真似をするはずがない。何か事務的な手違いがあったのか、あるいは――自分がどこまでやれるのか、軽く試されているだけなのかもしれない。
(確か、映画の記憶だと……このクリスマスの時期、どこかの空き教室に『みぞの鏡』が置かれていたはずだ)
ハリーの思考が一点に収束する。
映画では、夜な夜な鏡を見に来るハリーの前に、ダンブルドアが姿を現して穏やかに語りかけてきた。あの場所なら、密室で、しかも「偶然の遭遇」という完璧なシチュエーションで校長と二人きりになれる。そこで孤独な少年の顔をして父や家族の話題を振れば、自然な流れでジェームズの遺品――透明マントの所在について探りを入れることができるのではないか。
マントがない状態での夜歩きはフィルチやノリスに見つかる危険が高い。だが、指をくわえて待つより、リスクを冒してでも状況の主導権を握るべきだ。
深夜、時計の針が一時を回ると、ホグワーツの静寂はさらにその深さを増した。
スリザリンの寝室を抜け出したハリーは、人気のない廊下の闇に溶け込みながら、そっと柊の杖を抜いた。透明マントという最強の隠れ蓑がない今、夜歩きのリスクは跳ね上がる。だが、なければ自分で補うだけの理屈と技術を構築すればいい。
目くらまし術の変形による光の屈折、足音を吸い取る消音の術式、体臭と呼気を希釈する風の制御、そして微弱な魔力の漏洩を偽装する遮蔽膜――四つの初歩的な原理を論理的に編み上げ、一つの複合術として自身に纏わせる。頭の上から冷たい生卵を割られたような感覚とともに、ハリーの輪郭が周囲の石壁と同化し、呼吸の気配すら完全に掻き消えた。
「……どこだ、悪戯好きのネズミどもめ。クィレルの部屋の周りで妙な音がしたんだ。ミセス・ノリス、嗅ぎつけておくれ」
角を曲がってきた管理人のフィルチが、ランタンを掲げて目を細める。骨ばった彼のすぐ足元を歩く痩せた灰色の猫――普段ならほんのわずかな匂いや気配も見逃さないミセス・ノリスが、ハリーのわずか数十センチ前を通り過ぎた。
しかし、猫のランプのような黄色い瞳は、虚空の闇を素通りした。研ぎ澄まされた嗅覚にも、ハリーの存在は一片の埃ほどにも引っかからない。
(……うまくいった。一年生の魔力回路でも、術式の効率化さえ詰めれば実用に耐えうる)
ハリーは内心の震えを隠し、冷え切った廊下を滑るように進んだ。
幾重もの階段を音もなく上り、放棄された旧校舎の一角へ足を踏み入れる。埃っぽい空気が漂う薄暗い空き教室の木製扉を押し開けると、雑多に積み上げられた壊れた机の奥に、天井まで届くほど巨大な金色の縁取りを持つ鏡が佇んでいた。
鏡枠の上部には、奇妙な文字が刻まれている。
*『Erised stra ehru oyt ube cafru oyt on wohsi』*――みぞの鏡。
月の光が差し込む誰もいない教室で、ハリーはその鏡の前に静かに歩み寄った。
「……これが、心の奥底を映す鏡か」
鏡の前に立ち、そこに何が映し出されるか確かめる
『ハリー、寒くはない? 暖炉のそばへおいで』
『なあハリー、今度の休みには一緒に箒に乗ろう。父さんの自慢の飛行を見せてやる』
『ほらハリー、ぼさっとしてないで早く座りなさい。隣を空けておいてあげたのだから』
『ハリー、次のチェス勝負も僕が勝つからな! あと双子の悪戯の仕返しも手伝ってくれよ』
『もう、二人とも騒がしいわね。でも……ハリー、宿題が終わったらまた図書室で教えてね』
「……みんな、笑ってる。何の壁も、計算もなしに……」
音などしないはずのガラスの向こうから、温かな話し声と柔らかな笑い声が耳元に届く錯覚を覚えた。鏡の奥には、優しげに微笑みながら手を差し伸べる赤毛の母と、悪戯っぽく眼鏡を直す父が立っていた。そしてその両脇には、寮の垣根など跡形もなく溶け去った世界で、肩を並べて無邪気に笑い合うドラコニア、ロン、ハーマイオニーの姿がある。鏡の中のハリー自身は、冷徹な仮面など脱ぎ捨て、心からの穏やかな笑みを浮かべて彼らに囲まれていた。
