仮面ライダーオルビス ――三重螺旋の宿命―― 作:間士兎
あの夜から、三日が経過した。
三輪和真は、いつもと変わらない日常を送っていた。
仕事に行き、同僚と会話し、帰宅する。周囲の人間から見れば、彼は何も変わっていない。
しかし、和真の内心は穏やかではなかった。
夜になると、どうしてもあの光景が頭に浮かぶ。
怪物の姿。自分の腕を覆った緑色の組織。そして、身体の奥から湧き上がった力。
「……ギルス、か」
自宅の机に座り、和真は呟いた。
前世の記憶にある仮面ライダーギルス。
人間の身体が進化した結果として生まれた存在。アギトと同じ進化の系統にありながら、その力はより獣に近く、肉体そのものが武器となる。
もし、自分が本当にギルスの力を持っているのなら。
「どうして俺なんだ……?」
答えはない。
あかつき号の事件で何かが起きたことは間違いない。だが、それが自分にどのような影響を与えたのかは分からなかった。
プロトアークルを手に入れたことも関係しているのだろうか。
少なくとも、今の自分には二つの異なる力が関わっているように思える。
「まずは、分かることから調べるしかないな」
和真はノートを開き、現在の身体の変化を書き出していった。
異常な筋力。傷の回復速度。鋭くなった感覚。そして、戦闘中に起きた腕の異形化。
書き終えたところで、和真はペンを置いた。
普通の病院で検査を受けるという選択肢もある。しかし、身体の内部まで変化している可能性を考えると、安易に検査を受けるのは危険だった。
もし本当に人間とは違う構造になっていたら、隠し通すことは難しい。
「今は、誰にも知られない方がいい」
和真はノートを閉じた。
*
翌日の休日。
和真は人の少ない河川敷を訪れていた。
自分の身体能力を確かめるためだ。
周囲に人影がないことを確認し、軽く準備運動をする。
「まずは普通に走ってみるか」
地面を蹴る。
その瞬間、身体が想像以上の勢いで前へ飛び出した。
「うわっ!」
慌てて速度を落とす。
普段の感覚で走ったつもりだったが、明らかに力が強すぎた。
続いて、近くにあった大きな石を持ち上げてみる。
片手で簡単に持ち上がった。
「これもか……」
自分の力がどれほどのものなのか、まだ分からない。
だが、少なくとも一般人の身体能力ではない。
和真は拳を握った。
あの夜のように、腕を変化させることはできるのだろうか。
意識を集中する。
しかし、何も起こらない。
「やっぱり、そう簡単にはいかないか」
何度か試してみたものの、腕に変化は現れなかった。
あのときは、アンノウンに襲われたことで無意識に力が引き出されたのかもしれない。
そう考えると、むやみに再現しようとするのも危険だった。
自分の身体がどうなるのか分からない以上、無理はできない。
*
帰宅した和真は、机の上に置いていたノートを開いた。
今日分かったことを書き加える。
身体能力は明らかに向上している。しかし、異形化は自由に起こせない。
そして、もう一つ。
身体の内側にあるプロトアークルは、相変わらず反応を示さなかった。
「クウガの力と、ギルスの力……」
別々の存在であるはずの二つの力が、なぜ自分の中にあるのか。
その答えを知る者は、今のところ自分しかいない。
いや、自分ですら何も分かっていないのだ。
和真は窓の外を見た。
あの夜に助けた男性は、無事に逃げられただろうか。
アンノウンは、これからも人間を襲うのだろうか。
考えるべきことは山ほどある。
「力を手に入れたからって、何でもできるわけじゃないよな」
小さく息を吐く。
今はまだ、自分の身を守ることさえ満足にできない。
それでも、次に誰かが襲われたとき、何もしないという選択はできないだろう。
和真はノートを閉じた。
その身体の奥深くでは、まだ目覚めていないもう一つの力が、静かに眠り続けていた。