作戦中止の通知が届いたとき、ホークスは、突入班の配置から二人を外していた。
搬送される人間の人数に対して、救護が足りない。隣接する建物には夜間も職員がいる。裏口を塞ぐなら、避難口を別に確保する必要がある。
そこまで書き込んだ図面の上に、上司が一枚の紙を置いた。
「指定協力事業に対する捜査は、再審査になった」
「二十人いますよ」
「承知している」
「その人たちに、もうしばらく待ってもらえって?」
返事はなかった。上司は椅子にも座らず、机の端を見ていた。
対象は、オール・フォー・ワンの傘下企業が運営する療養施設だった。保護という名目で運ばれ、家族との連絡を断たれた人間が、少なくとも二十人いる。以前、商店会の会計担当者が戻された施設と、運営母体は同じだった。
今回の内部協力者は、その二十人が週末に移送されると知らせてきた。移送先の記録はない。施設には、過去の収容者の記録も残っている。
突入は明晩。そのための図面だった。
「再審査は、いつ終わります」
「日程は出ていない」
ホークスは赤いペンの蓋を閉めた。
「中止命令、文書で残してください。俺への口頭指示で終わらせないで」
「……そのために持ってきた」
紙には既に、いくつもの部署の印が並んでいた。
緑谷出久から個性が奪われて、五か月が経っていた。
その間に、オールマイトは引退を公表した。街がどうなるかと誰もが恐れたが、少なくとも、恐れていた形にはならなかった。
大きな犯罪組織が続けて摘発された。奪われた品物が戻り、失踪者が見つかり、働き手を失った家に仕事が回った。救急車を待つ時間が短くなった地区もあった。
数字を疑って、ホークスは元の記録まで調べた。減った事件の全部が、届出を握り潰された結果ではなかった。
夜勤を終えた人が、始発まで店で待たずに帰れるようになった。
商店街の女店主は、娘に迎えを頼むのをやめた。
あの密告者の家族の子供は、学校の帰りに友達とアイスを買った。
その一方で、玻璃が公安で見たものの一部が、外へ流れた。
違法な拘束。隠された処分。育成の名で子供に課された任務。
嘘なら、まだよかった。
ホークスの知っている職員が画面の中で頭を下げ、権限を失った部署の仕事は、別の組織に移った。その移管先へ、以前からオール・フォー・ワンに繋がる企業が人と金を出していた。
公にされた記録を消せとは思わない。被害を受けた人間に、今は都合が悪いから黙れとも言えなかった。
ただ、告発する資料を選んだ側の拘束施設には、こうして踏み込めなくなっていた。
*
エンデヴァーから連絡が来たのは、その日の夕方だった。
指定されたのは、休業中の事務所の会議室だ。照明は半分しか点いていない。テーブルの上には、ホークスが今朝まで修正していたものと同じ図面が広げられていた。
「やるんですか」
挨拶の代わりに聞いた。
「中にいる者を置いてはおけん」
「命令違反で済む保証、ありませんよ」
「分かっている」
低い返答に、勢いだけのものはなかった。
机には救出後の搬送先と、証拠の保全を引き受ける弁護士の連絡先もあった。参加するヒーローは六人。施設の職員を巻き込まないように勤務表まで確認してある。
オール・フォー・ワン本人を倒しに行く計画ではなかった。人を助け、記録を確保して、あの企業を保護対象に指定した決定を覆す。そのための作戦だった。
「記録が出れば、動ける人間はまだいる」
「出せれば、ですね」
「だから、お前に頼んでいる」
ホークスは図面から顔を上げた。
「裏の搬送口が、以前のまま使えるか確認したい。お前が最初に組んだ経路だ」
頼られたことが、まだ嬉しかった。
こんなときにも、と思う。炎の向こうに背中を追っていた頃と変わらず、期待に応えたくなる。無意識に姿勢を正したら、肩甲骨の下が引きつった。
痛みはすぐに引いた。エンデヴァーはそこを見なかった。
