夜も更けた穂村原学園の校庭で行われる、赤き弓兵と蒼い槍兵による一騎打ち。この文を読んでくれている諸兄なら、よくご存知であろう。
第五次冬木市聖杯戦争の始まりを告げるオープニングセレモニー、アーチャーとランサーの一戦である。
「くっ!?」
一足跳びで十メートル近く間合いを離した槍兵は、猛獣の如き獰猛な眼光で弓兵を睨みつける。
「どこの英霊だ、テメェ……」
槍兵が毒づくのも当然だ。
弓兵は黒を基調とした全身プロテクターの上に真紅のコートを羽織り、顔を黒地に赤い紋様が刻まれた仮面で覆っていた。だが戦闘直前まで素顔だったので、正体を隠す意図はなく、ただの面頬であるらしい。
特に異様なのは武器である。左手にはショートバレルに改造されたアサルトライフル、右手には青白く輝く宝剣という、近代なのかファンタジーか判断に困る装備であった。
「てか、その剣ってクラウ・ソラスじゃねえか!? どう見てもヌァザじゃねえよな、お前!?」
「ほう。如何にも、この剣はかつて仲魔にした、幻魔アガートラームを素体に魔晶合体させた愛刀だ。生前から長く使っている」
「で、デビルサマナーの英霊だと……、葛葉か、おい?」
槍兵の言葉に、弓兵は仮面の下で含み笑いをこぼした。
「ふっ。そんな大物ではないよ。しかし、さすがはクー・フーリンだ。サマナーについては、うちのマスターより詳しいかもしれん」
「へんっ、確かにあっちこっちで引く手あまただがな。ひょっとして、お前さんも喚んだことがあったのかい?」
「ああ。『サマナーとはクー・フーリンを呼べて一人前』とはよく言ったものだ」
「そりゃ嬉しいねぇ」
「嘘だ」
「嘘かよ!?」
などと与太話に花を咲かせる両者であったが、互いに一分の隙も見当たらない。だからこそ、言葉による牽制合戦が火花を散らすのである。
極限に高まる緊張感の中、ついに槍兵が動く。
「誰だ!!」
茂みから漏れた溜め息一つを聴きつけた槍兵が真横に跳ぶ。弓兵の間合いの外へ一直線に駆け出した。
弓兵、そして一瞬遅れで彼のマスターが目で追った。
校舎の中へ逃げ込む学生服の背中と、それを追い立てる槍兵。悲鳴に近いマスターの命令が下った。
「アーチャー、追って!!」
即座に弓兵も昇降口に飛び込むが、初動の遅れは致命的だ。
弓兵とマスターが目にしたのは、血塗れになって廊下に倒れた、赤毛の少年であった。
「衛宮くん……」
息を呑むマスターの美少女。
少年は、一目で分かる致命傷だ。心臓ごと胸部を貫かれては、救急も応急処置も意味がない。
「丸腰を狙われたか。運がない」
「相手はサーヴァントよ。武器や防具があっても無意味だわ」
「え?」
「うん?」
一瞬、主従は互いの顔を見合わせる。が、麗しの美少女マスターはすぐ行動に移った。
秘蔵の宝石に蓄えられた魔力を使い切り、少年の生命を繋ぎ止めたのである。天晴れな心意気、この献身こそが、真のヒロインの貫禄である。
さて、件の少年の身に何があったのか。諸兄も存じているだろうが、敢えて時間を戻して語らせてもらおう。
安請け合いした弓道場の掃除と備品の整備に熱中するうち、すっかり遅い時間になってしまった。
しかし、衛宮士郎少年の最大の窮地は、その後に舞い込んだ。
(失敗した! 失敗した!! 眺めてないで、さっさと帰れば良かった!!)
夜の廊下を全力疾走しながら後悔しても、後の祭りである。
余りにも鮮やかな技と技の応酬に見惚れるあまり、思わず溢れた溜め息一つ。まさか聴きつけられるなどと、士郎は想像だにしなかった。
(学校で……戦いが、こんなことなら――)
「なかなか素早いな、坊主」
身構えていても、死神はふとした油断を見逃さない。
長時間鍛えた末に、バックアタックからのクリティカルで数時間の冒険がパーになる。士郎に降りかかったのは、ありきたりなバッドラックの一つだ。
胸を貫く衝撃とともに、少年の意識は途絶えた。
「はっ!!」
その後、衛宮士郎が再び目を覚ますことが出来たのは、女神の如きヒロイン遠坂凛のお陰であるのだが。彼がそれを知るのは、だいぶ未来のこととなる。