ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
本来の予定では20話位で秘密の部屋編に突入予定だったのに
「おや、ポッター! こんな寒い朝早くから温室に来るなんて、本当に熱心ねぇ。休暇中だというのに感心なことだわ」
「おはようございます、スプラウト教授。授業で習った保温性ハーブと鎮静作用のある薬草の相互作用について、少し自主研究を進めたくて……もしよろしければ、剪定で間引いた余分な葉を少し分けていただけないでしょうか」
凍てつくような十二月の朝の空気の中、ガラス張りの温室は土と湿った緑の温かな匂いで満ちていた。ハリーは礼儀正しく頭を下げ、親しみやすい笑顔を浮かべながらスプラウト教授と接した。
「まぁまぁ、なんて素晴らしい向学心なのかしら! ええ、もちろん構わないわよ。第一温室のカモミールとドクニンジンモドキなら、ちょうど手入れをしたばかりだから好きなだけ持っていきなさいな」
「ありがとうございます。それと……もし可能でしたら、第三温室の隅にあるアリホツィの枯れ葉も少しだけいただけますか? 気分の高揚を抑える中和実験の対照群として観察したくて」
勤勉で素直、そして学ぶことに純粋な意欲を示す生徒――その完璧な仮面は、温厚な薬草学の教授の心を瞬く間に掴み、一切の警戒心を抱かせることなく目的の素材へのアクセスを許可させた。
「ふふ、一年生でそこまで掘り下げて考えるなんて、スリザリンにも薬草学の秀才が現れたわね。アリホツィは素手で触ると笑いが止まらなくなるから気をつけるのよ? 竜革の手袋を使って、必要な分だけ摘んでちょうだい」
「ご親切にありがとうございます、教授。教わった手順を厳守して大切に使わせていただきます」
教授が他の鉢植えの手入れに戻った隙に、ハリーは竜革の手袋越しに、極めて正確な分量のアリホツィの葉と、中和用のカモミール、ドクニンジンモドキを手早く採取した。巨人の強靭な代謝系に作用させるための微弱な配分――多すぎればヒステリーや不審な興奮を招き、少なすぎれば誘導の効果が出ない。その絶妙なバランスを指先の感覚で量り取り、あらかじめ用意していた密閉瓶へと収めていく。
温室を後にするハリーのポケットには、ハグリッドの頑強な肉体と精神の隙間を突くための「完璧なピース」が静かに収まっていた。教授の好意というこれ以上なく無垢な裏付けを得た今、このハーブが他者を欺くための罠であると見抜ける者は誰もいない。冷たい冬枯れの庭を歩きながら、ハリーは次なる工程――調合と小屋への訪問の段取りを頭の中で淡々と組み立てていた。
「こんにちは、ハグリッド」
「おおっ、ハリーじゃねえか! こんな雪の積もりそうな日に、わざわざ足を運んでくれたんか?嬉しいぞぉハリー!さあさあ、突っ立ってねえで中に入れ。暖炉の火に当たるといい!」
禁じられた森の縁に佇む粗末な丸太小屋の中は、燃え盛る暖炉の熱気と獣の匂い、そして乾いた薪の爆ぜる音で満ちていた。
「クゥーン、グルル……ワンッ!」
ハリーが小屋の中に入ると中にいたファングが尻尾を振って飛びついて歓迎する。
「こらファング、よせ! 飛びつくな! ハリーの綺麗なローブが泥だらけになっちまうだろ。……悪ぃなハリー、こいつはお前が来てくれて興奮しちまってんだ」
「ハハハ!全然大丈夫だよハグリッド。滅多に会いに来れてないのに、こんなに歓迎してくれて嬉しいくらいさ」
ハグリッドの巨大な身体が狭い部屋を所狭しと動き回り、歓迎の言葉を浴びせるたびに、床板がきしりと軋む。
「ちょうど岩クッキーを焼いたところだったんだが、お前、手になんか持ってるな? 」
ハリーの手にある調合したハーブが入った壺をハグリッドは指差す。
