偽りの救世主と銀髪の蛇姫 (旧:ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件) 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
禁じられた森?ユニコーン?ケンタウロス?知らない子たちですね。
「夕食の前に、少しハグリッドの小屋へ寄って顔を出してみないかい?」
窓の外の薄暗い中庭へ視線を向けながら、ハリーが何気ない調子で提案を持ちかけると、隣で丸めかけの羊皮紙を放り出した赤毛の少年がぱっと顔を明るくした。
「お、いいね! ハグリッドのところなら、気晴らしにうってつけだ。あのでっかいロックケーキは歯が折れそうになるから勘弁だけどさ」
「もうすぐ日没だし、夕食の時間まであまり余裕はないわよ?」
そう言って眉をひそめたハーマイオニーだったが、几帳面にインク壺の蓋を閉めながら、すぐに探究心を覗かせるように声を潜めた。
「……でも、最近ハグリッドが何か落ち着かない様子だったのも気になるわね。少しだけなら付き合うわ」
三人が斜陽に照らされた湿った傾斜を下り、禁じられた森の縁に佇む粗末な木造小屋へ辿り着いた時、漂ってきたのは尋常ではない熱気と薪の爆ぜる強烈な匂いだった。分厚いカーテンで頑なに閉ざされた窓の隙間からは、春の夕暮れには不釣り合いな赤々とした火の粉の光が漏れ出している。木製の頑丈な扉をノックすると、隙間から恐る恐る顔を覗かせた大男の額には大粒の汗がびっしりと滲んでいた。
「おお、お前たちか! ……いや、すまねぇが、今はちょっと手が離せねぇんだ。客をもてなす準備ができてねぇというか、その……!」
巨大な手で必死に扉の隙間を狭めようとするハグリッドの不審な挙動に、ロンが怪訝そうに煙突を見上げる。
「なんだよハグリッド、煙突からやけに煙が出てるぜ? こんな暖かい春の夕暮れに、暖炉をガンガン燃やしてるのかい?」
「待って……ハグリッド、カーテンを全部締め切っているの? 部屋の中がまるでサウナみたいに熱いわ。一体何を隠しているの?」
ハーマイオニーがすかさず詰め寄ると、森の番人は髭に覆われた顔を真っ赤にして視線を泳がせ、助けを求めるようにハリーへと巨体を擦り寄せた。
「な、なんでもねぇ! ただの……寒がりなだけだ! ほら、ハリー、お前もそう思うだろ? なぁ?」
映画の記憶を辿るまでもなく、この異様な光景の正体はハリーの脳裏に瞬時に結びついた。暖炉の中央、煮えたぎる大鍋の直下に鎮座しているであろう、黒く巨大なドラゴンの卵――ノーバートの存在だ。酒場で怪しげな旅人から仕入れた違法な代物を前に、大男は絵に描いたような動揺を露わにし、子どものような嘘で必死に取り繕っている。
冷え込む夕暮れの風が森の梢を揺らす中、半開きの扉の奥からは、パチパチと薪がはぜる音に混じって、硬い殻が微かに揺れるような重苦しい音が響いていた。三頭犬の秘密を封じ込めたハリーの計算の隙間を縫うように、ドラゴンの孵化という次なるトラブルの火種が、静かにその熱を放ち始めている。
「ハグリッド、いくら寒がりでもその火加減は異常だよ。何か大切なものを温めているのかい?」
ハリーがわざとらしく首を傾げ、半開きの扉越しに赤々と燃え盛る暖炉の奥を鋭く見つめると、巨躯の森番はぎくりと肩を跳ね上がらせた。
「うっ……そ、それはだな……! 頼むから、そんなでけぇ声で詮索しねぇでくれ、ハリー……!」
脂汗を流しながら周囲を気にするハグリッドの不審な態度に、腕を組んだハーマイオニーがすかさず厳しい視線を投げかける。
「やっぱり何か隠しているのね! ハグリッド、煙が外に漏れ出しているわ。誰かに見つかったらどうするの?」
「わ、分かった、分かったから! 中に入ってくれ。だが、絶対に誰にも言うんじゃねぇぞ……!」
観念した大男が三人をもぎ取るように小屋の奥へ招き入れ、重い木戸を閉ざした瞬間、咽せ返るような濃密な熱気が全員の肌を焼いた。犬小屋ほどもある暖炉の深部を覗き込んだロンが、驚愕のあまり目を丸くして叫ぶ。
「うわっ、暑い! 息が詰まりそうだ……って、おい! 暖炉のやかんの下にあるあの黒いでかい塊、まさか……嘘だろ!?」
「……見事だろ? 昨日の夜、村のパブでトランプの賭けに勝って手に入れたんだ。相手の見知らぬ奴は、厄介払いできて清々したって顔をしてたがな」
自慢げに胸を張り、我が子を見るように目を細めるハグリッドに対し、優等生の少女は金切り声を上げた。
「ドラゴンの卵じゃないの! ハグリッド、正気なの!? ドラゴンの飼育は一七〇九年のワーロック法で完全に違法とされているのよ! それに、ここは木造の小屋なのよ!」
