「その人、起こさなくていいですよ」
目盛玻璃は、診察台の脇に椅子を寄せながら言った。眠っている男より先に、壁の時計を見る。ホークスが入室したときもそうしていたから、これで三度目だ。
「ご予定でも?」
「あります。健康的な時間に帰って、寝たいという予定が」
「そりゃ大事だ」
ホークスが笑うと、記録係の職員は笑わずに端末を操作した。
男は違法薬物の運び屋だった。逮捕そのものは昨日の別件だが、押収した配送記録の中に、警察が敵連合の関連施設として捜査している住所があった。
目的地を知らされず、荷物の中身も見せられない。それでも、運んだ人間には運んだ日の記憶がある。
玻璃は右手の手袋を外した。男の手首を取り、指を二本、脈を測るように内側へ添える。
「直近の搬入からお願いします」
「はい」
彼女の目が、男の顔から外れた。
ホークスは出入口の横に立ったまま、わずかに翼を畳んだ。眠っているとはいえ、相手は拘束時に暴れている。医療職員の立ち位置を確認し、羽根を一枚だけ診察台の脚の陰へ落とす。
「……箱は六つ。裏口です。呼び鈴を押すと、扉が開いてるから置いていけって」
「声の主は」
「姿を見てないですね。男の声。それと、入口に人が立ってますけど……これ、人かな」
記録係の指が止まった。
「どんな特徴ですか」
「大きい。顔に、嘴みたいなのがある。動かないから、この人、置物だと思ってます」
脳無。
ホークスは職員と視線を合わせた。警察から共有された施設の外観だけでは、内部に何がいるかまでは分からなかった。動いていないという証言も、これから踏み込む側には気休めにならない。
「目盛さん。その人、扉の内側をどこまで見てます?」
玻璃の視線がわずかに下がる。
「右側に棚。奥に階段。左は……ビニールのカーテン。床が濡れてる。冷たい風が来てます」
「棚は入口から見える位置?」
「うん。あ、ごめんなさい。はい、見えます」
彼女は顔も上げずに言い直した。
その程度の崩れ方は、ここでは疲労として処理される。ホークスも訂正せず、手元の見取り図に棚の位置を書き込んだ。
十分ほどして、玻璃が左手で眉間を押した。
「もう少し遡れますか。取引を始めた経緯を確認したい」
「……納品先、ここだけじゃないんですよねえ」
返事が、少し間延びした。
「別の場所も特定できるなら」
「それぞれ別の依頼人です。今回の施設に繋がるかどうかまで、全部見ないと分かりませんけど」
まだ右手は男の手首に触れていた。やれないとは言っていない。だから職員も、続けてほしいと言いかける。
「いったん切りましょうか」
ホークスは図面を持ち上げた。
「明日の突入に必要な確認は取れた。今ここで潰れられると、確保した連中の確認が後ろ倒しになるんで」
「……あと一件だけ」
「その一件が長いんすよね、こういうの」
玻璃が先に手を離した。
「十分休んだら、できますよ。お水もらえます?」
職員が医療担当を振り返った隙に、彼女はホークスを見た。礼を言う顔ではなかった。あと一件だって、とでも言いたそうに片方の眉が上がっている。
止めた俺に文句を言われても。
羽根を翼へ戻しながら、ホークスは肩をすくめた。
*
結局、庁舎を出たのは一時間半後だった。
追加の閲覧と、翌日の配置確認。
敵連合のアジトと脳無の保管施設を同時に押さえ、拉致された雄英生、爆豪勝己を奪還する。行方の分からないラグドールの捜索も並行して行う。
玻璃の報告は、突入班へ渡す資料に加えられた。彼女自身は後方に待機し、確保した者の記憶を確認する役。ホークスには、突入地点から少し離れた位置での警戒と、想定外の負傷者が出た場合の搬送が割り振られた。
