ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
「シリアスな話はここまでにして、今週末の宿題を片付けないかい?」
「うげっ、宿題……! 頼むよハリー、せっかくの放課後にその悪夢みたいな単語を思い出させないでくれよ! スネイプの野郎、初日から乾燥イラクサの調合手順について羊皮紙丸々一本分なんて無茶苦茶な課題を出しやがって……」
「――ちょっと、ウィーズリー! スネイプ教授に対して『野郎』だなんて、なんて無礼な口の利き方をするの! あの程度の課題、授業をまともに聞いていれば夕食前の三十分で終わる基本中の基本よ。自分の怠惰を棚に上げて恩師を侮辱するなんて、本当に恥を知りなさい!」
「三十分なわけあるかよ! 大体マルフォイ、お前はスネイプのお気に入りだからって威張るなよな!」
ピリピリと張り詰めていた陰謀の気配は、ハリーが投じた何気ない日常の話題によって、あっという間に賑やかな喧嘩腰の団欒へと塗り替えられた。
「ふん、私はマルフォイの意見に珍しく賛成ね。課題は計画的に終わらせるべきよ。イラクサの配合比率だけじゃなくて、変形術のマッチを針に変える復習レポートも出ているでしょう? ハリー、図書館のいつもの席で勉強会をするなら、私も喜んで付き合うわ!」
夕暮れの淡い朱色が回廊の敷石に長く伸びる中、宿題の重圧に頭を抱えるロンと、スネイプへの忠誠心から青筋を立てて言い返すドラコニア、そしてすでに完璧な学習計画を頭の中で組み立てているハーマイオニーの三つ巴の応酬が繰り広げられる。
「な、何よグレンジャー、抜け駆けする気!? ハリーの勉強相手なら、同じスリザリンの私が務めるのが筋でしょう! ……それに、ハリー、次の週末にはグリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチの試合があるじゃない。……もし宿題が早く片付いたら、その……スタンドで一緒に観戦して、相手の戦術を分析してあげてもいいわよ?」
「おいおい、スリザリンの奴がグリフィンドールの試合を観に来るのかよ? 変な呪いでもかけないでくれよな!」
「誰がそんな卑怯な真似をするもんですか! 純血の誇りにかけて正々堂々と叩き潰すのがスリザリンよ! 来年、私がシーカーとしてチームに入ったら、あなたたちグリフィンドールになんて一瞬で勝ってみせるわ!」
ドラコニアはぷりぷりと怒りながらも、ハリーに勉強相手の座をハーマイオニーに取られまいと必死に対抗心を燃やし、さらにはクィディッチ観戦の口実まで持ち出してハリーの顔色を窺っていた。勝ち気な銀灰色の瞳の奥に、「もっと一緒にいたい」という年相応の素直な好意が透けて見えていることに、本人は微塵も気づいていない。
ハリーはそんな少女のあからさまな背伸びと、賑やかすぎる友人たちの掛け合いを穏やかな笑みで見守っていた。闇の魔法使いが潜む冷たい城の片隅にあっても、この子供らしい温もりと平穏だけは、己の知識と立ち回りで絶対に守り抜かねばならないと理性を静かに研ぎ澄ませながら。
二月に入り、城を覆う雪が凍てつくような冷気を放つ中、ハリーは「必要の部屋」で極秘の特訓を重ねていた。呼び出した頑強な石壁を標的に、漆黒の極小針を音もなく放つ『ニードル・エクリプス』の射出精度を磨き上げ、発動時間をコンマ数秒単位で削ぎ落とす。日々の反復訓練によって、体内を巡る魔力とヴォルデモートの魂の残滓がもたらす闇の親和性は、着実に彼の血肉へと馴染みつつあった。
「ハリー! 探したぞ、どこに行ってたんだよ!? とんでもないことになった……スネイプの奴、やっぱり完全にクロだ!」
「しっ、声が大きいわロン! ……ハリー、落ち着いて聞いて。今日のグリフィンドールのクィディッチの試合、スネイプ先生も見に来てたの。でも試合が終わった直後、彼が怪しげに禁じられた森へ歩いていくのを見かけて……後を追ったの」
