魔法少女の才能がないと言われた私、禁忌の魔法で最強になる   作:いーる

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第四話 魔法少女管理局からの呼び出し

 

 

翌朝。

 

「……んん」

 

午前六時三十分。

アラームが鳴る前に目を覚まし、スマートフォンの画面をタップする。

 

カーテンの隙間から差し込む朝日を浴びながら、小さく伸びをした。

つなぎの朝ご飯を作って、学校へ行って、帰りにスーパーで買い出しをする。

 

いつも通りの、愛おしい日常。

 

……あ、そうだ。

 

「昨日の通知、返事してなかったな」

 

魔法少女管理局から届いていたメッセージを開く。

『本日発生した怪異の討伐について確認したい事項があります』とのこと。

 

連絡先を教えた覚えはないけれど、向こうは国家機関だ。いくらでも調べようがあるのだろう。

 

生活費、つなぎの学費、将来のための貯金。

高校生のアルバイトだけでは限界がある。その点、怪異討伐の報酬は破格だ。

今の私にとって、怪異は「危険な災厄」というより「お金を運んでくる鴨」に近かった。

 

『本日の放課後なら時間が取れます』

 

返信を送信すると、数秒で返ってきた。

 

『ありがとうございます。本日十六時に魔法少女管理局・東京中央支部までお越しください。担当者がお待ちしております』

 

「ふふ、話が早くて助かるな」

 

満足してスマホを置く。

これで、我が家の財布事情もずいぶんと楽になるはずだ。

 

ベッドを降りる私は、まだ知らなかった。

管理局が私を呼び出した理由が、報酬の説明などではなく「危険要素の排除と解明」であるということを。

 

そして――部屋で待っているのが、昨日私を不合格にしたあの面接官だということも。

 

◇

 

午前七時。

 

「お姉ちゃん! 今日の卵焼き、いつもより甘くて美味しい!」

 

「そう? 砂糖を少し増やしてみたんだ」

 

「すごく好き!」

 

朝食の席で、つなぎが頬を膨らませて笑う。

妹が元気で、ご飯を美味しいと言ってくれる。それだけで十分すぎるほど幸せだ。

 

「そういえば、つなぎ。今日ね、放課後に少し用事ができたの」

 

「用事?」

 

「うん。昨日の怪異のことで、管理局から呼び出されちゃって。たぶん、報酬のお話しだと思うんだよね」

 

その瞬間――カチャン、とつなぎの手が止まった。

 

「……報酬って、お姉ちゃんが怪異を倒したの?」

 

「そうそう。だから、ちゃんとお金のこと聞いてこようと思って」

 

「……危ないこと、しない?」

 

縋るような、不安げな瞳が私に向けられる。

 

危ないこと?

昨日の怪異なんて、息を吸うように簡単に消し去れた。

どんな敵が来ようと、今の私なら指一本で塵にできる。

 

危険なんて、どこにもない。

 

「大丈夫だよ」

 

私は満面の笑みで答えた。

 

「お姉ちゃん、すごく強くなったから」

 

「……うん」

 

つなぎは頷いたけれど、その顔から不安の色は消えなかった。

むしろ、どこか怯えているようにさえ見える。

 

(どうしてだろう?)

 

私は強くなったのだ。つなぎを絶対に守れる完璧な存在になったのだ。

なのに、どうしてそんな顔をするのだろう。

 

……まあ、いっか。

私の強さを知れば、いずれ分かってくれるはずだ。

 

「ほら、冷めちゃうよ」

 

「あっ、うん……!」

 

皿に卵焼きを乗せてあげると、つなぎは少し引きつった笑みを浮かべた。

今は、それで十分だった。

 

◇

 

午後四時。魔法少女管理局・東京中央支部。

 

都心の一等地に聳え立つ巨大な白亜のビル。

目に見えない防衛結界が張り巡らされたその威容は、まさに人類防衛の要衝そのものだ。

 

「昨日の件で呼び出されました、白門つむぎです」

 

受付を通され、案内に従って三階の応接室へと向かう。

重厚な扉を開けると、そこにいた人物を見て、私は思わず目を丸くした。

 

「……久しぶり、と言うべきかしら」

 

そこにいたのは、昨日私に不合格を突きつけた面接官――九条玲奈だった。

 

「九条さん?」

 

「ええ。覚えていてくれたのね。……どうぞ、座って」

 

対面のソファに腰を下ろす。

玲奈さんは書類を手に取り、どこか張り詰めたような、痛切な視線を私に向けていた。

 

「まず、昨日の討伐について説明するわ。あなたが倒した怪異は、危険度C相当。……けれど、あなたはそれを一瞬で消滅させた」

 

「はい。手応えもなかったですね」

 

「……その時、あなたが使った魔法を解析させてもらったわ。炎、氷、雷、風、光、闇――少なくとも六大属性が、完全に同時に観測されている」

 

玲奈さんが身を乗り出し、机に両手をついた。

 

「相反する属性の同時制御なんて、通常の魔法少女には『絶対に』不可能なの。白門さん……あなた、一体どんな魔法を使っているの?」

 

どんな魔法?