集められた顔ぶれを見れば、公安も警察も、この機会に連合を潰すつもりなのが分かる。
オールマイトに、エンデヴァー。ほかにも、普段なら一人で大抵の現場を片づけるヒーローたち。
あれだけ揃えても、相手にはワープがある。捕まると分かってから逃げられるのでは、包囲する意味がない。
最初の数秒が勝負だった。
「啓悟」
送迎車を降り、玻璃の住む部屋まで上がったところで、呼び方が変わった。
「電球、替えられる?」
ホークスは彼女の玄関と、その顔を交互に見た。
「替えられるけど」
「じゃあ入って。脚立を立てると棚にぶつかりそうなの」
「俺、明日に備えて休めって言われたばっかなんだけど」
「電球一個で疲れちゃう?」
さっきまで眉間を押していた人間に言われたくない。
それでも、玄関先で帰るほどの理由にはならなかった。明日の集合時刻までには余裕がある。照明器具一つなら、靴を脱いでから履くまで五分もかからないだろう。
そういう計算は、ここへ来るたびに外れる。
廊下の先で、ガラスの縁が幾重にも光っていた。
壁際に並ぶ棚も、その中の器も、透明なものがほとんどだ。魚のいない大きな水槽には、水とガラス玉が入っている。ポンプの作る細い流れに押されて、照明の光だけが底を動いていた。
最初に見たとき、何を飼うのかと聞いた。
玻璃は少し嫌そうな顔で、何も、と答えたものだ。
家具の配置は以前と変わらない。ただ、水槽の隣に細長いガラスの柱が増えている。ホークスの胸ほどの高さがあり、厚い底まで継ぎ目が見えなかった。
「また増えた?」
「うん」
「これ、どうやって運んだの」
「普通に」
「普通にねえ。誰かに手伝ってもらった?」
「ひとりでやったよ」
玻璃は立ち止まりもせず、交換用の電球を取りに行った。
ホークスは柱の底と廊下の幅を見比べた。運べなくはない。運べなくはないが、彼女がこれを抱え、あの角を曲がるところは、あまり想像したくなかった。
「腰、やるよ」
「やってないもん」
奥から返ってきた声が、やけに幼い。
仕事場でこれを聞かせてやりたい、と思うことはある。
もっとも、聞かせたところで使い道を増やされるだけだろう。彼女が好き好んであの口調を選んだわけではないことくらい、知っている。
昔は、教官の言葉にも平気で「なんで?」と返していた。
同じ座学に押し込まれた頃、彼女はまず、自分を名字で呼ぶなと要求した。玻璃の方がいい。ガラスの名前だから。
それなら啓悟でいい、と答えたら、次の瞬間からそう呼んだ。
名字を使わなくて済むのが、あの頃の彼にはありがたかった。
玻璃は、その理由を聞かなかった。
「ねえ、こっち」
呼ばれて振り返る。彼女は電球の箱を抱え、ガラス棚の前で待っていた。
ホークスは背から二枚の羽根を離した。一枚で器具のカバーを支え、もう一枚で切れた電球を回す。
「そこ、縁、薄いから」
「見えてる」
「もうちょっと右」
「これ以上やると留め具に当たる」
「……じゃあ、ゆっくり」
普段なら人を抱えて飛ぶ羽根が、今日は電球一個を運んでいる。しかも監督が厳しい。
明かりが戻ると、玻璃の顔からようやく力が抜けた。棚の手前に膝をつき、下からカバーを見上げている。
「うん。これ」
公安で取引先を三つ特定したときより、ずっと満足そうだった。
ホークスは古い電球を空箱へ収めた。ついでに棚へ目をやり、いつもと同じ場所に、いつもと同じ瓶があるのを確かめてしまう。
細長い、透明な瓶。
中には赤い羽根が一枚入っている。
今の翼についているものより小さい。軸の根元に少しだけ白い部分があり、先がわずかに曲がっていた。
もう彼の感覚には繋がっていない、昔の羽根だ。
「それ、端が傷んできてない?」
