仮面ライダーオルビス ――三重螺旋の宿命――   作:間士兎

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第5話「守るための力」

 

休日の午後。

 

 三輪和真は、駅前の商店街を歩いていた。

 

 特に目的があるわけではない。日用品を買い足し、帰りに何か食べていこうと思っていた。

 

 こうして何事もなく過ごしていると、自分の身体に異常があることさえ忘れそうになる。

 

 だが、完全に忘れることはできなかった。

 

 あの夜、自分の腕が異形へと変化した光景が、今も頭から離れない。

 

「……結局、あれ以来一度も変化してないんだよな」

 

 自分の右手を見つめる。

 

 力を込めても、普通の人間の手と何も変わらない。

 

 あのときは命の危険を感じたからこそ、身体が反応したのだろうか。

 

 そんなことを考えていたときだった。

 

 商店街の向こうから、突然、悲鳴が上がった。

 

「きゃあああっ!」

 

 人々が一斉に振り返る。

 

 その先にいたのは、見覚えのある異形の怪物だった。

 

「アンノウン……!」

 

 和真の表情が険しくなる。

 

 怪物は逃げ惑う人々の中から、一人の女性へと狙いを定めていた。

 

 女性は転倒し、立ち上がれずにいる。

 

「逃げろ!」

 

 和真は駆け出した。

 

 アンノウンが女性に手を伸ばす。

 

 間に合わない。

 

 そう判断した瞬間、和真は地面を蹴った。

 

 驚くほどの速さで距離を詰め、女性と怪物の間に身体を滑り込ませる。

 

 次の瞬間、怪物の腕が振り下ろされた。

 

「ぐっ!」

 

 両腕で受け止める。

 

 衝撃で足元の舗装がわずかに砕けた。

 

 それでも、和真は倒れなかった。

 

「早く逃げて!」

 

 女性が立ち上がり、周囲の人々に助けられながら離れていく。

 

 ひとまず一人は助けられた。

 

 しかし、アンノウンは目の前にいる。

 

 和真は相手の動きを警戒しながら、右腕に意識を集中した。

 

 あのときの力を使えれば。

 

 そう思ったが、何も起こらない。

 

「くそっ……!」

 

 怪物の攻撃を避ける。

 

 反撃しようと拳を振るうが、相手の身体は硬く、十分なダメージを与えられない。

 

 和真は距離を取った。

 

 自分の身体能力は確かに常人を超えている。

 

 だが、それだけではアンノウンを倒せない。

 

 ましてや、あの異形の力を自由に引き出せない今の自分では、まともに戦うことすら難しい。

 

 そのとき、遠くから警察車両のサイレンが聞こえてきた。

 

 アンノウンが一瞬、そちらへ視線を向ける。

 

 和真はその隙を逃さなかった。

 

 怪物の腕を掴み、全身の力を込めて横へ投げ飛ばす。

 

 アンノウンの身体が商店街のシャッターに激突した。

 

 完全に倒したわけではない。

 

 だが、逃げる時間は稼げた。

 

 和真は人々の流れに紛れ、その場を離れた。

 

     *

 

 少し離れた路地裏。

 

 和真は壁に手をつき、呼吸を整えていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 身体に痛みはある。

 

 しかし、大きな怪我はしていない。

 

 あれだけの攻撃を受けても立っていられたのは、やはり身体そのものが変化しているからだろう。

 

「助けられた……けど」

 

 和真は自分の右腕を見た。

 

 結局、今回も異形化は起こらなかった。

 

 あの力を使えれば、もっと確実に怪物を止められたかもしれない。

 

 だが、無理に引き出そうとすれば、自分がどうなるか分からない。

 

「焦るな。まずは自分の力を理解しないと」

 

 そう自分に言い聞かせる。

 

 路地の外では、警察官たちの声が聞こえ始めていた。

 

 和真は深く息を吐き、服についた汚れを払う。

 

 また一つ、普通の日常から遠ざかってしまった気がした。

 

     *

 

 その夜。

 

 帰宅した和真は、机に向かっていた。

 

 ノートには、今日の出来事が書き加えられている。

 

 異常な身体能力は意識的に使える。

 

 しかし、腕の異形化は自分の意思では起こせない。

 

 アンノウンとの戦闘では、身体能力だけで対抗するには限界がある。

 

「……やっぱり、訓練が必要だな」

 

 力を持っているだけでは意味がない。

 

 それをどう使うか、自分で考えなければならない。

 

 和真はペンを置き、胸元に手を当てた。

 

 身体の奥にあるプロトアークル。

 

 それは今日も、何も答えてくれない。

 

 クウガの力も、ギルスの力も、まだ自分のものにはなっていない。

 

 それでも、和真は目を逸らさなかった。

 

「いつか、ちゃんと使いこなしてみせる」

 

 その言葉は、誰に聞かせるものでもなかった。

 

 ただ、自分自身に向けた決意だった。

 

 彼はまだ知らない。

 

 自分の中には、もう一つの進化の可能性が眠っていることを。

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