魔法少女の才能がないと言われた私、禁忌の魔法で最強になる   作:いーる

6 / 6
第五話 未確認の超高濃度魔力反応

 

 

面談が終わったのは、午後五時を過ぎた頃だった。

 

「今日はありがとう。詳しい調査日程は、改めて連絡するわ」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

深く頭を下げ、応接室を後にする。

 

廊下を歩きながらスマホを取り出し、つなぎに「帰りが少し遅くなる」とメッセージを打とうとした――その時。

 

ウーッ! ウーッ! と、館内に耳を劈く甲高い警戒サイレンが鳴り響いた。

 

『緊急警報。東京都内にて、未確認の超高濃度魔力反応を検知』

 

歩いていた職員たちが、一斉に足を止める。

 

『対象位置を特定中。周辺地域の魔力濃度、異常値を更新中。魔法少女各員は直ちに指定ポイントへ展開してください』

 

「……なんだろう?」

 

首を傾げた私の背後から、慌ただしい怒号と足音が近づいてきた。

 

「九条様っ! 大変です、反応の発生地点が判明しました!」

 

「どこ!?」

 

応接室の扉が勢いよく開かれ、悲鳴のような報告が廊下に響き渡る。

 

「第一級警戒区域の外縁部です! 封鎖領域の内部から直接、魔力が噴出しています! 出力上昇が止まりません……っ!」

 

「馬鹿な、あの封鎖結界を破って内部から!? 脅威度は!?」

 

「判定不能……! 計測カウンターが振り切れました……『測定不能』です!!」

 

ヒッ、と誰かが息を呑む音が聞こえた。

廊下の空気に、物理的な圧迫感すら混じる。

 

玲奈さんが凄まじい気迫で矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「周辺住民の即時避難! S級含む全魔法少女に緊急招集命令! 観測班は至急詳細のデータを――」

 

「九条様! 魔力波形が……変異しました!」

 

「何ですって!?」

 

「怪異の波形だけではありません! 空間の物理法則そのものが歪められています……!」

 

職員の端末を覗き込んだ玲奈さんが、息を詰まらせた。

 

その時、廊下に立っていた私と玲奈さんの視線が交差する。

玲奈さんは焦燥に顔を歪め、私の肩を掴む勢いで叫んだ。

 

「白門さん! あなた今すぐ帰りなさい!」

 

「え?」

 

「いいから! 今すぐ地下通路から脱出して、妹さんの元へ戻るの!」

 

……ん?

帰る。つなぎの元へ。

もちろんそれは最優先事項だ。けれど、ふと疑問が湧いた。

 

「……あの、九条さん」

 

「何!? 急いで――」

 

「その怪異……倒したら、報酬は出ますか?」

 

「…………は?」

 

玲奈さんの思考が、完全に停止した。

慌ただしく走っていた職員たちも、まるで時が止まったかのように私を凝視する。

 

危険度測定不能。

そんな大物が現れたのなら、討伐報酬は桁違いのはずだ。

 

それを倒せば、一気に数年分の生活費が稼げる。つなぎを私立の学校に通わせてあげることも、欲しいものを全部買ってあげることもできる。

 

私にとっては、危険どころか「千載一遇のチャンス」でしかなかった。

 

「……白門さん」

 

玲奈さんの声が、激しい怒りと戦慄で震えている。

 

「あなた……自分が何を言っているのか解っているの!?」

 

「はい。怪異を倒した場合の特別危険手当が出るかどうかの確認ですけど」

 

「そういうことを言っているんじゃないのッ!!!!」

 

廊下に響き渡る、玲奈さんの裂けるような怒声。

職員たちがビクッと身を竦める。

 

……あれ? なんで怒られたんだろう?

私はただ、効率よく家計を助けたいだけなのに。

 

その時、追い打ちをかけるように無機質な館内アナウンスが響いた。

 

『緊急速報。対象の魔力波形を照合完了』

 

『現地の観測班より最終報告。対象は――封印指定個体』

 

『災厄級怪異【黒冠】の現世侵入を確認』

 

――【黒冠】。

 

その名が聞こえた瞬間、玲奈さんの顔から血の気が完全に引き、膝がガクガクと震え出した。

 

「嘘……嘘でしょ……! あの都市壊滅級の悪魔が、どうして今……!?」

 

「現地の先遣部隊は!?」

 

「全滅……信号が全滅しましたぁぁっ!」

 

悲鳴とパニックが管制フロアを包み込む。

かつて単体で一つの国家を崩壊寸前まで追い込み、数多の最高峰魔法少女の犠牲と引き換えに封印された伝説の悪魔。

 

まさに人類の存亡をかけた暗黒の災厄。

 

……けれど。

 

(……へえ)

 

私は口元に、するりと笑みを浮かべた。

 

(災厄級。……最高じゃん)

 

すごく強い。=すごく稼げる。=もっとつなぎを幸せにできる。

行く理由しか存在しなかった。

 

「それじゃ、私行きますね」

 

「白門さん! 待ちなさい! 白門さんっ!!」

 

後ろから叫ぶ玲奈さんの制止をあっさりと無視し、私は軽やかな足取りで廊下を歩き出す。

 

大丈夫。パパッと片付けて、急いで帰ればいい。

今日の夕飯は何にしようか。つなぎの好きなチーズハンバーグにしよう。

 

少女の背中を見送りながら、九条玲奈は膝から崩れ落ちそうになっていた。

 

止めなければならない。

あの壊れた少女を、今すぐ拘束してでも止めなければ。

 

だが、昨日の光景が頭から離れない。

属性の概念を踏み潰し、何の躊躇もなく理外の力を振るう銀髪の怪物。

 

自分の命すら惜しまず、世間の恐怖も理解せず、ただ「妹」という唯一の希望だけを燃料にして爆走する異物。

 

(……あの子は、誰かを傷つけたいんじゃない)

 

(世界を滅ぼしたいわけでもない……。ただ、妹を守りたいだけなの……っ!)

