ハーメルンは占いツクールのを合体させて投稿しています
pixivでも投稿予定です
よろしくお願いいたします
シ×テンセイ×ジッケン
──前世の私は、生まれつき心臓が悪かった。
真っ白な病室のベッドの上。
繋がれた点滴と、規則的に鳴り響く心電図の音だけが私の世界。
そんな窮屈な毎日の、唯一の救いだったのが、
擦り切れるほど読んだ『HUNTER×HUNTER』の漫画だった。
「ゴンも、キルアも、みんな強くて格好いいな……」
私もこんな風に、健康な体で、大好きな仲間たちと広い世界を冒険してみたかった。
結局、私は物語の結末すら見届けることができず、短く呆気ない生涯を終えた。
はず、だったのに。
次に目を覚ました時、私は見知らぬ場所にいた。
それも、あの『ハンターハンター』の世界。
前世の記憶を持ったまま、私はとある幻の民族の娘、フロストとして転生していたのだ。
生まれて初めて知る、どこまでも健康な体。
自分の足で大地を走れる喜び。
そして、一族に受け継がれる、不思議で驚異的な『念』の力。
「神様、ありがとう。今度こそ、私は私の人生を生きるんだ──」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーー…
神様がくれた、二度目の命。
白銀の美しい髪と、触れるとひんやりと冷たい不思議なオーラを持つ、幻の【ルミエ族】。
それが、この世界での私の新しい家族だった。
前世では動かすことすら苦しかった体が、今は嘘みたいに軽い。
大好きな漫画の世界で、優しい家族に囲まれて、私は毎日を全力で生きていた。
9才の時までは…ね、
そんな幸福は、一瞬で、あまりにも残酷に奪い去られた。
「おい、ルミエ族のガキを逃がすな!」
「こいつらのオーラは金になるぞ……ッ!」
ある夜、激しい爆音と悲鳴で目を覚ました時、村はすでに真っ赤な炎に包まれていた。
現れたのは、見たこともない数の武器を持った大人たち。
私たちの放つ「氷の冷気」は美しく、そして強力すぎた。
世界中の武器商人や研究者にとって、私たちはただの『便利な生体兵器』でしかなかったのだ。
「いや……! お父さん! お母さん……ッ!!」
目の前で、大好きな人たちが次々と冷たい刃に倒れていく。
まだ幼かった私の細い腕は、冷酷な大人たちの大きな手に、いとも簡単に捻じ上げられた。
頭を強く殴られ、視界が真っ黒に染まる。
それが、私の愛したルミエ族の、最後の記憶だった。
────
──……。
「──おい、目を覚ましたぞ」
「……これが、今回の実験体か」
次に目を覚ました時、私は暗く、カビと薬品の臭いが立ち込める鉄格子の檻(ケージ)の中にいた。
次に目を覚ました時、私は見知らぬ場所にいた。
ツンと鼻を突く、カビと薬品の嫌な臭い。
冷たいコンクリートの床。
視界を遮るように四方を囲む、赤黒く錆びついた太い鉄格子。
頭の後ろに鈍い痛みを覚えながら、私は這いつくばるようにして体を起こした。
「……ここ、は……?」
かすれた声を出して、辺りを見回す。
部屋の奥から、機械の不気味な重低音と、どこかの檻から小さなすすり泣きが聞こえてくる。
健康で、美しくて、あんなに暖かかったルミエ族の村の面影は、どこにもない。
お父さん、お母さん。
みんな、どこにいっちゃったの……?
