腰がいてえわアレ
通話音が部屋に響く。
通話相手を確認し、眉を寄せる。
「どしたん。珍しいやん」
『アンタが連絡せんからやろ』
「ん?朝日のことならこの前メッセ送ったやろ」
通話口の向こうで大きなため息が漏れる。
『分かってて言っとるやろ。彩葉のことや』
「姉さん半年前に簡単に説明したやろ」
何かあったらちゃんと連絡すると誓約書書かせたのは誰だ。
『あの子私からの連絡出んねん。全く何様のつもりやろうな。一人で育ったような気になって、まだ子供やゆうに』
心配ならそういえばいいのにホントにこの人は。
「で、私に?残念ながら面白いことはないよ。成績優秀な酒寄彩葉は今日も元気に優等生しとる」
いや、栄養面やら睡眠時間やらは物申したいけど。
『優等生なんは当たり前やろ。あの人の子やで。それくらい当然や。学年トップが何の自慢になんねん』
「はいはい。義兄さんも姉さんもすごいすごい。育ててくれて感謝はしとるよ」
通話口から舌打ちが漏れる。
まあ、育った環境を考えれば仕方ないにしても、もう少し人の機微なり何なりを義兄さんから学ばなかったのか、この人は。
『アンタはまた適当いってからに。彩葉に折り返し連絡するようにいっとき』
「また彩葉泣かすんか?ええ加減絶縁されるでアンタ」
ため息交じりに、返事も聞かずに通話を切る。
何度か震えたスマホを無視して、仕事場に向かった。
◇◇
赤ん坊の泣き声がする。
私の小さな部屋で延々と泣く子を必死にあやす。
一向に泣き止まない赤ん坊を前に、殆ど死んでいる頭を必死に回す。
「…あ!梢さんなら何とかなるはず」
いや、ダメだろあの人社会人だ。
きっと明日も仕事に違いない。
インターネットに助けを求めれば、子守唄という有難い答えをいただく。
世のお母さん方の苦労が少しばかり分かったかも知れない夏の夜。
「…記憶にございませんなあ」
わが母からそのようなものを贈られたことはないはずだ。
いや、梢さんに歌ってもらったのだろうが、記憶にない。
どうしたもんかと困り果てて、自然と神棚に飾られたヤチヨのアクスタと目が合った。
「ヤチヨパワーすげえ」
我が推しの歌はどうやら赤ん坊にも届くようだ。
すやすやと私の布団で眠る赤ん坊の頭をゆっくりと撫でて、少し距離を取る。
完全に眠ったようだ。
「…………よかったぁ」
赤ん坊の横に崩れ落ちるように寝転がる。
安心したお陰か次々と頭の中に問題が湧いて出る。
そもそも私に赤ん坊を育てる余裕などないのだ。
ならばどうする?
捨てる?論外だ。なら初めから拾っていない。
警察は?どう説明する気だ私は。ゲーミング電柱から拾いましたとバカ正直に言う気か。
どう育てる?何も分からん。そんな経験なぞ一度もしたことがない。
誰かに頼る?
