BLEACH ~No Future Worth Your Ruin~   作:冬冬✻

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過去・日常篇
第2話 JUST ANOTHER DAY


――――――――――――――――

 

産声上げた小さな風の芽

まだ、名のないそれは

小さな足で疾り出す

いつか、世界の秒針が

瞬きの間に動き出したとしても

この足で付いてゆけるように

一歩ずつ

ただ、一歩ずつ

 

――――――――――――――――

 

 

瀞霊廷、五番隊執務室。

 

 

「……居ない?」

 

「はい」

 

「さっきまで居たんでしょ?」

 

「ええ。先程まで隊長室にいらしたのですが……」

 

「どこ行ったんだ、あの人……」

 

五番隊隊舎、その執務室。

そこでは一人の青年が、隊士からの報告に頭を抱えていた。

 

青年の名は柊周介(ひいらぎしゅうすけ)、五番隊の第三席。

黒髪に、どこか中性的な顔立ち、

その雰囲気はどこかそよ風のような柔らかさがある。

 

そんな彼がなぜ頭を抱えているのか。

それは至って簡単な話であった。

隊長が居なくなった。

正確に言えば、隊長室に居たはずの平子真子が、姿を消したのである。

 

彼が突然に姿を消すのは普段もよくあることだ。急に何を思い立ったか、隊舎を飛び出して行って、数刻後にふらっと帰ってくる。

初めの頃は柊も理由を聞いていた。

しかし、返ってくるのは、やれトリートメントが切れたのに気づいて買いに行っただの、暇だからひよ里を揶揄って来ただのと、至極どうでもいいものだった。

いつしか柊は理由を聞くことをやめた。

そして、平子の部屋に溜まった書類だけ積み上げてくるようになったのだった。

普段はそれでも問題はない。帰ってきてから

机に拘束して仕事をさせる。それでよかった。

だがしかし、今回ばかりは、そうはいかなかった。なぜなら、今日は十二番隊の新隊長就任式当日だからである。

平子が、今何をしているのかは当然見当はつかないが、どこに居るかだけであれば、普段の行動からある程度推測することができる。

 

「……今日に限っては椅子に縛り付けておくべきだったな」

 

柊はそんなことを呟きながら、ふと手元の書類に視線を向ける。東地区巡察班の報告書。予定帰還時刻より二時間の遅延。特記欄には何も書かれていない。平子消失の報告を受けるまで、彼はこの報告書を眺めていたのだ。別にそれほど重大な問題というわけではない。しかし、理由が記載されていないことが少しだけ気になったのであった。しかし、今は書類を眺めている場合ではなくなった。一刻も早く平子を捜索するという隊務が発生したからである。柊は書類を引き出しに仕舞い、席を立った。

探す候補自体はいくつかある。しかし、どこも、ここから然程距離は変わらない。ならばどこから探そうかと、そう考えていた時だった。背後から穏やかな声がかかる。

 

「おはよう、柊君」

 

振り返ると、副官章を肩に付けた眼鏡の男が立っていた。

彼の名は藍染惣右介。

五番隊副隊長であり、柊の直属の上司にあたる人物だ。

 

「おはようございます。藍染副隊長」

 

「何か考え込んでいたようだけど、平子隊長のことかい?」

 

「はい。少し前までは居たみたいなんですけど」

 

「そうか……」

 

藍染は顎に手を添え、少し考えるような仕草を見せた。それは外見も相まって、なかなかに知性溢れるものだった。もっとも、彼の頭が切れるのは事実であるのだが。

 

「柊君。一つ確認してもいいかな?」

 

「はい?」

 

「隊長室は確認したかい?」

 

その一言に藍染の出した結論が込められていた。柊もそれにすぐさま気づく。なにしろ、自分が先程考えていた候補の一つであったからだ。やはりこの人も平子のことをよく見ているのだなと、そんなことをぼんやり思いながら、柊は答える。

 

「やっぱり、藍染副隊長もそう思います?」

 

「ええ。柊君も同じことを考えたようだね。

なら、そこを探してみるといいかもしれない」

 

柊自身、隊長室から姿を消したと報告を受けて、何か用を思いついて部屋を出て行ったのなら、それを終えて隊長室に戻ってきている可能性は高いと考えていた。なにより、もしもそれが外れていたとしても、他の場所を探せばいい。一つの場所を探すことは、そこでないどこかに答えがあると証明することでもある。

 

「ちょっと行ってきます」

 