鍛錬を終えて人気のない七階の廊下を出てスリザリンの談話室に戻ろうとした矢先、待ち構えていたかのように駆け寄ってきたロンとハーマイオニーに空き教室へと引っ張り込まれた。
「そこでクィレル先生を木陰に追い詰めて脅してたんだ! 『お前の忠誠はどこにある』とか『あの石を守る仕掛けをどう突破するか、もう調べがついたんだろうな』って、あのネチネチした声でな!」
二人が興奮冷めやらぬ様子で畳み掛けてきたのは、まさに映画通りの「決定的な誤解」であった。青ざめた顔で正義感を滾らせるハーマイオニーと、鼻息を荒くしてスネイプの犯行を確信するロン。二人の目には、可哀想な被害者クィレルと、邪悪な脅迫者スネイプという構図が完全に出来上がってしまっている。
「クィレル先生は泣きそうな声で震えていて……スネイプは『私の敵になりたいわけではあるまい』って言い捨てて去っていったわ。間違いなく、スネイプ先生はクィレル先生から守護の秘密を聞き出して、賢者の石を奪うつもりよ!」
「なあハリー、このままじゃ本当に石が盗まれちまう……僕たちで何か手を打たないと!」
映画の記憶を持つハリーにとっては、スネイプがクィレルの裏切りを警戒し、石の防衛のために詰問していたに過ぎないことは明白だった。だが、そんなことを知るはずのない暴走しかけている二人をどう制御するか――内心の冷徹な営業マンとしてのリスク計算が、目まぐるしく回転を始めていた。
「二人とも、落ち着いて。……まず、この話は僕たちだけの秘密にして、慎重に様子を見よう。ドラコニアに知られたら大変な騒ぎになる。彼女、スネイプ教授を誰よりも慕っているし、誇りも高いから、頭ごなしに否定して大喧嘩になるのは目に見えているよ」
「そ、それは確かにそうだ……! あいつに言ったら『我が寮監を愚弄する気!?』って叫んで杖を抜いてくるに決まってる。下手をすりゃスネイプ本人に密告されて、僕たち全員退学に追い込まれるかもしれないぞ」
「……ええ、ハリーの冷静な判断が正しいわ。感情的になってマルフォイと衝突するのは得策じゃない。それに、もしスネイプ先生が本当に裏で動いているのだとしたら、証拠もないまま騒ぎ立てても大人は信じてくれないでしょうしね」
「じゃあ、どうするんだよ? スネイプがクィレル先生から残りの仕掛けの突破法を聞き出しちまったら、石が盗まれるのは時間の問題だろ?」
埃っぽい空き教室の隅で、ハリーは困惑と気遣いを絶妙にブレンドした苦笑いを浮かべ、二人の焦燥感を巧みに手懐けてみせた。ドラコニアの直情的な性格を盾にすることで、情報を自分の一存でコントロールする口実を作り上げ、同時にロンたちの短絡的な暴発を完璧に食い止める。元エリート営業マンとしての交渉術は、十一歳の子供たちを相手にするにはあまりにも洗練されすぎていた。
「焦る必要はないよ。ダンブルドア校長がいる限り、彼も強硬な手段には出られないはずだ。それに、クィレル先生がどこまで耐えられるかも観察する必要がある。僕がスリザリンの談話室でスネイプ教授の動向をそれとなく探るから、二人は普段通りに振る舞ってほしい」
内心では、クィレルがスネイプの追及に怯えつつも、着実に石の奪取へ向けた計画を進めているであろう現実を冷徹に再計算していた。映画の記憶において、スネイプの威嚇はクィレルへの牽制であり、彼が犯人ではないことは自明だ。だが、今のハリーにはスネイプの不器用すぎる正義を擁護する義理もなければ、ロンたちの誤解を解いてクィレルに余計な警戒を抱かせる理由もない。
「分かったわ。ハリーが内側から探ってくれるなら一番確実ね。……でも、くれぐれも無茶はしないで。スネイプは鋭いから、怪しまれたら危険よ」
「ああ、頼んだぞハリー。お前がスリザリンにいてくれて、こういう時ばかりは本当に助かるぜ……!」
二人が納得して教室を後にすると、ハリーはスリザリンの緑のネクタイを整え、薄暗い地下の談話室へと足を向けた。
