ハリーに憑依したらライバルが女の子だった件 作:TSドラコファンクラブ終身名誉会長
宴の終盤、ダンブルドアが立ち上がると、大広間は静まり返った。禁じられた森への立ち入り禁止、悪戯グッズの持ち込み制限といった例年通りの通達に続き、老校長は鋭い声で言い放った。
「最後に――苦痛に満ちた死を望まぬ者は、三階の右側の廊下には決して近づいてはならん」
生徒たちから微かなざわめきと失笑が漏れる中、僕は一人、乾いた唾を飲み込んだ。
(出たよ……賢者の石の警告。映画だと完全に『入ってください』と言わんばかりのフリだったやつだ)
原作通りなら、クィレルに憑依したヴォルデモートが裏で蠢き、あの廊下の奥にある石を狙っている。スリザリンに入ったからといって「僕は関係ありません」と無視を決め込むのは、あまりにも危険すぎた。もしヴォルデモートが復活すれば、ハリー・ポッターという存在自体が真っ先に抹殺対象になるのだから。
(どこかの段階で、必ず介入しなきゃならない。だけど、今の僕には頼れるトリオがいない……)
校歌の斉唱が終わり、解散の号令がかかると、生徒たちは一斉に立ち上がって寮ごとに列を作った。スリザリンの監督生に続いて歩き出したその時、ふと視線を感じて振り返る。
赤毛の少年――ロナウド・ウィーズリーが、グリフィンドールの列の先頭近くで、信じられないものを見るような、裏切られたと言いたげな瞳で僕を凝視していた。そしてその隣には、無事にグリフィンドールへと組み分けされたハーマイオニー・グレンジャーが、複雑そうに眉をひそめてこちらを見つめている。
二人の視線を受け止めながら、僕は内心で頭を抱えた。
(……気まずい。死ぬほど気まずい……!)
ロンとの関係は完全に冷え切ってしまったかもしれない。純血の名門でありながらスリザリンを嫌うウィーズリー家にとって、僕の選択は裏切りそのものに見えたはずだ。だが、彼の持ち前の直感や人脈、チェスの才能は捨てがたい。
そしてハーマイオニー。あの歩く百科事典のような頭脳と行動力は、今後の数々の危機を乗り越える上で絶対に手放したくない戦力だ。
(グリフィンドールの二人と、どうやってパイプを繋ぎ止めるか……。スリザリンの僕が露骨に接触すれば、ドラコたち我が寮の連中からも怪しまれる。でも、完全に縁を切ったら賢者の石の真相に近づくのも難しくなるぞ)
思考の海に沈んでいると、列の前を歩いていたドラコニアがふと足を止め、僕を振り返った。
「何をしているの、ポッター。遅れると監督生に置いていかれるわよ。……それとも、あんな貧乏人や穢――マグル生まれの連中が恋しくなったのかしら?」
言いかけた侮蔑の言葉を、僕の視線に気づいたのか僅かに飲み込み、ドラコニアは不満そうに青白い顎をしゃくった。その灰色の瞳には、僕の関心が他に向いていることへの微かな苛立ちが滲んでいる。
「まさか。新しい環境に少し緊張していただけだよ、ドラコニア」
僕はすぐに愛想のいい笑みを浮かべ、ドラコニアの隣へと並んだ。
地下牢へと続く階段を降りるにつれて、ひんやりとした湿った空気が肌を撫でる。冷たい石壁の廊下を進み、僕たちはスリザリンの談話室へと向かっていった。
地下牢の奥深く、湿り気を帯びた冷気が肌を刺すように包み込む。監督生が何もない石壁の前で「純血」と低く合言葉を唱えると、隠し扉が音もなく開き、スリザリンの談話室がその姿を現した。
天井から吊るされた緑色のランプが、黒い革張りのソファや精緻な彫刻が施された暖炉を薄暗く照らしている。壁を兼ねた巨大なガラス窓の向こうには、黒い湖の底が広がり、時折巨大な影が不気味に蠢いていた。底冷えする空気の中、暖炉の火だけがパチパチと爆ぜている。
(……陰気すぎる。映画で見たまんまだけど、実際に住むとなるとメンタル削られそうだな……)
身震いしそうになるのを姿勢を正して誤魔化し、僕は周囲を観察した。
上級生たちはそれぞれ定位置のソファへと散っていき、新入生たちは監督生から簡単な寮の規則と寝室の場所を告げられた。
男子寝室へと向かう螺旋階段の前で、僕はこれから数年間を共にするルームメイトたちの顔ぶれを確認する。大柄で鈍重そうなクラッブとゴイル、神経質そうに唇を噛んでいるブレーズ・ザビニ、そして無口で影の薄いセオドール・ノット。
(まずは今夜、同室の連中と円滑な関係を築くのが先決だな。孤立は最大の悪手だ。特にクラッブとゴイルはドラコの取り巻きだし、刺激せず、かつ舐められない絶妙な立ち位置を確保しないと……)
寝室に入ると、四柱式のベッドには緑のシルクの天蓋が揺れていた。トランクはすでに運び込まれている。
