どうして自分が助かったのかを考えるより、士郎は爆速で自宅に走った。
落ちていた赤い宝石をなんとなく握りしめ、失血による喉の渇きも堪えて、ふらつく足元を強引に動かす。
帰り着くが否や、士郎は土蔵に飛び込んだ。
「はぁ、はぁ……、……っ」
呼吸を整えるよりも制服を脱ぎ捨てることを優先し、士郎は
高窓から差し込む月光に照らし出される、プロテクターに覆われた装甲服。格納庫的な意味のハンガーから下ろして、背面を開いて全裸で着込む。
最後に、バケツを逆さまにしたようなゴツいヘルメットを被って、いつものセリフを呟いた。
「トレース、オン」
『OK.DEMONICASystems,STAND BY.』
抑揚の薄い機械音声とともに、士郎が身につけたデモニカスーツが目を覚ます。
突然だが説明しよう。
DEMOuntable Next Integrated Capability Armor――デモニカスーツとは、某超大国によって開発された……とにかく超すごい強化戦闘服である。
高い気密性による保護性能、AIサポートによる身体能力の拡張、アプリによる拡張性、悪魔召喚プログラムの標準搭載と、これ一つあればどんな過酷な任務も達成可能なパワードスーツである。
何を隠そう、あの悪夢のような1990年に南極で発生した「シュバルツバース」を消滅させた調査隊こそが、史上初のデモニカスーツ実戦部隊なのである。
『"CAUTION. A critical error has occurred in the Demon Summoning Program. Initiating system reboot."』
「なんだって!?」
『大変です。悪魔召喚プログラムに致命的なエラーが発生しています。復旧のためにシステムをリブートします』
「いや、分かってるよ!? 今の『なんだって』は驚いたから出た言葉で――あ、エネミーソナーが反応してる」
ヘルメットの内側に設置されたスクリーン上に、敵生反応の接近を示す警告表示が点灯する。
場所は土蔵のすぐ外。赤い文字は、自分より高レベルな敵を表している。
「さっきのヤツか。デモニカ、召喚は出来ないのか?」
『リブート完了まで不可能です。その他の戦闘システムは通常通り起動可能』
ならば。覚悟を決めた士郎は、右手に村正、左手に短刀・不動正宗を携えた。
(先手必勝!)
土蔵の扉を体当たりで押し開き、同時に刀を振るう。
待ち構えていた朱槍が初撃をあっさり右方へ受け流し、続けざまに強烈な後ろ回し蹴りが士郎の胴体を狙い打つ。
「ぐおっ!!」
「おっ」
驚いたのは双方ともにだ。不意打ちを防がれた士郎は動揺、吹っ飛ばすつもりが踏み止まられた敵の槍兵は高揚、と理由は真逆であったが。
「よぉ、さっきぶり」
蒼い槍兵は油断なく身構えつつ、その目は完全武装した士郎を品定めする。
「……なんだ、その格好?」
結果、造形が何よりも気になったらしい。端正な顔が一瞬にして崩れた槍兵は、何度か口を開きかけては言葉を引っ込めた。
「何って……イカすだろ?」
士郎は自信満々に胸を張るが、槍兵は戦闘中だというのに露骨に顔を背け、コメントを差し控えたのであった。