仮面ライダーオルビス ――三重螺旋の宿命――   作:間士兎

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第6話「力を持つということ」

 

休日の朝。

 

 三輪和真は、部屋の片隅に置かれた段ボール箱を眺めていた。

 

 中身は、以前から使っていたトレーニング用品だった。

 

「まさか、またこれを使うことになるとはな」

 

 学生時代に使っていたダンベルやトレーニングチューブ。特別な目的があったわけではないが、身体を動かす習慣は昔からあった。

 

 ただ、今は事情が違う。

 

 自分の身体がどれほど変化しているのか、確かめる必要がある。

 

 和真はダンベルを手に取った。

 

 以前なら両手で扱っていた重さだが、今では片手でも軽々と持ち上げられる。

 

「やっぱり、普通じゃないよな……」

 

 力を抑えながら、ゆっくりと腕を動かす。

 

 今度はトレーニングチューブを使ってみた。筋肉に負荷をかける感覚はあるものの、以前ほどの疲労は感じない。

 

 身体能力が向上していることは間違いない。

 

 しかし、問題はそこではなかった。

 

 アンノウンと戦ったとき、和真は相手の攻撃を受け止めることができた。だが、あれは相手を倒せるほどの力ではない。

 

 そして、あの異形の腕。

 

 自分の意思では、いまだに再現できていない。

 

「力があるだけじゃ、どうにもならないか」

 

 和真はダンベルを床に置いた。

 

     *

 

 昼過ぎ。

 

 買い物に出掛けた和真は、駅前の書店に立ち寄った。

 

 目的は特にない。だが、最近は事件に関する情報を集めるため、新聞や雑誌にも目を通すようになっていた。

 

 社会面の新聞には、ここ最近の怪事件についての記事が掲載されている。

 

 人間離れした力を持つ犯人。

 

 現場に残された不可解な痕跡。

 

 そして、目撃者が語る異形の存在。

 

 どれもアンノウンの仕業だろう。

 

「やっぱり、事件は増えているのか……」

 

 記事を読み進める。

 

 警察も事件を重く見ているらしく、対策を検討しているという内容が記されていた。

 

 和真は新聞を棚に戻した。

 

 自分が知っているアギトの物語では、警察もアンノウンに対抗するために動き始める。

 

 G3システム。

 

 人間が科学の力でアンノウンに立ち向かうための装備だ。

 

 ただし、今の段階でどこまで計画が進んでいるのかは分からない。

 

 自分の記憶と、この世界の現実が完全に一致する保証はないのだから。

 

「俺だけで何とかしようとするのは、無理があるよな」

 

 そう呟き、和真は店を後にした。

 

     *

 

 夕方。

 

 帰宅途中、和真は駅前の横断歩道で足を止めた。

 

 信号が赤に変わる。

 

 隣には、買い物袋を持った年配の女性が立っていた。

 

「最近、物騒になりましたねえ」

 

 女性がテレビのニュースを思い出したように話しかけてきた。

 

「そうですね」

 

「昔はこんな変な事件なんて、あまり聞かなかったのに」

 

 和真は曖昧に笑った。

 

「早く安心して暮らせるようになるといいですね」

 

「本当にそう思います」

 

 信号が青に変わる。

 

 人々が一斉に歩き出した。

 

 その何気ない会話が、和真の胸に残った。

 

 自分が守りたいのは、こういう日常なのだ。

 

 特別な力を持つことでも、怪物を倒すことでもない。

 

 誰かが安心して買い物をし、家に帰り、明日を迎えられること。

 

 それを守るために、自分の力を使うのなら。

 

「……やるべきことは、決まってるな」

 

 和真は前を向いた。

 

     *

 

 その夜。

 

 和真は机に向かい、ノートを開いた。

 

 これまでの記録を読み返す。

 

 身体能力の向上。異常な回復力。感覚の鋭敏化。腕の異形化。

 

 そして、アンノウンとの戦闘。

 

 和真は新しいページに、ゆっくりと文字を書き込んだ。

 

 ――無理に戦わない。

 

 ――一般人を巻き込まない。

 

 ――危険を感じたら、まず人々を逃がす。

 

 ――自分の力を過信しない。

 

 書き終えた和真は、少し考えてから最後に一文を加えた。

 

 ――それでも、目の前の人間を見捨てない。

 

「これでいい」

 

 ノートを閉じる。

 

 胸の奥に意識を向けると、そこにはプロトアークルが存在していた。

 

 相変わらず、何も答えてはくれない。

 

 それでも、和真は焦らなかった。

 

 今はまだ、自分の力を知ることが先だ。

 

 その力が何のためにあるのか。

 

 そして、どこまで使うべきなのか。

 

 答えを出すには、まだ時間が必要だった。

 

 和真は明日の仕事に備えて、静かに部屋の明かりを消した。

 

 彼の知らないところで、世界は少しずつ変わり始めている。

 

 だが、その変化に彼が本格的に関わる日は、まだ先のことだった。

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