「…誰によ」
無意識に引き寄せたスマホからメッセージアプリを呼び出し、通話機能を選ぶ。
選択肢なぞハナから一つしかあるまい。
私の叔母にあたる『木之元梢』だ。
あの人なら、こんな状況でも助けてくれるはず。
それでも、もし頼って、あの人に拒否されたら私は死ぬしかないかもしれない。
弱気になった頭を何度も振り、覚悟を決めてボタンを押す。
ワンコールもしない内に彼女の優し気な声が耳に届く。
『どしたん彩葉。何か困りごと?』
何も聞かないうちからこちらを心配する優しい声に涙ぐみそうになりながら、事情を話す。
私の支離滅裂で荒唐無稽な話を遮ることなく何度も聞いて事情を呑み込んでくれる。
やっぱり話してよかった。
安心した途端、涙が頬を伝う。
それを指で拭いながら、コロコロと笑う叔母の声を聞く。
『…はー。人生何が起こるか分からんなぁ』
「あ、あのですね!そんな呑気なこと言ってる状況じゃ!」
『ええよ。久しぶり赤ちゃんみたいし。そっち今から行くな』
『一回切るな』という声を最後に、通話が切れた
部屋にはまた私と赤ん坊だけが残され、寂しさが胸に押し寄せる。
赤ん坊のそばに寄り、顔を覗き込んでから、頭をゆっくり撫でる
「よかったね。私よりずっと頼りになる人が来てくれるって」
赤ん坊の寝顔につられ欠伸が漏れる。
「貴方は私と違っていい子だねえ」
ポンポンとお腹をリズムよく叩く。
気持ちがいいのか口元が緩い弧を描く。
うつらうつらしていた意識が、扉をノックする音で一気に引き戻された。
「彩葉、ちょっと開けてくれる?」
「はい、今開けます」
叔母の声が扉越しに響く。
時計を慌てて確認すると30分も経ってない。随分と急いで来てくれたようだ。
扉を開けるといくつもの買い物袋を腕に提げ、柔らかい笑顔を浮かべた梢さんの姿。
「何アンタ制服で寝とったん?皺になるで」
こちらを心配するように頬を軽く撫で、部屋に向かう梢さん。
「あ、えっと。何買ってきたの?」
慌てて追いかけ、床に置かれた袋を確認すると、赤ちゃん用のオムツに哺乳瓶に粉ミルクに乳児用の服にと山のように出てくる。
私が袋を確認している間に床に座り、赤ん坊に話しかける梢さん。
「アンタがそうなん?これからしばらくよろしくな」
赤ん坊の柔らかい頬を愛おしげに撫で、エアコンのスイッチを入れる梢さん。
「え」
「アンタ。赤ちゃん抱いたんなら体温高いん気付かんかった?」
いや、温かいなぁとは思ったけど。
「基本的に代謝が大人よりいいんよ。この真夏にエアコンなしは普通に死ぬで赤ちゃん」
その言葉を聞いて自分の顔から血の気が引く。
「えっと。あのですね」
「まぁアンタが我慢強いんは知っとる。とりあえずオシメ取ってくれる?」
慌ててオシメを渡せば、手馴れた様子で赤ん坊に一言声をかけオシメをつける。
…私もこうやって変えてもらっていたのだろうか?
「一応、マット持ってこよう思ったけどな。流石にしんどかったから明日やな」
「あの。すいません。ご迷惑を…いった」
言い終わる前にデコピンされる。慌てて額を抑えながら少し距離を取る。
「アホなこと言ってないで、シャワーでも浴びてさっさと寝な。これくらいの赤ん坊なら下手すりゃ寝れんで」
「…そうなの?」
「うん。ヘタすりゃ2時間もせんうちにお腹空いたって泣くで。分かったらさっさと寝る準備しな」
軽い口調で恐ろしいことを言ってくれる。
「えっと梢さんはどうするの?」
「取り敢えずこの3日は連休やから、ここ泊まるわ」
私は黙って頭を下げた。
何度お礼を言っても足りない気がした。
この人に頼ってよかった。
着替え一式を抱えて浴室に向かう途中、ふと振り返る。梢さんが赤ん坊の手のひらを、指先で優しく撫でていた。
その姿に安心し、浴室に行く。
「で、彩葉。この子の名前は?」
「え、知らないけど」
シャワーから帰り、涼しくなった部屋で赤ん坊の横に座る。
「…あー。拾ったときにメモとかなかった感じか。で、アンタは何処まで面倒見るつもりなん?」
ちらりと赤ん坊の顔を覗く。
何とも幸せそうに寝ている顔を見る。
どこまでか。