「俺を通せば、公安に知られますよ」
「知られれば止めに来るだろうな」
「それでも?」
「お前は、何をするか自分で決める男だろう」
ホークスは返事をせず、図面を引き寄せた。
確かに、まだできる。
入口を教えられる。警備の癖も、輸送車が通る時間も知っている。自分の身体が飛ばなくても、この六人を中へ入れることはできた。
「今夜中に、一度連絡します」
資料を受け取り、そう言った。
*
帰りの車の中で、ホークスは例の弁護士へ電話した。
「二十人、施設から出してください。今日中に所在の確認。明日の夕方までに、家族か、本人の指定する保護先へ」
『一度、持ち帰らせていただきます』
「先生に直接繋いでくれれば早いですけど」
数分後、折り返しが来た。
『施設については、適切な保護が行われていると聞いているよ』
耳に入った声に、ホークスは車を路肩へ寄せた。エンジンを切り、録音を始めた。
「なら、本人が出たいと言えば出られますね」
『誰に聞いたんだい』
「そこは教えません」
『君はいつも、欲しいものをはっきり言うね』
ホークスは二十人の名簿を送った。調べていたことは隠さなかった。内部協力者に繋がる情報は削ってある。
向こうは、しばらく黙っていた。
『いいだろう』
「記憶も、個性も、今あるものを残して」
『ずいぶん念入りだ』
「前があるんで」
『では、こちらからも頼もうか』
ホークスは窓の外を見た。
保育園から出てきた男が、子供の上着を着せようとしていた。子供は両腕を上げたまま、何かを一生懸命に話している。
『無許可の武力行使を止めてほしい。誰が、いつ、どこから入るのか。君なら把握できるだろう』
予想はしていた。
だから電話したのだ、ということまで、分かっていた。
「人を返す条件にするわけですか」
『君の要求は受け入れたよ。その二十人は返す。だが、施設を襲われたら、こちらも守らなくてはならない』
上着のファスナーが引っかかったらしい。男がしゃがみ直した。
『今の協力関係を壊そうという人々がいる。話をする気はあるが、毎回建物を壊されてはね』
「その協力関係を嫌がった人を、建物の中へ閉じ込めた」
『君が不満を伝えてくれるなら、改善できることもある』
「俺が伝えなきゃ、そのままなんでしょう」
『全てに目が届くわけではないからね』
よく言う。
ホークスは名簿の一人目を指で押さえた。家族が最後に会ったときの写真が、顔の横に添付されている。
「二十人を引き取ってから、話します」
通話を終えると、車の外の親子はもういなかった。
エンデヴァーには、すぐに連絡を入れた。解放の申し出があったことも、代わりに何を求められたかも、伏せなかった。
『人が戻るのはいい』
エンデヴァーは言った。
『だが記録は残る。次に誰を連れていっても、また同じ取り引きをするのか』
「……そうなります」
『それでいいとは思わん』
ホークスも、そう思っていた。
通話の向こうで紙の擦れる音がする。おそらく、あの図面を見ている。二十人を運び出すための配置は、もう変える必要がある。
『帰ってきた者の証言だけで、あの施設を捜査できるか』
「今までなら」
『今を聞いている』
答えられなかった。
『誰かが中を確かめなければ、あの男が返したものしか見られなくなる』
ホークスは額をハンドルにつけた。
間違っていない。
だから、勢いで行くなとも、もう少し考えろとも言えなかった。
「もう一晩、待ってもらえませんか」
『二十人の確認までは待つ。その先は、お前の返事を聞く』
*
翌日、二十人は本当に戻った。
記憶が既に失われている人もいた。自分の入所に同意した覚えがないという人も、家族に会うなと言われていた人もいた。
全員に医師をつけ、別々に話を聞いた。ホークスは迎えに来た家族を案内し、面会を拒んだ一人には別の部屋を用意した。
夕方、最後の引き渡しが終わると、廊下の椅子に座った。
