メンタルが折れないベルセルク   作:あかんいかん

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第4話

 

一か月が過ぎた。ユウの毎日は、走ることから始まった。

石を入れた袋を背負って丘を走り、川を泳ぎ、丸太を運び、木剣を振る。走る距離は少しずつ伸び、運ぶ荷物も少しずつ重くなった。剣の修行も続いていた。ザガンは木剣に小さな重りを取り付け、ユウに振らせた。「腕だけで振るな。足を使え。腰を使え」「こう?」「違う」「こう?」「違う」「団長、もう少し褒めてくれてもいいんじゃない?」「上手くできたら褒めてやる」「じゃあ一生無理だね」「カカカカ!」そして、初陣の日がやってきた。

馬が並び、武器が積み込まれ、兵士たちが慌ただしく動いている。ユウには小さな背負い袋が渡された。中身は水筒、食料、包帯、予備の紐など。「これを持っていろ」ザガンが言った。「これだけ?」「お前の身体で運べるのはそれくらいだ」「もっと持てるよ」「今はそれでいい」ユウは少し不満そうだったが、袋を背負った。団員たちがそれぞれ武器を確認している。鎧を着た者、槍を持つ者、弓を背負う者。その中でユウだけが、木剣すら持っていなかった。

「団長、僕の武器は?」「ねえよ」「えっ」「お前は荷物持ちだと言っただろ」「木剣くらいならいいじゃん」「戦場で木剣を持って何をする?」「敵を殴る」「殴る前に殺される」「厳しいなぁ」ザガンは笑った。「いいか、ユウ。今日は戦いに行くんじゃねえ。戦場を見に行くんだ」「分かってるよ」「本当に分かってるか?」

 

「たぶん」「カカカ! まあいい。俺の目の届くところにいろ」昼前。傭兵団は戦場に近い丘へ到着した。遠くに敵軍の旗が見える。馬のいななき。兵士たちの怒号。金属がぶつかる音。そして、風に乗って届く太鼓の音。ユウは初めて見る光景に目を奪われた。「すごい……」「何がだ?」「人がいっぱい」「そうだな」「みんな、あそこで戦うの?」

ザガンは遠くの軍勢を見つめた。「もうすぐ始まる」ユウは背負い袋の紐を握りしめた。

戦いが始まった。最初に動いたのは弓兵だった。空に無数の矢が放たれ、敵陣へ降り注ぐ。続いて歩兵が前進する。盾と盾がぶつかり、槍が突き出され、剣が振り下ろされる。ユウはその光景を見つめていた。人が倒れる。叫び声が聞こえる。誰かが助けを求めている。だが、戦場では誰も立ち止まらない。「ユウ!」ザガンの声が響いた。「水を持ってこい!」「分かった!」ユウは水袋を持って走った。指定された場所まで届ける。次は矢筒。

その次は包帯。戦場の後方を何度も往復する。走る。運ぶ。戻る。また走る。訓練で何度も繰り返した動作だった。だが、実際の戦場は違った。足元には倒れた兵士がいる。地面はぬかるみ、血で滑る。飛んできた矢が近くの地面に突き刺さる。ユウは何度も転びそうになった。それでも走った。

しばらくして、負傷した傭兵が後方へ運ばれてきた。腹部から血を流し、苦しそうにうめいている。ユウは思わず足を止めた。「おい、水……」男が手を伸ばしている。ユウは水筒を取り出そうとした。その瞬間。「ユウ!」ザガンの声が飛んだ。「勝手に動くな!」ユウの手が止まる。「でも、この人……」「衛生係がいる! お前は頼まれたものを届けろ!」

ユウは男を見た。男は苦しそうに目を閉じた。ユウは唇を噛み、ザガンの指示に従った。走り出す。胸の奥に、嫌な感覚が残った。戦況が動いた。敵軍の一部が崩れ、後方へ逃げ始めた。しかし、その混乱に乗じて敵の騎兵が傭兵団の側面へ回り込んできた。「騎兵だ!」誰かが叫ぶ。「荷物をまとめろ! 後退するぞ!」傭兵たちが動き始める。ザガンの姿が見えない。「団長!」返事はない。人の波に押され、ユウはよろめいた。その時、目の前を馬が駆け抜けた。地面が揺れる。ユウは尻もちをついた。馬の蹄がすぐ近くを通り過ぎていく。恐怖で身体が固まった。立たなければ。走らなければ。分かっているのに、足が動かない。その瞬間、ザガンの教えが頭に浮かんだ。――戦場で、走れなくなった奴から死んでいく。ユウは歯を食いしばった。「立て……」小さな手を地面につく。

「立てよ……少年!」なんとか立ち上がり、走り出した。丘の裏側。傭兵団の一部が集まっていた。ユウは息を切らしながら、そこへたどり着いた。「団長!」ザガンが振り返る。「ユウ!」ザガンはユウの身体を確認した。「怪我は?」「ない……と思う」

「疲れた……」ザガンは豪快に笑った。「カカカカ! 初陣にしちゃ上出来だ!」「もう戦場は嫌だなぁ……」「そうか?」「うん。人がいっぱい死ぬし、臭いし、怖いし」ユウは自分の手を見つめた。小さな手が震えていた。「団長」「なんだ」「僕、何もできなかった」ザガンはすぐには答えなかった。しばらくユウを見つめてから、口を開く。「お前は生きて戻った」「それだけ?」「それが一番大事だ」ユウは俯いた。

「じゃあ、明日も走るの?」「当たり前だ」「ええー……」「今日より長くな」「団長、やっぱり鬼だよ」「カカカカ!」ユウは笑った。しかし、その目は戦場から離れなかった。地面に残された武器。倒れた兵士。血に染まった大地。そして、遠くに見える敵の旗。ユウはその旗を見つめながら、心の中で呟いた。――いつか、あいつらを斬る。母を奪った黒犬騎士団を。その日まで、死ぬわけにはいかない。

 

 

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