休日に、車を使って遠くまでドライブ。
目的地が、心霊スポットの廃村だと知らなければ、みんな憧れの休日の過ごし方だろう。
スマホで色々調べたが、近場に都合のいい廃村なんてなかった。
新幹線で行ったところで、結局は山を登るしかない。
あれこれ考えた結果、車で行くしかないと判断した。
「まあ、村の雰囲気でも知れればいいかな」
俺は話を作れればいい。前みたいに怖い目に遭いたくないと思っている。
でも、今回選んだ廃村は訳ありの村、もしかしたら心のどこかには、前のトンネルで遭遇したなにかに会いたいのかもしれない。
長い時間運転し、目的の村の近くに、車を止める。
路駐になってしまうが、山奥にまで警察は来ないだろう。
村につくまで、多少なりとも険しい道を歩くから、今回は昼頃つくために早く来た。
天気は曇りだったため、そこまで山登りで汗はかかなそうだ。
もともと村だったからか、獣道ではない、整備されたような道を進む。
整備されたと言っても、草が生え、木の根が見える、もうここを定期的に通る人はいないことがよくわかる。
木で包まれた空間から、開けた場所に出た。
辺りを見回すと、家があちらこちらに立っていた。
どうやら目的の村についたようだ。
廃村になってから約30年、意外と建物がしっかりと残っているのを見ると建築って丈夫なんだなと実感する。
まあ、ガラスは割れ、扉は半開き、中を覗くと埃だらけ。
しかも、心霊スポットで人が来るのか、最近のコンビニ商品が散らかっている。
曇り空のせいか、それとも村が静かすぎるせいか、夜でもないというのに、妙に落ち着かない。
朽ち行く神社や墓なんて、とても長居できそうになかった。
村をぐるっと1周し終わり、すこし疲れたから遊び場らしきところにあった腰を下ろせるほど平たい石に座って休むことにした。
風が吹けば、近くの森が心地よい音を出してくれる。
涼しい風が汗を乾かしてくれた。田舎の空気ってこういうものなのか。
誰もいないことは分かっているけど、どうしても周りが気になって仕方がない。
「ここが神隠しにあう場所って知らなければ、寝られたのかもしれないな」
神隠し、この村が廃村になった根本の原因だ。
子供が5年ごとに消えたらしい。
3回続いたところで、みんな逃げ出したって話だ。
ネットで見た情報だから信憑性はないけど、肝試しに来た人が行方不明になったってニュースもあった。
山だから遭難ってことになってたけど、ここまで来るのに崖なんてなかったような。
「本当に神隠しがあるのかもな」
休憩を終え、帰ろうと石から立ち上がる時、ふと広場に缶が転がっているのが目に入った。
肝試しの誰かが捨てたんだろう、持って帰るか。
缶を持ち上げると、中に水が入っていたのか、飲み口から何かが流れてきた。
反射的に缶を手放す。
缶は液体をこぼしながら転がる、飲み口から色のない液体が垂れた。
どうやら雨水が入っていたようだ。
少しイラッとしながら缶を再び拾おうとしたその時だった。
「あぁぁそぉぉぼぉぉ—!」
突然、複数の人が同時に発したような声が、右のほうから聞こえてきた。
全身に鳥肌が立った、人ではない確信するには十分なほどの声に、体が震えている。
見たくない気持ちを何とか抑え、声の方向を振り向く。
そこには、白くて大人ほどの背丈をした“何か”がいた。
関節がないのか体全体をゆらしながら、こっちへ歩いてきていた。
考えるよりも早く足が動いた。
来た道を急いで戻る、来なければよかった、なんでこんな目に。
「あぁぁそぉぉぼぉぉ」
助かった。あいつは足が遅いのか、後ろから聞こえる声はどんどん遠ざかっていく。
硬くなる足のふくらはぎを必死に前に出し続けると、村の入り口が見えてきた。
あとは気を付けて下るだけだ、そう思っていた。
しかし、さっきまでとは違い、村を出た先は霧が立ち込めていて前が全然見えない。
転ぶかもしれない、木にぶつかるかもしれない、でも止まれない。
なれない山道、怖さはあったが後ろにいる白いあいつよりはましだ。
覚悟を決めて霧に入る、霧の壁から抜けるように視界が開けた。
視界がクリアになる、前が見えるもう転ばない。
さっきからあいつの声は聞こえない、あとは車に乗るだけだ。
「もぉぉいぃぃかぁぁいぃぃ!」
さっきまで離れてきた声が、いきなり近くに聞こえた。
それだけじゃない、周りを見たら、俺は村のどこかの家の入り口から出てきたような場所に立っていた。
頭がうまく働かない、考えようとするほど、思考が滑っていく。さらに息もあがり足が震える。
どうしようかと必死に頭の中で考えるがあいつは待ってくれない。
「どぉぉこぉぉ」
複数の人が混ぜった声で聞こえづらいが、あいつはきっと俺を探している。
体を揺らしながら、ほかの家の入り口を開けて覗いている。
なんでこんなことになったんだ。
