葬送される側に転生したので、葬送されないように生きると決めました 作:夜刀神 闇
転生系を書くのは初めてでは無いですが1度書いてみたかったフリーレン世界の転生ものをこの度書いてみることにしました。
どうしてもオリジナル小説を構想出来ないのがいけませんがどうにも転生系を書くのが楽しくて楽しくて。
読んでみて楽しいなと思って頂けたらお気に入り登録して貰えたら作者が飛び上がります♡
さてさて、先行き不安なタイトルで始まりますが行ってらっしゃい( ᐛ )/
……そもそも転生ものというやつは、だいたい主人公に都合よくできているものだと思っていた。
生まれ直したら貴族でしたーとか、原作キャラの幼馴染でしたーとか、まあそこまで恵まれていなくとも少なくとも主人公の味方側にいるとか。前世で何百回も読んだ作品の世界に落ちるなら、せめてそのくらいの温情はあっていいはずだ。
私の場合、前世の記憶を思い出したのは5歳の冬で、きっかけは父の忠告で、その忠告は今思い返しても、ほとんど死刑宣告だったんだ。
◇
森の奥にある私たちの小屋は、冬になると雪に半分埋もれる。
窓は下半分が白く塞がり、戸口の薪棚には雪が積もりまくって、外に出たところで面白みもない。小屋の中は、お母様の安心する匂いがした。冬の夜に聞こえるものといえば、暖炉で薪がはぜる音と、お母様の編み棒が鳴る音、それに時々、お父様が本の
その夜も、私は暖炉の前の敷物の上で、毛布にくるまって、お母様の昔話を聞いていた。
私の白い髪はまだ肩にも届かなくて、頭からは、指の先くらいの長さのツノがふたつのぞいている。寝返りを打つと敷物の毛に引っかかって、ちょっと痛い。5歳の私にとってツノというのは、爪や髪や歯と同じで、生まれた時から体についているもの、という以上の意味を持っていなかった。朝起きて、ツノがあるな、と思うことすらなかった。
お母様は、大きくなったお腹の上に小さな服を広げて、編み棒を動かしながら話していた。
「それでね、勇者様はお仲間と一緒に、それはそれは長い旅をしたの。北の果ての、そのまた果てまで」
「どのくらい、ながいの」
「10年よ」
「じゅうねん」
指を折って数えようとして、途中で分からなくなった。片手では足りないし、両手を使うと毛布が落ちる。10年というのは、5歳の私が2回生まれ変わるよりも長い時間だった。
「僧侶様と、戦士様と、それから、エルフの魔法使い様と……」
「その話は、もういい」
低い声が、暖炉の向こうから飛んできた。お母様の編み棒が止まった。お父様だった。
お父様は、暖炉の向こう側の椅子で、いつも分厚い本を読んでいる。黒い革の表紙で、中は曲がりくねった文字がぎっしり詰まっている本だ。私には1文字も読めない。真っ直ぐに伸びた黒い髪の間から黒いツノが伸びていて、暖炉の火を受けて、壁に長い影を落としている。なかなかに端正な顔をしてたんだな、と今でも思う。
お父様は、ほとんど喋らない。笑わないし、怒りもしない。お母様が話しかけると短く答えて、また本に目を落とす。いてもいないみたいな人で、お父様がそこに座っていても、何も感じられなくて、正直5年間ずっとそうだったから、私はそれを変だとも思っていなかった。お父様とはそういうものだと思っていた。
そのお父様が、本を閉じた。
ぱたん、と乾いた音がして、お父様は立ち上がり、暖炉の前を回って、私の前に膝をついた。
近くで見るお父様は、本当に大きかった。膝をついても、まだ私の頭のずっと上に顔がある。赤い瞳が、まっすぐに私を見下ろしていた。怒っている目でも、優しい目でもない。物を見る時の目だ。木とか、石とか、無機質なものを見る時の目。
……少し、こわい。整っているがゆえに。
「覚えておけ」
お父様は言った。
