ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件   作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長

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衝撃の出会い

まずこの過酷な世界を生けぬくために、虚弱でやせ細った体を鍛え直すのが先決だった。映画で見た後半の戦いは、呪文の撃ち合いだけでなく全力疾走や極限状態でのサバイバルが連続する。暗がりの中、狭い床に手をつき、音を立てないよう慎重に腕立て伏せと腹筋を繰り返す。細い腕がプルプルと震え、額から冷や汗が滴り落ちた。基礎体力すらろくにない現実を痛感しながらも、歯を食いしばって回数を重ねる。

 

息を整えた後、薄汚れたノートの切れ端と短い鉛筆を引っ張り出した。記憶が鮮明なうちに、映画の知識を書き出していく。

『賢者の石:みぞの鏡、フラッフィー、悪魔の罠、チェス、クィレル』

『秘密の部屋:バジリスク、日記帳』

『アズカバン:シリウス・ブラック、タイムターナー』

『炎のゴブレット:三大魔法学校対抗試合、墓場での復活』

走り書きした文字を見つめながら、映画の知識の穴をどう埋めるか、そして何よりこれから出会う「味方」をどう守り抜くかを深くシミュレーションした。

 

それから数週間、来る日も来る日も雑用の合間に筋トレを続け、思考を研ぎ澄ませて過ごした。

そして――ついに運命の日は訪れた。

 

怒り狂うバーノン伯父が一家ごと逃げ込んだ嵐の海の上のボロボロの小屋。床に描いた泥のバースデーケーキの蝋燭を吹き消した午前零時、雷鳴とともに小屋の扉が轟音を立てて吹き飛んだ。

 

「おお、ハリー! でっかくなったなぁ! 赤ん坊のとき以来だが、父親のジェームズにそっくりだ……だが目は母親似だな」

 

現れたのは、巨大な体躯に毛むくじゃらの髭を蓄えた半巨人、ルビウス・ハグリッドだった。銃を構えるバーノン伯父をあっさりと無力化し、ダドリーに豚の尻尾を生やしたハグリッドは、少し潰れた手作りのバースデーケーキと、羊皮紙の手紙を差し出してきた。

 

緑色のインクで書かれた、ホグワーツ魔法魔術学校からの入学許可証。

すべてが映画の記憶の通りに進んでいた。

 

――そして数時間後。

ロンドンのパブ『漏れ鍋』の裏庭のレンガをハグリッドのピンクの傘が叩くと、壁が生き物のように蠢いて開き、目の前に魔法の街が広がった。

 

「ようこそ、ハリー。ダイアゴン横丁へ!」

 

石畳の通りには、色鮮やかなローブをまとった魔法使いたちが行き交い、大釜やフクロウ、箒を売る店が所狭しと並んでいる。グリンゴッツ魔法銀行で両親が遺してくれた山のような金貨を手に入れた後、ハグリッドは大きな頭を掻きながら言った。

 

「ハリー、お前の制服を仕立てなきゃならん。『マダム・マルキンの洋装店』で式服を合わせてもらっててくれ。俺はちょっと『漏れ鍋』で喉を潤して……いや、景気づけの一杯を引っ掛けてくるからよ」

 

ハグリッドと別れ、一人で小さな洋装店の扉を押し開けた。チリンと涼やかなドアベルの音が響く。

 

「 ホグワーツの新入生かい? いらっしゃい、ちょうど今、もう一人の採寸をしているところだよ」

 

店の奥、踏み台の上に立っていた人物を見た瞬間、息が止まりそうになった。

 

そこにいたのは、艶やかなプラチナブロンドの長い髪をハーフアップにまとめ、陶器のように白い肌と涼しげなアイスブルーの瞳を持った、息を呑むほど美しい同年代の少女だった。仕立て中の上質な黒いローブを纏い、育ちの良さを滲ませる凛とした立ち姿。だがその瞳には、名門の誇りと、他者を寄せ付けない冷徹なまでの高慢さが宿っていた。

 

 

 

 

 

 

彼女――ドラコニア・マルフォイは、店に入ってきた少年を上から下へと冷ややかな視線で見定めた後、小馬鹿にしたようにふっと口元を歪めた。

 

「 ……あら。あなたもホグワーツ? ずいぶん薄汚れた格好をしているのね。付き添いの大人はどこへ行ったのかしら?」

 

鈴を転がすような美声でありながら、その言葉には鋭い棘が含まれていた。映画の記憶には存在しない、「女の子のマルフォイ」が、傲慢な視線をこちらへと向けている。

 

 