言ってから、余計なことを聞いたと思った。
玻璃は瓶を見た。
「どこ?」
「先。新しいのに替える?」
「やだ」
即答だった。
「同じくらいの、あるよ」
「同じじゃない。これがいいの」
こういうことを、何でもない顔で言う。
ホークスは空箱の蓋を閉じ損ね、指で折り目を押し直した。いや、分かっている。羽根の持ち主を惜しがっているわけではない。彼女は気に入ったガラスの置き方を、一センチ動かされただけでも嫌がる。
初めてこれを渡した日だってそうだった。
じっと翼を見られて、綺麗だと思ってくれたのかと、少し背筋を伸ばした。欲しいと言われて、形のいい羽根を選んだ。
玻璃はそれを瓶へ入れ、窓際へ運んだ。
ガラスに薄く映った赤を見て、笑ったのだ。
「……何」
「いや。大事にされてんなと思って」
「大事だよ。触らないでね」
触らないよ。
俺が出した羽根なのに、とまでは言わなかった。
「お茶くらい出る?」
「麦茶なら。飲む?」
「飲む」
五分で帰る計算は、その辺でやめた。
渡されたグラスの縁は薄かった。ホークスはソファの端に座り、背もたれへ翼を当てないよう少し体を斜めにする。玻璃は向かいの椅子で、外していた手袋を揃えて鞄へしまった。
二人きりで茶を飲むくらい、今さら何でもない。
ただ、これを何でもなくなくしようとしたことは、一度ある。
十八で事務所を持って、彼女と会う時間が減り始めた頃だった。
誰かと付き合ったりしないのかと聞くと、興味がないと言われた。それを聞いて安心したくせに、余計な一言まで足した。
俺でも?
玻璃は、啓悟ならいいけど、と答えた。
そのまま頷けばよかったのかもしれない。けれど、彼女の顔に驚きも期待もないことが気になって、結局、好きとは違うでしょと自分から逃げた。
うん、と言われた。
あれ以上、掘らなくてよかったとは思う。
思うのと、綺麗に忘れるのとは別の話だった。
「何か食べる?」
「今はいい。……そういや今日、下見の途中でガラスの店を見たよ」
玻璃が顔を上げた。
「神野の?」
「うん。駅から二本くらい入ったとこ。お前が好きそうなのが窓にあった」
「どんなの」
「透明で、こう、下が丸くて。上が細い」
「大体そうじゃない?」
ひどい。
いや、確かに大体そうだ。
ホークスはグラスを置き、両手で形を作ろうとした。玻璃はしばらく眺めてから、椅子を寄せてきた。
「見せて」
「店のとこだけね」
「うん」
「十秒」
彼は右の手袋を外した。
仕事では、必要に応じて記憶を見せることもある。自分の目が拾ったものを、別の目で探し直せるのは便利だった。
どこで止まったかを、こちらから確かめられない。その不便さまで、便利さで消えるわけではない。
玻璃の指が手首へ触れた。
ホークスは店の窓を思い出した。路地の角。日除けの下に小さな看板。向かいの建物が映り込んでいて、中が少し見えにくかった。
「あ、これ……」
声が変わった。
彼女の顔を見ようとすると、指に少し力が入る。
「待って。下の段。右も見た?」
「前を歩いただけ。覚えてるのは、その辺まで」
「……うん。分かった」
指が離れた。十秒より短かった。
玻璃はすぐ携帯を取り出した。店の名前を検索し、作品の写真を拡大する。近づいた椅子を戻すことも忘れていて、画面の端がホークスにも見えた。
「これ。古い吹きガラス。口のところ、ちょっと傾いてるでしょ」
「俺が見たの、それ?」
「そう。そこ、光が二重になるの」
嬉しそうに言って、もう一度写真を大きくした。
ああ、そっちね。
手首に触れられたことより、この顔を自分に向けてほしかった方が、たぶん面倒だった。
ホークスは手袋を戻し、残りの麦茶を飲んだ。