元の勤務先に戻れるだろうかと聞いた人がいた。
明日は犬の散歩に行く、と言った人もいた。
施設の職員を裁いてほしい、と、名前を一人ずつ挙げた人もいた。
戻しただけで済んだとは、誰も言っていない。
端末には、突入経路の確認を求めるメッセージが届いていた。
ホークスは図面を開いた。
正面から戦わなくていい。内部の記録を持ち出せれば、今も職務を果たそうとしている人間に渡せる。六人のヒーローを通す手はある。自分が今から合流して、最後まで指揮を執ることもできる。
その先を、考えた。
証拠が出たとして、誰がオール・フォー・ワンを捕まえる。
裁判所が命令を出したとして、誰が従わせる。
オールマイトの後継者を待つことは、もうできなかった。緑谷は学校へ戻った。救助訓練の補助をしていると、先日届いた連絡には書いてあった。
ほかの誰かがいつか倒せるという可能性は、なくなっていない。
その可能性のために、どこまで争い続けるのか。
以前なら、それを考える前に飛んでいた、とは思わなかった。考えていた。危険な場所へ誰を送るかも、救えない数も、ずっと数えてきた。
今、同じように数えた先で、望んだ答えが出なくなっていた。
六人が成功すれば、次へ進める。次の施設、その次の企業。保護の名目で連れ去られる人間を減らし、誰が何をしたか公にする。その仕事には意味がある。
それでも、そこから始まる長い争いを、自分が支えたいのか。
記録を守って、被害を訴える人を守って、壊されたところを直す。ずっとやってきた。それを続けながら、あの男を倒すための仕事だけを、やめることはできた。
やめれば、二十人を閉じ込めた人間の多くは罰を受けない。
記憶を失った人に、取り戻す手段も渡せない。
そして次に同じことが起きたとき、自分はまた電話をかけるのだ。
ホークスは連絡先を開いた。
「条件を詰めます」
弁護士にそう告げた自分の声は、思ったより普通だった。
六人をオール・フォー・ワンの側へ引き渡さない。個性の奪取も、記憶への干渉も認めない。家族や事務所への報復をしない。拘束するなら公的な施設で、弁護士との面会を保証する。
相手は三度、電話を切った。
四度目に戻ってきた回答には、六人の活動資格を停止し、審査が済むまで身柄を確保することが含まれていた。
「審査の期限は」
『現段階では、お約束できません』
その一文を、ホークスは長く見ていた。
期限を決めさせられないなら断る。そう言えば、まだ戻れた。図面は端末の中にある。明日の朝には、違う仕事をしているはずだった。
彼は合意事項を文書にさせ、受け入れ先の警察と弁護士の双方に送った。
そのあとで、六人の名前と集合場所を渡した。
*
地下駐車場には、雨の音が届かなかった。
エンデヴァーが車から降りたとき、ホークスは出入口の前に立っていた。左右には警察官がいる。道路へ出るスロープにも、車両が二台停まっていた。
エンデヴァーの視線が、警察官からホークスへ移った。
「お前か」
「はい」
後続の車から降りたヒーローが、一歩進みかけた。エンデヴァーが片手で止めた。
熱が頬に当たった。
身体が先に、距離を取ろうとした。飛べば天井にぶつかる高さだと、もうない羽の幅を測ってしまう。ホークスは足を動かさなかった。
「返ってきた二十人は」
「全員、本人の希望する場所へ。診察も終わりました」
「そうか」
その返事だけは、静かだった。
ホークスは身柄の受け入れについて説明した。連れていく場所、弁護士の名前、面会の手順。警察官が拘束の理由を読み上げようとすると、エンデヴァーは手を上げた。
「その前に、お前に聞く」
ホークスを見ていた。
「命令か」
「俺が持ちかけました」
「誰を守るためだ」
六人です、と答えることはできた。
戦闘になれば危ない。罠かもしれない。これ以上失いたくない。口にできる理由はいくらでもある。