礼儀正しく一礼し、穏やかに微笑む

 

「初めまして。付き添いの人は少し野暮用でね。君も新入生かい?」

 

みすぼらしい身なりからは想像もつかない洗練された一礼と、穏やかな微笑みに、ドラコニア・マルフォイの整った眉がぴくりと動いた。見下して嘲笑うつもりだった相手から予想外に紳士的な態度を返され、少女は毒気を抜かれたようにわずかに目を丸くする。

 

だが、すぐに名門マルフォイ家の令嬢としてのプライドが勝ったのか、顎を少しツンと上に向けて腕を組んだ。

 

「……ええ、そうよ。父上が隣で本を買っていて、母上は通りの先で杖を見てくださっているわ。私はここで制服を合わせているの」

 

マダム・マルキンがこちらの隣の踏み台をポンポンと叩き、促されるままそこへ上がると、銀のメジャーが生き物のように勝手に体を測り始めた。ドラコニアは横目でこちらの粗末なダドリーのお下がりをもう一度眺め、値踏みするように言葉を継ぐ。

 

「 寮はどこを狙っているのかしら? もちろん、私はスリザリンよ。我が家系は全員そうだし、他の寮なんて考えられないわ。……特にハッフルパフなんて、間抜けの集まりでしょう? 私なら退学するわね」

 

映画で聞いたあの生意気な台詞が、美少女の澄んだ声で紡がれる。彼女の冷ややかなアイスブルーの瞳が、こちらの反応を試すようにじっと見つめていた。

 

 

少し困ったように眉尻を下げ、控えめな苦笑いを浮かべてみせた。

 

「実は、魔法界のことは今日初めて知ったばかりなんだ。赤ん坊の頃に両親を亡くしてね……ずっとマグルの親戚の家で育てられたから、寮のこともよく分からなくて。スリザリンってどんなところなんだい? 他の寮についても教えてもらえると助かるよ」

 

同情を誘うでもなく、卑屈になるでもない、率直で知的な問いかけ。ドラコニアは予想外の身の上話に一瞬だけ気圧されたように目を瞬かせたが、自分を頼りにされたことが純粋に誇らしかったのか、たちまち得意げな笑みを浮かべた。プラチナブロンドの髪がさらりと肩から滑り落ちる。

 

「 まあ、マグル育ちだなんて……野蛮な環境で大変だったのね。いいこと? よくお聞きなさい。ホグワーツには四つの寮があるの。我がスリザリンは、最も誇り高く、偉大で野心ある者だけが選ばれる最高の寮よ。グリフィンドールは無鉄砲な命知らずばかりだし、レイブンクローは頭でっかちのガリ勉。そしてハッフルパフは……さっきも言った通り、落ちこぼれの集まりね」

 

滔々と語るその表情には、幼いながらも名家の令嬢としての矜持と、純粋無垢な選民思想が同居していた。一通り説明を終えて満足げに息をついた彼女へ、柔らかい眼差しを向けて言葉を重ねる。

 

「なるほど、すごく分かりやすいよ。親切に教えてくれてありがとう。……そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったね。僕はハリー。君の名前は?」

 

名乗られたドラコニアは、勝ち誇ったような笑みをさらに深め、胸を張って薄い唇を開いた。

 

「フン、礼には及ばないわ。私はマルフォイ。――ドラコニア・マルフォイよ」

 

その名が、鈴の音のように可憐な少女の声で響いた瞬間、胸の奥で激震が走った。

(……ドラコニア・マルフォイ!? 本当に、あのマルフォイなのか……!?)

映画の記憶にある、オールバックの小憎らしい少年ドラコと、目の前に佇む陶器の人形のように美しく尊大な少女の姿が致命的な不協和音を奏でる。原作小説の知識などない映画派の自分にとって、あまりにも想定外すぎる世界の歪みだった。

 

衝撃を必死に押し殺し、穏やかに微笑む

「マルフォイ……綺麗な名前だね。教えてくれてありがとう、ドラコニア」

 

ドラコニアの陶器のように白い頬が、ぽっと淡い桜色に染まった。

名門の誇りを込めて「マルフォイ」と家名を強調したつもりだったのに、目の前の少年から返ってきたのは家柄への畏怖ではなく、名前そのものへの純粋な賛辞と、ごく自然なファーストネーム呼びだったからだ。

 

普段、取り巻きや同格の純血の子供たちから受ける追従や恭順とは、あまりにも毛色が違う。ドラコニアは動揺を隠すように一度視線を泳がせ、慌てて冷徹な仮面を被り直そうと眉をつり上げた。

