ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
「……やっと見つけたわ、ハリー。休暇中、手紙の一通も寄越さないなんて、随分と冷淡なのね?」
雪解けの気配すら微塵もない一月上旬、ホグワーツ特急の到着とともに、長い静寂に包まれていた城内は一瞬にして何百人もの生徒たちの熱気とざわめきで満たされた。スリザリンの地下談話室の重厚な扉が開き、マフラーに顔を埋めた生徒たちが次々と戻ってくる中、プラチナブロンドの髪を美しく揺らした少女――ドラコニア・マルフォイは、暖炉の前のハリーの姿を捉えるや否や、駆け寄る足を必死に淑女の歩調へと抑え込みながら歩み寄ってきた。
「 べ、別に寂しかったわけじゃないわよ! ただ、あなたがマグル育ちの無知を晒して、留守中に何かやらかしていないか……スリザリンの同級生として、純血の名門たるマルフォイ家として、心配してあげただけよ!」
ドラコニアは表情を赤らめながらも矢継ぎ早にハリーに言葉を投げかける。
「ほら、これ。母上が『ポッター卿に良質な糖分を』って持たせてくれた、ハニーデュークスの特注最高級ファッジよ。……特別に分けてあげるんだから。感謝しなさいよね」
青白い肌を微かに上気させ、リボンで飾られた豪奢な菓子箱をハリーの胸元へ押し付けるその仕草は、どれほど不遜な言葉で取り繕おうとも、年相応の少女らしい純粋な好意に溢れていた。冬の冷気を含んだ彼女のマントからは、マルフォイ家特有の清廉で甘い香油の匂いが漂う。
「それにしても……何かあったの? なんだかあなた、休み前よりも少し雰囲気が変わったというか……その、少し大人びて見えるというか……」
ドラコニアはハリーの端正な顔立ちを盗み見るように視線を泳がせながら、休暇中の鍛錬によってさらに研ぎ澄まされた少年のただならぬ気配を、本能的に察知してわずかに目を瞬かせていた。
「ドラコニアったら、汽車の中でもずっと『ハリーはちゃんとご飯を食べているかしら』ってそればかりだったのよ? 素直じゃないんだから」
「な、何を馬鹿なこと言ってるのよパンジー! 誰がそんなこと言ったのよ! 言っていないでしょう!」
その様子を近くで見ていたパグ犬もといパンジー・パーキンソンがドラコニアを微笑ましげに見ながら声をかける。
以前はスリザリンでありながらグリフィンドールと交流を持ち、さらにドラコニアまでもその交流に巻き込むハリーに対して敵意を向けていた彼女であるが、各授業でのハリーが見せる非凡な優秀さや寮内での勤勉さを見せつけられたことで、その棘はすっかり消え失せていた。
「マルフォイ家の心遣いに深く感謝するよ。君の顔が見られて安心した。それとパーキンソン、ドラコニアをからかうのは程々にしてあげてくれ」
ハリー貰った菓子箱を恭しく受け取り、大人の営業スマイルを浮かべる。
「――なっ……! あ、当たり前じゃないの! マルフォイ家の人間が、同寮の友人に礼節を欠くことなんてあってはならないんだから!」
ドラコニアは銀灰色の瞳をわずかに潤ませ、ハリーの完璧な営業スマイルに射抜かれたように視線を斜め下へと逸らした。
「それに……『顔が見られて安心した』だなんて、そんな……子ども扱いみたいな言い方しないでちょうだい! 私の方が三ヶ月も誕生日が早いんだからね!」
陶器のように白い頬に急速に朱が差し、それを誤魔化すようにプラチナブロンドの長い髪を指先で弄ぶ仕草は、貴族の令嬢としての威厳を繕おうと必死になればなるほど、愛らしい年相応の少女としての無防備さを露わにしていた。ハリーの内心にある「手のかかる妹」という認識を余計に深めさせるほど、その反応はどこまでも純真で微笑ましい。
「まあまあ、ドラコニアったら耳まで真っ赤よ? ハリー、あなた本当に罪深いわね。休暇前よりもずっと紳士らしくなっちゃって、上級生たちもさっきからチラチラ見てるわよ」