「フリーレンという名のエルフを見たら、何も考えるな。関わるな。その場から離れろ」
「……ふりーれん?」
「勇者の仲間だった魔法使いだ。魔族を、誰よりも多く葬り去ってきた」
暖炉の火が、ぱち、とはぜた。
「魔族はあいつをこう呼ぶんだ……葬送のフリーレン、と」
その名前を聞いた瞬間、頭の中で何かが、音を立てて割れた。
◇
……暖炉の前にいるのに、首の後ろがすっと冷えた。それから、目の奥に、何故か見覚えのある風景を見た。
今目の前にある暖炉の火の色じゃない。もっと青白くて、平べったくて、無機質な冷たい光。
窓の外は夜で、遠くを電車が走っていく音がする。これも知っているはずのない音だ。机の上には飲みかけの缶が一本、底にぬるくなった中身を残して置いてあった。壁際の本棚には、同じ背表紙の本が何冊も並んでいる。表紙に描かれているのは、白い髪を二つに結ったエルフだった。眠たそうな瞳。白い服。尖った耳。
手の中で、四角い板が光っていた。真夜中、毛布にくるまって、膝を抱えて、何度も何度も同じ回を見返していた。アニメだ。漫画は全巻揃えていて、新刊が出るたびに、発売日の仕事帰りに買っていた。
魔王を倒した勇者一行の、その後の話。千年を生きるエルフの魔法使いが、年老いて死んだ勇者の葬儀で、初めて泣く。人間の寿命が短いことなんて知っていたはずなのに、と呟いて、もう一度旅に出る。死んだ仲間のことを、人間のことを、知るために。
好きだった。本当に好きだった。葬儀の場面で、毎回泣いた。
題名は、白い文字で浮かんでいた。
葬送のフリーレン
(……え)
そこから先は、堰を切ったみたいだった。
勇者ヒンメル。僧侶ハイター。戦士アイゼン。フリーレンの弟子になる、フェルン。そしてシュタルク。名前も、顔も、台詞の温度も、どの巻のどの辺りのページかまで、全部が一度に流れこんでくる。
そして、目を引くのが、魔族。
フリーレン世界の魔族は、人の言葉を話す。でも意味は分かっていない。命乞いも、「お母さん」と呼ぶ声も、人間の手を止めるための道具でしかない。家族という概念も持たない。生まれてすぐ親から離れて、ずっと一人で天涯孤独に生きる。助けてもらった村長を殺して、何事もなかったみたいに笑っていた魔族の子どもがいた。人間とは精神の構造がまるで違う。言葉が通じるように見えて、通じてはいない。だからフリーレンは魔族の話を聞かない。聞く前に殺す。
作品はそれを、正しいこととして描いていた。前世の私も、うんうん、と頷きながら見ていた。あれは猛獣で、人の言葉を真似ているだけなのだ、と。あの場面のフリーレンは格好よかったなあ。
(……)
気づけば、私の手は額に伸びていた。小さな指の先に、固くて、なめらかな感触。ツノだ。
目の前のお父様の額にも、同じものがある。
(…………)
お父様は、魔族だ。
私は、その魔族の娘だ。
(私、
うんうん頷いて見ていた側から、頷かれる側へ。これ以上きれいなブーメランを、私は知らなかった。
◇
「アリス?」
お母様の声が、やけに遠くに聞こえた。
気がつくと、頬が濡れていた。息が吸えなくて、胸の奥がひきつって、小さな体が勝手にしゃくり上げる。止めようと思っても止まらない。5歳の体というのは、泣くのが仕事らしい。本人に泣く気がなくても、勝手に泣いてくれる。
泣いているのは5歳の私で、泣き止み方を知らないのも5歳の私で、その内側で、思い出したばかりのもう一人の私が、ただ呆然と突っ立っていた。
「うわぁぁぁぁぁん!!!」
「アリス、どうしたの。大丈夫よ、大丈夫だから」
お母様が編み物を放り出して、大きなお腹を庇いながら、私を膝の上に引き寄せた。細い腕だったけれど、ちゃんと私を抱き寄せてくれた。乾いた薬草の匂い。焼きたてのパンの匂い。優しい匂い。お母様の匂いだ。5年間、ずっと嗅いできた匂い。