「頼んだよ。できれば、そのまま連れてきてくれると助かるかな」

 

藍染は苦笑しながら言った。

 

「それは保証できませんけど……

やれるだけやってみます」

 

柊も同じ様な顔をして部屋を後にした。

 

***

 

隊長室に近づくにつれて、何やら軽快な音が聞こえ始めた。不規則な様でいて規則的な音たちが、微かに耳に入ってくる。そして、目的地に到着した時点で、先程考えた推測は正しかったのだと確信した。五番隊隊長室、その扉の隙間からは、聞いたことのない音楽が漏れ出していたのだ。それは、普段、瀞霊廷で耳にするものとは明らかに違っていた。

 

まあ、最初にここに来て正解だったな。

それにしても、なぜ副隊長はこの場所を正確に当てられたのだろうか?

 

そんなことを少し疑問に思ったが、先に中を確認しよう。そう考えて、柊は扉の前に立った。そして一呼吸置き、声をかける。

 

「平子隊長」

 

返事はない。恐らく、音楽に夢中で聴こえてないのだろう。

 

仕方ないな……

 

今度は少し声のボリュームを上げて呼びかける。

 

「平子隊長、開けますよ」

 

すると、今度はそれが届いたのだろう。

中から気の抜けた声で返事が返った。

 

「おお、周介。ええで」

 

本当にいたことに、一先ず安心して、息を吐く。そして、そのまま障子に手を掛け、横に引いた。

瞬間、それまで微かにしか聴こえていなかった音楽が、途端に鮮明になり、耳に飛び込んで来る。また、同じ瞬間、目に飛び込んできたのは、白い隊長羽織を揺らしながら、音楽に合わせてリズムを刻む、金髪の男だった。

異様に長く、無駄に綺麗な髪は、ユサユサと音楽に合わせて揺らめていており、白と金の鮮やかな光景が生み出されている。

 

彼こそが、五番隊隊長、平子真子。

柊が先程から探していた人物、そのものであった。

目の前の男も部屋の戸が開いたことに気がついたのか、ゆっくりと振り返る。その顔は、いつになく気分が良さそうであり、周りの気苦労など頭の中にないのだろうと感じさせる。

 

「…………」

 

「何や、周介。そないな顔して」

 

「いや、楽しそうですね……」

 

「おう!ええやろ。現世で新しく出たジャズいう音楽や」

 

「そうですか……」

 

「お前も聴いてみい。なかなかええで」

 

「そうですね。時間がある時にでも」

 

「何や、つれへんな」

 

平子はつまらなそうに口にした。

 

「ところで平子隊長」

 

「なんや?」

 

「今日、何の日か覚えてます?」

 

平子は至極当然のことのように答えた。

 

「当たり前やろ。十二番隊の新隊長就任式や」

 

「そうですよね」

 

柊は頷く。

そして彼に対する最大の疑問をぶつける。

 

「じゃあ、何でここにいるんですか?」

 

それを聞いた平子は、またしても当然のことのように答える。

 

「そら、まだこのレコード聴き終わってないからや」

 

「あとどれくらいです?」

 

「二時間くらいやな」

 

「式典、始まりますよね?」

 

「せやな」

 

「まさか、行かないんですか?」

 

「あれ嫌いやねん。堅苦しすぎて石になってまうわ。」

「惣右介と二人で、出て来てや。平子隊長が急病なので代わりに来ました言うてな」

 

「…………」

 

その瞬間、部屋の音楽とは裏腹に、二人の間に沈黙が訪れた。そして、柊は静かに障子へと手を掛ける。それを見た平子は不思議そうに尋ねた。

 

「おい、周介。どこ行くんや」

 

「総隊長に報告してきます」

 

「何をや?」

 

「平子隊長は、現世の音楽を聴くのにお忙しいため、式典には出席できないそうです、と」

 

それを聞いた途端、先程までヘラヘラしていた表情が、焦りに変わる。

 

「待て待てッ!!」

 

彼は、慌てて立ち上がり、何やら猛烈な抗議を始めた。

 

「冗談や冗談!俺がそないなテキトーな隊長に見えるか!?」

 

「かなり」

 

目の前の彼も、それなりに心当たりがあるのだろう……すぐさま抗議の仕方を変えて来た。

 

「まあ、百歩譲って、そうやとしてもな!!

