一度成功体験を得られたからか、次からの語りが前よりも楽しみで仕方がなかった。
あの日の夜に体験したことを元に作成する怖い話は、お客さんからも評価がいいのか、最後まで俺の語りを聞いてもらえている。
佐々木さんにお礼を言いに行くと。
「お前って怖がりだったんだな、人が怖いと起こす行動がよくわかってるな」
笑いながら、少し馬鹿にされたような気もする。
もしかしたら先輩の照れ隠しかもしれない。
「夜のトンネルは意外と怖かったですよ」
「そっか、何か見えたか?」
トンネルのことを思い出しているふりをして、あの黒い何かのこと言おうか悩んだ。
「見えた?……なにもいなかったですね、もしかして佐々木さん、霊感ってやつがあるんですか?」
声が震えないように答え、話を変えることにした。
「……そんなものはないな、何かあったらおもしろそうだなって思っただけだ、今日もBGMよろしくな」
「任せてください」
佐々木さんには、トンネルであったことを言うのはやめた。
どうせ信じてもらえないだろう、変な奴って思われたくもなかった。
畳が引いてある小さな座敷に座り、マイクの位置を調整する、すべてが終わり合図を送ると照明が当たった。
店にいる全員の顔が俺に向いている、俺はいつものように笑みを浮かべ自己紹介をした後に語り始める。
「これはとあるダムで起きた話になります」
語りが終わり、頭を下げると、拍手が聞こえてきた。
ステージを降りて、次の語りの準備をするために服を着替えるため控室に入る。
そこには、次に語り手を務める森沢さんが着替えていた。
「終わりました、次お願いします」
いつものように笑顔で、小さくても聞こえるように声をかける。
「お疲れ様~、最近調子良さそうだね、元気になってよかったよ」
「気にかけてくれて、ありがとうございます」
声のトーン的には、やさしい人なのだが、表情があまり変わらないから少し怖い。
「話もよくなってきたし、この調子で頑張ってね、じゃあBGMお願い」
森沢さんは、控室から出ていく。
お客さんと先輩から褒められたおかげか、その後の語りの司会や雰囲気作り、照明準備など、前よりもきびきび動けていたような気がする。
BGMは雰囲気作りのために欠かせない、音量を調整したり、消したり少し変えることを行う。
責任がなかなか重たい所になるのだが、調整タイミングは、語り手の台本に書かれているため。
先輩たちは俺に教える目的も込みで、ここを任せてくれている。
緊張感はあるが、いろいろ勉強になることが多い、優しい先輩には感謝している。
すべての語りが終わり、片づけをしている時に、お客様の話が聞こえてくる。
俺の話になると、大抵悲しいことばかり言われるから、前までは聞きたくないことが多かったが、最近は褒められることが多いから聞きやすい。
「あの子トンネルの話からなんか変わったな」
「話が怖くなったな、いいサイトでも見つけたんだろ」
前言撤回、やっぱり聞きたくないことが多い、俺は一生懸命話を作ってんだよ。
「だけどな、やっぱりトンネルの話が一番だったな。最近話が良くはなったがインパクトがな、こうなんていうのか」
「まあ、だんだんつまらなくなってきたって感じだな」
その一言が、胸の奥に刺さってくる。
全員に評価される話はない、それは分かっているが、否定される言葉はやっぱりきつい。
気にしすぎだ。
語っている時のお客さんは、以前とは比べものにならないほど集中して聞いてくれている。
家に帰り、次の怖い話を作成する。
「……本当にこれでいいのかな」
作った文章を読めば読むほど、不安になっていく。
お客さんが言っていたことは、なんとなく俺も感じていた、話のストーリーが似ているからだ。
今回作った話も、廃村で怖い目に遭って逃げる内容になってしまった。
つまらなくなってきた……お客さんの声が頭の中を回り続ける。
語っても誰も俺の話を聞こうとしてくれない……もうあんな思いはしたくなかった。
「……どこか行くしかないのかな」
スマホで廃村の心霊スポットを検索する。
行けそうなところを探している時、トンネルの暗闇が、ふっと脳裏に浮かんだ。
あの黒い液体。
後ろから追いかけてきた音。
走っても走っても離れることがない絶望。
思い出しただけで、腕が少し震えてくる。
大丈夫、雰囲気を知りに行くだけ、あいつみたいなのに会いに行くわけじゃない。
あんなものにはもう出会わない、そう思い込むしかなかった。