「誰が赤くなってるって言うのよ、パーキンソン! ……だいたいハリー、手紙くらい書きなさいって言ったでしょう? フクロウを飛ばすことくらい、あなたほどの優秀な生徒なら造作もないはずよ」
地下談話室の緑がかった柔らかな光の中、周囲の上級生や女子生徒たちも、ハリーの醸し出す落ち着き払った空気に密かに目を奪われていた。過酷な秘密特訓を経て、死線を想定した術式を編み上げた少年の立ち居振る舞いには、十一歳の少年特有の落ち着きのなさが完全に抜け落ちている。洗練された大人の余裕と、卓越した魔法使いの放つかすかな威圧感が、完璧なポーカーフェイスの裏側に美しく調和していた。
「ポッターは休暇中、ほとんど図書館と談話室の隅で本を読んでいたらしいぞ。スネイプ教授が『ポッターの学習意欲"だけは“少し見習え』と嫌味混じりに漏らしていた」
ハリーたちの会話を近くで聞いていたセオドール・ノットがウンザリしたような表情で会話に混ざる。
「スネイプ教授が……? ふん、まあ、スリザリン生として模範的な過ごし方をしたのなら、マルフォイ家としても咎め立てはしないけれど……」
ドラコニアはそっぽを向きながらも、ハリーが丁寧に受け取った菓子箱から手を離した瞬間、ほんの少しだけ寂しそうに指先を縮めた。そして気を取り直したように、ふわりと香油の匂いを漂わせながら、ハリーの隣の豪奢な革張りソファへと当然の権利であるかのように腰を下ろした。
「……次は、ちゃんと私の手紙に返事を書きなさいよね。約束よ?」
朱色に染まった表情でハリーの顔を覗き込みながら呟くのであった。
「休暇中も君が気にかけてくれていたと聞いて、本当に嬉しいよ」
ドラコニアの猫のような仕草に周囲の視線を気に留めず、ハリーは彼女の頭を軽く撫でる。
「 ――っ!? な、ななな……何をするのよ、ハリーっ!」
地下談話室の空気が一瞬にして凍りつき、直後にひそやかなざわめきと熱狂へと反転した。絹糸のように滑らかなドラコニアのプラチナブロンドの髪にハリーの手がそっと触れた瞬間、彼女はまるで電流でも流されたかのようにビクリと肩を跳ね上げ、銀灰色の瞳を限界まで見開いて硬直した。そして次の瞬間には、降り積もったばかりの新雪のような青白い肌が、耳朶の先から首元に至るまで一気に鮮やかな林檎色へと染め上げられていく。
「 わ、私を誰だと思っているの!? 名門マルフォイ家の人間よ! 子ども扱いして頭を撫でるなんて……無礼にもほどがあるわ!」
「まあ……! ドラコニア、顔どころか首筋まで真っ赤じゃないの。羨ましいくらい可愛がられてるわねぇ」
「うるさいわよパンジー! からかわないで! だ、大体ハリー、あなた……周りに人が大勢いるのよ!? スリザリンの生徒がこんな、ふしだらな……っ」
激昂したように声を荒らげ、ハリーの手を払いのけようと両手を宙で泳がせるドラコニアだったが、その仕草には本気で拒絶するような力は微塵も込められていなかった。むしろ、撫でられた頭頂部に残る温もりに名残惜しさを感じているかのように、自らの華奢な指先でそっと撫でられた箇所を押さえ、潤んだ瞳でハリーを睨み上げている。その姿は威厳ある純血の貴族令嬢というよりは、大好きな兄にからかわれて必死に拗ねてみせる幼い少女そのものであった。
「ははっ、ふしだらとは手厳しいな。だがポッター、お前は本当に肝が据わっているよ。マルフォイ家の令嬢を相手に、あんなに自然に頭を撫でられる奴はホグワーツ中を探してもお前くらいだ」
「ザビニまで口を挟まないで頂戴! ……もうっ、ハリーの馬鹿! 少し休みで会わなかったからって、調子に乗るんじゃないわよ……!」
