破壊神が現れた廃墟より少し離れた別の廃墟内にて、硬く冷たい床に薄いシーツを引いたその上に天音は横たわっていた。出血多量だった腹部にはミイラ男のように包帯がぐるぐると巻かれている。
「……起きないね」
横たわる天音の手を握って、静かに眠る天音の顔を見ながら何かせわしなく動いているロゼに語りかける。
どうして、自分の身体が動かなかったのか。自分が風の能力を使って援護していれば、自分も前線に立って戦っていればこうして天音がやられることは無かったかもしれない。後悔だけが頭の中を回っていた。
「回復アイテムも使ったし、やれることはやったわ。後はあの世とこの世の境にいる天音の頑張り次第ね。それよりも今はどうやってあの鬼畜な強さを誇るアレスを倒すかを考えるのが先決ね」
ロゼはアタッシュケースを開き、道具のような物の点検をしている。と同時に腰に携えていた
「……でも、天音がいないのに私たちだけで勝てるのかな」
ふと漏れた心からの本音だった。天音がいとも容易く倒された今、ロゼは戦おうと賢明に策を練っている。しかし、相手は天音を軽くあしらった強敵だ。勝てるとは限らない。
「分からないわね」
「分からないって、そんなことじゃ私たちまで天音みたいにやられちゃうんじゃ…」
「でもっ! ……このままここに居てもアレスに殺られるのを待っているだけ。何もしないまま死ぬのなら私は戦って死ぬことを選ぶ」
ロゼの決意は固かった。そうだ。ロゼの言う通りだ。ここにいてもアレスに殺されるのを待つだけ。殺されるくらいなら逆に殺しに行く方がまだ希望は持てる。やさしい天音は私が戦うことなんて望んで無いかも知れない。でも、私はみんなの為に戦いたい。私だって戦えるのだから。
「どうやら決めたみたいね」
点検を終えアタッシュケースをバタンと閉めたロゼが立ち上がる。腰には
「う、うん。ところでその装備は? 」
「これは、私がソロだった頃に世界を回って集めた戦利品よ」
よく見ると手榴弾がたくさん付いたベストっぽい物まで着ている。
「一人で一個師団と戦えそうだね」
「そうね。私はこれで一個師団を三つほど落としたわ」
敵に回さなくて良かったと心からの思った莢だった。
「それとね。さっきからずっと倒す方法を考えていたの。でも、いくら策を練っても天音を一瞬で倒した鬼畜な強さの前では無駄だと判断した。だから、真正面からアレスと戦うわよ」
「えぇ~!?」
先ほど決意した莢だったが、ロゼの作戦を聞いて再び不安になる。私の力は本当に役に立つのだろうか、生きて帰れるだろうかと。
「……ロゼはさぁ、その…不安になったりはしないの?」
「戦闘で? …そうね、毎回不安になるわ」
以外だった。ロゼなら「あんな奴余裕でボコボコよ」と啖呵をきるぐらいの勢いで言うと思った。なのに不安だなんて、装備も揃っているし、腕も確かだ。でも、あんなに強いのに、どうして不安が込み上げてくるんだろう
「ロゼも不安になるんだ。それだけすごい装備も揃っているのに」
「たとえ、最強の武器、防具を持っていたとしても勝てるのか、戦闘の途中で折れたりしないか、武器が銃の場合、途中で弾切れになってしまわないか、自然と不安は生まれてしまうものよ。その不安を断ち切るための一つの方法として私は戦っているの」
そうだ。不安なのは私だけじゃない。みんな心には不安を持っている。その不安を断ち切るために戦ったり、笑ったり、泣いたり、怒ったりするんだ。自分なりの不安の解消法を見つければいい。
「ロゼ、ありがと。これで私も戦える」
「ここでお礼は受け取らないわ。アレスを倒してから改めてお礼を受け取ることにするわ」
「うん!」
「さて、そろそろティータイムの時間だわ。アレス攻略は明日にしてディナーにしましょう」
「そうだね。アレスと戦闘に入って結構時間経ったもんね。お腹ペコペコだよ」
スマホの時計を見ると午後八時を過ぎたところだった。アレスと戦闘を終えて既に十数時間が過ぎている。しかも、その間何も口に入れてなかった。
「こんな物しかないけど、好きなの選んでちょうだい」
武装解除したロゼがいつもの通りアタッシュケースを開くと今度は中から大量のカップ麺が出てきた。ラーメン、焼きそば、うどんなど種類も豊富だ。
「ロゼもカップラーメンとか食べるんだね」
「た、食べるわよ。これはこれで結構美味しいから」
恥ずかしそうにカップラーメンの蓋を開き、調味料などを入れる仕草をみた莢はさらに親近感がわいた。最初はお嬢様なだけあって身分が違うだのどうだの言われるかと思ったが、いざ一緒にクエストをしてみると以外や以外、普通の女の子だった。
だからこそ
二人共、私の言動に違和感を感じたりしてない。今頃ただの普通の女の子だと思っているハズだけど。…あれ? 私、ちゃんと騙せているのかしら、素が出ちゃったりしてないよね。大丈夫よね。大丈夫よ……多分、おそらく、あぁ、自信が無くなってきた。
まぁ、後はこのままロゼと天音にあの男、
「莢!」
「え! 何!?」
危なかった。つい本音が頭の中を駆け回ってしまっていた。落ち着け
「お湯が沸いたから、声をかけたんだけど」
(ほっ。言葉としては出ていないみたいだ。危うくバレるところだった)
「あ、ありがとう」
選んだカップラーメンの蓋を開け、調味料を入れたところでロゼが用意してくれたポットからお湯を入れる。ポットまでケースに入っているとはすごい収納力だ。
「ねぇ?」
「な~に?」
「騙しやすいって、誰か騙すの? それに計画がどーのこーのって言ってたけど。何か計画してるんだったら私も協力するわよ」
「○×△□#%&$*“@~!!??」
どどどどど~しよぉ~。脳内ヴィジョンだけでなく、言葉に出てしまっていたなんて。これはマズイ。非常にマズイ。
「ちょちょちょっと、お湯がこぼれてる!」
「ごめんなさい」
指定された湯の量を大幅に超えたカップラーメンは味が薄かった。氷を入れたオレンジジュースを放置し続けた時の味のようだった。
「それで、何のことを言ってたわけ?」
「……ごめん、今は言えない」
「そう、まぁいいわ。いつか言えるようになったら言ってくれればいい。その時は私も天音も協力するから」
協力する。ありがたい言葉だけど、やっぱり今は本当のことは言えない。今はまだ。でもダーウィンは私たちがゲームから生還するために倒さなければいけない敵。倒さなければいけない理由。…言ったら信じてくれるよね。きっと。
「……ありがとう」
本人は騙しやすいと騙しているつもりだけど、実は素が出ちゃってたりして大して騙していることになっていない莢なのでした。