私はお母様の胸に顔を埋めたまま、泣き続けた。
言えなかった。自分が誰だったのかも、何を知っているのかも、この世界がどんな物語の内側にあるのかも。その物語の中で、お父様みたいな存在がどう描かれていて、前世の私がそれをどんな顔で見ていたのかも。
◇
その夜は、眠れなかった。
寝台の上で毛布を頭までかぶって、天井の暗がりをずっと見ていた。
前世のことは、正直、ほとんど思い出せなかった。どんな顔だったのか、誰と暮らしていたのか、どうやって死んだのか。霧の向こうに景色がいくつか浮かんで、手を伸ばすと消える。前の名前を口の中で転がしてみても、他人の名前みたいにしか聞こえなかった。
なのに、あの作品のことだけは怖いくらいはっきり覚えている。家族の顔は出てこないのに、深夜に見返していたアニメは全話出てくる。どういう脳の作りなんだろう。前世の私は、よほど人生よりアニメのほうを大事にしていたらしい。
ともかく、整理しよう。泣くのは体に任せておけばいい。頭は別のことに使う。
Q ここが本当にあの作品の世界だとして、私はどうなるか。フリーレンだ!本物だ!とか言って近づけばどうなるか。
A 殺される。それも、瞬殺で。
フリーレンは魔族を見れば殺す。魔族の言葉は鳴き声としか見ていない、実に合理的な判断だ。それだけじゃない。大陸魔法協会には一級魔法使いたちがいて、その頂点には、神話の時代から生きているゼーリエがいる。魔力のわずかな揺らぎを一目で見抜くエルフだ。人間の魔法使いにとって、魔族は倒すべき敵でしかない。
Q じゃあ魔族の側に行けばいいのか。
A 無理だ。あの作品の魔族が、人間の血の混ざった子どもをどう扱うかなんて、考えるまでもない。出来損ないでしかないのだ。食われるかもしれないし、異質な存在として殺されるかもしれない。
キモがられて避けられるだけならまだ良い。というかそれが一番マシまである。
人間からは魔族として殺される。魔族からは混ざりものとして殺される。
…………………………あー、ハイ、詰んでます。原作のどこを探しても、私みたいなものは出てこなかった。原作知識チートとはよく言ったもので、魔族側に生まれてみれば、知っていることは全部、いつ誰に撃たれるかの一覧でしかない。
それに。
……それに。
毛布の中で、私は膝を抱えた。
原作の後半で、誰かが言っていたはずだ。魔族と人間は、収斂進化を辿った結果なのだと。
彼らのあいだに、子どもは生まれない。
じゃあ、私は何なんだろう。
お父様の、何かがおかしいのか。お母様の、何かがおかしいのか。それとも、原作が全部を描いていないだけで、私みたいのが実はいたりするとかなのか。
(考えない方がいい)
それは、今夜決めることじゃない。考えない棚にしまっておく。
ついでに、もう一つ、その棚にしまった。
原作のフリーレンは言っていた。魔族には家族という考えがない、と。この家の温かいものは、全部お母様から来ている。暖炉の火も、毛足の長い敷物も、編み棒の音も、焼きたてのパンも、寝る前の昔話も。お父様はその真ん中に座って本を読んで、時々、お母様の手つきをそのまま繰り返す。
……考えない。今夜は、もう十分だ。
生き延びる話をしよう。
問題。隠れるには、どうするか。
ここで、記憶の底から、ひとつの場面が浮かんできた。
アウラがフリーレンに勝負を挑んで、負ける場面だ。アウラは自分の勝ちを疑っていなかった。目の前のエルフの魔力が、自分よりずっと少なく見えていたから。けれどフリーレンは、その誤算を狙っていた。
魔族は魔力を隠さない。魔力の大きさは魔族の誇りで、隠すのは恥だから。だから魔族は、相手が隠しているかもしれないなんて、考えもしない。
(裏返せば)
暗闇の中で、目を見開いた。
(魔力を隠せば?)