その瞬間、頭を殴られて意識を失う直前の記憶が、濁流のように押し寄せてきた。
──村を襲った、黒い服の大人たち。
──真っ赤な炎と、飛び散る鮮血。
──「ルミエ族のガキを逃がすな」という冷酷な怒号。
「いや……、いやああ……ッ!!」
心臓が早鐘を打ち、全身から冷や汗が噴き出す。
私は狂ったように鉄格子にしがみつき、激しくガタガタと揺らした。
だけど、子供の力でびくともするはずがない。
自分がとんでもない地獄に閉じ込められてしまったのだと理解した瞬間、目の前が真っ暗になった。
コンクリートの床にうずくまり、膝を抱えて、声を殺して泣くことしかできなかった。
怖い。痛い。誰か助けて。
絶望に押しつぶされ、呼吸の仕方も分からなくなっていた、その時。
カサリ、と。
すぐ右側──隣の檻との境界にある鉄格子の隙間から、微かな音が聞こえた。
「……大丈夫? 息、ゆっくり吐いて。苦しくなっちゃうから」
ハッとして涙で濡れた顔を上げる。
暗がりの中、鉄格子の向こう側を覗き込むと、そこには一人の女の子が座っていた。
すすで汚れた顔。あちこちに巻かれた血の滲む包帯。
服は私と同じようにボロボロ。
だけど、私を見つめるその瞳だけは、この暗い暗闇の中で唯一、優しく澄んでいた。
「き、みは……」
「私も、ここに捕まってるの。……怖かったよね。でも、もう大丈夫だよ」
女の子は私の怯えを優しく溶かすように、ふわりと柔らかく微笑んだ。
冷え切って凍りつきそうだった私の心に、その笑顔がじんわりと温かく染み込んでいく。
「私はね、もうすぐここを出られる気がするんだ。……もし、いつかここを出られたら、一緒に美味しいものいっぱい食べようね」
鉄格子の隙間から、彼女がそっと小さな手を伸ばしてくる。
私は吸い寄せられるように、その細い手を握り返した…
「ルミエ族の冷気オーラを引き出せ」
「出力を上げろ! 薬をもう一本打て!」
それから何百日、何千日と数え切れないほどの地獄が続いた。
毎日実験室に引きずり出されては、限界を超えて念能力を絞り出される。
それでも生き延びられたのは、檻に戻るたび、隣のケージから親友が手を握ってくれたから。
だけど──その光すら、この世界は容赦なく踏みつぶした。
ある朝、冷たく笑う大人の声で目が覚めた時、鉄格子の隙間から投げ出された親友の手は、もう二度と握り返してはくれなかった。ただの冷たい肉塊に変わっていた。
「あ……、あ、ああ, あああ…………ッ!!」
約束したのに。一緒にここを出ようって、約束したのに。
何もかもを奪っていく大人たちへの、ドス黒い『殺意』。
誰も救ってくれない、理不尽で残酷な世界への『恨み』。
悲鳴をあげる暇もなく、私の檻が開けられた。
引きずり出され、冷たい実験台の上へと乱暴に組み伏せられる。
心臓の真上に、親友の命を奪ったのと同じ薬剤の太い針が突き立てられた。
(嫌だ、いやだ、いやだ……ッ!!)
まだ死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
ドクン、と。
大きく心臓が跳ねて、そして……私の意識は完全に途絶えた。
フロストという少女の肉体は、ここで確かに『死亡』したのだ。
──しかし。大切な人を奪われた絶望と、「生きたい」という狂気にも似た強烈な執着が。
私の魂の殻を突き破り、現世に呪いのようにこびりつく『死後に強まる念』となって爆発した。
ドガァァァァァァンッ!!!!!
「な、なんだこの冷気は……ッ!?」
「実験体が発光して──ひ、皮膚が凍っ……ひ、悲鳴すら──」
私の止まった心臓を中心に、絶対零度の衝撃波が吹き荒れる。
私を嘲笑っていた大人たちが一瞬で凍りついた。
だが、それはほんの始まりに過ぎなかった。
肉体を失い、現世に解き放たれた私の「死後の念」は、主フロストの死亡によって完全に制御を失い、暴走した。
「が……ああああああああああああッ!!!!!」
形を失った私の霊体は、ただ世界への恨みと破壊衝動のままに、咆哮を上げて大暴れした。
私の放つ絶対零度の冷気は、巨大な津波となって大地を、街を、大陸を飲み込んだ。
──そして、広大な『大陸』を一瞬にして生命の存在を許さない永久凍土の極寒地へと変え果ててしまった。