「買うの?」
「見てから。写真じゃ分かんないし」
「一人で行く?」
「うん」
「大きいもの買うなら配送にしてね。さっきの柱、俺はまだ納得してないから」
「啓悟に納得してもらわなくても、もう置いてあるもん」
それはそう。
玻璃は画面を見たまま、ふと指を止めた。
「明日、あの辺、壊れちゃう?」
ホークスは空になったグラスを見下ろした。
店は突入先そのものではない。ただし、戦闘が広がれば無関係でいられるほど遠くもなかった。
「できるだけ、壊さないようにはするよ」
「窓、割らないでね」
「中に人がいたら、そっちが先」
彼女がこちらを見た。
「窓を壊した方が早ければ、壊す。約束はできない」
言い方を柔らかくすることはできた。でも、約束だけしておいて守れない、というのは、この相手にはやりたくなかった。
玻璃は口を尖らせた。
不服なのが、隠れていない。
「……じゃあ、終わったら見てきて」
「行けそうならね」
「写真も」
「はいはい」
その返事でようやく携帯が下がった。
茶の礼を言って、立ち上がる。玄関までついてきた玻璃は、靴を履く彼の肩越しに、明かりの戻った部屋を一度振り返った。
「電球、ありがと」
「どういたしまして。今日はちゃんと寝なよ」
「啓悟もね」
扉が閉まると、廊下は急に暗かった。
ホークスは自分の右手を一度握り、携帯で翌日の集合時刻を確認した。
*
決行予定の二十分前、最初の連絡が入った。
被害者と思われる二名を発見。
近隣の商業ビル屋上。少年一名、成人女性一名。
指示を最後まで聞く前に、ホークスは翼を広げていた。
ビルの上に人影が見える。少年が手を振り、それから、こちらへ来いと言わんばかりに腕を大きく回した。足元には女性が横たわっている。
赤い羽根を先に降ろす。
屋上の出入口、給水設備の陰、向かいの建物。動くものはない。女性のそばへ一枚を滑らせたところで、少年がそれを睨んだ。
「触んな。……いや、そっち、先に見ろ」
爆豪勝己だった。
写真で確認した顔より、少し頬がこけている。手首には拘束具が残り、その両手で女性の肩を支えようとしていた。
「了解。待たせたね」
ホークスは着地し、まず女性を確認した。ラグドール。呼吸はある。返事はない。
救護班へ場所と状態を伝えながら、別の羽根で少年の拘束具を切った。
「そっちは怪我してる?」
「してねえ」
「どこか痛む?」
「してねえっつったろ」
「念のためね。さっきまで、どこにいた?」
爆豪は自由になった手首を擦った。
「連中のアジト。いきなり黒い霧が出て、こいつと一緒にここへ出された」
「自分で抜けたわけじゃない?」
「……違えよ」
その返事だけ、低かった。
「勝手に放り出しやがった。何も言わずに」
ホークスは彼の顔を見た。敵に捕まったうえ、戻ってくるときまで自分で選べなかった。その苛立ちは分かる。
ただ、今はそれを聞いてやる時間を、敵がどれだけくれるか分からない。
無線へ情報を流すと、現場本部が即座に動いた。
突入の前倒し。
二地点とも、直ちに。
屋上へ救護班が駆け上がってくる。ホークスはラグドールの体を羽根で支え、担架へ移した。爆豪は立ったまま、その顔を見下ろしている。
「何か言ってた? この人」
「ずっと起きねえ。息はしてた」
「見ててくれたんだ」
「それくらい分かるわ」
噛みつくような返事だった。
ホークスは頷き、担架の通る幅を空けた。爆豪も、何も言われずに同じように退いた。
耳元で、突入班の声がした。
アジト内部、無人。
爆発物の確認を継続。
別働隊、保管施設へ突入。
「……アジト、誰もいないってさ」
爆豪が顔を上げた。
「は?」
「残ってる人も、今のところいない」