それは、嘘も、営業スマイルも、損得勘定も、誰かを操るための計算も存在しない、ただ一つの「平穏」。心の奥底で最も渇望しながらも、手に入れることを諦めていた光景だった。
(……なのに、今の僕はどうだ)
ハリーは冷え切った自らの掌を見つめ、暗い憂鬱の底へと沈み込んでいった。生き延びるため、ハッピーエンドを掴み取るためと自分に言い訳をしながら、出会う者すべてを値踏みし、人好きのする完璧な嘘を貼り付け、巧みに誘導し続けている。恐ろしいのは、その欺瞞を重ねる行為に対して、胸を刺すような罪悪感が日増しに薄れ、麻痺してしまっていることだった。魂の奥深くに巣食う闇の残滓のせいなのか、それともそれが自身の冷徹な本性なのか――自分でも境界線が引けなくなっている事実に、胃の腑が鉛のように重く軋んだ。
「 魅惑的な夜じゃな、ハリー。……まさか、これほど早くこの部屋の扉が開かれるとは思わなんだ」
闇の底から静かに染み出すような、穏やかで低く響く声が教室の空気を揺らした。
ハリーの全身の毛穴という毛穴が、一瞬にして逆立つ。即座に振り返ると、積み上げられた古机の影から、群青色の豪華なローブを纏った老魔法使いが音もなく歩み出てくるところだった。銀色に輝く長い髭、半月形の眼鏡の奥で瞬く碧い瞳――アルバス・ダンブルドアその人だった。
「姿を隠すための光の屈折、足音を消し去る消音膜、風の循環による匂いの希釈、そして極めつきは魔力の漏出を周囲の石壁と同化させる偽装陣……。驚くべき手際じゃ。およそ一年生が自力で編み出したとは到底信じられない、芸術品のような複合術じゃな」
ダンブルドアは微笑をたたえ、感嘆するように小さく拍手を打った。その仕草は一見すれば純粋な好々爺の称賛に見える。だが、半月形の眼鏡の奥でハリーを見つめる瞳は、氷のように冴え渡り、底知れぬ深淵の光を宿していた。その瞳にわずかでも嘘の匂いを察知されれば、二度と取り返しのつかない何かが砕け散る――そんな圧倒的な重圧が、教室の冷気となってハリーの肌を刺した。
「 ……校長先生。夜歩きの規則を破ったことは、言い訳できません。ただ、この部屋にどうしても惹かれてしまって」
ハリーは呼吸を整え、努めて穏やかな声で頭を下げた。だが、ダンブルドアはハリーの行動を咎めることもなく、歩み寄って鏡の前にハリーと並び立った。
「咎めるつもりはない。君のように聡明な少年なら、これがただのガラスではないことにもすでに気付いているはずじゃ。……『みぞの鏡』。人の心の奥底にある、最も切実な願望を映し出す魔法の鏡。――ハリー、君の目には今、何が映っておるのかな?」
試すような、しかしどこまでも柔らかな問いかけ。営業用の巧みな嘘や、無難な模範解答はいくらでも脳裏に浮かんだ。だが、ハリーの直感がそれらをすべて薙ぎ払った。この怪物の前で虚飾を弄することは、命取りになる。
「 ……僕の両親です。一度も会ったことのない父と母が、僕の隣にいて……それから、ここでできた友達が一緒にいます。誰も嘘をつかず、誰の機嫌も伺わず、ただ心から笑い合っている……そんな姿が見えました」
飾り気のない告白が、静まり返った教室に落ちた。鏡に映る温かな両親の瞳、そしてその横で笑うドラコニアやロンの姿を思い返し、ハリーは自嘲するように小さく唇を噛んだ。
「先生、僕は 父の姿を初めて見ました。父は昔、どんな人だったのでしょうか」
「ジェームズかの? ふむ……一言で言うなら、極めて悪戯好きで、手の焼ける生徒じゃったよ」
ダンブルドアは懐かしむように目を細め、髭をそっと撫でた。
「 規則破りの常習犯での。当時の城の管理人などは、彼の足音を聞いただけで頭痛を起こしていたものじゃ。……だが、同時に類稀な才能と、友を決して見捨てない気高い勇気を持った男だった。誇り高く、眩しいほどに真っ直ぐな光を放つ少年じゃった」
