Missing Memorial[マギアレコードAnother story]   作:ろびんそん

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マギアレコード第1部5章 《ひとりぼっちの最果て》
の続きになります。そこまで必読です。
またネタバレも含む内容になります。ご注意下さい。

マギアレコードのifストーリー。
国家公認の魔法少女組織がもし神浜のドッペルやマギウスを知ったらどうするのか…。勿論ほっとくわけないですよね?そんなifストーリーです。
とても長くなりそうなのでじっくり描いていければと思います。
何か矛盾点やキャラの読み込みが浅い部分があれば言っていただからば幸いです。

※一部文章を作るのかAIを使っております。ご了承ください。



《episode 1−1》

【重要機密文書】

日本特殊作戦機密組織。通称オリジン。

国家の安全と平和、そしてバランスを取るために魔力を用いた少女達(以下魔法少女)で構成された国家直下の機密部隊。創設から魔法少女至上主義を掲げ、我が国においての水面下ながら魔法少女の安全や地位を守る組織でもある。

太平洋戦争後において戦争放棄、非武装化を基本としている日本国において最も対外諸国に対抗した武力でもあり、戦力組織力共に世界でも群を抜いている。

国家直下ではあるが創始者の家系である山菱グループが運営管理を務めている。直接的な実行支配権を国家が持つものではないが、所有権は日本国にあるものとし、共同運用として利益利得の一部を山菱グループが持つものとする。

現状約百人程の魔法少女が所属しており、選抜はインキュベーターを中心とした因果律において戦力の高いと思われる女子から選ばれる。

なお女子とインキュベーターとの等価交換における報酬は当該女子が最優先とするが、最終判断は日本国がするものとする。

また魔法少女の最終処理に関しては日本国は一切関与せず、山菱グループ及びオリジン内で処理を原則とする。

 

 

 

 

【5月31日 都内地下 オリジン本部】

新緑の季節はとうに過ぎ、そろそろ都内も梅雨入りを感じるように雨が多くなって来た。

オリジンの本部は東京の中枢の地下にある。この場所に一大組織があるのは閣僚クラスでしか知り得ない。その廊下を少女が1人、背筋の伸びた姿勢で足早に歩く。肩まで切り揃えられた黒い髪。パッチリとした目。整った顔立ちだが、何処となくまだ年相応のあどけなさも残る。

習得院中等部3年の那木加月(なぎ かつき)にとって過ぎた中間テストやこれからの期末テストより、オリジンの任務が最優先。

この組織のエースであり、国内有数の魔法少女である加月にはやるべき事は多い。インキュベーターからの情報を元にしたスカウト活動や現状の魔法少女の指導。さらにオリジンでの任務もそこに加わるとなると時間がいくら合っても足りない。それでも成績はトップクラス。運動神経抜群と高貴な位の子供しかいない習得院の中でも一目置かれる存在だった。

地下とは思えない絨毯の引かれた長い廊下を歩き、一つの部屋の前で足を止めて、ノックをする。

 

「お姉様、加月です。失礼します。」

 

しばらく待つが声が返ってこない。

 

「お姉様?開けてよろしいですか?」

 

声かけるが声が返ってこず、仕方なく扉をゆっくり開ける。

部屋の中は間接照明だけで少し薄暗く、手前のソファーや机には人影はない。部屋の奥にあるベットに1人の魔法少女が寝かされ、胸にあるソウルジェムが淡く光っている。その前に腰まで伸びた美しい黒髪の少女が立っている。背丈は加月より高く細身だが女性でなくても憧れる美しいスタイルと佇まい。

「しまった、「処方」中だったか。」

加月はなるべく音を立てないように扉を閉め、扉横で「処方」が終わるのを待つ。

5分もすると寝ていた魔法少女のソウルジェムの淡い光は落ち着き、「処方」を行っていた魔法少女、那木星羅(なぎ せいら)もふぅと一息をつく。

 