「私としては、この3日間が限界だと思う。いくら可愛くても私にそんな余裕はないし。梢さんに頼りっぱなしはよくない」
私の答えを聞き、満足したのか一つ頷き。
「ま、妥当なとこかな。しかし名前がないってことは戸籍ない可能性あるんよなぁ。ま、ええわ。難しい話は休み終わってからや」
梢さんに寝るよう促され、赤ん坊の横にある自分の布団へ潜り込む
「梢さんは?」
「私は床やろ。ちょっと離れて見とくわ」
そういって壁にもたれる梢さん。
「それは私が気にする!」
「静かにしいや。どうせ今日からしばらく寝れんのやから大丈夫や。しっかし赤ん坊の世話なんて久しぶりやな。ワクワクするわ」
どこか楽しそうに赤ん坊を見る梢さん。
「お休み彩葉」
「くっ。明日は私が起きてみますからね」
梢さんは『はいはい』と軽く流し、そのまま目を閉じた
部屋にはエアコンの静かな音と、赤ん坊の寝息だけが残った。
ため息を一つ吐いて、私も目を閉じる。
睡魔は珍しいことにあっという間にやってきて、私は眠りに落ちた。
「おはよ彩葉。この子面白いで」
軽く体を揺らされ意識が戻る。
「そうだ!赤ん坊のミルク!」
「さっきあげたばっかや。そもそも夜中に一回も起きなんだでこの子。ホンマに人間か?」
梢さんの腕の中で安心しきった顔で寝ている赤ん坊。
「…何かでかくなってない?」
「やっぱりそう思うよな。何か1歳くらいまで大きくなっとる」
そういいながら軽く抱き直し、大きさを比較するように腕を持ち上げる。
「ほれ、このてのひらとかもキチンと形になっとるやろ」
「えっと、分からんけどそうなん?」
「うん。足のサイズも大きくなっとるな。明日には3歳くらいになっとるんかな」
異様な光景を前にして、梢さんは本当に楽しそうに笑っていた。
「抱っこ紐のつけ方分かるか?」
「ごめん。今スマホで調べる」
「いや、アンタが背負うんや。愛着関係の形成云々ってやつやな」
そういいつつ器用に袋を引き寄せ、紐を取り出す。
梢さんに教わりながら、四苦八苦して抱っこ紐を装着する。ようやく赤ん坊を抱き上げると、思ったよりも身体が密着した。
赤ん坊の顔を見る。
とても小さくてかわいい顔が見える。
今は目を閉じているが、きっと可愛い目をしているのだろう。
「…おんぶ紐じゃないんだ?」
「心臓の鼓動を感じた方が小さい子って安心するんやで。アンタ等もそうやった」
そうだ。この人、私やお兄ちゃんのオシメも替えてるんだった。
というか、うちの両親は忙しいときは育児を丸投げしていたのだろうか。
お父さんはそういう人ではないと思うけど。
「ま、それアンタ等が使ってた時のやから新しく買い替えた方がええやろな」
「え、こんな小さいので私抱かれてたの?」
「朝日もやけどな。年が離れとるとこういう時微妙に便利やな。女の子やから新しくしたらとか義兄さんが言ったんやけどね。姉さんが嫌がってん」
あー。その光景は目に浮かぶようだ。
「さ、朝ごはん食べてちょっと幼児用のあれこれとか買いに行こか」
「私も半分出すよ」
「服とか高いでー平気で3千円とかしよる。ヘタすりゃ3か月も着られんのに」
恐ろしいことを言わないで欲しい。
「いや、たっか!本気で高いじゃん!オシメから何から買ったらお金なくなっちゃうよ」
「言ったやろ。ま、今回は私が出すわ。アンタが子ども作ったときに払ってやり」
店内を回りながら必要そうなものをカートに入れていく梢さん。
靴はどれだけ大きくなるか現状分からないので、買わないそうだ。
「離乳食とか要るんかなこの子。ペースト食で済ませるって手もあるけどなぁ」
「え、もう離乳食いるんだ?」
「1歳なら遅いんやなかったかな。あ、5か月とか書いてあるな。普通の食事をペースト状にするかな」
ペーストってなんだろ。
「というか一回病院連れてきたいな。アレルギー持ちとかやったら困るし」
「アレルギーって遺伝じゃなかったっけ」
授業で習った内容を思い出すように目を細める。
「遺伝も関係するな。まあ、それだけやないけど。いや、内臓の機能とか細かい気になる点は出てくるんやけど」
よくもまあそれだけ考え付くものだ。
うちの母もそうだったのだろうか?