今できる最適解。
原作で一番役に立つ一行が、これだった。
ただし、隠すには魔力を支配しなければならない。溢れてくるものを、漏らさず、ずっと押さえこみ続ける力だ。フリーレンは、それを人生をかけて極めた。原作を知っているだけの私が、同じ精度で同じことを出来るなんて到底おもえない。
なら、鍛えるしかない。年数の代わりに、密度で埋める。5歳の今日から、毎日。
それからツノ。これは魔法で何とかするしかない。ただ、ツノを隠す魔法なんて原作には出てこなかった。魔族は隠さないし、人間には隠すものがない。でも、お父様の本棚には、魔族の魔法書が並んでいる。魔族は、人間を欺いて狩る生き物だ。狩るために近づく魔法くらい、昔の誰かが作っていてもおかしくない。読めるようになれば分かる。読めるようになるまで何年かかるかは、知らないけど。
やることは決まった。
私はそっと寝台を抜け出した。板の床が冷たい。足音を忍ばせて居間の棚まで行くと、お母様が使い古した帳面がしまってあった。粉の量、塩の残り、干し肉の数。お母様の几帳面な字が細かく並んでいて、いちばん後ろのページが、まだ白かった。
暖炉の灰の中から燃え残りの炭を一本拾って、窓辺に座った。雪明かりが、白い紙をぼんやり照らしている。
書きたいことは山ほどあった。原作の筋も、登場人物も、誰がいつ死ぬのかも。忘れないうちに全部書いておきたい。
けれど炭を握った途端に分かった。5歳の指は、漢字なんて書けない。頭の中には何千回も書いた形があるのに、手がついてこない。試しに魔族と書こうとしたら、黒い塊になった。
仕方なく、ひらがなとカタカナで書いた。一文字ずつ、ゆっくり。震える歪んだ字で。フリーレンのレが、どう書いてもしに見える。それでも、この世界の誰にも読めない文字だ。
・しなない
・フリーレンにみつからない
・いつかこのいえをでる
・そのためにまりょくをきたえる
書き終わると、炭の粉で指先が真っ黒になっていた。端に「げんさく」と書きかけて、やめた。それは明日からにしよう。頭がおなかいっぱいで耐えられなかったから。
窓の外では、また雪が降り始めていた。
この帳面、もし読める人に見つかったら完全に不審者だな、と思った。まあ読める人は、この世界に一人もいないんだけど。
◇
翌朝、私は朝食の粥をかき混ぜているお母様の袖を引いた。
「おかあさま」
「なあに」
「ゆうしゃさまは、いま、どこにいるの」
お母様は木の匙を止めて、昨夜のことを思い出したのか、少し心配そうに私の顔を覗きこんだ。それから、やわらかく笑った。
「勇者様はね、もうずいぶん前に、お亡くなりになったのよ」
胸の奥で、何かが静かに沈んだ。
(ヒンメルが、もう死んでいる)
「街の広場にね、勇者様の像があったの。お花がいっぱい供えてあってね。……私、あそこだけは好きだったわ」
お母様は、自分が育った所のことをほとんど話さない。それは前世の記憶じゃなくて、5年ここで生きてきたアリスとして、知っていることだった。「あそこだけは」という言い方に、街の他の場所のことが全部入っている。
「街の人はね、この森のことを、戻り森って呼んでいたの」
お母様は、窓の外の雪を見た。
「入っても入っても、気がつくと森の外に戻されてるんですって。だから誰も近づかないの。それに、北の伯爵様の領地では、もう何年も魔族との戦が続いているでしょう。こっちまで来る人なんて、なおさらいないのよ」
木の匙が、手から落ちかけた。
北の伯爵領。グラナト伯爵領のことか。原作で、フリーレンが立ち寄った街。アウラが、不死の軍勢を率いて攻め続けていた街。
この森は、そのすぐそばにある。
(ヒンメルが死んで、フリーレンが旅に出て、いつか北の伯爵領に来る)
物語はもう始まっている。時計の針はもう動いている。しかも、ご近所だった。原作の最初の大きな戦いが、歩いて行ける距離で起きる。都合のいい転生先というものが世の中にあるなら、私のは、その正反対の見本だと思う。
私は、粥をすくうお母様の手を見た。
細い手首だった。指の節が少し赤く荒れている。粥をかき混ぜる合間に、お母様は小さく咳をした。その咳が、冬のたびに長くなっていることを、私は、この体の主、アリスとして知っていた。
それから、お母様は空いたほうの手を、大きくなったお腹の上に置いた。
「春にはね、アリスは、お姉さんになるのよ」
私はその手を見た。
その下にいるものが何なのか、この家の誰よりも、私だけがよく分かっていた。人間のお母様と、魔族のお父様の間に生まれる、もう一人。私と、同じもの。生まれるはずのない、二人目。
(……この子も)
お母様は、私の考えていることを都合よく受け取ってくれたみたいで、目尻を下げて、お腹をそっと撫でた。
「楽しみね」
「……うん」
私は頷いた。
原作の中で、フリーレンの旅の行く先はどのお話にも書いてあった。けれど、お母様の行く末も、お腹の中にいる子、私の妹か弟の行く末も、どこにも書いていない。原作は私たちのことを書いていない。
知っている世界の中で、私の家族の明日だけが、白紙だった。
その夜、書きかけのページにもう一行を足した。
・おなかのこをまぞくにしない
五歳の冬の決意としては、我ながら重すぎると思う。でも、他に書くことがなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
Q. 1話目、暗くね?
A.あらすじが軽すぎました。すみませんでした。
Q.フリーレンいつ出るん?
A.主人公が鍛えまくってからです。
Q.お父さんほとんど喋らんやん
A.この先もほとんど喋りません。
Q.つづきは?
A.決まってるお(書けてないだけ)