暖炉の火がパチパチと爆ぜる中、周囲の上級生たちも口元に楽しげな笑みを浮かべ、二人のやり取りを面白そうに見守っている。大人の余裕を漂わせたハリーの自然体な振る舞いと、それに翻弄されて真っ赤になるドラコニア。妹を慈しむようなハリーの無自覚な庇護欲は、結果としてスリザリンの誇り高き小鳥の心を、より深く、甘やかに絡め取っていた。
「あらハリー! 無事でよかったわ。クリスマス休暇中、ずっと図書室で調べ物をしていたってロンから手紙で聞いたけれど、ちゃんと睡眠は取っていたの?」
放課後の薄暗い廊下、渡り廊下の冷え切った石壁を背に、ハーマイオニーは分厚い羊皮紙の束を抱えながら早足で歩み寄ってきた。豊かな鳶色の縮れ毛を揺らし、新学期初日の授業を終えたばかりの彼女は、友人たちの健康状態と学習進度を同時に気遣うように、真面目そのものの大きな瞳でハリーを見つめる。
「やあハーマイオニー。休暇は有意義に過ごせたかい? 僕なら心配いらないよ、食事も睡眠も規則正しく取っていたさ。それに、成果もあった」
ハリーは極めて自然で柔らかな営業用の微笑みを浮かべ、疲労など微塵も感じさせない涼やかな声で応じた。その隣では、スリザリンの緑の襟章を誇らしげに輝かせたドラコニアが、グリフィンドールの二人組を見るや否や眉根をきゅっと寄せて腕を組む。
「ちょっとグレンジャー、いきなりハリーに馴れ馴れしいんじゃないの? だいたい、ハリーが体調を崩すほど愚かな自己管理をするわけがないでしょう。失礼よ」
「なんだよマルフォイ、お前までついてきてたのかよ! ハーマイオニーはハリーの体を心配してやっただけだろ! 休暇が明けた途端に小言ばっかり言いやがって!」
ロンが赤毛を逆立てて即座に噛みつき、廊下の寒風を吹き飛ばすような勢いでドラコニアを睨み返した。二人の視線がバチバチと火花を散らす光景は、もはや見慣れた日常の小競り合いであり、周囲の緊張感を適度に解きほぐすスパイスのようでもあった。
「まあまあ、二人ともそこまでにしよう。それよりも――あの三頭の巨大犬が護っていた『何か』と、ハグリッドが口を滑らせた名前についての話だ」
ハリーが静かに、しかし有無を言わせぬ落ち着き払った声で制止を入れると、ドラコニアもロンもピタリと言い争いを止め、息を呑んでハリーの顔を見つめ返した。ハリーは誰にも聞かれないよう周囲の気配を伺う素振りを見せながら、ローブの内ポケットから一枚の厚手のカードを取り出した。
「まさか……ハリー、あの『ニコラス・フラメル』の正体が分かったの!? 私、実家で現代魔法史の本を隅から隅まで探したけれど、どこにも載っていなかったのに!」
「盲点だったよ。僕たちが探すべきだったのは、専門的な歴史書じゃなくて……もっと身近な場所だったんだ。ほら、これを見てごらん」
ハリーが差し出したのは、ホグワーツ特急の車内や談話室で誰もが口にする菓子――蛙チョコレートのおまけについてくる、アルバス・ダンブルドアの魔法使いカードだった。表面の老校長は悪戯っぽくウインクをして枠外へと歩き去り、裏面には細かな金文字がびっしりと並んでいる。
「えっ……蛙チョコのカード!? おいおいハリー、僕そのカードなら何十枚も持ってるぞ! ダンブルドアなんて一番ありふれたやつじゃないか!」
「 騒がしいわよウィーズリー、黙って見なさい! ……裏面の説明文? 『現ホグワーツ校長。特に1945年の闇の魔法使いグリンデルバルドの撃破、ドラゴンの血の十二の利用法の発見、そして……共同研究者たるニコラス・フラメルとの錬金術の功績で知られる』……!?」
ドラコニアはハリーの指先にあるカードを覗き込み、その美しい銀灰色の瞳を大きく見開いた。ハリーと肩が触れ合うほどの至近距離に一瞬赤面しかけたものの、そこに刻まれた名前に気づいた途端、純血の名門貴族としての鋭い知性が彼女の表情を引き締めさせた。