「ああ、これは毎日寒い中で番をしてるハグリッドのために僕が温室で調合したハーブなんだ」
「えっ、俺のために温室のハーブでお茶をブレンドしてきてくれたってのか?」
ハリーの言葉にハグリッドは目を見開く。
ハリーの手から受け取った素焼きの壺を、まるで壊れやすい小鳥でも扱うかのように不器用な大指で撫でながら、大男の髭に覆われた顔は感銘と情愛で崩れきっていた。
「ま、参ったな……ハリー、お前ってやつは……スリザリンの制服を着てても、やっぱりリリーとジェームズの優しい息子だ。森の見回りは骨の髄まで冷えるからなぁ、その気遣いだけで泣けてきちまうぞ」
ハリーが地下の誰もいない自習室で極秘裏に調合したそのブレンドは、外見も香りも、完璧に「薬草学の復習として淹れた素朴な保温茶」の姿をしていた。アリホツィの持つヒステリー誘発作用は、カモミールとドクニンジンモドキの鎮静効果によって極限まで希釈・変調され、ただ飲む者の警戒を解き、感情の振れ幅を「共感」と「思い込み」の方向へほんのわずかに押し広げるだけの、検知不可能な無害な香気を漂わせている。
大男は嬉しそうに銅のやかんを火にかけ、ハリーが持参した茶葉を惜しげもなく投入した。湯気と共にふわりと立ち上ったのは、冬の寒さを忘れさせるような甘く温かい香りだ。相手の懐に飛び込み、無垢な善意の器に注がれた「作為」――それを前にして、純朴な番人は完全にガードを解き、暖炉の前の巨大な肘掛け椅子をハリーに差し出して満面の笑みを浮かべていた。
「 ズズッ……ああぁ、五臓六腑に染み渡るようだ! 身体の芯からカッと温まるぞ、ハリー。薬草学の知恵ってのは大したもんだなぁ」
「寒い中の見回り、本当にご苦労様。ところでハグリッド、大きな獣たちって冬場は気性が荒くなったりしないの?」
「冬場の獣たちかい? そりゃあもう、生き物によっちゃあ大変なもんさ。寒さで気が立つ奴もいれば、逆にじっと丸まって動かねえ奴もいる」
「特にギリシャ原産のあいつら……いや、南の暖かい土地から来たようなでっかい連中は、冷たい風や変な物音に敏感になっちまって、神経が過敏になるんだよ」
湯気の立つ特大のマグカップを両手で包み込みながら、ハグリッドの赤ら顔は心地よい陶酔と自己肯定感で緩みきっていた。
「へえ、音にも敏感になるんだ。温室の植物も急な音や振動に弱かったりするけれど、動物も繊細なんだね。特に大きな犬や獣は、耳がいいから余計に辛いのかな」
「そうなんだよ! ハリー、お前はよく分かってるなぁ! あいつらは図体は山ほどあっても、耳は人間よりずっと良い。高い笛の音なんか聴かせた日にゃ、耳障りで激怒しちまって、暴れ馬どころじゃねえ大暴走を起こすんだ」
微量のアリホツィとドクニンジンモドキの絶妙な相互作用が、大男の頑強な神経の奥深くに静かに沁み渡り、ハリーが投げかける共感と賞賛の言葉を「自身の紛れもない確信」へと変換していく。思考の軌道修正は、彼自身が気づかぬうちに、滑らかに完了しつつあった。
「笛の音で激怒……! それは危ないね。もし間違えて音楽なんて聴かせたら、手がつけられなくなっちゃうんだ。ハグリッドみたいな優秀な番人じゃないと、とても扱えないよ」
「へへっ、まあな! 俺くらい慣れてりゃ手懐けられるが、素人が不用意に音を鳴らしたりしたら一巻の終わりだ。あいつらを宥めるどころか、真っ赤になって飛びかかってきやがる……そう、音楽なんてもってのほかなんだよ!」
ハリーは湯気の向こう側で、慈愛に満ちた少年の眼差しを崩さずにその様子を観察していた。内心では、元営業マンの冷徹なストップウォッチが、相手の警戒心の崩壊と認知の書き換えの進捗を正確に計測している。相手を論破する必要も、無理に記憶を抉る必要もない。ただ「笛の音や音楽=大型犬種を狂暴化させる危険な引き金」という因果関係を、彼自身の得意げな語り口の中で自己構築させればそれで事足りるのだ。