空き教室で二人と別れた後、ハリーは少し思案する。原作通りとはいえ、子供たちの思い込みと正義感の暴走は、一歩間違えれば取り返しのつかない致命的なトラブルを引き起こす。何より恐ろしいのは、映画の知識だけでは予測できない「クィレルが既に鏡の存在を把握している」という不気味なズレだ。原作のタイムラインを鵜呑みにして悠長に構えていれば、ある日突然、最悪の形でゲームオーバーを迎えかねないという焦燥が、冷徹なポーカーフェイスの裏側で渦巻いていた。
状況を正確に把握すべく、ハリーは地下牢の薄暗い回廊へと足を運んだ。湿り気を帯びた石壁に松明の揺れる火が映り、ホルマリン漬けの不気味な標本が並ぶ棚の隙間から、スネイプの執務室の重厚なオーク材の扉が見えてくる。扉はわずかに開いており、執務室の奥からは、今しがた激しい衝突があったことを物語るような、ピリピリとした魔力の残滓と苛立ちの混ざった冷気が漏れ出ていた。
「 ……誰だ。そこでコソコソと鼠のように嗅ぎ回っているのは」
「申し訳ありません、スネイプ教授。ポッターです。少し教授にご相談が」
気配を殺して接近を試みたハリーだったが、扉の隙間から黒いマントを翻して現れたスネイプの漆黒の瞳が、獲物を狙う鷹のように寸分の狂いもなく彼を射抜いた。
「ポッターか。我が寮の優等生が、夕食前のこの時間に何の用だ。まさか、談話室への道順を忘れたわけではあるまい」
その青白い顔には、森でクィレルを締め上げた直後の余波か、いつも以上に険悪で神経質な影が落ちている。だが、ジェームズに似たハリーの顔を見据えながらも、同じスリザリンでドラコニアと親しく、普段から非の打ちどころがない礼儀正しさを見せるハリーに対しては、理不尽に怒鳴り散らすことだけは辛うじて踏みとどまっているようだった。
「言っておくが、今の私は極めて機嫌が悪い。くだらない質問で私の時間を浪費するつもりなら、減点を覚悟することだ」
「はい、実は少々耳に入ったのですが……最近のクィレル教授の怯えようは、少し尋常ではないように見受けられます。何か学内で不穏なことでも起きているのでしょうか」
ハリーは営業用の上品で無垢な微笑みを張り付け、あくまで熱心な優等生の仮面を崩さずに地下牢の執務室の机へと歩み寄った。
「……ほう。クィレルが、だと?」
スネイプは羽ペンを走らせる手を止め、黒い瞳の奥に冷徹な光を宿してハリーの顔をじっと見据えた。
「はい。先ほど廊下で見かけた際も酷く取り乱していらしたので、我が寮の監督生や先生にご相談すべきかと思いまして」
内心の計算をひた隠しにし、困惑した生徒らしい自然な身振りで小首をかしげてみせる。
「あの男が怯えているなど、天気が崩れるのと同じくらい日常茶飯事だろう。ニンニクの臭気で己の脳を腐らせた臆病者が、影に怯えて震えていたところで何の不思議もない」
鼻先で冷ややかに笑い飛ばすスネイプの言葉には、同僚に対するあからさまな侮蔑と、それ以上に深い警戒の色が濃密に滲んでいた。
「そうでしたか。僕の取り越し苦労なら良いのですが、何か大きなトラブルの前触れではないかと気になりまして」
元営業マンの研ぎ澄まされた直感で相手の間合いを測りながら、ハリーはさらに一歩、探りを入れるように言葉を紡ぐ。
「それとも何かね、ポッター。貴様は我が寮の優等生という立場に飽き足らず、哀れな防衛術の教授を庇護する慈善家にでも転身するつもりか?」
皮肉を吐きながらスネイプがゆっくりと立ち上がると、黒いローブが巨大な蝙蝠の翼のように広がり、ハリーの頭上へと濃い影を落とした。
「滅相もありません。僕はただ、スリザリンの生徒として不測の事態に備えたいだけです」
穏やかなトーンを保ったまま視線を合わせると、スネイプの瞳が鋭利な刃物のように細められた。
「――目を逸らすな。貴様が何を嗅ぎ回り、その頭の片隅で何を企んでいるのか……私に知れんとでも思っているのか?」
