ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
埃っぽい古書の匂いが漂う図書室の片隅で、幾重にも積み上げられた分厚い羊皮紙と魔道書の山を盾に、ハリーの手元から滑り出た小さなメモが密やかに二人の元へと渡った。『スネイプの動きに直接の怪しさはない。警戒は継続する。ドラコニアには彼への疑念は伏せておくように』――簡潔かつ無駄のない筆跡を一瞥したロンとハーマイオニーは、すぐ隣で分厚い呪文学の教科書に顔を寄せるドラコニアを盗み見ながら、誰にも悟られぬようわずかに視線を交わし、ハリーへと小さく頷いて見せた。ドラコニアを傷つけず、かつスネイプへの監視体制を敷くというハリーの綱渡りの手腕に、二人は疑うことなく全幅の信頼を置いている、
「二人とも、例の箇所は理解できたかい? それと……みんな、学期末試験の準備は順調に進んでいる?」
「順調なわけないだろ! まだ何ヶ月も先なのに、ハーマイオニーの奴、勉強のスケジュール表なんて作って僕に押し付けてくるんだぜ。頭がパンクしそうだよ」
「何ヶ月も先じゃないわ、ロン! たったの数百時間しかないのよ。今から基礎を完璧にしておかないと、変身術の実技なんて絶対に間に合わないわ。……ハリー、さっきの質問の答え、とても参考になったわ。ありがとう」
一触即発の秘密を机の下に滑り込ませた直後、ハリーが何気なく投げかけた試験の話題は、見事に少年少女たちの関心を日常の焦燥へと引き戻した。
「ふん、くだらないことで騒ぐのは三流の証拠よ、ウィーズリー。スリザリンの生徒なら、試験直前に慌てるような見苦しい真似はしないわ。私とハリーが学年上位を独占するに決まっているもの」
「なんだと! マルフォイ、お前さっきから難しい顔して同じページを睨んでるだけじゃないか!」
「 ――な、なんですって! これは呪文学の応用理論を深く思索していたのよ! あなたのような無神経な赤毛には理解できない高尚な領域なの!」
「静かにして、二人とも! マダム・ピンスに睨まれているわ。追い出されたらどうするのよ!」
ドラコニアは肘をつき、誇らしげに顎を上げながらも、ハリーの横顔を意識してどこか背筋を伸ばしている。虚勢を張るドラコニアと、それに噛みつくロン、そして律儀に自作のタイムテーブルを広げるハーマイオニー。
グリフィンドールとスリザリンの境界線を奇妙に融解させたこの奇妙な均衡は、ハリーが張り巡らせた計算と社交性の賜物であり、同時に彼が守るべき日常の縮図でもあった。
書架の隙間から司書のマダム・ピンスが羽根叩きを握りしめて鋭い眼光を向けてくる中、机の上にはインクの乾く匂いと、子供たちらしい他愛のない緊張感が静かに満ちていた。
「――というわけで、私は明日からマルフォイ邸へ戻るわ。父上も母上も私の帰りを心待ちにしていらっしゃるし、純血の格式あるイースターを過ごす義務があるもの」
暖炉の爆ぜる音が響く図書室の片隅で、ドラコニアは誇らしげに細い顎をしゃくってみせた。机の上に雪崩のように積み上がった膨大な宿題の山を前にしても、彼女のプラチナブロンドの髪は乱れ一つなく整えられている。二週間のイースター休暇を控え、純血の名門としての矜持を漂わせるその姿に、ハリーは穏やかな笑みを返した。
「家族とゆっくり過ごせるのは素晴らしいことだよ。ドラコニアがいなくなると、少し寂しくなるね」
「な、なによ急に……! べ、別に二週間なんてあっという間よ! あなたが変な虫――いえ、そこのウィーズリーのような馬鹿とばかりつるんで、スリザリンの品格を落としたりしないか心配なだけなんだから!」
不意を突かれたドラコニアは陶器のような白い頬を林檎色に染め上げ、ツンと顔を背けた。手のかかる妹が初めての長い外泊を前にして虚勢を張っているようなその愛らしい仕草に、ハリーは内心で小さく肩をすくめる。その隣では、赤毛の少年が心底不満そうに羽ペンを放り出していた。
「変な虫とはなんだよ、失礼な。あと馬鹿も余計だ!こっちは大量の宿題のせいで休暇中も城に缶詰なんだぞ。家に帰れないだけでもうんざりなのに!」
「文句を言っている暇があったら羊皮紙を一枚でも埋めなさい、ロン。私は試験対策に専念するために残るのよ。ハリー、休暇中も図書室で一緒に勉強を進めましょうね」
ロンのぼやきを容赦なく一刀両断しながら、ハーマイオニーは分厚い自作のスケジュール帳を机に広げ、茶色い瞳をきらめかせた。ドラコニアが留守にするこの二週間は、彼女の目を気にすることなく闇の魔術の自己鍛錬を行う絶好の好機でもあった。その計算を胸の奥に隠し、ハリーは二人の優等生を立てるように頷いてみせる。