俺が流刃若火で灰にされても、ええんか!?」

 

「まあ、その時は葬式で、お経の代わりに大好きなジャズを流して貰いますよ」

 

柊は満面の笑みで返した。

 

「どないな葬式やねんッ!? 坊さんビックリしてまうやろッ」

 

「平子隊長が頭を丸めて、自分で流せばいいんじゃないですか?」

 

「なんで、自分の葬儀の坊さんなっとるんや!? そこは、もっとこう、隊長が居らんくなったら寂しいですね、とか言うところやろ!」

 

「そのレコードを形見として預かるので、大丈夫ですよ、きっと。」

 

「俺のちゃうわ!!ローズのやぞ!?」

 

「じゃあローズさんと相談しないとですね……

まああの人ならわかってくれますよ」

 

「何を相談するねん……」

 

そんなやり取りを続けていると、平子が何かを閃いたかのように顔を上げた。

 

「いや、周介!!お前も困ることあったで?」

 

何やらニヤニヤと自信満々の表情で口にしだした。

 

「何ですか?」

 

「隊首会や。あれはどうするねん。」

「俺いないと困るんちゃうか?」

 

「そうですね……まあ確かに実害が出るケースかもしれないですね」

「あ、でもあれに隊長羽織着せて五番隊の位置に置いておけばなんとかなりそうじゃないですか?」

 

柊が指さしたのは、先程からジャズを流し続けている蓄音機だった。

 

「金と黒ですし、平子隊長の頭と死覇装って感じで、なんか似てません?」

 

それを聞いた平子は確かになという顔で頷く。

そして数秒後。

 

「いや、何で蓄音機とレコードが隊長なっとるねんッ!!」

 

もはや、裏返りそうな程に張り上げられた声で、平子真子のツッコミが五番隊中に響いた。

 

***

 

数分後。

五番隊隊舎の廊下には、不満そうな顔の男と、その後ろを歩く青年の姿があった。

 

「……お前なあ、もうちょっと上司を敬う気はないんか?」

 

「十分敬ってますよ」

 

「どこがやねん」

 

「だから、こうして迎えに来たんじゃないですか」

 

「お前もちっさい頃はもっと可愛げあったんやけどな。俺の後ろトコトコ着いて来て、袖のとこギューッと握ったりしてなぁ」

 

「いや、何歳児ですかそれ?そもそも、その歳で五番隊にいるのおかしいでしょ」

 

「ほらァ!そういうとこや!!

母さんはなァ、そんな子に育てた覚えありませんでェ!」

 

「母親なら就任式行きたくないなんて、駄々こねないでください」

 

その一言を聞いた平子は、横目で柊を

見つめた。

そしてひとこと。

 

「周介……」

 

「はい」

 

「お前、ほんま性格悪いな」

 

「平子隊長ほどじゃないですよ」

 

「はっはっは!そらそうや!」

 

平子は心底楽しそうに笑い出した。

そんな彼を見て、柊も思わず口元を緩める。

この人は本当に、感情が豊かな人だ。

 

見ての通り、隊務には少々問題があるが、いざという時には誰よりも周りを見ている。

そして、だからこそ誰よりも適切な言葉を掛けられる人でもある。

そんな平子真子という人物を、柊は尊敬していた。

 

「それにしても、周介」

 

平子は何かを思い出したように顔を歪める。

 

「何ですか?」

 

「惣右介とお前、最近ほんま似てきたな」

 

それは予想外な言葉だった。

自分自身は全くそんな自覚はない。

だからこそなぜそう思うのか少し気になった。

 

「そうですか?」

 

「せや。二人とも俺の扱いが雑になってきよる」

 

「何か思い当たる節でも?」

 

「さっきローズからレコード借りに行って、帰ってきた時に惣右介におうたんや。

そしたら、アイツ、俺のこと見ながら『楽しそうですね。その情熱を隊務にまわして頂けると、皆助かると思いますよ』とか言うてきたんや」

 

それを聞いて、先程の謎が解ける。

なぜ、藍染が隊長室にいると当てられたのか。彼は帰ってきた平子を見て、これから何が起こるかある程度察知したのだろう。やはり、勘のいい人だなと、柊はそう思った。

 

二人が執務室へ戻ると、藍染は既に出発の準備を整えていた。

 

「お帰りなさい、柊君」

 

「ただいま戻りました」

 

彼は、少し遅れて入って来た平子に気づくと、柊の方へ穏やかに微笑む。

 

「やはり、君に頼んで正解だったようだね」

 