出てきた家のすぐ後ろにある来た道ではない、森の中に逃げる。
頭の中では、逃げても無駄ってことは分かっているのかも知れない、森に入ったはずなのに家から出てくることなんて、ありえない。
考えてきたことは当たってしまった。
森に入ったはずなのに、気づけばまた別の家の玄関から外に出ていた。
逃げることは許されないようだ。
走ったせいか、絶望したせいか、呼吸は荒くうまく空気が吸い込めない。
膝をついて休もうとした時だった。
「みぃぃつぅぅけぇぇたぁぁ」
「はなして!やだあ!」
化け物の声と一緒に、子供の声が聞こえてきた。
家に隠れて外の様子を確認すると、あいつは子供を脇に抱えるように捕まえ、缶に向かって歩いていた。
子どもは必死に抜けようと足掻いているが、白い体はびくともしていない。
そのまま缶のところまでたどり着く。
「みぃぃつぅぅけぇぇたぁぁ」
あいつは缶を踏み、そんなことを言った、すると子供が透明になり、消えていった。
そんな光景を見て、絶句して言葉が出ない。
なんで消えた、ここはなに、あいつはなにをしている、どうやったら出られる。
考えても考えても答えなんて出てこない。
そんなことを考えていると、あいつはこっちに向かって歩いてくる。
今から外に出ればあいつに見つかってしまう、それなら家のどこかに。
他人の家だろうと関係ない、どうせ廃村の家だ、俺は襖を開けて押し入れの中に隠れた。
あいつが家に来たのだろうか、扉が開けられる音とともに不気味な声が家に響く。
「どぉこぉ?」
家に入ってきたのか、床がミシミシと悲鳴を上げている。
「みぃつぅけぇたぁ」
「いやだ……いやだ!」
また別の子供の声が聞こえ、少し開けていた襖の隙間から外を覗く。
どこから見つけたかわからない子供をまた脇に抱えて、缶の立っている広場に歩いていく。
助けなきゃ——そう思った。でも心と体はついてこなかった、むしろ俺が見つからなくて安堵していた。
再びあいつは缶を踏み、声をあげる。するとまた子供は消えた。
「どーこー?」
気のせいだと思っていたが、あいつは子供を捕まえるたび、声がより鮮明になっている。
消えた子の声もあいつの声に混ざって聞こえてくる、そのうえ最初の時よりはっきり聞こえる。
理由なんてわからない、わかりたくもない。
どこかへいってくれないかと思う気持ちとは裏腹に、あいつは村を徘徊している。
巡回を続けている理由はまだ誰かが隠れていることを知っているからだろう。
どうすればいいのか震える体を抑えながら、ばれないようにあいつを監視しながら必死に考える。
「やだ!やだ!」
あいつはまた家から子供を広場に連れて行く。
あの子も消されるのか、どうなるかわかっているけど俺にはどうしようもできない。
だが、ふと気になることがあった。
子どもの服装が古い、だれがどんな服装を着ようとも勝手なのだが、襟付きシャツで短パン、長い靴下なんて服装は今の子供が着ているイメージはない。
もしかして、昔いなくなった子供が順番に捕まっている?
「みーつーけーた」
あいつは缶を踏み、見つけたと言うと子供は消えた。
「どこ?」
あいつはまた巡回を始める。
子どもを見つけ、缶を踏む。
缶蹴り。昔やった遊びが頭に浮かんだ。
隠れている人を捕まえるなんてことはしないが、缶を踏み見つけたと言って捕まえる。
この考えが合っているなら、俺はあいつに捕まらず缶を蹴らないといけない。
でもそれをすると捕まる可能性がある、捕まれば消える、呼吸が浅くなる、足は震えている。
しかし、いつまでも隠れているわけにはいかない、覚悟を決めて作戦を考える。
缶が置いてある広場が、子供がよく遊んでいたところだからか、周りの家から見える位置で身を隠せるような高い塀がない。
ゆっくり近づくことはできない、あいつが遠くに行ったタイミングで走るしかない。
タイミングを伺って玄関の扉の後ろで待っていると、隣の家から誰かが飛び出した。
飛び出したのは、最近の服を着た同じ年くらいの男性だった。
目標は俺と一緒なのか、缶に向かって必死に走っている。
あいつの足が速くなければきっと間に合う、そのまま蹴ってくれ、出遅れた俺は成功することを祈った。
その男性が缶に近づいた瞬間、缶が自ら鳴っているかのようにカーン、カーンと音が鳴り始める。
音が鳴ったせいか、あいつが缶のほうを見た。
直後滑るように移動し、あいつは男性と缶の間に立ち男性を抱きしめるように捕まえていた。
「みーつーけーた」
そう言うと男性は消えてしまった。
またあいつは家々を巡り始めた。
その光景は俺を絶望させるには十分だった。
そんなのありかよ、どうすればいいんだ。
必死に頭を回す、でも捕まらずに缶を蹴る方法がなかった。
いっそ缶に石をぶつけて倒すしかないと考えていたら、昔俺が缶蹴りでやられたことを思い出した。