「もちろん、喜んで。ドラコニアが戻ってくる頃までに、僕たちも試験範囲の予習をひと通り終わらせておかないと、君に笑われてしまうからね」
「ふん、当然よ。私が戻った時、あなたたちの出来の悪さに呆れさせないでちょうだい」
冷たい言葉で取り繕いながらも、ドラコニアの銀色の瞳には、ハリーと離れることへの隠しきれない未練が上目遣いに揺れていた。
「心配いらないよ、君に失望されないよう努めるつもりだからね」
窓の外では、春の訪れを告げる冷たい雨がスコットランドの高山地帯を濡らしていた。ドラコニアの出発を明日に控え、嵐の前の静けさのような緩やかな時間が、インクと古書の匂いとともに図書室を満たしていた。
イースター休暇の初日、去りゆくドラコニアの華奢な手をそっと取り、ハリーは紳士的に微笑みかけた。
「良い休暇を、ドラコニア。君からのお土産話を楽しみにしているよ」
「――っ! な、なによ急に……人前で気安く触らないでちょうだい! ……で、でも、まあ……あなたへのお土産くらいは、考えてあげなくもないけれど!」
陶器のような白い頬を林檎色に染め上げたドラコニアは、驚きに目を見開いた後、慌てて手を引っ込めて視線を彷徨わせた。
「ありがとう。道中気をつけてね。君がいない間、談話室が少し寂しくなるよ」
「ふん、当然でしょ。せいぜい私のありがたみを噛み締めることね! ……じゃあ、行ってくるわ」
手のかかる妹のように不器用な態度を崩さぬまま、ドラコニアはこれ見よがしに豪奢なマントを翻し、エントランスに待機する馬車へと早足で去っていった。その華奢な背中が見えなくなると、隣で息を潜めていた赤毛の少年が肩の力を抜き、盛大なため息を吐き出す。
「ふう……やっと嵐が去ったな。マルフォイの奴、最後までツンツンしてて息が詰まりそうだったよ」
「彼女なりに不器用なだけさ。それより二人とも、ドラコニアが留守のこの二週間が勝負だ。クィレル先生の動向を注視しよう。彼がスネイプ先生の脅迫に屈していないか、見守る必要がある」
「ええ、賛成よ。クィレル先生、最近ますます顔色が悪くて怯えているもの。私たちが目を光らせておけば、万が一スネイプ教授が強硬手段に出たとしても、異変にすぐ気づけるはずだわ」
ハーマイオニーが腕を組み、真剣な面持ちで監視の必要性を肯定する。
「了解だ、ハリー。僕たちで交代で見張ろう。でも、息抜きにチェスくらいは付き合ってくれよな?」
ロンが苦笑しながら軽くハリーの肩を小突き、三人の間で密やかな協力関係が再確認された。
ドラコニアが去り、静まり返った城内で三人は膨大なイースターの課題の合間を縫って、ターバンを巻いた挙動不審な教授の周辺を警戒する体制を整えた。ロンの軽口を受け流し、ハーマイオニーの几帳面な監視スケジュールに頷きながら、ハリーはスリザリン生としての自習時間、そして誰の目も届かない「必要の部屋」での鍛錬へと意識を切り替えていく。
七階のタペストリーの向かい、堅く閉ざされた壁の前を三度往復して現れる隠し部屋の静寂の中で、ハリーは柊の杖を構えて息を整えた。展開された自動反応装甲『オプスキュロ・テラ』しかし、防壁を張った瞬間、体内の魔力循環はガチガチに凝固し、並行して別の呪文を紡ごうとすれば激しい魔力摩擦が神経を灼いた。
(……やはりダメだ。死の呪文対策であるこの防御魔法は現状他の魔法との並行発動が不可能に近い)
要因は死の呪文の詳細なデータ不足にある。死の呪文を検知して自動で物質の召喚と変形を行うこの魔法はあらかじめ検知させる魔法のデータの入力が不可欠である。だがハリーは現状死の呪文の詳細なデータを持ち合わせていない。映画での知識や魔法界に来てから調べた情報だけではオプスキュロ・テラは正確に作動せず、また漠然としたデータゆえに魔法そのものの容量が増大化し他魔法を並行使用するための容量、つまりメモリが不足する状態に陥っていた。
(図書室の禁書区域に忍びこんでも死の呪文に関する詳細な魔術式などはなかった。"俺”の闇の魔術の適性を持ってしても、やはり現状どうすることもできない)
ハリーは内心で舌打ちを漏らす。
魔術式の入手、魔力消費の効率化、力場を維持するための意志の固定化――やるべき課題は山積みだった。
「確か禁書区域の中で、見つけた死の呪文に関して書かれていた本には、死の呪文は同じく死の呪文でのみ相殺できると書いてあったな」
内心の苛立ちを鎮めながら、ハリーはこの休暇中に一人禁書区域に忍び込み閲覧した本の一文を思い出す。
それは死の呪文に対する最も有効な対処法として、こちら側も死の呪文を用いると言うものだった。