 

だからこそ、恐ろしい。

その純粋すぎる狂気ゆえに、彼女は遮るものすべてを粉砕しながら突っ走っていく。

 

そしてその果てに、彼女自身の中身が完全に空っぽになってしまうことすら、彼女は気づいていないのだ。

 

「……お願いだから」

 

玲奈は祈るように胸の前で手を組んだ。

 

「これ以上……何も失わないで……ッ!」

 

だが、その悲痛な叫びが届くことはなかった。

 

◇

 

東京都内、封鎖区域。

 

崩落した高層ビルの瓦礫の山の上に、漆黒の巨大な『影』が佇んでいた。

 

漆黒の外殻。頭上に蠢く、王冠を模した頭角。

周囲の空間を物理的に歪ませ、大気を腐敗させる絶望的な魔力圧。

 

――災厄級怪異【黒冠】。

 

長い封印から解き放たれた悪魔が、緩慢に首を巡らせる。

そして、裂けた口を耳まで引き裂き、凶悪に「歪んだ笑み」を浮かべた。

 

瓦礫の道路の向こうから、一人の人間が近づいてきたからだ。

 

輝く銀髪。

どこか眠たそうな、無防備な瞳。

制服のポケットに手を突っ込み、散歩でもするように歩いてくる少女。

 

悪魔が放つ殺意の咆哮だけで、普通の人間なら精神が狂い、血管が弾け飛ぶほどの圧力が空間を支配する。

 

だが、少女は平然と悪魔を見上げ、嬉しそうに首を傾げた。

 

「あなたが、災厄級?」

 

グアァァァァァッ……!と【黒冠】が空間を叩き割り、絶対的な死の波浪が少女を襲う。

 

しかし、少女の髪ひとすじ揺れない。

 

「うん。確かに、今までのやつより高そう」

 

すっと、右手を掲げる。

指先に灯ったのは、禍々しくも美しい銀の概念光。

 

「じゃあ、よろしくね」

 

友達に挨拶するような気軽さで、少女はその呪文を口にした。

 

「【私の希望、君の絶望】」

 

――ガガガガッ!と世界が、銀の絶望で塗り潰される。

 

人類の命運を懸けた、最悪の戦いの幕が上がる。

 

――ただし。

この少女が守ろうとしているものに、「人類の平和」など一微塵も含まれていない。

 

たった一人の妹。

それだけだった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

推しの魔法少女を助けたいTS転生魔法少女(作者:きし川)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

生前、途中で視聴をやめてしまった魔法少女作品の世界に女の子として転生した男は視聴をやめる原因となった推しを助けるべく魔法少女となって戦う。


総合評価:814/評価:7.71/連載:7話/更新日時:2026年08月12日(水) 07:12 小説情報

傷つきながら戦うから愛されるんだよ!!(作者:片桐きな粉)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

面がいい人に愛されたい。君だって、私だって。▼じゃあピンチを助けてくれた儚げで可憐な少女が実は不当な契約で圧倒的高リスクを負い、能力を使うたびに欠損→回復を繰り返していたら!?▼感情が高まるんだ。愛が深まるんだ。▼過去作のリメイクです▼カクヨムにも投稿しています。


総合評価:30/評価:-.--/連載:2話/更新日時:2026年10月30日(金) 00:32 小説情報

TS転生者、魔法少女世界に転生するも洗脳悪堕ち魔法少女にされて妹と戦わされる(作者:辻契約マスコット)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 悪の組織『シン・アーク』と魔法少女達が日夜戦う世界にTS転生した光の魔法少女オタク(自称)は、ある日悪の組織に連れ去られ、洗脳悪堕ち魔法少女にされてしまった!▼ 一方その頃、彼/彼女の今世の義妹はマスコットと契約し、魔法少女として戦う覚悟を決める。▼ これは、愉快な悪の組織の洗脳悪堕ち魔法少女と、愉快なニチアサ風光の魔法少女の、姉妹の戦いのお話し。


総合評価:2167/評価:8.24/連載:6話/更新日時:2026年07月11日(土) 21:51 小説情報

うすほそ儚げ病弱最強囚人ガールっ!(作者:あめざり)(原作:ブルーアーカイブ)

脱獄した七囚人を捕まえる為、うすほそ儚げ病弱最強囚人ガールである日向夏クサハが矯正局の外に出る話▼本文校正とか壁打ちとかにAI使ってます


総合評価:191/評価:8.25/連載:2話/更新日時:2026年10月29日(木) 08:06 小説情報

洗脳闇堕ち妹を差し置いて、クソデカ感情を別な奴に向ける姉(作者:片桐きな粉)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

「くくく...ついに完成したぞ!絶対服従の強化個体だ!!」▼↑洗脳出来てません。でも逆らったらヤバそうなので従います。▼「なんで...あなたがそっち側にいるの!?」▼「私の妹を攫った、そっち側に.......っ」▼「ふざけないで!...友達だと、思ってたのに」▼主人公そっちのけで始まる重い感情のぶつかり合い。すれ違い。etc...▼これも全部敵が悪いんだ!!…


総合評価:643/評価:8.38/連載:8話/更新日時:2026年08月21日(金) 21:34 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>