「ケツイ」の幻想入り   作:「なるほどね」

1 / 1
アンテ原作にわかです対よろ


プロローグ 呪縛の解呪

また、これだ。

 

一体、何回この虐殺を繰り返せばいいのだろう。

 

あの日、みんなで地上に出て、綺麗な夕日を見ながらパーティーをした。あの幸せだった日々は、どこへ消えてしまったのか。何度も何度も繰り返される凄惨な殺戮の果てに、もう抗う力も、立ち上がる気力も、何も残っていなかった。

 

「……キャラ。君の『ケツイ』で、どうにかできないの?」

 

虚空に向かって、消え入りそうな声で問いかける。すると、虚空から聞き馴染んだ声が返ってきた。

 

「……無理だな。そろそろ世界がリセットされて元に戻る。今のうちに心の準備をしておいた方がいい。それにしても、酷いものだな。お前が命がけで手にした平和や幸福は、画面の向こうの『プレイヤー』の手で、こうも簡単に戦争と不幸に変えられてしまう」

 

「どうにかしてくれない?……ねえ、助けてよ……」

 

「……泣いているのか?」

 

冷徹なはずのキャラの声が、わずかに揺れた。

 

「そりゃそうだよ! これ以上みんなを傷つけて、いたぶったって、何にもならないじゃないか……! プレイヤーは……一体何がしたいの!? 何度も、何度もリセットして、また親友を殺させて……! そんなことして何になるの? 教えてよ、キャラ。私たちは……僕は、何のために存在してるの……!?」

 

キャラにも、誰にも、この運命を覆すことなんてできない。それは痛いほど理解している。なのに、私の心は諦めることを拒み、必死に足掻こうとしていた。

 

「黙れ!!」

 

突然、キャラが激昂した。

 

「好き勝手言いやがって……! そんなこと、私が一番わかっている! 私は、私の家族だったトリエルも、アズゴアも、モンスターたちも、この手でたくさん殺したんだぞ……!! 好きでやったわけじゃない! 私だって……私だって、こんなことしたくないんだ!!」

 

突きつけられた魂の叫びに、ハッとする。そうだ、苦しんでいたのは私だけじゃない。キャラだって、同じ痛みを背負っているんだ。

 

「……ごめんね、キャラ。君も、おんなじだったよね」

 

「……こちらも、声を荒らげてすまなかった。私がプレイヤーに『ジェノサイドルート』を選ばせなかったら、よかっただけなのにな……」

 

俯くキャラの横顔を見て、ふと閃くものがあった。

 

私の『ケツイ』と、キャラの『リセット』の力。この二つが完全に交われば、もしかしたら。

 

「そうだ、キャラ!! 君のリセットの力と、僕のケツイを掛け合わせたら……この絶望のループから抜け出せるんじゃない!?」

 

「………なるほど。理論上、可能性はあるな。だが、一時的な拒絶に過ぎないかもしれないぞ。どうする、試してみるか?」

 

「当然試すよ! 成功したら儲けもんだしね!」

 

「……ふっ、お前のそういう妙なポジティブさは嫌いじゃない。じゃあやるか。手を繋げ。集中しろよ、力の統合と解放は私がコントロールする」

 

私たちは互いの手を強く握り締めた。冷たいはずのキャラの手が、いまはとても温かく感じる。私は魂の奥底から、ありったけの『ケツイ』をキャラへと注ぎ込んだ。

 

10秒ほど経っただろうか。

 

――パリィィィン!!!

 

世界にひびが入り、硝子が割れるような轟音が響き渡る。

 

視界を覆っていた不気味な黒い背景が文字通り砕け散り、眩い光の向こうに、鮮やかな色彩が飛び込んできた。

 

「キャラ!! 見て、森だよ! 久しぶりに本物の緑を見た!!」

 

「……そんなに騒ぐな。ひとまず成功したようだな。だが……ここは、どうやら私たちが元いた世界ではなさそうだぞ」

 

「えっ、なんで!? じゃあ、つまり……僕たちはプレイヤーの呪縛から、ついに解き放たれたってこと!?」

 

「うるさい、耳元で叫ぶな!」

 

キャラは怒鳴ったけれど、その表情にはどこか安堵の色が浮かんでいた。それを見たら、もう嬉しくて、楽しくて仕方がなくなってしまう。

 

「ごめんなさい、キャラ先生」

 

「先生と言うな。……まあいい。どうやら私のセーブとロードの力が使えなくなっている。つまり、ここは私たちがいた『下位創作次元』ではないということだ」

 

「……かいそうさくじげん? どういうこと?」

 

私が小首を傾げると、キャラは呆れたように深い溜め息をついた。

 

「はぁ……一から説明してやるから、よく聞いておけよ。まず、私たちの元いた世界は『下位創作次元』という、極めて脆い世界だ。簡単に言えば、プレイヤー……つまり私たちより上の階層にいる存在が作った世界。ゲームや漫画と同じ原理さ。そして下位創作次元には、それぞれの世界特有の『設定』が存在している。例えば、リセットやケツイといったシステムだ。それが通用しないということは、私たちは今、全く別の『設定』で動いている別の下位創作次元に来ている、ということになる。……分かったか?」

 

「ううん! 全然分かんなかった! でも、元の地獄みたいな世界とは違うってことだね! やったぁ!」

 

難しいことは分からなかったけれど、やっぱりキャラは物知りだ。頼もしい相棒が隣にいる。それだけで、胸の奥から「力」がみなぎってくる。

 

「……まぁいい、お前が元気になったのならな。さて、まずはこの世界を探索するぞ」

 

「はーい、キャラ先生!」

 

「だから先生言うな!」

 

こうして私たちは手を繋いだまま、まだ見ぬ新しい世界へと歩き出した。プレイヤーの視線も、リセットの恐怖もない、私たちの本当の物語を始めるために。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。