部屋の空気がぎこちなく張り詰める中、ザビニが腕を組み、冷ややかな視線を僕へと向けて口を開いた。
「……で、どういう風の吹き回しなんだ、ポッター? 『生き残った男の子』が、よりによってスリザリンとはね。マグルの世界で、どんな教育を受けたらそうなるんだ?」
値踏みするような、明確な探りの視線。クラッブとゴイルも、どう反応していいか分からず僕とザビニを交互に見つめている。
その時、寝室の扉が軽くノックされ、開いた隙間からプラチナブロンドの髪を揺らしたドラコニアが顔を覗かせた。女子寝室へ向かう直前、わざわざ足を止めたらしい。
「 ちょっと、ザビニ。ポッターをあまり尋問するような真似はやめなさい。彼は正しい選択をしてここに来たのよ。くだらない詮索でマルフォイ家の顔を潰すような真似は許さないわ」
ツンと尖らせた声で言い放ち、ドラコニアは僕へと視線を移すと、ふいと顎を上げた。
「部屋が寒いなら、暖炉の火を強めなさいね。……風邪でも引かれたら目障りだから」
それだけ言い捨てると、ドラコニアは踵を返して去っていった。残された男子寝室には、ドラコニアの思わぬ庇い立てによって、さらに奇妙な沈黙が落ちていた。
扉の向こうへと消えていったドラコニアの足音を聞き届け、僕はふっと穏やかな笑みを浮かべた。感情的に言い返すでもなく、ドラコニアの庇い立てに甘えて威張り散らすでもない。社会人時代に培った、相手の毒気を抜くための完璧な営業用スマイルだ。
「詮索したくなる気持ちもわかるよ。僕自身、自分のルーツを知りたくてここを選んだんだ」
大人の余裕を漂わせた柔らかな声音に、身構えていたザビニの眉がわずかに跳ね上がった。
「マグルの親戚は魔法のことを何も教えてくれなかった。だからこそ、伝統と誇りを重んじるスリザリンで、本物の魔法界を学びたいと思ったのさ。……これから同じ部屋で過ごす仲間なんだ、よろしく頼むよ、ザビニ」
そう言って僕が右手を差し出すと、ザビニは虚を突かれたように目を丸くし、それから面白がるように口元を歪めた。
「 ……へえ。お高くとまったお坊ちゃんかと思えば、随分と話が通じるじゃないか。いいだろう、ポッター。その言葉、覚えておくよ」
ザビニは差し出された手を軽く握り返した。後ろで成り行きを見守っていたクラッブとゴイルも、僕が敵対的でないと分かったのか、気の抜けたような笑みを浮かべて荷解きを再開した。
ひとまず最悪の初夜は回避できた。
僕はベッドに腰を下ろし、緑色の重厚なカーテンを引きながら、明日から始まるホグワーツでの生活――そして直面するであろう無数の課題に思いを巡らせた。
翌朝。
地下牢の冷気が残る大広間で朝食を終えた僕たちは、午前中の『魔法薬学』が行われる地下教室へと向かっていた。今日の授業は、グリフィンドールとの合同授業だ。
薄暗い廊下を歩いていると、前方に赤毛の少年と、癖毛の少女の姿が見えた。ロンとハーマイオニーだ。二人は教科書を抱えながら、どこかぎこちない様子で歩いている。
隣を歩くドラコニアが、彼らの姿を認めるなり、冷淡に目を細めた。
「朝から不愉快な連中と顔を合わせることになるなんてね。ポッター、あんな出来損ないたちに構う必要はないわ。スリザリンの誇りを見せつけてやりましょう」
好戦的な光を宿すドラコニアの横顔を見つめつつ、僕は地下教室の重い扉を視界に捉えた。その奥には、あのセブルス・スネイプが待ち構えているはずだ。
廊下ですれ違う寸前、僕は歩調をわずかに緩め、ロンとハーマイオニーに視線を向けた。ロンは露骨に視線を逸らして唇を尖らせたが、ハーマイオニーは複雑そうな、何か言いたげな眼差しで僕を捉える。僕はドラコに気づかれないよう、ごく小さな声で唇を動かした。
「……列車では悪かったね。落ち着いたら、ちゃんと話したい」
ロンは微かに肩を揺らし、ハーマイオニーは驚いたように目を見張ったが、ドラコニアが怪訝そうに振り返る前に、僕はすっと前を向いて教室の扉をくぐった。
(さて……問題はここからだ)
薄暗く湿った地下教室。ホルマリン漬けの動物の瓶が並ぶ不気味な空間で、黒いローブを翻して教卓の前に立つ男――セブルス・スネイプ。冷徹な黒い瞳が、生徒たちを舐めるように見回している。
映画の記憶が脳裏をよぎる。スネイプは僕の父親への憎悪と、母親への複雑な愛情を抱えた男だ。理不尽な嫌がらせが飛んでくるのは確定している。
(感情的に反発したら負けだ。スリザリンの生徒として、完璧に、非の打ち所のない対応で迎え撃つしかない……!)