「規則破り、ですか。……僕が今していることと同じですね」
「ほほ、確かにそうじゃ。だが君のやり方は、父親よりもずっと綿密で洗練されておる。……ジェームズなら、おそらくもっと騒がしく扉を吹き飛ばしていたはずじゃ」
ダンブルドアは穏やかに笑いながら、ローブの広大な内ポケットへと手を差し入れた。取り出されたのは、まるで液体化した銀をそのまま織り上げたかのように、波打つ奇妙な布地だった。教室を満たす冷たい月光を吸い込み、光の当たる角度によって周囲の景色を透かして消し去っていく。
「実はの、このクリスマスに君へと届けるべきものだったのだが……渡す機を見計らっていたんじゃ。君の父上が残した形見じゃ。ジェームズが旅立つ直前、儂が預かっていたものでな、本来の持ち主の手にあるべき時が来たようだ」
銀色の布――『透明マント』が、ダンブルドアの手からハリーの掌へと静かに手渡された。
指先に触れた瞬間、水のように滑らかで、驚くほど軽い不思議な重みが肌を伝う。偽りのない本物の魔法の布地。これで、夜歩きのリスクも、姿を隠すための過度な魔力消費も劇的に抑えられる。
「賢く使いなさい、ハリー。……この鏡が何を見せるのかを知った今、長居は無用じゃ。夢に溺れて生きることを忘れてはならない。さあ、今夜はもう温かいベッドへお帰り」
計画の要となる最大のピースを手に入れた達成感と同時に、そのマントを差し出した老人の青い瞳の底に、依然として揺れる冷たい知性の光をハリーは気づかなかった。
「父の形見をありがとうございます。……それから、夜歩きという身勝手な規則違反をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
ハリーはもう一度だけ、金色の縁取りの奥に揺れる両親と友人たちの幻影へと名残惜しそうに視線を投げ、深く一礼してから踵を返した。
「謝罪を受け取ろう。もっとも、これほど見事な魔法の構築を見せてもらえたのだから、今夜のところは儂の好奇心への授業料として相殺しておくとしようかね」
「寛大なお心遣いに感謝します。……失礼します、校長先生」
手の中に収まる布地は、羽のように軽く、しかし確かな温もりを宿していた。スリザリンに組み分けられたことで警戒されているのではないか、あるいは形見を意図的に隠匿されているのではないかという冷えた疑念は、奇麗さっぱり氷解していた。ダンブルドアはただ、渡す機を慎重に見計らっていただけだったのだ。夜歩きを咎めず、未熟な一年生の身勝手を優しく包み込み、父の思い出とともに形見を返してくれた老魔法使い――映画の記憶にある通りの、慈愛に満ちた偉大な教育者の姿がそこにはあった。信じるに足る導き手を得たという安堵が、強張っていたハリーの胸をじんわりと解きほぐしていく。
「ああ、おやすみ、ハリー。良い夢を」
静まり返った廊下を、ハリーは手に入れたばかりの透明マントを羽織って滑るように歩いた。先ほどまで神経をすり減らしていた複合隠蔽術の展開も必要なく、自らの姿が完璧に風景の彼方へと消え去っている全能感は筆舌に尽くしがたい。見回りの足音を悠々とやり過ごし、地下牢の合言葉を唱えてスリザリンの談話室へと滑り込む。緑色の炎が燻る暖炉の前を抜け、自分の天蓋付きベッドに潜り込んだハリーは、枕の下に銀の布を丁寧に滑り込ませ、心地よい疲労感とともに深く息を吐き出した。
「……実に、底知れぬ少年じゃ」
少年が立ち去った空き教室に、冷え切った沈黙が再び降り積もる。ダンブルドアは半月形の眼鏡を外し、眉間を深く揉みほぐしながら、静かにみぞの鏡を見つめていた。