「馬鹿馬鹿しい、同じ呪文をぶつけたなら、それはより洗練された技量の持ち主が勝つだけだ。それでは完全な対応策などになり得ない」
ドラコニアが留守にする静かな二週間、ハリーは冷徹なリアリストの瞳で、自らの生存確率をわずかでも引き上げるための地道な研鑽を重ねていった。
「ハリー、戻ったのね! ちょうどロンと、クィレル先生の午後の足取りについて照合していたところよ」
必要の部屋の静寂の中で、ハリーが羊皮紙のノートに緻密な術式構造と魔力循環の改善案を書き殴り終えた頃、図書室の片隅では張り詰めた空気の中で情報共有が行われていた。
「もうくたくただよ。あの先生、三階の立ち入り禁止の廊下の近くをうろついては、誰かに怯えるみたいにキョロキョロ見回してさ。まるでスネイプの影に怯えるネズミそのものだったぜ」
「それだけじゃないわ。大広間からの帰り道、先生がターバンを押さえながら何か小声で言い争うような独り言を呟いているのを聞いたの。『もう嫌だ……これ以上は……』って、泣きそうな声で」
散らばる分厚い参考書をカムフラージュに、身を寄せ合うロンとハーマイオニーの表情には、一歩ずつ禁忌の核心へ近づいていることへの少年の興奮と、優等生ゆえの恐怖が克明に刻まれている。
「スネイプに相当脅されてるんだよ。石を守る仕掛けの解除方法を吐け、ってさ。いつクィレル先生が白旗をあげてもおかしくないぞ」
「ええ、試験勉強どころじゃない緊迫感よ。でも、ハリーの言う通り、私たちが騒ぎ立てても証拠がないし、ダンブルドア校長が城にいる間は大丈夫だと信じたいけれど……」
ドラコニアがマルフォイ邸で優雅な休暇を過ごしている間、城内の影は確実に濃さを増していた。ロンの報告するクィレルの怯え、ハーマイオニーが聞き留めた異様な呟き――映画の記憶を持つハリーにとって、それらはスネイプの脅迫ではなく、ターバンの裏に寄生する「あの男」との主従の葛藤であることは明白だった。
「不安なのは分かるけれど、僕たちがパニックになって試験を落としたら本末転倒だ。まずは目の前の課題を片付けよう」
「うぐっ……正論すぎて何も言い返せないよ。でもさ、ハリー、よくそんなに落ち着いていられるな。あの三階の怪物犬の真下に、とんでもないお宝が眠ってるっていうのにさ!」
「そ、そうよね!確かに、ハリーの言う通りよ! 仮に誰かが石を狙っていたとしても、あの三頭犬を突破する方法は私たち以外ダンブルドア校長とハグリッドしか知らないはずだわ。素人の私たちが騒いだところで退学になるのがオチよ」
夕暮れの図書室に差し込む琥珀色の斜光が、開かれた羊皮紙の余白を穏やかに染め上げていく。
ハリーが巧みに話題を試験勉強へと引き戻したことで、張り詰めていた二人の肩の力はふっと抜け、机の上には再びカリカリと羽根ペンを走らせる規則正しい摩擦音が戻ってきた。焦燥に駆られるハーマイオニーの知性と、目の前の食事に意識を切り替えるロンの単純さは、ハリーが場をコントロールする上であまりにも扱いやすい手札だった。
「 へいへい、分かりましたよ。……っと、このゴブリンの反乱の年号、千六百何年だっけ? ハリー、羊皮紙見せてくれよ」
「自分で教科書を引きなさい、ロン! 千六百十二年よ。ホグズミードの宿屋が司令部になった事件でしょ。……ハリー、あなたが冷静でいてくれて助かるわ。私、少し焦りすぎていたみたい」
「ほら見ろ、結局教えてくれるんじゃないか。さあ、宿題を片付けて夕食に行こうぜ。今日のメインはローストビーフらしいからな!」
表面上は優等生の仮面を保ちつつ、ハリーの胸中には冷徹な計算と静かな余裕が横たわっていた。原作や映画の知識に照らせば、クィレルが決定的な暴挙に出るのは学年末の試験最終日、ダンブルドアが不在となるあの夜に違いない。それまでにこちらが打てる手番は限られているが、何より最大の防壁はすでに確保してある。事前にハグリッドへ偽の記憶を植え付け、三頭犬フラッフィーのなだめ方――あの『音楽で眠る』という致命的な弱点を完全に秘匿・改変させた細工は完璧だ。どれほどクィレルが酒場でハグリッドに酒を奢ろうとも、正しい攻略法が漏洩する筋道はすでに断たれている。
(焦る必要はどこにもない。盤上の主導権はこちらが握っているんだからな)
手元の魔法史のノートに滑らかな筆致で要点をまとめながら、ハリーはポーカーフェイスの裏側で薄く笑みを深めた。
盤外から訪れるはずの破滅の足音は、まだこの静謐な城の回廊には届いていない。
多くの人に分かるであろう別作品の要素を2つほど入れてみました笑
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