この人は自分が平子を説得して連れてくることまで、予測していたのだろう。

 

やっぱり、平子隊長だけじゃなくて、俺のこともよく見てるんだな……

 

そんなことをふと考える。

 

当の藍染本人は柊へ向けていた視線を平子へ移すと、そのまま呟いた。

 

「見事に隊長の手綱を握ってくれたようだ」

 

それを聞いた平子の顔が、一気に不服そうな色になる。

 

「なんや惣右介、誰が馬やねん」

 

「誰も馬とは言っていませんよ」

 

藍染の方は平子の反論にも、一切動じず答えた。

 

「お前の顔が言うとるんや」

 

「それは手厳しいですね」

 

藍染は苦笑する。

 

平子は不満そうにしばらく彼を見ていたが、やがて柊の方へ顔を向ける。

 

「ほな、行くか」

 

「はい」

 

続いて、藍染も頷く。

 

「ええ。そろそろ出発した方がよろしいでしょう」

 

こうして、三人は一番隊へ向けて歩き出した。

 

***

 

浦原喜助。

それが、新たに護廷十三隊の隊長へ就任する人物の名である。元は二番隊第三席であり、隠密機動にも所属していた人物だ。そして、柊は彼と面識があった。以前、二番隊隊長の夜一に紹介されたのだ。その時に感じた印象は、率直に言えば『随分と変わった人』というものであった。

 

いつも飄々としており、誰に対しても腰が低い。こちらが年下であろうと、何故か終始、敬語で話しかけてくる。更には、新入隊士にすら同じ態度であった。まあ、仮にこれだけであれば、ただの低姿勢な人物という印象で終わるのだろう。だが、彼の変わりどころは、それだけではなかった。

 

時々こちらの思考の死角にある様なことを口にするのである。それは柊にとって、とても新鮮であり、話していて飽きない人物であった。

 

「柊君」

 

一番隊へ続く道を歩きながら、藍染が前を向いたまま声をかけてきた。

 

「はい?」

 

「君は浦原隊長と面識があるのだったね」

 

「ええ。夜一さんに紹介されて少しばかり」

 

「そうか……」

「どんな人物なのかな?」

 

「そうですね……」

 

柊は顎に手を添えて少し思考する。

まずは何から話そうか。いくつか特徴はあるが、実際にいざ答えるとなると少し難しい質問だ。そんな風に考えながら、頭の中で整理したことを話し始める。

 

「基本的には人当たりのいい方ですよ。それと、話していて面白い人ですね」

 

その言葉に藍染は普段より、目を大きく開け、柊の方へ顔を向ける。

 

「面白い?」

 

「はい。たまに俺の想像もしてないことを言ってくるので」

 

「……なるほど」

 

藍染は少しだけ目を伏せる。

そして、すぐにいつもの様に微笑んだ。

 

「それは、興味深いね」

 

それは、思わぬ返答であった。自分が面白いと言ったことが、なぜそんなに興味深いのただろうか?その答えは直後に藍染の口から語られた。

 

「君がそういう評価をするのは、少し珍しい気がしてね」

 

「珍しいですかね?」

 

「少なくとも、僕はそう思うよ」

 

藍染はそれ以上何も言わなかった。

柊も、そうなのかなと、少し疑問には思いながらも再び前を向く。

その少し前を歩いていた平子は、二人の会話を黙って聞いていた。

 

「…………」

 

そして、ほんの一瞬だけ振り返る。

藍染はいつもと変わらず、穏やかな表情を浮かべている。

平子はその顔を見た後、再び前を向いた。

 

***

 

一番隊に到着すると、各隊の隊長が既に大広間へ集まり始めていた。白い隊長羽織の並ぶ光景は、それだけで見る者を圧倒するものだ。一応、隣にもそれを着た人物がいるのだが。

 

「ほな、行ってくるわ」

 

平子がこちらを見ながら口にした。その顔は見るからにものすごく面倒そうであったが、出る気にはなったらしい。

 

「行ってらっしゃい」

 

柊は笑顔で平子に返す。

 

「平子隊長、どうか式典ではお静かに」

 

藍染は平子に釘を刺す。

 

「惣右介、お前、俺のこと何やと思とんねん……」

 

そう言い残し、平子は大広間へ向かって行った。

彼が中へ入っていくのを見送った後、柊たちは式典が終わるまで一番隊の敷地内で待機していた。暫くして、ここでずっと待つのも何だからということで、藍染の提案により、敷地内を歩くことになった。柊も特にやることもないのでそれに応じたのであった。