「はい、お疲れ様。もう平気よ。魔力も回復したし話してた気になる部分も調整しておいたわ。」

 

「ありがとうございます、星羅様。とても身体が軽いです。またよろしくお願い致します。それでは失礼致します。」

 

その魔法少女は速やかにベットから降りると星羅に一礼、そして加月に一礼をすると部屋からゆっくりと退出する。

 

「お姉様、申し訳ありませんわ。「処方」中とはお伺いしておらず。」

 

加月は星羅に対して深く頭を下げる。

 

「まぁまぁ、頭なんか下げないで、加月。急な「処方」だったの、知らないのも無理ないわ。それより何かお話しがあったのではなくて?」

 

星羅はベットを手で直しながら加月の方に向き直る。

 

「はい、明日から学校の方を1か月程休学して任務の方は向かおうと思います。なのでその前にご挨拶と思い。」

 

「そう、明日からだったわね。あの任務。また加月に危険な事を1人で任せるなんて…姉として反対したいところだけど…ごめんなさい。」

 

「いえいえ!加月は身体だけは丈夫ですので!だから…大丈夫です。」

 

星羅はあまり身体が強くない。普通魔法少女になった時点で魂はソウルジェムへと変化し、身体の異常に関して大抵問題なく治る。ただ星羅に関しては何故か身体がひ弱で、基本的に家と学校とオリジン本部の行き来を車で移動する以外は外にほとんど出ない。なのでそのつもりはなくても今の言葉は嫌味に聞こえたかもしれないと思い、少し言葉が詰まってしまう。

 

「ふふ、なら安心して待ってます。じゃあ出発前に一度「処方」しておきましょう。そうすれば多少加月がおてんばで無茶しても大丈夫でしょうし。」

「お!おて!!!?私がですか?!……お姉様…いくら加月でも少々傷つきますわ。」

 

頬を少し膨らませ顔をプイッと逸らし拗ねたフリをする。

 

「ふふふ、ごめんなさいね。ついつい揶揄いたくなっちゃって。でも冗談はさておき、みうか莉央、どちらかでも同行させたいものだけども…」

 

加月はさっきまで「処方」を行っていたベットに横になり、ソウルジェムを指輪から本来の卵型の形にして星羅に委ねる。

 

「仕方ないですわ。吉名さんも鳴海さんも私が不在の間はオリジンに残ってお姉様のお側に付いてもらう指令ですから。今は他の子も各地に任務に行ってる子も多いですし。まぁでもあの2人がいるならお姉様は心配いりませんわ。なにせ、私の自慢の後輩2人なんですから。」

 

「そうね…ありがとう、加月。じゃあ「処方」を始めるわ。目をつぶって…力を抜いて…深呼吸して…」

 

微睡むように加月の意識が遠くなる。深く深く落ちていくような感覚と共に思い出す。2週間前に自分も含めて多くの魔法少女が見た夢。

そこから調査するとその場所は何故かインキュベーターが立ち入ることが出来ず、調査に行った魔法少女2人は帰ってこなかった。

しかし調査報告によるとその場所は魔女が多く、強い。魔女以外にも不思議な魔女らしきものがいる。そして…魔法少女は魔女化をしない。

それが本当ならこの国…いや世界において魔法少女は希望《しか》生み出さない存在となり、多くの魔法少女を絶望から救済できる。

そう…まさに夢であの少女の言っていた通りに…。意識の最後に加月も見た夢の少女とその言葉を、思い出す。

 

「運命を変えたいなら神浜市に来て」

 

「この町で…魔法少女は救われるから」

 

 

 

 

《episode 1−1》

平日の午後4時。今日は3人で集まり、調整屋に行くことになっている

十咎ももこは1人、新西区にある公園でかえでを待っていた。途中レナとかえでと3人で食べようとドーナツを買ったのだが、レナは中央区に用事が(多分推しのアイドル関係のことだろう)あるから用事が終わったら直接行く事になっており、かえでは家に一度帰ってからこの公園に待ち合わせになっている。

