仮面ライダーオルビス ――三重螺旋の宿命―― 作:間士兎
休日の午後。
三輪和真は、駅前の商店街を歩いていた。
特に目的があるわけではない。日用品を買い足し、帰りに何か食べていこうと思っていた。
こうして何事もなく過ごしていると、自分の身体に異常があることさえ忘れそうになる。
だが、完全に忘れることはできなかった。
あの夜、自分の腕が異形へと変化した光景が、今も頭から離れない。
「……結局、あれ以来一度も変化してないんだよな」
自分の右手を見つめる。
力を込めても、普通の人間の手と何も変わらない。
あのときは命の危険を感じたからこそ、身体が反応したのだろうか。
そんなことを考えていたときだった。
商店街の向こうから、突然、悲鳴が上がった。
「きゃあああっ!」
人々が一斉に振り返る。
その先にいたのは、見覚えのある異形の怪物だった。
「アンノウン……!」
和真の表情が険しくなる。
怪物は逃げ惑う人々の中から、一人の女性へと狙いを定めていた。
女性は転倒し、立ち上がれずにいる。
「逃げろ!」
和真は駆け出した。
アンノウンが女性に手を伸ばす。
間に合わない。
そう判断した瞬間、和真は地面を蹴った。
驚くほどの速さで距離を詰め、女性と怪物の間に身体を滑り込ませる。
次の瞬間、怪物の腕が振り下ろされた。
「ぐっ!」
両腕で受け止める。
衝撃で足元の舗装がわずかに砕けた。
それでも、和真は倒れなかった。
「早く逃げて!」
女性が立ち上がり、周囲の人々に助けられながら離れていく。
ひとまず一人は助けられた。
しかし、アンノウンは目の前にいる。
和真は相手の動きを警戒しながら、右腕に意識を集中した。
あのときの力を使えれば。
そう思ったが、何も起こらない。
「くそっ……!」
怪物の攻撃を避ける。
反撃しようと拳を振るうが、相手の身体は硬く、十分なダメージを与えられない。
和真は距離を取った。
自分の身体能力は確かに常人を超えている。
だが、それだけではアンノウンを倒せない。
ましてや、あの異形の力を自由に引き出せない今の自分では、まともに戦うことすら難しい。
そのとき、遠くから警察車両のサイレンが聞こえてきた。
アンノウンが一瞬、そちらへ視線を向ける。
和真はその隙を逃さなかった。
怪物の腕を掴み、全身の力を込めて横へ投げ飛ばす。
アンノウンの身体が商店街のシャッターに激突した。
完全に倒したわけではない。
だが、逃げる時間は稼げた。
和真は人々の流れに紛れ、その場を離れた。
*
少し離れた路地裏。
和真は壁に手をつき、呼吸を整えていた。
「はぁ……はぁ……」
身体に痛みはある。
しかし、大きな怪我はしていない。
あれだけの攻撃を受けても立っていられたのは、やはり身体そのものが変化しているからだろう。
「助けられた……けど」
和真は自分の右腕を見た。
結局、今回も異形化は起こらなかった。
あの力を使えれば、もっと確実に怪物を止められたかもしれない。
だが、無理に引き出そうとすれば、自分がどうなるか分からない。
「焦るな。まずは自分の力を理解しないと」
そう自分に言い聞かせる。
路地の外では、警察官たちの声が聞こえ始めていた。
和真は深く息を吐き、服についた汚れを払う。
また一つ、普通の日常から遠ざかってしまった気がした。
*
その夜。
帰宅した和真は、机に向かっていた。
ノートには、今日の出来事が書き加えられている。
異常な身体能力は意識的に使える。
しかし、腕の異形化は自分の意思では起こせない。
アンノウンとの戦闘では、身体能力だけで対抗するには限界がある。
「……やっぱり、訓練が必要だな」
力を持っているだけでは意味がない。
それをどう使うか、自分で考えなければならない。
和真はペンを置き、胸元に手を当てた。
身体の奥にあるプロトアークル。
それは今日も、何も答えてくれない。
クウガの力も、ギルスの力も、まだ自分のものにはなっていない。
それでも、和真は目を逸らさなかった。
「いつか、ちゃんと使いこなしてみせる」
その言葉は、誰に聞かせるものでもなかった。
ただ、自分自身に向けた決意だった。
彼はまだ知らない。
自分の中には、もう一つの進化の可能性が眠っていることを。