初めて戦場に出てから2年。あの日、荷物持ちとして戦場を走り回っていた少年は、今では傭兵団の中でも一目置かれる存在になっていた。身長は160cmを超え、同年代の少年とは比べものにならないほど頑丈な身体つきになっている。ザガンの厳しい訓練に加え、実戦を何度も経験したことで、剣の扱いも大きく成長していた。もっとも、本人の性格は相変わらずだった。1. 朝の傭兵団「ユウ! 起きろ!」テントの外から大声が響く。「んん……あと五分……」「昨日も同じことを言っていたぞ!」「昨日の五分と今日の五分は違うんだよ、団長……」「カカカカ! 寝言は一人前になってから言いやがれ!」ザガンがテントの入口を乱暴に開ける。ユウは毛布にくるまっていた。
「寒いんだって……」「なら走ってこい。身体が温まるぞ」「その理屈、便利すぎない?」「いいから行け!」「へーい……」ユウは大きなあくびをしながら起き上がった。2. 森の討伐依頼その日の午前、傭兵団に依頼が舞い込んだ。森の近くにある農村で、巨大な猪型の怪物が畑を荒らしているという。討伐対象はドスファンゴ。
さらに、近隣の森ではアオアシラの目撃情報もあった。
依頼書を見たザガンは、ユウに目を向ける。「おい、ユウ」「ん?」「今回はお前一人で行ってこい」「えっ、いいの?」「ドスファンゴ一頭だ。お前なら問題ねえだろ」「やった! 久しぶりに一人旅だ!」「勘違いするな。討伐依頼だぞ」「分かってるって!」ザガンは笑いながら釘を刺した。「油断するな。相手は怪物だ。お前が強くなったからといって、死ななくなったわけじゃねえ」「はいはい、団長」「返事は一回だ!」「はい!」
3. ドスファンゴ討伐森に入ってしばらくすると、地面が揺れた。ドドドドドッ!!木々の間から巨大な猪が飛び出してくる。体長は人間の倍近く。巨大な牙が左右に伸びていた。ドスファンゴ。普通の傭兵なら複数人で対処する相手だ。しかし、ユウは慌てなかった。「おお、いたいた」背中の大剣を抜く。「さて、さっさと終わらせますかね」ドスファンゴが地面を蹴る。猛烈な突進。ユウは正面から逃げず、わずかに身体をずらした。「よっと!」
突進をかわしながら、巨大な剣を振り上げる。「どっせい!!」重い斬撃がドスファンゴの側面を捉えた。怪物は勢いを失い、地面に倒れ込む。ユウは追撃を加え、討伐を終えた。「よっしゃー!」剣を肩に担ぐ。「うん。今日の晩飯は猪肉だな」4. アオアシラとの遭遇帰路につこうとしたときだった。森の奥から、木が折れる音が聞こえた。バキバキッ!「ん?」茂みの向こうから青い毛並みの巨大な熊が現れる。
アオアシラだ。どうやらドスファンゴの血の匂いに引き寄せられたらしい。「おお……今度は熊か」アオアシラは前脚を振り上げ、ユウに襲いかかった。ユウは大剣を横に構える。ドンッ!!巨大な前脚が大剣にぶつかる。衝撃で足元の土が飛び散った。「おっと、結構重いな!」ユウは後退しながら衝撃を受け流す。アオアシラが再び襲いかかる。今度はユウが踏み込んだ。
「うりゃぁぁ!」大剣が横薙ぎに走る。アオアシラの巨体が大きくよろめく。さらに一歩踏み込む。「しゃぁぁ!」二撃目。アオアシラは地面に倒れた。ユウは距離を取り、相手の動きを確認する。そして、動かなくなったことを確かめてから剣を下ろした。「ふう……熊の肉ってうまいのかな?」5. 傭兵団への帰還夕方、ユウは傭兵団の野営地に戻ってきた。「団長ー! ただいま!」
ザガンが振り返る。「おう。どうだった?」「ドスファンゴ討伐した!」「そうか」「あとアオアシラもいたから倒してきた!」ザガンの眉が少し動く。「一人でか?」「うん!」「カカカカ! そいつは大したもんだ!」周囲の傭兵たちも笑い、ユウの肩を叩いた。「また一人で怪物を倒したのか!」「今度は俺たちにも肉を持ってきてくれよ!」「えー、解体したの俺なんだけど!」ユウは不満そうに言い返す。
ザガンはそんな様子を見て、満足そうに笑っていた。
6. 団長の評価
夜。
焚き火のそばで、ザガンはユウに声をかけた。
「ユウ。お前、ずいぶん強くなったな」
「そう?」
「ああ。昔は戦場で荷物を運ぶだけで精一杯だったガキが、今じゃ一人で怪物を狩って帰ってくる」
ユウは少し照れくさそうに笑った。
「まあ、団長の訓練のおかげかな」
「カカカカ! 今さら気づいたか!」
「いや、でも本当に感謝してるよ」
ザガンは一瞬だけ黙った。
そして、ユウの頭を大きな手で乱暴に撫でる。
「まだまだだ。強くなりたきゃ、もっと経験を積め」
「分かってるって」「そのうち、お前より強い怪物にも出会う」「そいつは楽しみだな!」ザガンは豪快に笑った。「カカカカ! その減らず口、いつまで叩けるか見ものだな!」ユウも笑った。焚き火の向こうでは、討伐したドスファンゴとアオアシラの肉が焼かれていた。この頃のユウは、まだ知らない。これから先、彼が出会う怪物も、剣士も、戦場も、今までとは比較にならないほど過酷なものになることを。そして、彼自身の剣術が、やがて一つの流派へと形作られていくことを。第三話・終