BLEACH ~No Future Worth Your Ruin~ 作:冬冬✻
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みんな嫌いや
どいつもこいつも簡単に切り替える
それが信じられへん
けど、ウチはそんな自分も嫌いや
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瀞霊廷の遥か上。雲海よりも、さらに高い場所。地上からは決して望むことのできない空間に、巨大な建造物が浮かんでいる。そして、その一角で、一人の女性が、目の前に広がる景色を眺めていた。
「……いやあ」
「随分と高いところまで来たもんだねえ」
女は思わず笑ってしまう。目の前の景色が、自分の常識を覆すようなものであったからだ。
女の名は、曳舟桐生。
つい先日まで十二番隊隊長を務めていた女性である。そんな、彼女の前には、見慣れない四つの人影が立っていた。一人は、立派な黒髭を蓄えた、僧形の大男。一人は、天を突くようなリーゼントの男。一人は、長い黒髪を垂らし、背に幾本もの絡繰の腕を従える女。
そして最後の一人は、派手なサングラスを掛けた、褐色の男だった。
「かっかっか! よう来たのう、曳舟!」
最初に口を開いたのは、僧形の大男だった。
見た目通りの声量で笑いだした彼は曳舟に歓迎の言葉を向ける。その声は、辺り一帯に響き渡るほどに大きかった。そして、この天空の静けさと相まって、大男の声はより一層輪郭を強めている。
「今日からはおんしも、ここに住まうことになる。遠慮はいらんぞ!」
「はっはっは! 遠慮するにも、これじゃ何から遠慮すりゃいいのか分からないねえ」
そう思うのも無理はなかった。彼女からすれば、ここに来てからというもの、常識を覆すような光景しか目にしていない。その状況で遠慮はしないでくれと言われても、ここでの常識とは何なのか?それを考えるところから始めなければならない。そんなことを考えながら曳舟が笑っていると、リーゼントの男が口を挟んだ。
「おいおい、こんなもんで腰抜かされたんじゃ、こっちも歓迎のしがいがねえってもんだ。まだ何も見せてねえじゃねえか、驚くのはこれからだぜ」
男は『きりんじ』と書かれた湯かき棒を、
曳舟に向けて、そう口にした。彼女はそれを見て、一先ず男の名はわかったが、この状況において、それを知ったところであまりに些細なものでしかなかった。
「騒がしいのう。もう少し落ち着いて出迎えることはできぬのかえ」
背に腕を従える女が、呆れたように呟く。
その絡繰の腕は、まるで本物の腕かのようにそれぞれが細かく指先を動かしていた。彼女が操っているのなら、大したものだ。そんなことを考えていると、派手なサングラスの男が突然両手を挙げて、飛び跳ねた。
「Hey! せっかくの新入りなんだぜ!? もっと派手に迎えてやろうYO!」
サングラスの男は奇妙な口調を使っている。長いこと生きている曳舟からしても、耳に覚えのない喋り方だ。ただ、自分を歓迎しようという気持ちは伝わってくるため、曳舟自身、彼らに対して、特段悪い気はしなかった。
すると、背に腕を従えた女が、サングラスの男へ目線を移し、冷たい目つきで見つめた。
男もそれに気づいたようで、自分のことを指差しながら首を傾げる。それを気にも留めず、女は静かに苦言を呈した。
「……お主もじゃ」
「Oh……手厳しいねェ!」
男はその返事すらも騒がしかった。女もその様子を見て諦めたのか、それ以上何も言わなかった。曳舟はそのやり取りを見て、とうとう吹き出した。どうやら、ここにいる者たち相手に深く考えても意味はなさそうだ。ならば、自分も気にせず楽しもうじゃないか。
「はっはっは!