出席を取り終えたスネイプは、名簿から顔を上げ、冷酷な眼差しをまっすぐに僕へと突き刺した。
「 ――ポッター。『新たな有名人』のお出ましだな。貴様がただの愚鈍な豚でないことを祈りたいものだが……答えられるか? トウカガガミの根の粉末にニガヨモギの煎じ汁を加えると何ができる?」
教室が静まり返る。グリフィンドールの席でハーマイオニーの手が勢いよく宙に挙がったが、スネイプはそれを完全に無視していた。隣のドラコニアが心配そうに、あるいは値踏みするように息を呑むのがわかる。
僕は姿勢を正し、淀みのない、落ち着いたトーンで口を開いた。
「 はい、スネイプ教授。『生ける屍の水薬』と呼ばれる、強力な眠り薬になります」
スネイプの眉が微かにピクリと動いた。予想外の即答に苛立ちを覚えたのか、間髪容れずに次の矢を放ってくる。
「 ……ふん。では、ベゾアール石を見つけたいと思ったら、どこを探す?」
「山羊の胃袋の中です。強力な解毒作用があり、ほとんどの毒に対して効果を発揮します」
「モンクスフードとウルフスベーンの違いは何か?」
「名称の差異に過ぎません。その2つは同一の植物であり、一般にはトリカブトとも呼ばれます」
教室に完全な静寂が落ちた。
ハーマイオニーは挙げかけていた手をゆっくりと下ろし、目を見開いて僕を凝視している。ドラコニアは目を見張り、それから誇らしげに唇の端を吊り上げた。
スネイプの漆黒の瞳に、激しい動揺と嫌悪、そして信じがたいものを見るような色が渦巻いていた。ジェームズ・ポッターの傲慢な顔立ちをしながら、リリー・エバンズを彷彿とさせる緑の瞳で、寸分の狂いもない知識を淡々と返してくる少年。
沈黙が数秒間続き、スネイプはまるで苦虫を百匹ほど噛み潰したかのような、ひどく歪んだ顔で奥歯を鳴らした。
「……教科書を開けば誰でも知っていることだ。だが……貴様が最低限の予習をしてきたことだけは認めてやろう。……スリザリンに、1点」
絞り出すようなその宣言に、スリザリン生の間から小さなどよめきと安堵の息が漏れた。
スネイプの冷徹な、それでいてどこか戸惑いの混じった視線を真っ向から受け止め、僕は一分の隙もない礼儀正しさをもって、深く、静かに頭を下げた。
「 ありがとうございます、教授」
その声には、勝ち誇ったような響きも、皮肉めいたニュアンスも一切含まれていない。ただ純粋に、教授の評価に対する敬意だけを込めた。スネイプは、まるで手に負えないほど質の良い、だが自分にとって極めて扱いづらい道具を突きつけられたかのように、不機嫌そうに鼻を鳴らして視線を逸らした。
僕は、隣の席で固まっているドラコニアの様子を伺うふりをして、グリフィンドールの席に座るハーマイオニーへと、ほんの一瞬だけ視線を走らせた。彼女にだけ分かる程度に、困ったような、苦笑いを浮かべて、小さく会釈を送る。
その後授業は二人一組での「おできを治す薬」の実習へと移った。
僕とドラコニアが順調に乾燥イラクサを計量し、ヤマアラシの針を準備していたその時――斜め後ろから、シューという不穏な音が響き渡った。
次の瞬間、教室中に充満する刺激臭とともに、緑色の濃い煙がもうもうと立ち込めた。
「 ひ、ひいっ……!」
ネビルが鍋を火から下ろす前にヤマアラシの針を入れたせいで、鍋は瞬く間に溶け落ち、床一面に沸騰した薬が広がっていく。飛び散った液体を浴びたネビルは、腕や顔に無数の赤いおできを作って悲鳴を上げた。
「 ――愚か者が!」
黒いローブを翻し、スネイプが雷鳴のような足取りで間になだれ込んだ。杖の一振りでこぼれた薬を消し去ると、激昂した形相でネビルを見下ろす。
映画では理不尽にも僕のせいにされた場面だが、僕がスリザリンの制服を着て、しかも完璧な優等生として振る舞っている以上、スネイプも流石に僕に八つ当たりすることはできなかった。
「鍋を火から下ろせと書いたのが読めんのか? 脳みその代わりにイラクサでも詰まっているようだな、ロングボトム。……グリフィンドールから5点減点だ。フィンチ=フレッチリー、こいつを医務室へ連れて行け!」
スネイプの怒声が地下教室に木霊し、グリフィンドールの生徒たちは萎縮して沈黙した。
ドラコニアは嘲笑を浮かべて鼻を鳴らしたが、僕は惨状を見つめながら、今後の展開に思いを馳せていた。
(スネイプの理不尽な矛先は逸らせた。だけど、グリフィンドールとの溝は深まるばかりだ……。ロンのあの目は完全に僕を敵と見なしている。どこかで接触を図らなければ、ハグリッドの小屋にも行きづらいな)
ドラコニアの好感度メーター
★★★★★☆☆☆☆☆