「ノルウェー・リッジバック種だ……! 間違いない、すごく珍しいやつだよ! 兄貴のチャーリーがルーマニアで研究してるから知ってるんだ!」
興奮を隠せないロンと、規則違反を取り乱して責め立てるハーマイオニーの声を背に受けながら、ハリーは冷徹な観察眼で漆黒の殻を見つめていた。映画の筋書き通り、この卵を持ち込んだ「見知らぬ相手」の正体がクィレル――あるいはその背後に巣食う闇の帝王であることは疑いようもない。フラッフィーの攻略法は事前に偽の記憶で封じてあるとはいえ、敵は着実にハグリッドの懐に入り込み、策を巡らせている。
暖炉の中で赤々と燃え盛る炎を冷徹に見つめながら、ハリーは静かに問いかけた。
「ハグリッド、その卵を賭けてきた相手……どんな男だったか覚えているかい?」
大男は太い眉を寄せ、黒髭の奥の口元を歪めながら記憶を手繰り寄せるように天井を見上げた。
「相手の顔か? ……いや、深くフードを被ってて顔はさっぱり見えなかったな。だが、ずいぶんと気前のいいドラゴン商人風の男だったぜ。何杯も酒を奢ってくれてよ」
その無防備極まりない返答に、ハーマイオニーは両手をきつく握りしめ、青ざめた顔で身を乗り出した。
「顔も隠した怪しい相手から、違法なドラゴンの卵を貰うなんて……! その男と他にどんなことを話したの?」
「どんなことって……別に怪しい話じゃねぇよ!」
心外だと言わんばかりにハグリッドは大きな両手を振ったが、その仕草はかえって動揺を隠しきれていなかった。
「俺がホグワーツの森番だって言ったら、どんな魔法生物の世話ができるのかって聞かれただけだ。だから言ったのさ、三頭犬のフラッフィーを手なずけるのに比べりゃ、ドラゴンなんざ赤ん坊みたいなもんだってな!」
横で聞いていたロンが、たまらず頭を抱えて悲鳴に近い声を上げた。
「うわ、ハグリッド……! それ、完全にカマをかけられてるんじゃないか! まさかフラッフィーのなだめ方まで喋っちゃったんじゃないだろうな!?」
「喋るわけねぇだろ!」
図星を突かれた子どものようにハグリッドは顔を真っ赤にし、バツが悪そうに視線を泳がせた。
「……まぁ、相手がどうしてもコツを知りたがったからな、少しだけ教えてやったがよ。『あの犬は右側の頭の顎の下を優しく撫で回してやると、すぐに大人しく座り込むんだ』ってな! 簡単な話だろ?」
「喋ってるじゃないの!!」
静まり返った小屋にハーマイオニーの絶叫が木霊した。
(流石だハグリッド。君は"俺”の思うままに動いてくれたよ)
頭を抱えて取り乱す少女と、呆れ果てて言葉を失った少年の隣で、ハリーはポーカーフェイスの裏側に浮かび上がる嘲弄を懸命に押し殺していた。大男の口から滑り出たのは、映画の知識にある『音楽を聴かせる』という正解ではない。ハリー自身が薬草の茶と巧妙な誘導尋問を用いて、あらかじめハグリッドの記憶へ深く擦り込んでおいた致命的な嘘――三頭の猛獣に対して自殺行為に等しい無防備な接触だった。
内心で酷薄な笑みを浮かべながらもハリーはドラゴンの卵を見続け、その異変に気づく。
「みんな、口論はあとだ。……殻にヒビが入ったよ。生まれるぞ」
暖炉の中央を指差して短く告げると、激しい言い争いに熱中していた二人は息を呑んで硬直した。
「おおっ……! い、いよいよだ……! みんな、離れてろ、火傷するかもしれねぇ!」
大男は分厚い両手を広げて少年たちを庇うように押し下げると、汗に塗れた顔を火の粉が舞う暖炉の奥へと近づけた。
「うわ、本当に割れてきたぞ! パキパキ音がしてる……!」
暖炉の脇から身を乗り出したロンが、目を丸くして興奮の混じった声を上げる。
「信じられない……学校の敷地内で、本当にドラゴンが孵化するなんて!」
ハーマイオニーは口元を両手で覆い、規律への畏れと知的好奇心の狭間で青ざめながら震えていた。
「ほら、見ろ……! なんて綺麗なんだ……! よしよし、怖くねぇぞ、いい子だ……」
パキリ、と甲高い亀裂の音が室内の熱気の中に響き渡ると、黒い卵の殻は真っ二つに裂け、中から奇妙で不気味な造形をした幼生がテーブルの上へと転がり落ちた。巨大な涙を浮かべたハグリッドが、慈愛に満ちた手つきでその黒い背中を撫でようとする。
「綺麗っていうか……骨と皮だけの、しわくちゃな黒いコウモリ傘みたいじゃないか? うわっ! 火を噴いたぞ!」
ピンポン玉のようにギョロリと見開かれたオレンジ色の瞳と、細長く伸びた吻部を威嚇するように震わせ、生まれたばかりの怪物は鋭い牙を剥き出しにして火花を散らした。飛び退くロンのローブの端を、小さな爆風が掠めていく。