こりゃあ、退屈しなさそうだね!」
曳舟の肩の力が少し抜けた。それを見ていた僧形の男が満足そうに頷いた。どうやら、彼なりに新入りに対して気にかけていたらしい。
「うむ! その意気じゃ!」
男の声は相変わらず、耳に悪かった。
「それにしても……」
曳舟は、もう一度辺りを見渡して呟く。
見たこともない建造物。果ての見えない雲海。そして、その向こうに聳える、さらに巨大な宮殿。瀞霊廷の建物とは比べ物にならないそれは、異様なまでの存在感を放っていた。そして、先程まで自分がいた尸魂界とは、まるで別の世界なのだと、改めて感じさせられるのであった。
「これから、ここで新しい仕事をすることになるんだねえ」
彼女自身、未だその実感があまり湧いてこなかった。つい先日までは、十二番隊の隊舎で
隊士たちと和気藹々と仕事をしていたのである。それを、突然忘れ去れなどと言われても、当然出来はしない。
「そういうことじゃ。まあ、おんしもいずれ慣れていくじゃろう」
そう言うと、僧形の大男は、ゆっくりと背後へ振り返った。その視線の先には巨大な宮殿がそびえ立つ。
「さて、まずはお主の新しい居場所を見せてやろうかのう」
「頼むよ」
曳舟も歩き出そうとしたその時、
その足がふと止まる。
「…………」
雲海の下。そこには、もう姿形は見えないが、確かに瀞霊廷がある。つい先日まで自らが居た場所、護廷十三隊、十二番隊。今頃、その十二番隊にも新しい隊長が来ているはずだ。夜一が推薦したという、少し変わった男。確か、浦原喜助という名だったか。聞くところによれば、腕は確からしい。それに、彼女が選んだ人間であれば、そう悪い人物でもないだろう。ならば、十二番隊を任せることに不安はない。
ただ――。
「……あの子は、どうしてるかねえ」
曳舟は小さく呟いた。頭に浮かんだのは、そばかすのある金色の髪の、小柄な少女。少々口が悪くて、気が強いが、誰よりも寂しがり屋な女の子だった。思えば、いつも自分の後をついてきていた。血の繋がりはないが、曳舟にとっても、彼女は娘のように気にかけていた存在だった。だからこそ、今になって少し気がかりなのだろう。
「……今頃、新しい隊長に噛みついてるんだろうねぇ」
『なんで、こんなんがウチの隊の新隊長やねん、アホか!!』
容易に想像できる光景に、思わず笑ってしまう。答え合わせができないのが悔やまれるほどだ。あの子のことだ、きっと、すぐには受け入れられないだろう。けれど、彼女には彼女自身の人生があり、いつまでも自分が傍にいてやれるわけではない。雛はいずれ親鳥の元を離れるべきである。その時が来たのだろうと、そう思った。
「曳舟よ、どうした?」
先を歩いていた大男が振り返った。
「いや、何でもないよ!」
それに、笑顔で返すと、最後にもう一度だけ、遥か下方へと目を向ける。
元気でおやりよ。ひよ里ちゃん。
そう心の中で呟くと、彼女は今度こそ、自らの進むべき方へと歩き出した。王族特務の道へと。
***
一方、その頃。瀞霊廷の一番隊では、新隊長就任式が無事に終了していた。大広間から出てきた隊長たちが、迎えの隊士たちと合流している。勿論、柊も平子の姿を探していた。
その時だった。
「周介!!」
聞き慣れた声に振り返る。すると、小柄な女性がこちらへ歩いて来ていた。顔にはそばかす。そして、その表情は見るからに不機嫌である。彼女が、曳舟が気にかけていた少女、
十二番隊副隊長、猿柿ひよ里だ。
「アンタ、そこのアホと知り合いなんやってな!!」
唐突な暴言に困惑しながらも、柊は彼女の指差した方向を見た。そこには、他の隊長と何かを話している、浦原喜助の姿があった。
「……浦原さん?」
「せや!! 何であんなのがウチの隊の新隊長やねん!!」
「いや、俺に言われても……」
「何や、その反応!!」
柊は困ったように笑う。正直なところ、推薦したのも、最終的に決めたのも自分ではないので、その人たちに言ってくれと思った。しかし、これを直接言えば、彼女は確実に怒る。長年の付き合いから、それを何となく察していた柊は深くは言わなかった。
「まあ、浦原さんも悪い人じゃないとは思うけど……」
「何やと!? アンタまであいつの味方するんか!?」