「あの隠蔽術の構造……ただの秀才の域を遥かに逸脱しておる。魔力回路の無駄を極限まで削ぎ落とし、初歩の理屈を幾重にも編み上げるあの冷徹なまでの効率性は、かつてのトム――あるいは、ゲラートを彷彿とさせる」
ダンブルドアはハリーが部屋に侵入する際に使用した魔法の構造を読み解きながら背筋に冷たいものを走らせていた。
およそ魔法など知り得ぬ環境で育った一年生の魔法使いが自力で習得できる術式の粋を遥かに越えた隠蔽術。
数十年に一人の逸材と呼ぶべき才に。
「だが、それ以上に不可解なのは……その精神の在り様だ」
会話の最中、彼は幾度となく無言の開心術を少年の瞳の奥へと滑り込ませていた。しかし返ってきたのは、かつて経験したことのない奇怪な手応え――まるで幾重もの異なる意識の地層が複雑に絡み合い、互いを呑み込み合っているかのような、途方もない精神の混沌だった。
「儂の開心術を、無意識のうちに弾き返すどころか、その輪郭すら捉えさせぬとは」
本来ならば、11歳の子供の心など開いた本のように容易く読み解けるはずだった。だが、ハリーの精神の核に触れようとした瞬間、ダンブルドアの知覚は底知れぬ深淵に弾かれた。純真な少年の悲哀、大人びた異様な冷徹さ、そしてその奥底で脈打つ、かつて忌まわしき闇の帝王から感じ取ったあの醜悪な魔力の残滓――混ざり合うはずのない三つの魂の断片が強固に融和し、絶対的な防壁となって真意を覆い隠していたのだ。この世界最高の魔法使いである彼だからこそ辛うじて「異様さ」を感知できたが、並の魔法使いであれば思考の表面を撫でることすら叶わないだろう。
鏡に映った家族の姿を語るハリーの声には、確かに嘘はなかった。しかし、その奥に潜む底知れぬ計算高さと、他者を欺くことに一切の動揺を見せない異常な精神構造は、かつて世界を破滅の淵へと追い詰めた者たちの幼少期と重なり合ってやまない。与えた形見のマントが、世界を救う盾となるのか、それとも新たな脅威を闇に潜ませる隠れ蓑となるのか――ダンブルドアの碧い瞳に宿る警戒の色は、月光よりも冷たく冴え渡っていた。
「 じゃが、すでに自力でここまでの隠密術を編み出しておる以上、父親の遺品を隠し続ければ、かえって余計な猜疑心と闇への執着を煽ることになりかねん。ならばいっそ、マントを渡し、あの子がその力をどう使うのかを見極めるしかあるまい」
ダンブルドアはゆっくりと杖を振り、教室の扉に施された警戒の術式を静かに修復した。ジェームズの透明マント――死の秘宝の一角たるその至宝を、これほどまでに危険な兆候を見せる少年に委ねることは、彼にとっても大きな賭けに他ならなかった。しかし、もしハリーが自らの血筋の正当な権利をダンブルドアによって不当に奪われたと感づいたなら、その類稀な知性は間違いなく「大人への警戒」へと転化し、修復不可能な溝を穿ったはずだ。
あの少年はあまりに頭が回りすぎる。僅かな不審、僅かな違和感すらも論理的に分析し、冷徹に対処法を導き出す観察眼を持っているのだ。下手に形見を握り込み、不信の種を蒔いてしまえば、彼が完全にスリザリンの闇、あるいはかつての死喰い人たちの陣営へと傾倒した際、それを引き戻す術は完全に失われてしまう。
「味方である」という確固たる姿勢を示し、少年の心に光の側に立つための楔を打ち込むこと。それがたとえ、底知れぬ怪物を手元で飼い慣らすような危うさを孕んでいようとも、ダンブルドアに遺された道はそれしかなかった。窓の外に広がる黒々とした禁じられた森を見つめながら、老魔法使いは深く、冷たい呼気を吐き出した。
「ジェームズ、リリー……どうかあの子が語ってくれた美しい望みが、ただの巧妙な仮面ではなく、ほんの一欠片でも本心からのものであってくれればよいのじゃが……」
ダンブルドア警戒度メーター
★★★★★★★★★★❘
は?何こいつ心読めんのやけど?え、コワ、ヤバ
透明マント返していいのか?いやでも、このまま持ってるのバレた時怖いし…
って感じです。