いや、母がそんなことをしてくれるとは思えない。
きっと父と梢さんが何とかしてくれたのだろう。
「まぁええわ。細かいこと気にしてたら多分この子に合わせれんようになる。いや、卵アレルギーとか実は消化器官が未発達でとかやと困るんやけど」
どんどん怖いこと言う。
やめて欲しい。こんな可愛い子に、そんなことで辛い思いをしてほしくない。
何とか買い物を終えたものの、会計は結構な額になった。びびりながら買い物袋を持つ。
合わせて2万円以上ってなんだ。
何でそんな高いんだ。やっぱいいものは高いのか。
「彩葉。先帰ってな。マット持ってくるわ」
「あ、昨日言ってたやつ?分かった。えっとご飯はどうしたらいい?」
「あー栄養考えたら5食とかになるねん。取り敢えず私が帰ってからにしてくれんか」
5食ってそんなに食べるのか。こんな小さい子が。
「あ、間食2回な。水分多めなご飯とか全体的に水分多いもん中心。でもこの子ならもっとしっかりしたもん食べるかもしれんな」
まだ寝ている赤ん坊の頭を軽く撫で、梢さんと別れた。
先にアパートへ戻ると、つけっぱなしだったエアコンが出迎えてくれた。今月の電気代が怖い。
「とりあえずオシメ替えようか。新しいの来たからきっと気持ちいいよ」
布団に寝かせ、オシメを替えてもらったのが嬉しいのか、赤ん坊はにっこりと笑った。
せっかく起きたからか、部屋のあちこちをはいはいで探検し始めた。
「え、はや。こんな早いんだ」
床に座り、動き回る赤ん坊の楽しそうな顔をジッと見つめる。
しかし、予習とかしてる暇ないよなぁ。
いや、この子が寝てる暇にやるって手もある。
「おお、ちょっと待って」
バランスを崩した赤ん坊を支えるために反射的に手を伸ばす。
柔らかい二の腕の奥に、折れてしまいそうな細い骨の感触があった。背筋が凍る。
思わず手を離しそうになる。それを何とか堪え、赤ん坊を床に座らせて頭を撫でた。
何が起こったのか分かっていない赤ん坊は呑気に笑って、こちらに顔を向ける。
「うっわ。子供こっわ」
世のお母さん方はこんな脆い生き物の世話をしているのか。
本当に頭が下がる思いだ。
「彩葉。開けるで」
ほぼノータイムで扉が開き、マットを抱えた梢さんが現れる。
梢さんの姿に安心して、大きく息を吐く。
「お、ええ子で待ってたな。ちょっと埃立つで」
呑気に笑う赤ん坊の少し離れた位置にマットを静かに置く梢さん。
興味津々といった様子で近付く赤ん坊を抱き上げ、膝に乗せる。
「ありがとうございます梢さん。良かったねー新しいベッドだよ」
というか私の寝床より良いものでは?
「シーツも清潔なん持ってきたから、今日からこれ使い」
「おお、シーツの発想はマジでなかった。そうか、そういうのもいるのか」
膝の上の赤ん坊をマットの上にちょこんと乗せる。
「ん。可愛い」
「すっかりお母さんやな。で、名前決めたん?」
「…え?」
「え、ちゃうやろ。赤ちゃんでいつまで通す気でアンタ」
「うっわ、そうか。何か考えてあげなきゃ」
えーっと、どんな名前がいいんだろう。こういう場合って。
「因みに梢さんは?」
「アンタが拾ったんや。アンタの好きな名前にしたり」
マットの上でころころ回っている赤ん坊をあやすように指を目の前に持っていく梢さん。
「ま、別に今決めんでええけどな。朝日の名前だって、義兄さんがだいぶ迷ったみたいやしな」
「うっわ急に気になる話題を」
「アンタのは姉さんが自分の一字あげるって決めてたらしいから早かったで」
「喜んでいいのかなぁ?」
急に爆弾を投げてくるなあ。
「えっと、宿題にします。明日までに何かいい名前考えます」
「ん、ゆっくり考え。名前は一生ものやからな」
「因みに梢さんのは?」
「紅葉からの連想やろ。間の兄さん方も植物関係やし」
さらりと流すように自分の名前の由来を明かす梢さん。
…そういえば母方の両親が蒸発したんだったか。
大分前にさらりと言われただけだから詳しくは知らないが。
うちの家系は何か呪われているのだろうか。
「お、ぐずり出した。お腹空いたか。オムツか?」
「えっと多分、お腹空いたんだと思う。私準備するね」