「アハハハ! 元気な子だ! 見てみろ、ちゃんとママのことが分かってるんだ!」
噛みつかれそうになった指先を引くこともなく、大男は鼻の下を擦りながら嬉しそうに破顔した。
「ママって……ハグリッド、正気に戻って! くしゃみ一つで暖炉の外の絨毯が焦げてるのよ!?」
悲鳴のような金切り声を上げるハーマイオニーの抗議も、我が子を得た喜びに酔いしれる巨漢の耳にはまったく届いていなかった。ハグリッドは足音をドタドタと響かせながら、本に書かれていた通りにブランデーと鶏の血を調合するため、部屋の隅のバケツへと駆け寄っていく。
ハリーは腕を組み、冷ややかな視線で暴れ回る幼竜の姿を観察していた。本来の映画の筋書きであれば、窓の外からドラコニア――あるいはドラコが覗き見ているはずの局面だが、彼女は今頃マルフォイ邸で優雅に紅茶を味わっているはずであり、密告による即座の破滅は回避できている。
(だが、放置はできないな。ドラゴンの成長曲線は異常だ。二週間もすればこの粗末な小屋など跡形もなく焼き尽くされる)
手遅れになる前に、ウィーズリー家の伝言網を使ってルーマニアにいるロンの兄、チャーリーへ秘密裏に引き渡す手筈を整えなければならない。
ハリーは無邪気にはしゃぐ大男から視線を外し、隣で呆然としている赤毛の少年の肩を軽く叩いた。
「ロン、君の兄のチャーリーに手紙を書くべきだ。ルーマニアの保護施設なら、合法的に引き取ってもらえるんじゃないかい?」
思いがけない現実的な提案に、ロンは目を丸くしてハリーを見返した。
「え、チャーリーに!? ……あ、確かに! あいつならドラゴンの専門家だし、ここで違法に飼ってるよりずっと安全な場所に匿ってくれるかもしれないな」
腕を組んで眉をひそめていたハーマイオニーも、即座に身を乗り出して賛同の声を上げた。
「それが一番賢明な解決策よ! ハグリッド、聞いて。この子が大きくなれば、小屋なんて一瞬で消し炭になって、あなたの学校からの追放どころかアズカバン行きよ!?」
二人に詰め寄られたハグリッドは、生まれたばかりの幼竜を庇うように巨大な体を縮こまらせ、涙目で首を横に振った。
「そ、そんな……! 生まれたばかりのノーバートを、見知らぬ遠い国へ追いやるなんて……! せめて、せめてもうちょっとだけ、俺の手で育てさせてくれぇ……!」
呆れ果てたロンが、思わず両手を広げて叫んだ。
「ノーバートって、もう名前までつけてるじゃないか! ハグリッド、頼むから正気になってくれよ!」
感情論に流される大男の様子に、ハーマイオニーは厳しい口調で話を締めくくった。
「とにかく、今すぐチャーリーに手紙を出しましょう。引き取りの手筈を整えるだけでも時間がかかるはずだわ!」
テーブルの上で牙を鳴らしてブランデーのバケツに頭を突っ込むトカゲの如き幼竜と、それに涙ぐみながら縋り付く大男の姿に、二人の意識は完全に奪われていた。
先ほどハグリッドの口から漏れ出た『フラッフィーの顎の下を優しく撫でる』という致命的な偽情報――本来なら最も危険視すべき侵入者の手がかりであるはずの言葉――かつてロン自身がハリーと共にハグリッドから聞き出し、ハーマイオニーにも共有していたはずの『本来のなだめ方(音楽を聴かせれば眠る)』との明白な矛盾に、二人は爪の先ほども疑問を抱いていない。目の前で爆ぜる違法な怪物の産声と、森番の底抜けな迂闊さという二重の衝撃が、彼女らの観察眼を綺麗に目眩まししてくれていた。
(まったく、扱いやすい連中だ)
ハリーはポーカーフェイスの裏側で、冷ややかな失笑を噛み殺した。欺瞞がこれほど滑らかに機能し、誰一人として違和感の正体にすら辿り着かないという現実は、彼の胸の奥に潜む冷徹な全能感をひそやかに疼かせる。かつてなら僅かに胸を刺したであろう罪悪感の棘など、分霊箱の魂に蝕まれた今の心には砂粒ほどの重みも持たない。クィレルは今頃、この何の役にも立たない偽の鍵を大事そうに抱え込み、破滅の罠へと邁進しているはずなのだ。
すべてはハリーの敷いた見えないレールの上を、驚くほど正確に転がっている。あとはこの厄介なトカゲを速やかに国外へ放逐するのみだった。
アンケート無事終了しました。
今後この小説のタイトルを【偽りの救世主と銀髪の蛇姫】に変更させていただきます。
アンケートにご協力してくださった方々本当にありがとう御座いました。
小説タイトル変更します。3つ考えたのでどれがいいかアンケートに協力お願いします!
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