仮面ライダーオルビス ――三重螺旋の宿命――   作:間士兎

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第1話 始まりは、海の上で

 

三輪和真、二十三歳。

 

 それが、今の自分を表す名前だった。

 

 数か月前、和真は交通事故に遭った。

 

 幸い命に別状はなく、日常生活に戻ることもできた。だが、事故を境に、彼の身体には奇妙な変化が起き始めていた。

 

 以前よりも身体が軽い。多少の無理をしても疲れにくく、傷の治りも異様に早い。時には、自分でも説明できないほどの力が湧き上がることさえあった。

 

 病院で検査を受けた際には、特に異常は見つからなかった。

 

 しかし、和真自身は違和感を拭えずにいた。

 

「……気のせい、で済めばいいんだけどな」

 

 仕事に追われる毎日。身体の異変。そして、誰にも相談できない不安。

 

 少しだけ、日常から離れたかった。

 

 そんな折、和真はフェリー「あかつき号」の存在を知った。

 

 特別な目的があったわけではない。ただ、海を眺めながら船で過ごせば、仕事のことも身体のことも、一時的に忘れられるかもしれない。そう考えたのだ。

 

 船旅そのものに強いこだわりがあったわけではない。気分転換になれば、それで十分だった。

 

 そして乗船した和真は、船内で一人の青年と知り合う。

 

「料理なら、結構得意なんですよ」

 

 人懐っこい笑顔を浮かべる、どこか不思議な雰囲気の青年だった。

 

「へえ、料理が好きなのか?」

 

「ええ。誰かに食べてもらえると、もっと嬉しいですし」

 

 何気ない会話だった。

 

 名前を聞くほど親しくなったわけではない。それでも、和真には妙に印象に残る青年だった。

 

 だが、その穏やかな時間は長く続かなかった。

 

 突如として船内に異変が起きる。

 

 激しい揺れ。乗客たちの悲鳴。船内を駆け回る人々。

 

 何が起きているのか理解する間もなく、和真の意識は闇に沈んだ。

 

     ◇

 

 目を覚ました時、和真は海岸に打ち上げられていた。

 

 身体の痛みを確かめながら、どうにか立ち上がる。周囲には同じように救助された人々の姿があった。

 

 しかし、あの青年の姿は見当たらない。

 

 その後、和真は病院で保護され、事故の経緯を聞かされた。

 

 あかつき号で何が起きたのか。なぜ自分が生き残ったのか。分からないことばかりだった。

 

 そして、退院した夜。

 

 和真の中で、もう一つの異変が起きた。

 

「……なんだ、これ」

 

 頭の中に、見覚えのないはずの記憶が流れ込んでくる。

 

 それは、かつて自分が生きていた世界の記憶。

 

 テレビで見た特撮番組。仮面ライダー。クウガ。そして、アギト。

 

 記憶が繋がるにつれ、和真の顔から血の気が引いていった。

 

 二年前、長野で未確認生命体と戦った仮面ライダークウガ。その戦いさえ、この世界では現実に起きた出来事なのだ。

 

「嘘だろ……ここは……」

 

 あかつき号の事件。人間を襲う正体不明の怪物。人間の可能性が進化した存在。

 

 それらは、彼が知っている物語の中にあった。

 

 ここは、『仮面ライダーアギト』の世界なのだ。

 

 もっとも、現実になった世界が、記憶どおりに進む保証などない。

 

 そして何より、和真自身の身体にも、すでに異変が起きていた。

 

     ◇

 

 それから時間が流れた。

 

 和真は自分の身体に起きている変化を隠しながら、日常を送っていた。

 

 自分が何者になりつつあるのか。その答えを探す一方で、彼は自分の身を守るための力を求めていた。

 

 そして、物語の本編が始まる半年前。

 

 和真は長野の山中にいた。

 

 そこには、かつて何者かによって封じられたという奇妙な場所があった。

 

 闇の棺。

 

 その奥に眠っていたのは、一つのベルトだった。

 

 古びているにもかかわらず、奇妙な存在感を放つそれを、和真は手に取った。

 

「これが……アークル?」

 

 知識として知っているものとは、どこか違う。

 

 それでも、触れた瞬間に確信した。

 

 これは、自分に必要なものだ。

 

 和真はベルトを腰に当てた。

 

 次の瞬間、アークルは淡い光を放ち、まるで生き物のように彼の身体へ溶け込んでいく。

 

「なっ……!」

 

 驚いて腰に手を伸ばすが、そこにはもう何もない。

 

 しかし、確かに感じる。

 

 自分の身体の奥底に、あのベルトが存在している。

 

 それは、彼の知らない力と結びついていた。

 

「……俺は、一体何になろうとしているんだ?」

 

 答えはない。

 

 ただ、和真の中で何かが静かに動き始めていた。

 

 まだ彼は知らない。

 

 自分の中に宿る三つの力が、やがて一つの存在へと結びつくことを。

 

 そして、その存在が人々から何と呼ばれることになるのかを。

 

――仮面ライダーオルビス。

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