名前なら、手に入れた時に頭の中に刻まれたから知っている。

 

「【私の希望、君の絶望】です」

 

――ピキ、と。

部屋の空気が凍りついた。

 

玲奈さんの顔から血の気が引き、瞳孔が収縮する。

 

「……いま、何と言ったの?」

 

「【私の希望、君の絶望】ですけど」

 

「その魔法は……誰に習ったの!? どこで手に入れたの!?」

 

「誰からって言われても……願ったら、勝手に与えられたというか……」

 

私の曖昧な返答に、玲奈さんは頭を抱え、絶句した。

禁忌。古文書にすら名をとどめない、理外の力。

それを、目の前の少女は放課後の雑談のような軽さで口にしている。

 

「……あなた、その魔法の『代償』を理解しているの!?」

 

「代償?」

 

首を傾げる。

契約の時に何か言われた気もするけれど……別に身体が痛むわけでもない。

 

「特に何もないですよ? 使えるから使ってるだけで」

 

「……っ!」

 

玲奈さんは息を呑み、震える声を絞り出した。

 

「自分に……『異常』が起きている感覚はないの!? 感情が壊れていくとか、大切なものがどうでもよくなるとか……何かが欠け落ちていく恐怖はないの!?」

 

以前と比べて。

感情が薄くなったか。

 

……うーん。

試験に落ちた悔しさも消えたし、怪異への恐怖も消えた。美咲の心配もよく分からなかった。

でも、それが何か問題なのだろうか?

 

「特に困っていません」

 

私はニッコリと笑って答えた。

 

「つなぎも元気ですし、毎日すごく楽しいですよ?」

 

嘘偽りのない本音だった。

妹は生きている。ご飯は美味しい。魔法があればお金も稼げる。

完璧だ。何の不足もない。

 

玲奈さんは、私の「完璧な笑顔」を見て、ぞっとしたように身体を強張らせた。

 

「……あなた、昨日の面接で言ったわね。『妹さえ無事なら、他の人間はどうなろうと構わない』って」

 

「はい」

 

「なのに、昨日は見知らぬ男性を助けた。どうして?」

 

「え?」

 

どうして、と聞かれても困る。

 

「助けられそうだったので。ついでです」

 

正義感でも、倫理観でもない。

「そこにいて、簡単に消せたから消した」。ただそれだけの無機質な事実。

 

玲奈さんは力なく背もたれに倒れ込み、苦痛そうに目を開けた。

 

(……違う。この子は『正義』に目覚めたんじゃない。ただ『人間としての葛藤』そのものが消滅しているんだ……!)

 

彼女が抱いたのは、圧倒的な恐怖と罪悪感。

自分が昨日不合格にしたせいで、この少女は怪物へと変貌してしまったのではないかという絶望。

 

「……白門さん。あなたの状態を、管理局で定期的に調査させてほしいの」

 

「調査、ですか?」

 

「ええ。あなた自身と、周囲の安全のために――」

 

「報酬は出ますか?」

 

ピタリと、玲奈さんの言葉が止まった。

 

「……え?」

 

「交通費とか、協力費とか。時間を拘束されるなら、手当が出ないと困るんですけど……」

 

「……出、出るわ。必要経費も協力費も支給する……」

 

「本当ですか! じゃあ喜んで受けます!」

 

ぱっと顔を輝かせる。

よかった! これでつなぎに新しい服を買ってあげられる! 美味しいお肉も買える!

 

弾けるような私の笑顔を見て、玲奈さんは震える手で自身の膝を固く握りしめていた。

 

世界を滅ぼしかねない禁忌の力を振りかざしながら、頭の中にあるのは「妹の生活費」だけ。

倫理も、恐怖も、世界への関心も、全て削ぎ落とされた完璧な狂気。

 

「……あなたは本当に、妹さんのことしか見えていないのね」

 

「はい! つなぎは私の一番大切な妹ですから!」

 

迷いなく、純粋に答える。

 

玲奈さんは何も言えなかった。

 

私の「妹を愛する気持ち」だけは、何一つ変わっていない。

――それ以外のすべてが、手遅れなほど壊れて失われていることにも気づかないまま。

 

 

 

 

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