近づくもの   作:ほたる967

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次はどこへ

 一度成功体験を得られたからか、次からの語りが前よりも楽しみで仕方がなかった。

 

 あの日の夜に体験したことを元に作成する怖い話は、お客さんからも評価がいいのか、最後まで俺の語りを聞いてもらえている。

 佐々木さんにお礼を言いに行くと。

 

「お前って怖がりだったんだな、人が怖いと起こす行動がよくわかってるな」

 笑いながら、少し馬鹿にされたような気もする。

 もしかしたら先輩の照れ隠しかもしれない。

 

「夜のトンネルは意外と怖かったですよ」

「そっか、何か見えたか?」

 トンネルのことを思い出しているふりをして、あの黒い何かのこと言おうか悩んだ。

 

「見えた?……なにもいなかったですね、もしかして佐々木さん、霊感ってやつがあるんですか?」

 声が震えないように答え、話を変えることにした。

 

「……そんなものはないな、何かあったらおもしろそうだなって思っただけだ、今日もBGMよろしくな」

「任せてください」

 佐々木さんには、トンネルであったことを言うのはやめた。

 どうせ信じてもらえないだろう、変な奴って思われたくもなかった。

 

 畳が引いてある小さな座敷に座り、マイクの位置を調整する、すべてが終わり合図を送ると照明が当たった。

 店にいる全員の顔が俺に向いている、俺はいつものように笑みを浮かべ自己紹介をした後に語り始める。

 

「これはとあるダムで起きた話になります」

 

 語りが終わり、頭を下げると、拍手が聞こえてきた。

 ステージを降りて、次の語りの準備をするために服を着替えるため控室に入る。

 そこには、次に語り手を務める森沢さんが着替えていた。

 

「終わりました、次お願いします」

 いつものように笑顔で、小さくても聞こえるように声をかける。

 

「お疲れ様~、最近調子良さそうだね、元気になってよかったよ」

「気にかけてくれて、ありがとうございます」

 声のトーン的には、やさしい人なのだが、表情があまり変わらないから少し怖い。

 

「話もよくなってきたし、この調子で頑張ってね、じゃあBGMお願い」

 森沢さんは、控室から出ていく。

 

 お客さんと先輩から褒められたおかげか、その後の語りの司会や雰囲気作り、照明準備など、前よりもきびきび動けていたような気がする。

 

 BGMは雰囲気作りのために欠かせない、音量を調整したり、消したり少し変えることを行う。

 責任がなかなか重たい所になるのだが、調整タイミングは、語り手の台本に書かれているため。

 先輩たちは俺に教える目的も込みで、ここを任せてくれている。

 緊張感はあるが、いろいろ勉強になることが多い、優しい先輩には感謝している。

 

 すべての語りが終わり、片づけをしている時に、お客様の話が聞こえてくる。

 俺の話になると、大抵悲しいことばかり言われるから、前までは聞きたくないことが多かったが、最近は褒められることが多いから聞きやすい。

 

「あの子トンネルの話からなんか変わったな」

「話が怖くなったな、いいサイトでも見つけたんだろ」

 前言撤回、やっぱり聞きたくないことが多い、俺は一生懸命話を作ってんだよ。

 

「だけどな、やっぱりトンネルの話が一番だったな。最近話が良くはなったがインパクトがな、こうなんていうのか」

「まあ、だんだんつまらなくなってきたって感じだな」

 

 その一言が、胸の奥に刺さってくる。

 全員に評価される話はない、それは分かっているが、否定される言葉はやっぱりきつい。

 気にしすぎだ。

 

 語っている時のお客さんは、以前とは比べものにならないほど集中して聞いてくれている。

 家に帰り、次の怖い話を作成する。

 

「……本当にこれでいいのかな」

 作った文章を読めば読むほど、不安になっていく。

 

 お客さんが言っていたことは、なんとなく俺も感じていた、話のストーリーが似ているからだ。

 今回作った話も、廃村で怖い目に遭って逃げる内容になってしまった。

 

 つまらなくなってきた……お客さんの声が頭の中を回り続ける。

 語っても誰も俺の話を聞こうとしてくれない……もうあんな思いはしたくなかった。

 

「……どこか行くしかないのかな」

 スマホで廃村の心霊スポットを検索する。

 

 行けそうなところを探している時、トンネルの暗闇が、ふっと脳裏に浮かんだ。

 

 あの黒い液体。

 後ろから追いかけてきた音。

 走っても走っても離れることがない絶望。

 

 思い出しただけで、腕が少し震えてくる。

 大丈夫、雰囲気を知りに行くだけ、あいつみたいなのに会いに行くわけじゃない。

 

 あんなものにはもう出会わない、そう思い込むしかなかった。

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