冷蔵庫に向かい、必要なものを取り出していく。
「じゃ、お休みなさい」
あれから何とか奮闘し、とっぷり夜も更けた。
船を漕いでいる赤ん坊を静かにマットに寝かせ、その隣に自然と横になる。
「ん?ま、ええか」
「え、どうしたの?」
「いや、安全面考えたら横でって話やけど。アンタ寝相ええし、その子普通やないからええか」
あ、そういう。
「じゃ、私布団で寝るね」
「ええわもう。アンタも疲れたろ」
そういって、私の布団に横になる梢さん。
「今日は頑張るんやろ。何かあったら起きるからやってみ」
「ん、頑張ってみる」
赤ん坊を抱いて、その温かさと疲れで瞼がすぐに重くなった。
「ねー彩葉。起きてー」
「はいはい。少々お待ちをー」
ひどく可愛い声で夜中に起こされる。
お腹が空いたのだろう。食事の用意をするために起き上がり、少しバランスを崩す。
「んあ?あ、そうかマットで寝てって、アンタ何でそんな大きくなってるの!?」
「うお、ビビったぁ…」
慌てて振り返れば10歳程度の子供が私のTシャツを着て座っていた。
流れ星が二つ飛び込んてきたような二つの瞳に腰まで伸びた艶やかな髪。暗がりでもそれと分かる白い肌に形のいい唇。とんでもない美少女だ。
「ん。さっきからゴソゴソしとったで」
「なら止めてくださいよ!」
「いや、アンタが頑張るいったし。この子も何か危なそうなことせんし」
横で元赤ん坊の背中を撫でながらこともなげに言う梢さん。
「ねー梢。私お腹空いた」
「お、もう私らの名前覚えたんか。予想よりだいぶ賢いな君」
カラカラと楽しそうに笑い、布団から起き上がる梢さん。
「台所借りるで」
「いや、それよりも!」
爆速でオシメやら何やらを段ボールに詰め、子供の前に差し出す。
「どうかお帰りください」
「えー!何で何で」
「うっわ。酷いお母さんやな」
心痛いから言わないで梢さん。
ことさら大きく鳴ったお腹を押さえる少女に、私は大きくため息をついた。すると、私のお腹も小さく鳴った。
「成長期か彩葉。ええやん、しっかり食べ」
いつの間にフライパンに卵を落とし、調理を始めた梢さん。
「名前とかは?アンタどっから来たのよ」
「えー一度にそんなこと聞かれても分かんないよ」
鼻を動かし、目を輝かせながら台所をチラチラと見て、指をくわえる子供の額を少し指で押す。
コイツ話聞いちゃいねえ。
「ほれ、ドリアできたで。彩葉もしっかり食べ」
「わーい!」
歓声を上げ、スプーンを乱暴に持つ。
「何やそこらへんは学習してへんのか。面白いな」
梢さんは隣に座ると、少女と一緒にスプーンを持ち、使い方を教えてあげた。
「ありがと!うっま。これドリアっての!?」
「そうや。オムライスもあるで」
そう言いながら、梢さんは私がバイト先から持って帰ったタコライスを解凍し、自分の前に置いた。
あの短時間でよくもまあ二つも三つも。
息を吹きかけ、少し冷まし口に運ぶ。
相変わらずの美味しさに目を細める。
瞬く間にドリアを食べ終えた少女は物足りないのか私の皿をジッと見る。
「あげないよ」
「えーケチ」
流暢に喋るが、何処で覚えたんだ。
「よく食べるな。まぁ1歳くらいから10歳やもんな」
のんびりといいながらまだ暖かいオムライスを少女の前に置く。
「ありがと!梢大好き!」
「はいはい。ありがと。それよりもっと丁寧に食べな。ご飯がもったいないで」
ケチャップやらご飯粒やらが飛んだテーブルを梢さんが綺麗に拭く。
「う、ごめんなさい」
おや、予想外に素直な反応。
「お、えらいな。しっかり謝れるんやな。彩葉に似たんかな」
「私こんなに素直じゃないよ」
割と小さいときは我儘ばかり言ってた気がする。
「そうやったかなぁ。で、アンタどっから来たか覚えてる?」
オムライスを夢中で頬張っていた少女が不思議そうに梢さんを見上げ、それから私にも視線を向ける。
そして、さも当然といった顔で窓の外に見える満月を指差した。
「多分、あそこ」
まさかの宇宙人。
何の映画だ。
紅葉さんの旧姓が分からないので適当に生やしてみた。
兄弟関係もよく分からんのよね。何か5人もしくは4人兄妹ぽいけど