仮面ライダーオルビス ――三重螺旋の宿命――   作:間士兎

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第9話「制御できない力」

 

休日の朝。

 

 三輪和真は、普段より早く家を出ていた。

 

 目的地は、街外れにある河川敷だった。

 

 人通りが少なく、周囲に建物もほとんどない。身体能力を確かめるには都合のいい場所だ。

 

 最近の変化は、もはや気のせいでは済まされない。

 

 反応速度、筋力、感覚。どれも以前の自分とは明らかに違っている。

 

 それに加えて、あの異形の腕。

 

 自分の意思で変化させられない以上、何が起きるのかを把握しておく必要があった。

 

「さて……どこまでできるか」

 

 和真は周囲を確認してから、軽く走り始めた。

 

 最初はゆっくりと。

 

 徐々に速度を上げていく。

 

 地面を蹴るたび、身体が驚くほど軽く感じられた。

 

 普段なら息が上がる距離を走っても、呼吸はほとんど乱れない。

 

「やっぱり、普通じゃないな」

 

 続いて、近くに落ちていた大きめの石を拾い上げる。

 

 以前なら両手で持ち上げるのも難しそうな大きさだったが、今の和真には片手で持ち上げられた。

 

 力を込める。

 

 ミシッ。

 

「……っ!」

 

 石の表面に亀裂が走った。

 

 慌てて手を離す。

 

 砕けた石の破片が地面に落ちた。

 

「加減が難しいな……」

 

 力を出すこと自体は簡単だ。

 

 しかし、どれほど力を込めれば普通の人間と同じ程度になるのか、その感覚が分からない。

 

 日常生活で失敗すれば、取り返しのつかないことになる。

 

 和真は深く息を吐いた。

 

     ◇

 

 しばらく休憩した後、和真は右腕を見つめた。

 

 あの夜、アンノウンと戦ったときに現れた異形の腕。

 

 緑色の生体組織と、鋭い棘。

 

 間違いなく、ギルスの姿に似ていた。

 

「出てこい……」

 

 右手を握りしめ、意識を集中する。

 

 腕の奥に、何かが眠っている。

 

 そう感じることはできる。

 

 しかし、どれだけ念じても変化は起きなかった。

 

「やっぱり駄目か」

 

 力を込める方向を変えてみる。

 

 呼吸を整え、身体の奥に意識を向ける。

 

 それでも、何も起きない。

 

 代わりに、腰のあたりにわずかな熱を感じた。

 

 プロトアークル。

 

 今は身体の中に取り込まれ、外からは見えないベルト。

 

 和真は自分の腰に手を当てた。

 

「お前なら、何か分かるのか?」

 

 返事はない。

 

 ただ、身体の奥に確かな存在感がある。

 

 プロトアークルは、あの長野の地で手に入れて以来、一度も姿を現していない。

 

 それでも、完全に消えたわけではない。

 

 自分の中に存在し続けている。

 

「クウガの力……か」

 

 前世の記憶にある知識を思い返す。

 

 クウガの力は、古代の戦士が使っていたもの。

 

 一方、ギルスは人間の身体そのものが異形へと変化した存在だった。

 

 そしてアギトは、人間が新たな段階へ進化する可能性。

 

 それぞれ異なる性質を持つ力。

 

 その三つが、自分の中にある。

 

 考えれば考えるほど、理解できないことばかりだった。

 

     ◇

 

 帰宅途中。

 

 和真はコンビニで飲み物を買い、歩道を歩いていた。

 

 そのとき、前方から小さな悲鳴が聞こえた。

 

「きゃあっ!」

 

 反射的に顔を向ける。

 

 道路脇に停められた車の陰から、黒い影が飛び出してきた。

 

 その姿を見た瞬間、和真の表情が変わる。

 

 アンノウン。

 

 その手には、倒れた女性の姿があった。

 

「くそっ!」

 

 和真は駆け出した。

 

 アンノウンがこちらを向く。

 

 その異形の顔に、人間のような感情は見えない。

 

 和真は女性との距離を確認しながら、相手の動きを観察した。

 

 正面からぶつかれば、今の自分では危険だ。

 

 だが、見捨てるわけにもいかない。

 

「こっちだ!」

 

 声を上げ、アンノウンの注意を引く。

 

 相手が女性を放り出し、和真へ向かってくる。

 

 その動きが、以前よりもはっきり見えた。

 

 踏み込み。

 

 腕の振り。

 

 攻撃の軌道。

 

 身体が自然に反応する。

 

 和真は紙一重で攻撃をかわし、相手の脇をすり抜けた。

 

「今だ!」

 

 倒れている女性のもとへ駆け寄り、肩を貸す。

 

「立てますか?」

 

「は、はい……!」

 

「逃げてください! 振り返らずに!」

 

 女性が走り出すのを確認した直後、背後から衝撃が襲った。

 

「ぐっ!」

 

 アンノウンの攻撃を完全には避けきれなかった。

 

 身体が地面を転がる。

 

 痛みが走る。

 

 しかし、以前ほどではない。

 

 和真はすぐに立ち上がった。

 

 右腕に違和感がある。

 

 あの異形の力が、再び目覚めようとしているのか。

 

 だが、変化は起きなかった。

 

「頼む……!」

 

 和真は歯を食いしばる。

 

 今ここで力を使えなければ、目の前の敵を止めることはできない。

 

 それでも、腕は人間のままだった。

 

 アンノウンが再び迫る。

 

 和真は正面から受け止めず、横へ飛び退いた。

 

 そのまま建物の陰へと走る。

 

 相手を倒すことはできない。

 

 今は逃げるしかなかった。

 

     ◇

 

 しばらく走り続け、十分に距離を取ったことを確認してから、和真は足を止めた。

 

 呼吸は乱れている。

 

 身体にも痛みが残っていた。

 

 だが、骨に異常はなさそうだった。

 

「……また逃げるしかなかったか」

 

 悔しさが込み上げる。

 

 力はある。

 

 以前よりも強くなっている。

 

 それでも、アンノウンを倒すには足りない。

 

 何より、必要なときにギルスの力を使えないことが問題だった。

 

 和真は右手を握りしめる。

 

「次は……」

 

 言葉を止めた。

 

 次があると決まったわけではない。

 

 だが、アンノウンが人間を襲う限り、また遭遇する可能性はある。

 

 そのとき、自分はどうするのか。

 

 答えはまだ出ていなかった。

 

 ただ、今のままでは誰かを守ることすら難しい。

 

 和真は静かに歩き出した。

 

 身体の奥では、三つの異なる力が眠っている。

 

 そのうちの一つは、確かに目覚め始めていた。

 

 しかし、残る二つとの関係を、彼はまだ知らない。

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