 

「 ――なっ……! な、馴れ馴れしく下の名前で呼ぶんじゃないわ! まったく、マグル育ちはこれだから礼儀を知らないのよ……ッ!」

 

鋭い言葉とは裏腹に、その声にはわずかな上ずりが混じっていた。ツンとそっぽを向いたドラコニアの耳朶は、プラチナブロンドの髪の隙間から赤く染まっているのが丸見えだった。

 

ちょうどその時、店のガラス扉がカランと音を立てて開き、巨大な影が入り口を塞いだ。両手にアイスクリームを持ったハグリッドが、店の外からこちらを覗き込んでいる。

 

「 ……チッ、下品な大男がお迎えのようね。まあいいわ。汽車の中でまた会うことになるでしょうけれど……そのみすぼらしい格好だけは、ホグワーツに着くまでにどうにかしておくことね」

 

マダム・マルキンにピンを抜かれたドラコニアは、踏み台から優雅に降り立つと、最後にツンと鼻を鳴らして踵を返した。しかし店を出て行くその足取りは、先ほどまでの冷徹な威厳よりも、どこか落ち着かない慌ただしさを帯びていた。

 

 

 

 

 

洋装店の扉を押し開けて外へ出たドラコニアは、夏の眩しい日差しを浴びながら、未だに火照りの引かない自分の頬を手の甲でそっと冷ました。

 

(……なんなのよ、あの子。あんなみすぼらしい格好のくせに、堂々として……気味が悪いほど落ち着いていたわ。それに、初対面で『綺麗』だなんて……ッ)

 

無礼極まりないマグル育ちの愚か者。そう吐き捨てて記憶から消し去ろうとした時、人混みの向こうから見慣れた二つの影が優雅に歩み寄ってきた。

黒いステッキを手にした父ルシウスと、冷ややかな美貌を誇る母ナルシッサだった。

 

「 待たせたね、ドラコニア。必要な教科書はすべて揃えたよ。……おや、顔が少し赤いようだが、気分でも優れないのかい?」

 

「暑さにやられたのかしら。あそこのパーラーで冷たいものでもいただきましょうか」

 

両親の気遣わしげな眼差しを受け、ドラコニアは慌てて背筋を伸ばし、マルフォイ家の跡取り娘としての毅然とした表情を取り繕った。

 

「い、いえ! 何でもありませんわ、お父様、お母様。ただ……店の中で、少し妙な子と居合わせただけです。マグル育ちのようで、魔法界の寮のことすら何も知らないくせに、妙に馴れ馴れしい口をきく男の子でしたわ」

 

呆れたように肩をすくめて見せる娘に、ルシウスは薄い唇の端をわずかに歪め、侮蔑を込めて鼻を鳴らした。

 

「 ふん、下等なマグルかぶれめ。そのような泥水に触れた者など、相手にする価値もない。……名は名乗ったのかい?」

 

「 家名は言いませんでしたわ。ただ、『ハリー』とだけ――」

 

その言葉がドラコの唇から零れ落ちた瞬間、両親の足がピタリと止まった。

ルシウスの灰色の瞳が険しく細まり、ナルシッサが息を呑んでドラコニアの手首をキュッと掴む。二人の張り詰めた空気に、ドラコニアは思わず息を詰まらせた。

 

「ドラコニア……その子の特徴は? 髪の色は? 眼鏡はかけていたかしら?」

 

「 え……? ええ、黒いボサボサの髪で、壊れかけた丸眼鏡を……それに、お迎えに来たのが、あの番人の大男でしたけれど……」

 

「 ダンブルドアの飼い犬のハグリッドか……! 間違いあるまい。今年でちょうど十一歳になるはずだ」

 

ルシウスが低く唸るように呟いた言葉を聞き、ドラコニアの頭の中でバラバラだったピースが一瞬で組み合わさっていく。

黒髪、丸眼鏡、ハグリッドの付き添い、親がおらずマグルに育てられた境遇、そして『ハリー』という名――。

 

「 ま、まさか……あの子が……ハリー・ポッター……!?」

 

あの『生き残った男の子』。闇の帝王を打ち破り、魔法界を救ったとされる伝説の英雄。

ドラコニアのアイスブルーの瞳が見開かれ、衝撃で言葉を失った。あの気品のある微笑み、まったく動じることのなかった緑の瞳、そして自分を真っ直ぐ見つめて「ドラコニア」と呼んだ柔らかな声が、鮮烈な熱を帯びて脳裏に蘇っていた。

 

 

 

 

 

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