 

歩き始めて、10分程経った頃、藍染がふと足を止める。

 

「柊君。少しいいかな?」

 

「はい」

 

「今朝の報告書のことなんだけど」

 

それを聞き、柊は今朝確認していた書類を思い出した。予定帰還時刻より二時間遅れていた巡察班の報告書。しかし、特記欄には何も書かれていなかった。

 

「ああ、東地区の分ですか?」

 

「ええ。それなんだが、担当者から訂正が届いていたよ」

 

「そうだったんですか……」

 

やはり、あれはミスによるものだったのかと、柊は喉の奥につっかえていた疑問が一つ取り除かれたのを感じた。そして、やはりこの人は仕事が早いなとも思う。

 

「帰還が遅れた理由も確認できたそうだ。班員の一人が途中で負傷していたらしい」

 

それを聞き少し眉を寄せる。

 

「……怪我ですか?」

 

負傷による帰還の遅れ。全くないことではないが、少し心配になるものである。本人は大丈夫なのだろうか?そんな柊の心情を察したのか藍染は続けた。

 

「重傷ではないそうだよ。ただ、本人が報告を控えていたらしい」

 

「なるほど……

大きな怪我じゃなくてよかったです」

 

重傷ではない、それは幸いだった。死神の仕事というものは、常に死と隣合わせのものだ。いつもの通りに任務に出た者が帰らなくなってしまうこともある。しかし、今回はそうでなかったのならば、先ずは安心していいだろう。

しかし、それと同時にひとつ気になることもできた。そして、その疑問はすぐに柊の口から藍染へと投げかけられた。

 

「ただ……少し気になりますね」

 

「何がかな?」

 

「怪我をしたことじゃなくて、報告しなかったことです」

 

「……ほう」

 

藍染の目が僅かに細められる。彼にとってはその疑問が来るとは思っていなかったようだ。

 

「だって、負傷したのに報告しなかったのなら、無理をしてた可能性がありますよね。

もしかして、自分が抜けると隊務に支障が出ると判断したのかもしれないですし。

その場合、その人を責めるだけじゃ解決しない気がするんです」

 

実際、本人が何を考えたのかは聞いてみないことにはわからない。だが、少なくとも負傷をしての帰還というならば、注意を受けるのを嫌がってというものではないはずだ。そうなると、自分の抜けた穴を気にして報告を躊躇ったというのは、然程不思議なことではないと思う。責任感の強い人であるほどに、そういったことも当然出てくるだろう。そして、もしそうなら、問題なのは報告を躊躇った者ではなく、そうさせた環境にあるのではないか?仮に、普段からそうした事態への対策が徹底されているのであれば、彼も素直に報告をしたはずである。そんなことを考えている柊へ藍染が問いかけた。

 

「では、どうするつもりだい?」

 

「一度本人と話してみます。その上で、何か問題があるならその時に考えます」

 

やはり、本人に理由を聞いてみるのが最も大切なことだろう。そして、本当に自分の穴を気にしていたのであれば、その時はその対策を講じるべきだ。

 

「なるほど」

 

藍染はその答えを興味深そうに聞きながら

微笑んでいた。

 

「実に、君らしい答えだね」

 

「そうですか?」

 

「ええ。君はいつも、報告書をただの紙でなく、向こう側にいる人間との対話として見ようとする」

 

「書類って、そのためにあるものじゃないですか?」

 

「……そうかもしれないね」

「ただ、柊君」

 

「はい?」

 

「その考え方は、君自身にも向けてあげるといい」

 

自分自身にも向ける?

随分急な話であったため、柊は思わず、疑問を整理せずに投げかけようとする。

 

「それって、どういう…?」

 

その言葉が最後まで言い切られるよりも前に、大広間の方から人の声が聞こえてきた。

どうやら、式典が終わったらしい。それに気づいた藍染も会場の方に目を向ける。

 

「戻ろうか」

 

「あ、はい」

 

結局、さっきのはどういう意味だったのだろうか……

柊は少し腑に落ちないまま、藍染の後を追って大広間へと引き返して行った。

 

 

第2話 JUST ANOTHER DAY 完

 

Q. 第2話で特に印象に残った場面は?

  • 1. 柊と平子のやり取り。
  • 2. 浦原について話す柊と藍染。
  • 3. 報告書から見える、柊の考え方。
  • 4. 藍染と平子の不穏な描写。
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