仮面ライダーオルビス ――三重螺旋の宿命――   作:間士兎

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第7話「研ぎ澄まされる感覚」

 

朝。

 

 三輪和真は、目覚まし時計が鳴るよりも早く目を覚ました。

 

「……ん?」

 

 まだ午前六時前だった。

 

 普段なら、もう少し眠っている時間だ。

 

 だが、今日は妙に目が冴えていた。

 

 布団から起き上がり、窓の外を見る。

 

 遠くを走る車の音。近所の家で開いた窓の音。どこかの部屋から聞こえるテレビの音。

 

 それらが、妙にはっきりと聞こえてくる。

 

「またか……」

 

 最近、この感覚が強くなっていた。

 

 以前から聴覚や視覚が鋭くなっていることには気付いていたが、ここ数日は特に顕著だった。

 

 和真は顔を洗い、鏡の前に立つ。

 

 外見に変化はない。

 

 少なくとも、鏡に映る自分は普通の人間に見える。

 

「見た目まで変わってくれたら、さすがに困るけどな」

 

 冗談めかして呟き、仕事へ向かう準備を始めた。

 

     *

 

 昼休み。

 

 職場の休憩室で、和真は同僚たちと食事をしていた。

 

「そういえば、最近また妙な事件があったらしいぞ」

 

 同僚の一人がスマートフォンを見ながら話し始めた。

 

「妙な事件?」

 

「ほら、例の怪物が出たっていう話。今度は郊外らしい」

 

「またかよ……」

 

 別の同僚が顔をしかめる。

 

「警察も大変だろうな。普通の犯罪とは違うんだろ?」

 

「さあな。詳しいことは分からないけど」

 

 和真は黙って話を聞いていた。

 

 アンノウンの事件が続いている。

 

 それ自体は予想していたことだった。

 

 しかし、実際に自分の生活圏にまで影響が及んでいると考えると、気持ちは落ち着かない。

 

「三輪はどう思う?」

 

「え?」

 

「怪物が本当にいると思うか?」

 

 突然話を振られ、和真は少し考えた。

 

「目撃者が何人もいるなら、何かしら理由はあるんじゃないかな」

 

「まあ、そうだよな」

 

 それ以上、話題が続くことはなかった。

 

 和真は食事を終え、休憩室を出た。

 

     *

 

 仕事帰り。

 

 和真は駅から自宅へ向かう道を歩いていた。

 

 その途中、ふと足を止める。

 

「……何だ?」

 

 何かが聞こえた。

 

 遠くから聞こえる、かすかな金属音。

 

 続いて、誰かの足音。

 

 さらに、その奥から聞こえる荒い呼吸。

 

 和真は周囲を見回した。

 

 人通りは少ない。

 

 音のする方向は、近くの駐車場の裏手だった。

 

 嫌な予感がする。

 

 しかし、すぐに駆け出すことはしなかった。

 

 まずは様子を確かめる。

 

 建物の陰からそっと覗くと、若い男性が地面に倒れていた。

 

 その前に立っているのは、見覚えのある怪物。

 

「アンノウン……!」

 

 和真は息を呑んだ。

 

 怪物が倒れた男性に近付いていく。

 

 周囲に人影はない。

 

 和真は一度だけ周囲を確認し、男性のもとへ走った。

 

「おい! 立てるか!」

 

「う……あ……」

 

「いいから、こっちへ!」

 

 男性の腕を掴み、怪物から引き離す。

 

 アンノウンがこちらを向いた。

 

 和真は男性を物陰へ押し込んだ。

 

「ここから動くな。人がいるところまで逃げるんだ!」

 

「でも、あなたは……」

 

「早く!」

 

 男性が走り去るのを確認し、和真は怪物と向き合った。

 

 今度は逃げるわけにはいかない。

 

 相手の動きを見る。

 

 腕の振り。足の運び。身体の重心。

 

 以前よりも、相手の動きがよく見えていた。

 

 怪物が踏み込む。

 

 和真は半歩だけ横へ移動し、攻撃をかわした。

 

「見える……!」

 

 自分でも驚くほど、身体が自然に反応していた。

 

 続く攻撃も避ける。

 

 しかし、反撃しようと拳を振るった瞬間、アンノウンの腕に弾かれた。

 

「ぐっ!」

 

 力の差はまだ大きい。

 

 和真は距離を取った。

 

 右腕に意識を集中する。

 

 あの異形の力を使えないか。

 

 だが、今回も何も起きなかった。

 

「くそっ……!」

 

 アンノウンが再び迫る。

 

 和真は攻撃を避けながら、駐車場の出口へと誘導するように動いた。

 

 ここで戦い続ければ、誰かが通りかかるかもしれない。

 

 それだけは避けたかった。

 

 怪物の攻撃をかわし、最後に身体を捻って蹴りを放つ。

 

 アンノウンは数歩後退した。

 

 和真はその隙に、建物の裏側へと走り込んだ。

 

 追ってくる気配はない。

 

 完全に倒したわけではないが、少なくとも今は距離を取れた。

 

     *

 

 自宅に戻った和真は、洗面所で右腕を確認していた。

 

 異形化は起きていない。

 

 しかし、今日はいつもと違うことがあった。

 

 相手の動きが、以前よりもはっきり見えた。

 

 攻撃が来る方向も、身体が自然に理解していた。

 

「これも、身体の変化なのか……」

 

 視覚や聴覚だけではない。

 

 反応速度や、身体の動かし方そのものも変化しているのかもしれない。

 

 和真は鏡の中の自分を見つめた。

 

 人間の姿をしている。

 

 だが、その内側は確実に変わりつつあった。

 

「……俺は、どこまで変わるんだろうな」

 

 胸の奥に意識を向ける。

 

 プロトアークルは、今日も静かにそこにあった。

 

 答えはない。

 

 和真は蛇口を閉め、洗面所を出た。

 

 まだ何も分からない。

 

 それでも、少しずつ自分の身体を理解していくしかない。

 

 その力が何であれ、誰かを守るために使うと決めたのだから。

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