混迷する戦場で、最初に我に返ったのはセイバーさんだった。
脳天を強めにぶつけただけなので、必殺技発動寸前にカウンター喰らった槍兵より遥かに軽傷である。
「いたたた……や、やっと出てこられました……。えぇーっと」
真っ白い鎧に身を包んだセイバーさんは、まず周囲をキョロキョロと見回した。目の前の槍兵も気になるが、何よりも先に確認するべき対象がある。
「あっ! あなたが私のマス……げっ」
真後ろに向き直り、やっと目当ての人物らしき相手を見つけたものの、怪しすぎる出で立ちにセイバーさんは固まった。
(えっ、なにその格好!? まさか当世のファッション……いいえ、聖杯から与えられた知識も前衛的だと言っている! これがマスター!? パリコレにでも出る予定なのですか!?)
大変なショックで言葉を失ったセイバーさん。
一方、士郎はようやく視力が回復するや、真っ先に召喚プログラムが正常稼働していることを確認していた。
「……よ、よし! これでもうこっちのもんだ!」
「あ、あのー……」
「うん?」
遠慮がちな声に振り向けば、目の前には見目麗しい金髪碧眼の美少女が。中学生ぐらいに見える背丈と顔立ちで、元気さと純真さが滲み出ている。
甲冑らしさの薄い、むしろドレスに近い純白の装いも合わせれば、野原に咲いた一輪の白百合のようだ。
「誰だ、お前は!?」
もっとも、サマナーである士郎は、外見で相手を判断すれば死に直結すると骨身に染みている。ましてや相手から話しかけて来たからといって、友好的とも限らないのが悪魔会話の常なのだ。
セイバーさんは、長刀を突きつけられて困惑しながらも、まず敵意がないことを伝えねば、と口を開いた。
「召喚に応じて参上しました、剣の英雄セイバーで――」
「喚んでない」
「え?」
「英雄なんて作ってないし、契約もしてない。どうして俺のデモニカに登録されてる? 誰だ、お前は?」
士郎の不信は強い。まるで一時間の○×ゲームの果てに最高のスキル継承が完成したと思ったら、合体事故が起こったときのような表情だ。
しかし、ANALYZE上では間違いなくセイバーさんは士郎のCOMPに登録された仲魔だった。
種族は英雄、名前はセイバー・リリィ。その他の情報は文字化けしていて読み取れない。
「百合剣士? ……シュヴァリエ・デオン?」
「そのリリィではなくてですね!?」
『警告。敵性体再活性化を確認。推定クー・フーリンが攻撃を再開させます』
AIの報告で、士郎は二刀を構え直した。合わせてセイバーさんも振り返り、黄金に輝く大剣を出現させた。
槍兵もまた、再度の必殺技の構えを取っていた。しかし、先ほどまであった嵐の如き殺意が鳴りを潜めている。槍にまとわせていた呪力も、雲散霧消していた。
「……サマナーがマスターになるたぁな。こいつはタフな戦いになりそうだ」
「今日は帰るのか?」
「故あってな。だが、次の機会ではとことんやろうぜ。そっちも仲魔が出せるようになったようだしな」
大きく身を沈めた槍兵が、次の一瞬には上空高くへ跳躍。夜の街へと消えていった。
残された二人の間を、乾いた冬の風が吹き抜ける。
「俺の知ってるクー・フーリンと違う」
士郎の呟きに、セイバーさんは黄金のバケツヘルメットの横顔を見て噴き出しかけ、慌てて顔を背け直すのだった。