「さっきまで全員いたぞ」
ホークスは視線を向けた。
「全員?」
「俺んとこに来てた連中は、全員。逃げる支度なんざしてなかった。あの霧の野郎が何か言って、急に……」
爆豪は言葉を切り、屋上の床を睨んだ。
続いて保管施設からも、同じ報告が届いた。
脳無はいない。大型の設備が運び出された跡。残された容器と配管、床の液体。
搬入口には棚があり、その奥は空になっているという。
玻璃が昨日読み取った配置と、そこまでは一致していた。
敵が逃げた。
しかも、追う側がまず保護せざるを得ない二人を、わざわざ手の届く場所へ戻してから。
ホークスは現場本部へ連絡を入れた。
「少年の話じゃ、直前まで全員同じ場所にいたそうです。予定を知って動いた可能性がある。情報の共有範囲も洗い直した方がいい」
『承知している。君は二人の搬送を優先してくれ』
「了解」
通信を切ると、爆豪がこちらを見ていた。
「逃がすのかよ」
「追う人はいるよ。俺は君らを病院へ連れてく」
「俺は歩ける」
「それも、ちゃんと確認してもらおう。元気だって分かった方が、待ってる人も助かる」
爆豪は何か言い返しかけた。
結局、口を閉じたまま、救護班について歩き出した。
ホークスはその後ろを追い、階段へ向かった。降り口で少年が一度だけ振り返る。
「……おい。取引なんざしてねえぞ」
「うん?」
「連中の誘いは蹴った。勝手に返してきただけだ」
ホークスは足を止めた。
そっちも気になっていたのか。
「分かった。ちゃんと伝える」
爆豪はまだ何か確かめたそうに彼を見て、それから前を向いた。
その背中を見送って、ホークスは、胸の奥にずっとあったものをようやく吐き出した。
生きている。
悪態もつくし、腹も立てるし、自分が何をしたと思われるかまで気にしている。
無線の向こうでは、捜索範囲を広げる指示が続いていた。捕まえられるはずだった敵を取り逃がした。誰のどの情報が漏れたのか、調べなければならない。
それでも、戻ってきた少年を見て嬉しかったことまで、引っ込める気にはなれなかった。
*
搬送車が出たあと、ホークスは短く周囲を見て回った。
今のところ、ヒーロー側に新たな負傷者は出ていない。近隣住民の巻き込まれも確認されていない。警戒は続いているが、消防車の出番はなかった。
玻璃の気にしていた店も、同じ通りにあった。
看板には明かりがついている。窓の向こうで、店主らしい老人が、棚の品を一つずつ奥へ下げていた。外の騒ぎを聞いて、早めに店を閉めるのだろう。
例の器は、まだ窓際に残っている。
なるほど、口が少し斜めだった。
ホークスは窓を一枚撮った。
『割れてないよ』
玻璃からの返事は早かった。
『よかった』
何について言っているかは、聞かなくても分かる。
携帯をしまおうとしたとき、ガラスの向こうの老人と目が合った。
老人は彼の翼を見て、それから、道路の先を見た。何かを尋ねるように手が半分上がる。
ホークスは窓越しに軽く頭を下げ、入口まで回った。
「この辺、大丈夫ですかね」
老人は扉を細く開けて聞いた。
「今のところ、周囲に危険は見つかってません。今夜は早めに閉めといてもらえると」
「そうですか。……子供、見つかったんですって?」
ホークスは頷いた。
「はい。今、病院へ」
「ああ。よかった」
今度の「よかった」は、別のものだった。
老人はそれだけ聞くと、ほっとしたように肩を下げた。扉を閉める間際に、気をつけて、と付け足す。
「ありがとうございます」
笑って返すのに、無理は要らなかった。
ホークスは店の前を離れ、搬送先へ向けて翼を広げた。
窓も、通りも、彼が降りてくる前の形のまま、背中の下で小さくなっていった。