ハグリッドの脳内では今、フラッフィーの生態に関する記憶の棚卸しが無意識に行われ、「音楽を聴かせるとどうなるか」という命題の答えが、確実に【凶暴化・即死の罠】へとすり替わっている。あとは仕上げに、この偽りの知識をさらに強固に固定し、いかなる尋問や酒の席でも口を滑らせる「致命的な偽情報」として完成させるだけだった。
「なるほど……もし外部から悪意を持った侵入者が来ても、音楽で誤魔化そうとしたら自滅するってわけだね」
感心したように頷きながら、さらに話を深掘りして記憶の定着を促す。
「ガハハッ! その通りだ、まったくハリーの言う通りだよ! 悪知恵の働く侵入者ほど、神話や古いおとぎ話を真に受けて『竪琴や笛の音で猛獣を眠らせられる』なんて甘い幻想を抱くもんさ」
暖炉の爆ぜる赤い光を浴びながら、ハグリッドは丸太のような太ももを豪快に叩いて大笑いした。
「だが現実の凶暴な獣はそんな甘かねえ! 美しい旋律を耳にした瞬間、鼓膜を劈く不協和音に狂乱して、演奏者ごと噛み砕いちまうんだからな。いい気になって笛なんか吹いた奴は、まさに自ら墓穴を掘るってわけだ!」
微弱な精神誘導茶によって弛緩した大男の神経網は、ハリーが差し向けた「論理の結び目」を自発的なひらめきとして完全に呑み込み、強固な記憶の楔として定着させていた。これでもう、外部からのいかなる尋問や酒の席での誘導尋問に対しても、ハグリッドは満面の笑みで「音楽を聴かせれば狂暴化して侵入者を噛み殺す」という偽りの攻略法を、確信を持って披露することだろう。
「おっと……いけねえ、ダンブルドア先生から固く口止めされてるってのに、つい調子に乗って喋りすぎちまったな。まあ相手がお前だからいいが、今の話はここだけの秘密にしておいてくれよ?」
クィレルが酒場でどれほど巧妙に立ち回り、どれほど上等な酒を振る舞おうと、彼が手に入れるのは死の罠への直通切符に他ならない。三頭犬の前に立ったクィレル――あるいはその背後に潜むヴォルデモートが、優雅に竪琴を奏でた瞬間に何が起きるか。ハリーはその光景を脳裏に描き、完璧に仕組まれたドミノ倒しの美しさに背筋が粟立つような快感を覚えていた。
「いやぁ、それにしてもお前と話してると胸がスッとするぞ。ホグズミードの『三本の箒』や『ホッグズ・ヘッド』で酔っ払いどもが怪しげな珍獣の自慢話をしてきたら、今度この理屈で鼻を明かしてやるかな!」
自らの中に巣食う冷酷な合理主義と、恩人を平然と欺いて盤上の駒へと仕立て上げたことに対する呵責のなさ。かつて営業の世界で培った話術と、魂の奥底に癒着した闇の断片が共鳴し、罪悪感は冬の朝靄のように跡形もなく蒸発していく。ハリーは手元の空になったカップを見つめながら、聖母のように柔らかな笑みを大男へと返した。
「もちろん、僕たちだけの秘密だよ。ハグリッドの役に立てて本当によかった」
満足げに微笑み、ハグリッドとの秘密の共有を演出しながら茶の後片付けを手伝う
「おう、ハリー! 後片付けまで手伝わせて悪かったな。気をつけて戻るんだぞ。……あんな美味い茶を淹れてもらったのは何年ぶりか分からねえよ」
「お礼なんていいよ。ハグリッドが無事でいてくれるのが一番だからね。また温室で珍しいハーブが手に入ったら、遊びに来るよ」
「ガハハッ、いつでも大歓迎だ! 次に来る時は、もっととびきりの岩クッキーを用意して待ってるからな!」
計画が無事に遂げられたことを内心でほくそ笑みながらも
(……岩クッキーだけは丁重にお断りする口実を考えておかないとな)と考えるハリーだった。
これ普通にアズカバン案件じゃね?って書いてて思いました。