相手は人間じゃない。もしかしたらだめかもしれない、でもそれにかけるしかなかった。
まずあいつが缶と俺から遠くに行くのを待った。
扉の後ろで様子を見ているだけなのに、心臓の鼓動が耳元になるように感じるほど音が聞こえる。
これも話作りに使えるかもな、怖がる体とは違い、思考だけは生き残ったことを考えるようにして時を待つ。
あいつが離れ、別の家に入ったのを見た俺は家を飛び出した。
広場に入ったタイミングで缶が音を出し始める。
必死に缶に近づく、まだ遠いまだ来るな。
しかしあいつは音もなく、俺の前に立ちはだかった。
急ブレーキなんてできるはずもなく、俺は白い体にぶつかった。
直後に体を抱きしめるように掴まれる。
やはり人ではないのか、抱きしめられているのに水のように冷たい体をしている。
抱きしめられている俺の腕は、こいつの体に沈んでいく、まるで底なし沼のようだ。
そんなことを考えていると、こいつは缶を踏もうと足をあげた。
缶を踏まれる前に、俺も缶に向かって足を伸ばした。
「まだ見つけたって言ってないよな!」
俺はこいつが缶に触れるより早く、足を伸ばした。
伸ばした足は、缶をその場で倒すくらい弱い力だが蹴ることができた。
缶蹴りの鬼は、逃げている人を見つけてから缶を踏み、宣言をする。
逃げている人は宣言する前に缶を蹴らなければいけない。
それが俺たちのルールだった、だから鬼の宣言が間に合わないように3人で突っ込んで缶を蹴ることがよくあった。
ルールの穴をついたと言えば聞こえはいいが、ただの悪あがきだ。それでも、これしかなかった。
こいつの遊びにルールかわからない、そもそもこれは遊びなのか、蹴れば逃げられるのか。
それは、これからわかることだ。
「あ……あ……」
こいつは缶を蹴られたせいか缶を踏もうとはしない。
さっきまでのこいつならすぐに缶を踏んでいた、きっとうまくいったんだ。
喜びが胸に広がった、その瞬間だった。俺の体がこいつに吸い込まれ始めた。
「離せ!」
やばいと思って必死に耐えようとするが、缶を蹴るために片足は浮いた状態、手なんてこいつの体に埋まっているから支えることなんてできなかった。
だめだったのか、顔が沈んでいくと同時に自然と瞼が閉まってくる。
せめてもの救いが苦しまなくて済んだことかなと考えながら目の前が真っ暗になった。
気がつくと、俺は広場に横たわっていた。
さっきまでやっていたことを思い出し、急いで辺りを見回すが、白いあいつはどこにもいなかった。
しかしもう夕方なのかオレンジ色の光が辺りを照らしている。
広場にあった缶もない、その上どんな缶だったかも記憶になかった。
それでも、あいつに飲み込まれる感覚だけは、まだ体の奥に残っていた。
「気のせいだったのか……」
体を確かめたが、掴まれた痕なんてない、地面にも走ったような跡はなかった。
でも、俺が隠れていた家は近くにあり、中を覗くと身に覚えがあった。
しかし、押し入れの中は埃だらけで誰かが入ったら分かりそうなものだった。
きっと気のせいか、夕日が沈む前に村を出て帰ることにした。
村を出るときに、後ろからカーンと鳴ったような気がした。
家に帰り、疲れた体に鞭を打ち今日の出来事をまとめる。
あれは夢だったのか、それはもう俺にはわからないことだ。
今日の出来事をもとにいろんな怖い話を作成する。
やっぱり想像ではなく実体験をしたおかげか手は進む。
怖がる自分の感覚、怪異の登場の仕方、どんな理不尽さがあるか考えるよりも体験したほうが作りやすかった。
話作りがうまくなったのは語っている最中だけでなく、お客さんの会話でも活かせている。
短めの怖い話など急に振られて時でも、すぐに怖い話を話せるようになってきた。
今まではある程度覚えている話を言っていたが、言葉に詰まることがありうまくいかない日もあった。
でも今は土台がしっかりしているのか、考えるよりも口が動いてくれる。
大学の面接で予想していなかった質問に、咄嗟に言葉をつなげたような感じだが、お客さんは怖がってくれる。
そのおかげかお客さんからの評価は良くなっている、今の褒められる自分が気持ちよかった。
しかし、話作りができるようになったのは自分の力ではないからか、話のストックは日々減っていく。
またお客さんにつまらないって言われるんじゃないか、語る前に興味なさそうな人をまた見ないといけないのか。
またあんな日々には戻りたくない。
気がつくと、俺はまた心霊スポットを調べていた。
作りたい話を元に場所を探すのではなく、近い場所を探すわけでもなく。
口コミを見て少しでもあいつらみたいな化け物が出そうなところを探している。
2度も逃げ切れているから、次も大丈夫だろう。慢心ともとれる気持ちが確かにそこにはあった。
次はどんなやつが出てきてくれるんだろう。