氷柱のように冷たい開心術の探り針がハリーの脳髄を直接貫かんと迫るが、ハリーの複雑怪奇な精神の防壁がそれを滑らかに受け流し、ただ「純粋に教師を気遣う礼儀正しい一年生」の表層意識だけを完璧に浮かび上がらせた。
「企みなど何もありません、教授。僕が望むのは、平穏に学業を修めることだけですから」
背筋を伝う冷汗をミリ単位の乱れもないポーカーフェイスで覆い隠し、ハリーは静かに頭を下げて見せる。
「忠告しておく。ホグワーツの廊下には、十一歳の小僧が首を突っ込むべきではない暗がりがいくらでもある。特に……己の分を弁えぬ真似をすれば、いずれ取り返しのつかん痛手を見るぞ」
スネイプの声音からは怒声が消え、底冷えのするような、しかしどこか生徒を無用な破滅から遠ざけようとする不器用な威圧感が漂っていた。
「肝に銘じておきます。先生のお手を煩わせるような真似はいたしません」
漆黒のローブを翻し、スネイプは冷淡に扉を半ば閉ざすようにしてハリーに背を向けた。これ以上の追及は危険だが、少なくともスネイプがクィレルに強い圧力をかけ続けており、まだ防衛網の決壊には至っていないことだけは確認できた。
「……くそ、忌々しい小僧めが」
重厚なオーク材の扉が重い音を立てて閉ざされた執務室の中で、セブルス・スネイプは乱暴にローブの裾を払い、薬品の瓶が青白く光る薬品棚の前へと歩み寄った。吐き捨てた言葉の鋭さとは裏腹に、その黒く濁った瞳の奥には、拭い去れない冷たい困惑と警戒の色が濃く渦巻いている。
「父親に瓜二つのその顔で、リリーの瞳をして……あんな風に完璧な礼儀正しさを見せつけられるなど、反吐が出る」
彼を苛立たせているのは、憎きジェームズの面影を持つ少年が生意気な態度を取ったからではない。その真逆――傷のつけようがないほど完璧な礼儀と恭順を前にして、己の最も得意とする術が何の手応えもなく空振りに終わったという、得体の知れない違和感だった。
「……あの精神の壁は何だ。十一歳の子供が、無意識にせよ私の開心術をあそこまで滑らかに弾き返すなど、あり得ん、思考の断片すら掠め取れん。罪悪感も、子供特有の恐怖も、嘘をつく動揺すら何一つ浮かび上がってこない……まるで、水底の泥を覗き込んでいるかのような気味の悪さだ」
開心術の針を向けた瞬間、スネイプが感じ取ったのは、子供特有の未熟な精神防壁などではなかった。それはまるで、何重にも磨き上げられた分厚い氷の鏡面のように滑らかで、どれほど深く視線を突き刺そうとも、表層に張り付けられた「従順な生徒」の仮面しか見せまいとする、奇怪なまでの完全性だった。恐怖や嘘を隠そうとする焦燥すら漏れ出さないその無機質な防御は、百戦錬磨の死喰い人や老獪な魔法省の役人すら思わせるほどに洗練されており、十一歳の新入生が持っていていい代物では断じてない。
「あの傲慢なジェームズ・ポッターの息子にしては、あまりにも整いすぎている。感情を殺し、相手の出方を冷徹に測るあの立ち振る舞い……一体どこで身につけたというのだ」
(あのドラコニアが懐くのも無理はない。マルフォイ家の娘を懐柔し、教師陣の受けも良く、それでいて胸の内には底知れぬ深淵を抱えている……)
スネイプは眉間に深い皺を刻み、机の上の羊皮紙に目を落とした。森で追い詰めたクィレルの異様な怯えようと、その背後で蠢く影の気配。そして、まるでそのすべてをどこかで俯瞰しているかのように影から現れたハリー・ポッター。守らねばならぬリリーの遺児が、己の理解の及ばぬ別の何者かへと変貌しつつあるのではないかという薄ら寒い疑念が、地下牢の冷気とともにスネイプの背筋を這い上がっていた。
新しいタイトルのアンケートが既に想像以上に票数集めてることから、今日の23時頃で締め切ろうかなと思います。
アンケートにご協力してくださった方々ありがとうございます。
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