「そういうわけじゃないけど…」
失言だった。気をつけたつもりが、盛大に地雷を踏み抜いたようだ。やはり、どうも彼女を怒らせないように会話するのが、自分には難しい。そんなことを考えていた時だった。
「いやァ、ありがとうございます、柊サン」
突然、背後から聞いたことのある声がした。
振り返ると、そこには本日の主役が立っていた。浦原喜助。新隊長の彼が、真新しい隊長羽織を身に纏い、後頭部を掻きながら笑っている。その表情は相変わらず、気の抜けたものだった。
「久しぶりッスねェ」
「お久しぶりです、浦原さん。
隊長就任、おめでとうございます」
ひよ里は、ああ言っているが、柊は浦原の隊長就任をめでたいことだと感じていた。何しろ、護廷十三隊の隊長に成れるのは、死神の中でも、ほんのひと握りである。それに選ばれたのだから、目の前の男を祝ってやろうという気持ちになるのは、柊にとっては至極当然であった。
「いやァ、ありがとうございまス」
浦原が感謝の気持ちを伝えると、柊の方へ物凄い勢いで、抗議が飛んできた。
「そんなん祝わんでええわ!!」
また、ひよ里を怒らせたようだ。ただ、今回については、自分が原因と言うよりも、浦原への抗議のようにも感じた。
そして、浦原はそんなひよ里の態度を見て少し困ったように笑う。
「参りましたねェ……」
彼女が浦原を受け入れられないのは、何も浦原の態度の問題だけではないことは、柊も気づいていた。曳舟桐生。ひよ里が母のように慕っていた、前十二番隊隊長。そんな曳舟が突然いなくなったかと思えば、その後任として見たこともない、浦原が隊長として現れる。そう考えれば、すぐに受け入れられないのも無理はない。
「まあ、でも……」
「何や、周介」
ひよ里が怪訝そうな目つきで柊を睨む。
「浦原さんとひよ里なら、何だかんだ上手くやれそうな気はするよ」
「はァ!?」
「何でそうなんねん!!」
ひよ里が目を剥いた。どうやら、三度目も失敗したらしい。もはや、彼女に浦原喜助の話をするのは、地雷原の上でタップダンスをするのに他ならないようだ。
「いや、何となくだけど」
「何となくで言うな!!」
「いやァ、ボクとしてはありがたいッスけどねェ」
いや、そこで入ってきたら爆死するぞと、そう思いながらも口には出さない。柊は、ここにきて、あえて何も言わないことを覚えたのであった。しかし、その沈黙は柊自身によってすぐに破られる。
「それに、柊サンがそう言ってくれるなら、少し安心できまスよ」
「そうですか?」
浦原がそう考えるのは、柊にとっては意外であった。彼は、自分に何かを言われて、安心するようなタイプにはあまり見えなかったからだ。
「ええ」
浦原の返事のすぐ後、横から、また別の声が飛び込んできた。今度の声は先程の二人よりも、さらに聞き覚えのある声だった。というより、朝から散々聞いていた。
「やっぱお前もそう思うか、周介」
振り返ると、そこにはやはり平子が立っていた。
「平子隊長。いつから居たんですか?」
「ひよ里がお前に絡む前からや」
「……それ、最初からじゃないですか」
この人はいつもそうだ。いないと思えば、急に現れたりする。そして、どこにいたのかと問えば、普通に近くにいたで、などと口にしだす。要するに、常に自分のペースで生きている人なのだ。
「せやな」
平子は楽しそうに笑った。
「俺もな、喜助ならひよ里と上手くやれると思うとんねん」
その顔には、期待のようなもの半分、ニヤつきのようなもの半分と混じったものが浮かんでいた。
「へえ。何でです?」
柊の問いを聞いた後、平子は珍しく、真剣な顔つきになった。
「そら、アイツが人の顔色伺うん、あんまし上手いように見えんからやな」
この人は時折、真面目な顔で難しいことを口にする。まあ千度口を開けば、その中に一回あるかどうかくらいの頻度だと思うが。しかし、柊にとってはその一度は、彼の内側にある思慮深さを感じさせるには充分であった。
実際、柊はその言葉の意味がよくわかっていない。
「……?」
そのまま首を傾げる。ひよ里も同じようにキョトンとした顔で平子を見ていた。しかし、浦原だけは少し思うところがあったのか、笑みを薄くした。そして、彼もまた、いつになく真剣な顔で平子の方を見ていたのだ。しかし、平子はそんな、真剣な顔をすぐに崩していつもの雰囲気に戻った。