けれど、その図面を一緒に見た。危険を理解した人間が、それでも行くと決めたことを知っている。
「あなたたちを行かせたくなかった」
ホークスは言った。
「あの男との争いを続けるために、これ以上、俺の仕事を使いたくなくなった」
「争いをやめれば、なくなる被害ばかりではない」
「分かってます」
「それを分かった上で、俺たちを止めるのか」
口の中が乾いていた。
「はい」
エンデヴァーの肩で、炎が大きく揺れた。
警察官が盾を持ち直した。ホークスの隣にいた若い男の呼吸が、急に速くなる。
抜けようと思えば、抜けられる。ここには、エンデヴァーを確実に止められる人間はいない。
ホークスは、そのことを知ってここに来た。
エンデヴァーも気づいたのだろう。警察官たちを一度見て、それから、後ろの五人に向き直った。
「ここで戦闘はしない」
低く告げると、炎を収めた。
誰も賛成しなかった。
誰も、彼を置いて走らなかった。
手錠をかける役は、ホークスが引き受けた。金具を持つ自分の指先が冷たかった。
「……この先、あの施設から訴えが出たら、どうする」
エンデヴァーが尋ねた。
「俺が窓口になります」
「いつまで」
「必要なだけ」
腕を差し出したまま、エンデヴァーはしばらく黙っていた。
「なら、聞き続けろ」
ホークスは顔を上げた。
「お前が止めたことを、よかったとは言わん人間の声もだ」
頷くまでに、時間がかかった。
警察車両の扉が閉まった。地上へ出ていく車を見送り、ホークスは、掌に残った金具の跡を親指で擦った。
*
玻璃と会ったのは、その三日後だった。
面会室の透明な仕切りは、まだ残っていた。彼女の前には大きな封筒があり、そこから何枚も写真がはみ出している。
「ずいぶん持ってきたね」
「見せたいのがあって」
玻璃は一枚を抜き出し、仕切りに立てかけた。
日当たりのいい部屋だった。壁一面の棚が、まだ空のまま写っている。窓から入った光が、透明な棚板を何枚も通って床に落ちていた。
「ここ、棚の背中もガラスなの。壁にぴったりつけないで、少し離してあるから、午後になると奥まで光が入る」
「新しい家?」
「うん。まだ工事してるけど」
次の写真は水槽だった。水もガラス玉も入っていない。
彼女は縁の部分を指で示した。厚みが均等で、継ぎ目が目立たないのがいいらしい。説明するうちに声が少し高くなり、途中で何かを思い出したように口を閉じた。
「……啓悟の部屋もある」
「俺の?」
玻璃は写真を封筒の上へ伏せた。
「一緒に暮らしたい」
ホークスは、引きかけていた椅子を止めた。
玻璃はこっちを見ていた。冗談を言っている顔ではない。欲しい棚を指して駄々をこねるときとも違って、口元が固かった。
「先生の指示?」
「違う」
「確認くらい、するでしょ」
「してない。私が決めた」
少し怒った声になった。
昔なら、その言い方で済ませていた。彼女が自分で決めたことと、誰かに都合よく与えられた選択を、わざわざ分けようとはしなかった。
今は、分からないまま受け取れなかった。
「俺があっちの仕事を引き受けたから?」
「部屋を作ってって頼んだの、その前だよ」
「じゃあ、俺が飛べなくなったから?」
玻璃の目が、彼の肩へ動いた。
言い過ぎた、とは思わなかった。
答えを聞くのが怖かった。
「……それで、分かった」
玻璃は言った。
「何が」
「啓悟が帰っちゃうの、嫌なんだって」
俯いて、封筒の角を押さえた。折れそうになる手前で気づいたのか、指を離す。
「前から嫌だったんだと思う。でも、羽が綺麗だから見てたいんだと思ってた。なくなって、見たいものが減ったはずなのに、会いたいのは増えた」
「病院でも?」
「うん」
病院で、彼女が一瞬だけ浮かべた顔を思い出した。
嬉しそうだった。
自分がいちばん、失ったものを数えていたときに。
「俺、あれは腹立ったよ」