「そう、ここに答えがあったんだ。ニコラス・フラメルはダンブルドア校長の友人であり、偉大な錬金術師だ。そして錬金術において、彼の名を歴史に刻んだ唯一の創造物といえば……」
「 ――『賢者の石』よ! 私、別の本で読んだことがあるわ! どんな金属も純金に変え、永遠の命をもたらす『命の水』を作り出すという、伝説の石……!」
ハーマイオニーが震える声で叫び、慌てて両手で自らの口を塞いだ。石造りの廊下に沈黙が落ち、四人の間に走った戦慄が、冬の冷気よりも冷たく肌を刺した。
「永遠の命……。まさか、あの怪物が守っているのはその石なの? そんなとんでもない代物が、学校の中に隠されているっていうの……!?」
ドラコニアは息を呑み、不安そうにハリーのローブの袖をきゅっと掴んだ。ハリーはその小さな手の震えを意識の片隅で感じながら、すべてを掌の上で転がす冷徹な知性――映画の知識と現実の符合を確かめ、完璧なポーカーフェイスの奥で次の一手を静かに見定めていた。
「僕たちがこれ以上深入りするのは危険すぎる。まずは守護の仕掛けを調べる程度にとどめよう。それに……ダンブルドア校長がいる限り、このホグワーツは世界で最も安全な場所だ。僕たち生徒がしゃしゃり出る必要はないよ」
冷え込み始めた回廊に吹き抜ける風が、石柱に落ちる影をかすかに揺らした。ハリーが落ち着き払った声で場を宥めると、前のめりになっていた三人の熱気は潮が引くように収まり、理性の色を取り戻していく。
「……ええ、ハリーの言う通りね。どんな強大な魔法使いが狙っているにしても、あのダンブルドア校長が直々に防衛網を敷いているのなら、大人の魔法使いに任せるべきだわ。校則を破って危険に飛び込むのは間違っているもの」
「そりゃそうだけどさ……目の前にそんな伝説の宝物があるかもしれないってのに、ただ指をくわえて見てるだけなんて、ちょっと退屈じゃないか?」
「退屈ですって? 相変わらず脳天気の極みね、ウィーズリー。ハリーの言う通りよ。命知らずに首を突っ込んで石に触れようとするなんて、無謀な愚か者のすることだわ。……ふん、あのダンブルドアの絶対的な力とやらを無条件に信じる気にはなれないけれど、ハリーがこれ以上無茶をしないなら、私としても異論はないわ」
「ふん、素直じゃないわねマルフォイ。でも、防衛の仕掛けそのもの――どんな古代魔術や論理パズルが施されているかという学術的な調査なら、図書館の通常の文献でも調べがつきそうだわ。それくらいなら、危険を冒さずに済むわね」
「誰が素直じゃないですって!? ……ま、まあ、ハリーがどうしても知識として知っておきたいと言うなら、我がマルフォイ家の蔵書から有益な防護呪文の資料をいくつか教えてあげなくもないけれど」
「はいはい、また始まったよ……。まあいいや、ハリーが安全第一で行くって言うなら、僕もそれに従うよ。チェスの相手をする時間が増えるなら大歓迎だしな!」
ハーマイオニーは分厚い本を胸に抱き直して知的な好奇心を満たす方向へと意識を切り替え、ロンは肩をすくめて緊張感を解く。そしてドラコニアは、ハリーが危険な行動に出ないと明言したことに内心で安堵の息を漏らしながらも、素直に喜びを表せず、わざとらしくそっぽを向いてプラチナブロンドの髪を払っていた。彼女の耳の先端がわずかに紅潮しているのは寒さのせいばかりではないことを、その場にいる誰もが薄々察しつつ、あえて口には出さなかった。
互いに異なる思惑を抱きながらも、ハリーを中心とした奇妙な四角関係は平穏な均衡を保ち、放課後の黄昏がホグワーツの長い回廊を橙色に染め上げていく。だが、城のどこかに潜む影の存在をハリーだけは決して忘れていなかった。
小説タイトル変更します。3つ考えたのでどれがいいかアンケートに協力お願いします!
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