『警告。エネミーソナーに新たなる反応』
一段落つく暇もなく、デモニカスーツが次の脅威を伝えてきた。表示された色は緑。脅威度は低いが、自宅で反応するのが問題だ。
方角、距離を確認するや、士郎はプログラムを走らせる。
「霊鳥召喚、スパルナ!」
虹色に輝く翼を持ち、その名もズバリ「美しい翼を持つ者」であるスパルナ。ガルーダの別名でありながら、召喚師界隈では別物として扱われる。
ガルーダそのものを召喚するよりコストが低く、廉価版や初心者用との評価もあったりなかったり。
「よっと!」
士郎がスパルナの足に掴まると、スパルナは夜空に高く飛翔。街を一望できるまで舞い上がった。
「あそこか!」
衛宮邸を囲む漆喰の塀の前で、夜道でも目立つ赤い少女が息を切らせていた。
士郎が念じると、思念をプログラムが命令に変換し、ノータイムで仲魔に伝える。スパルナが赤い人に向かって急降下を始めた。
「はへ?」
「魔獣召喚!」
赤い人の眼前に着地した士郎は、もう一体の仲魔を喚び出す。真っ白い毛並みに三つの頭部、尻尾が蛇の巨大な魔犬。クー・フーリンと並び、サマナー界で大人気のケルベロスである。
「ひぃぃっ!?」
赤い人が悲鳴を上げて尻もちをつく。その次の瞬間、赤い人を庇うように赤黒い人が前触れもなく出現し、ケルベロスとスパルナに立ち塞がった。
途端に、エネミーソナーが真っ赤に変わる。赤黒い人の戦闘力が、士郎を大きく上回ってる証だ。
「ストップだ、少年。コチラに戦う気はない」
その赤黒い人は、背中に武器らしき剣と銃をマウントしたまま、掌を突き出して士郎に制止を呼びかけた。
士郎は仲魔たちに待機を命じつつ、赤黒い人の装備を慎重に確認する。顔を覆う面頬のデザインに、強い既視感を覚えた。
「デモニカか、それ?」
「そのとおりだ。私は……アレックス。衛宮切嗣氏の知り合いだ」
「切嗣さんの!?」
突然に飛び出してきた名前に、士郎は思わず狼狽えた。だが驚きの声は、赤い人からも上がる。
「ち、ちょっとアーチャー!? なに勝手に真名を教えちゃってるのよ!?」
「遠坂……!? お前、遠坂か!」
「へ?」
アレックスを名乗った赤黒い人が一歩横へズレると、そこには立ち上がりかけの姿勢で固まる、同級生の姿があった。
衛宮邸にある仏壇には、銀髪にルビーアイをした、儚げで美しい女性の写真が飾られている。
士郎の養母、衛宮アイリスフィールである。
「10年前、俺を拾って育ててくれた人だ。切嗣さんは、死別した旦那さんだって聞いてる」
居間に集った四人の間には、奇妙な緊張が横たわっていた。
向かい合って座る士郎と、面頬を外したアレックス。士郎の隣にセイバーさんが、アレックスの隣には凛ちゃんがいて、家庭の事情に踏み込めないまま気まずそうに天井のシミを数えていた。
「切嗣さんは、シュバルツバース調査隊に参加して、帰って来なかった」
「えっ!?」
今のは凛ちゃんの驚愕だ。慌てて口を押さえたが、アーチャーと士郎に気にした様子はなかった。
説明しよう。
シュバルツバースとは、1990年に南極で発生した未知の空間現象である。
触れるもの全てを分子崩壊させて広がる、この空間に対処するべく、当時の国連は世界中から集めたプロフェッショナルからなる調査隊を派遣。見事、その脅威を払拭したのである。
衛宮切嗣は、調査隊唯一の日本人隊員として参加していた。
(魔術協会やアトラス院も協力してたって話よね。神話時代以来の世界の存続危機だったらしいし)
事件当時はまだ幼かった凛ちゃんだが、新聞を読んでソワソワしていた
「そうか。彼は、帰って来ていないのか……」
瞠目し、押し黙るアレックス。その胸中が哀悼か、無念なのか、知るすべはない。
(アレックス・アーチャーさん、か。英霊ってことは、もう亡くなってるってことだよな。調査隊の仲間だったのかな?)
調査隊のうち、帰還できたのはごく一部だったと報道されている。だが、その一人一人が解決に貢献したのだから、誰が英雄になっても不思議ではない、と士郎は思った。
その隣のセイバーさんは、
(どうでもいいけど、いつまでマスターはそのダサい格好でいるつもりなんでしょう? せめて素顔ぐらい見せてくださいよ、もう)
と、デモニカを脱がない士郎に不満を募らせているのであった。