「……うん」
「今も、なくなってよかったとは思ってない」
「知ってる」
知っている、と言ってもらえたことで、胸の詰まりが少しだけ緩んだ。
玻璃は、羽の代わりになるものを並べなかった。自分がいればいいとも、もう働かなくていいとも言わない。ただ写真を伏せたまま、彼の返事を待っていた。
「もし戻ったら?」
「嫌だけど」
即答してから、彼女は眉を寄せた。
「……でも、それで啓悟のこと嫌いにはならない。たぶん。戻ってほしくないのとは、違うんだけど」
そこまで言って、自分でもうまく分けられないらしく黙った。
ホークスは額に手を当てた。
ひどい告白だと思った。
もっと上手に嘘をつけるくせに、こういうところでやめる。
「玻璃、それ、好きって話してる?」
「そう」
声が小さくなった。
その小ささに、心臓が一度、妙な打ち方をした。
十八のときには聞けなかった言葉だった。今さら聞かされても、喜ぶだけでは済まない。彼女がしたことも、自分が三日前にしたことも、消えないままここにある。
それでも、玻璃が写真の端を見つめていると、こっちを向かせたくなった。
「俺の気持ち、見ないの」
「見ない」
「ずいぶん便利な個性、持ってるでしょうに」
「嫌だから」
玻璃は顔を上げた。
「私のこと、嫌いなところまで見たくない」
喉まで出かけた軽口が、止まった。
触れて、確かめて、望ましくないものを取り除く。彼女には、その手段がある。黒霧にしたことを、ホークスは忘れていない。
その彼女が、今、触れることを怖がっている。
「嫌いなところは、あるよ」
玻璃の口元がきゅっと縮んだ。
「うん」
「そこをなくして、一緒に暮らす話にはできない」
「しない」
答えたあと、彼女は不満そうに眉を寄せた。
「勝手に触らないって、言ったじゃん」
守っていた。
少なくとも、あれから今日まで、彼女は彼に近づくたびに手を止めていた。誰にでも同じことをするわけではない。その偏りも含めて、玻璃だった。
ホークスは写真を指した。
「寝る部屋は?」
「こっち」
玻璃が、慌てて別の写真を探した。二枚まとめて出してしまい、片方が床に落ちる。拾おうとして椅子を鳴らしたその様子に、思わず口元が緩んだ。
「そんな急がなくていいよ」
「急いでない」
写真に写っていた寝室には、大きな窓があった。透明なガラスの向こうは庭で、まだ土が露出している。
「カーテンいるな」
「光、入らなくなる」
「寝るときは閉めたいんだけど」
「……開けるとき、端にちゃんと寄せられるやつなら」
ホークスは写真から彼女へ視線を戻した。
もう、一緒に住むための話をしている。
そのことに気づいたのは、玻璃も同じだったらしい。次の写真を持ったまま、動かなくなった。
「すぐには移れないよ。家も仕事も、片づけるものがある」
言葉にしてから、息を吐いた。
玻璃が、ゆっくり頷いた。
「待つ」
それは、あまり聞いたことのない返事だった。
「あと、俺の荷物を入れる前に、家を見せて」
「うん」
「先生の連絡係として来るんじゃなくて」
「分かってる」
面会終了を知らせる短い音が鳴った。
玻璃はいつもなら不満を言うところで、写真を丁寧に揃え始めた。寝室の一枚だけを、仕切りのこちらへ渡せるように端へ置く。
「持ってっていいよ」
ホークスは係員に確認してから受け取った。
帰り際、玻璃が立ち止まった。
「啓悟、私、明日も会いたい」
「明日は仕事」
「夜は?」
「……終わったら、連絡する」
廊下へ出ると、端末に通知が来ていた。
拘束された六人のうち、一人の弁護士からだった。審査の日程が決まらない。本人は拘束の不当性を訴えている。ホークスにも、説明を求めていた。
彼は返信の画面を開き、面会に行く時間を入れた。
脇に挟んだ封筒から、寝室の写真が少し覗いていた。落とさないように奥へ押し込み、それから、次の窓口へ電話をかけた。