仮面ライダーオルビス ――三重螺旋の宿命――   作:間士兎

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第2話 人ならざる者

 

あかつき号の事件から半年。

 

 三輪和真の日常は、表面上は以前と変わらなかった。

 

 朝起きて仕事に向かい、帰宅すれば食事をして眠る。休日には買い物や散歩を楽しむ。ごく普通の二十三歳の生活だ。

 

 ただし、一つだけ大きく変わったことがある。

 

「……またか」

 

 和真は、買い物袋を片手で持ち上げながら呟いた。

 

 中には飲み物や食料品が入っている。決して軽くはないはずだが、和真にはほとんど重さを感じられなかった。

 

 最近はこうしたことが珍しくない。

 

 以前なら苦労していた重い荷物も簡単に持ち上げられる。少し転んだ程度では怪我一つしないし、小さな傷なら一晩で消えてしまう。

 

 視力や聴力も以前より鋭くなった。

 

 自分の身体に何かが起きていることは、疑いようがなかった。

 

「やっぱり、あれの影響なのか……」

 

 和真は腰に手を当てる。

 

 そこには何もない。

 

 しかし、半年前に長野の闇の棺で手に入れたプロトアークルは、今も確かに自分の身体の内側に存在している。

 

 意識を集中すれば、その存在を感じ取ることができた。

 

 前世の記憶にある仮面ライダークウガ。

 

 そして、古代の力を宿したアークル。

 

 自分の身体に起きている変化は、それに関係しているのではないか。

 

 そう考えるのが自然だった。

 

「クウガみたいに変身できるようになる……なんてこともあるのかな」

 

 冗談めかして呟くものの、表情は晴れない。

 

 自分の身体がどうなっていくのか分からないという不安は、半年経った今も消えていなかった。

 

 それでも、今のところ日常生活に大きな支障はない。

 

 和真はそれ以上考えるのをやめ、帰宅するために歩き出した。

 

     *

 

 その日の夜。

 

 仕事を終えた和真が帰路についていると、路地の奥から悲鳴が聞こえた。

 

「誰か! 助けてくれ!」

 

「……!」

 

 和真は足を止めた。

 

 声のした方向へ目を向ける。

 

 そこには、一人の男性と、奇妙な姿をした怪物がいた。

 

 灰色の身体。人間とは明らかに異なる頭部。そして、こちらを見据える不気味な目。

 

 和真は、その姿を知っていた。

 

「アンノウン……!」

 

 思わず声が漏れる。

 

 前世の記憶にある、仮面ライダーアギトに登場する怪人。

 

 人間を襲う超越生命体。

 

 間違いない。

 

 この世界には、本当にアンノウンが存在している。

 

「逃げろ!」

 

 和真は男性に向かって叫んだ。

 

 男性がこちらを振り返る。

 

 その瞬間、怪物の視線が和真へと向いた。

 

 次の瞬間、アンノウンが跳びかかってくる。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に腕を掲げた。

 

 激しい衝撃が全身を襲う。

 

 普通の人間なら、そのまま吹き飛ばされていただろう。しかし、和真は数歩後退しただけで踏みとどまっていた。

 

「なんて力だ……!」

 

 自分でも驚くほどの身体能力だった。

 

 アンノウンが再び襲いかかる。

 

 和真は身を捻って攻撃をかわし、反射的に蹴りを放った。

 

 怪物の身体が大きくよろめく。

 

 その隙に、襲われていた男性が路地の外へ逃げ出した。

 

 ひとまず、助けることはできた。

 

 だが、アンノウンはまだ倒れていない。

 

 怪物がこちらへ向き直る。

 

 和真は身構えた。

 

 そのときだった。

 

「……っ!?」

 

 右腕に異様な感覚が走る。

 

 皮膚の下で何かが蠢いている。

 

 腕を覆うように緑色の組織が広がり、手の甲から鋭い突起が伸びていく。

 

「なんだ、これは……!」

 

 自分の腕が、人間のものではなくなっていた。

 

 驚きに気を取られた一瞬、アンノウンが襲いかかってくる。

 

 和真は反射的に腕を振るった。

 

 鋭い突起が怪物の身体をかすめる。

 

 さらに踏み込んだ脚が、アンノウンの胴体を捉えた。

 

 怪物は壁に叩きつけられ、そのまま動きを止めた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 和真は自分の右腕を見つめた。

 

 先ほどまで異形化していた腕は、少しずつ元の人間の姿へ戻っていく。

 

 何が起きたのか、理解できなかった。

 

 ただ一つ分かるのは、あの力がプロトアークルによるものとは思えなかったことだ。

 

 もっと生々しく、もっと本能的な何か。

 

 和真の身体そのものが変化していた。

 

「まさか……」

 

 脳裏に、ある名前が浮かぶ。

 

 仮面ライダーギルス。

 

 アギトと同じく人間の進化に関係する存在でありながら、その力はより生物的で、危険なものとして描かれていた。

 

「俺が……ギルスだっていうのか?」

 

 答えはない。

 

 遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

 

 和真は周囲を見回す。

 

 ここに長居するわけにはいかない。

 

 目撃者がいるかもしれない。警察に事情を聞かれれば、説明できないことばかりだ。

 

 和真はその場を離れた。

 

     *

 

 人気のない公園まで移動した和真は、ベンチに腰を下ろした。

 

 右腕はすっかり元に戻っている。

 

 しかし、先ほどの感覚は鮮明に残っていた。

 

「クウガの力だけじゃない……のか」

 

 自分の身体に宿っているもの。

 

 プロトアークル。

 

 そして、ギルスを思わせる異形の力。

 

 さらに、あかつき号の事件で何かが起きたことも覚えている。

 

 偶然にしては、あまりにも多すぎる。

 

「一体、俺の身体はどうなっているんだ……」

 

 和真は胸元に手を当てた。

 

 身体の内側にあるプロトアークルが、かすかに反応したような気がした。

 

 しかし、それ以上の変化はない。

 

 今の自分には、まだ分からないことばかりだ。

 

 それでも、あの場で逃げることはできなかった。

 

 目の前で誰かが襲われているのを見て、助けたいと思った。

 

 それだけは間違いない。

 

「……次は、もう少し上手くやらないとな」

 

 和真は立ち上がった。

 

 自分の力を理解すること。

 

 そして、必要なときに誰かを守れるようになること。

 

 それが、今の彼にできることだった。

 

 夜の街に、いつもと変わらない風が吹く。

 

 その胸の内側では、三つの異なる力が、まだ互いの存在を知らぬまま静かに眠っていた。

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