「まあ、一番は周介と似たようなヤツなら、ひよ里とも上手くやれるやろってことや」
再びニヤリと笑う。いつも通りの表情だ。
「お前ら両方、右向け言うたら『左に何かあったらどうします?両方見れるようにしません?』とか聞いてきそうやんけ」
「ああ、それはありそうッスねェ」
平子の分析に浦原が頷く。
「柊サンなら確かに言いそうでス」
それを聞いた柊は思わず、ツッコミを入れてしまう。
「いや、浦原さんのことも言われてますよね?」
「……あ、そうでしたね」
浦原がとぼけた顔で認める。そして、そのやり取りを見ていた平子は盛大に吹き出していた。
「はっはっは!! やっぱり似とるで、お前ら!!」
「どこがですか……」
柊は納得できないようで、静かに抗議をした。
「何じゃ、随分楽しそうじゃのう」
そこへ、よく通る声が響いた。褐色の肌に、紫がかった髪。猫のような瞳を持つ女性が、こちらへ歩いて来ていた。二番隊隊長、四楓院夜一。浦原喜助を新隊長へ推薦した人物である。
「あ、夜一さん。こんにちは」
「おお、柊か。久しぶりじゃのう」
「お久しぶりです。夜一さんは、相変わらず元気そうですね」
「かっかっか! お主も相変わらずの言いようじゃの」
夜一は豪胆に笑う。その懐の広さは、どこか平子と似ているところがあるように思えた。
「たぶん、俺がこんななのは、平子隊長の影響ですよ」
「それはありそうじゃ」
深く頷く。彼女も納得していることだし、いよいよ、平子が原因の可能性は高くなった。
「なんでやねん」
しかし、平子本人は不満そうに口を挟んだ。
彼からすると、意外と心外らしい。夜一はそれを見て、愉快愉快と再び笑い出す。
「ところで喜助」
「はい?」
「隊長になった気分はどうじゃ?」
「そうッスねェ。まだ分からないことばかりでして」
それを聞いた夜一は満足そうに頷いている。
「ふむ。まあ、せいぜい苦労することじゃな」
「推薦した本人がそれ言いまス?」
「かっかっか! 儂が推薦したんじゃ。それくらい覚悟してもらわんとのう」
その言い草に浦原は困ったように笑った。ひよ里は相変わらず不機嫌そうだったが、先程よりは少し落ち着いている。柊はそんな様子を見ながら思う。
何だかんだ、二人は上手くやっていけるんじゃないだろうか。少なくとも、相性が悪いわけではなさそうだ。
「ほな、そろそろ帰るで」
平子が声をかけた。
「はい」
「惣右介も、そないなとこ突っ立っとらんでこっち来いや」
少し離れた場所で待っていた藍染が、その声に反応して、静かに歩み寄ってくる。
「はい、平子隊長」
平子はその顔を見て、少し首を傾げた。
「お前、全然話入って来んかったな」
「そうでしたか?」
「喜助のこと苦手なんか?」
藍染は一瞬だけ目を見開いた。
しかし、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「いえ。皆さん、とても楽しそうにしていましたので」
「……ほう」
「それに、お話自体は聞こえていましたよ」
ほんの一瞬だけ目を細めて呟く。
「……そうか」
しかし、それ以上は何も言わなかった。
その表情は、すぐにもとの軽いものに戻っていた。
「まあええわ。 ほな、帰ろか」
そう言って、平子が前を向いた、その時だった。ほんの一瞬だが、藍染は、その背中へ静かに視線を向けた。
「…………」
眼鏡の奥で、目が僅かに細められる。
そして。その口元に、誰にも気づかれない笑みが浮かんだ。柊も平子も、そこにいる誰もそのことに気づくことはなかった。
第2話 HELLO AND FAREWELL 完
今後、柊との交流を特に見てみたいキャラクターは?
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1. 朽木白哉
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2. 砕蜂
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3. 志波海燕