 

「レナの分のドーナツ、どうするかな…。流石に3個しかないのに調整屋で食べるわけにもいかないし…かと言って2つは食べれないしな。」

 

住宅街を抜け、やや人通りの少ない場所にある公園。夕方過ぎにはほぼ人の出入りはない。魔法少女として人目のつかない所で活動するももこ達には格好の待ち合わせ場所であり、今日ももこ以外に人はおらずさらに静かに思えた。

それにしてもいろはちゃんから話しの概要は聞いたとは言え、まさか中央区の電波塔に本当に魔法少女がいたとは未だに信じられなかった。最近はウワサも増えてる気がするし、それに神浜以外から来た魔法少女も増えてるって話も聞く。それを言ったら見滝原から来てた魔法少女が1人、音信不通で行方不明なってるっていろはちゃんも話してた。本当にどうしちゃった、最近の神浜は。元々お世辞にも治安が良いとは言えなかった街だけど、ここ最近は流石におかしすぎる。……本当にやちよさんとの関係、いよいよどうにかしなきゃならないな。

 

そんな風に考え事をしてるとフッと気づく。公園の入り口に誰か1人立っている。最初はかえでが来たのかと思ったが明らかに違う。黒髪でミディアムボブくらいの髪型。身長は150ないくらいの小柄の女の子。身長からするに中学生くらい。ただ見覚えない顔。そして黒を基調としたセーラー服。明らかに神浜の学校の制服でない。

その少女は最初こそ無表情でこちらを見ていたが目が合うとニコッと微笑んでいた。その振る舞いには何処か育ちの良さを感じさせ、所謂お嬢様である事を感じさせる。

 

「君、見た事ない顔だね。さらにその制服。この辺の子じゃないでしょ?こんな時間にフラフラしてると危ないよ。駅まで送ろうか?」

 

ももこは立ち上がりその女の子に近づく。ただ一定の距離を保つように。警戒は解いていない。

 

「日も高くて時間も遅くはないですし。まだ危ないって事はないんじゃないでしょうか?初めまして。私は那木加月と申します。貴方のお名前も聞いてもよろしいですか?」

 

表情はあまり変えず、相変わらず優雅で余裕のある笑顔をももこに向けている。ももこは一瞬きょとんとした後、苦笑いを漏らした。

 

「いやまあ、そりゃそうだけどさ。あたしは十咎ももこ。で、加月ちゃんは何してんの?迷子ってわけでもなさそうだけど。どこから来たの?」

 

ももこの声色は砕けていたが、重心はわずかに後ろ足にかかっていた。何かあれば即座に動ける構え。戦闘慣れした身体が無意識に取る姿勢だった。

夕日が公園のフェンスをオレンジに染めていた。ももこの問いは世間話のようでいて、明確に探りを入れている。

 

「東京です。なんか学校サボって遠出したくなってしまって…そういう時ってありませんか?」

 

じっと加月の顔を見つめ、それからふっと肩の力を抜いた。

 

「東京か。いいねえ、遠出。あたしもたまにはどこか行きたいよ。」

 

信じたわけではない。ただ、嘘を追及するほどの確証もなかった。

ベンチの横に腰を下ろし直しながら、ぽんと隣を手で叩いた。

 

「まあ座りなよ。サボりなら急いで帰る理由もないでしょ。わたしも今、人を待ってるんだ。あ!そうだ!ドーナツ食べない?実は一つ余ってて…ちょうど困ってたんだ。」

 

加月は隣にふわりと座り、微笑んだ表情は崩さずももこを見る。

 

「ありがとうございます。でも大丈夫です。お気遣いなく。…それより先ほど早く帰るように促しておられましたが…この辺はそんなに物騒なのですか?」

 

袋からドーナツを取り出そうとした姿勢でその質問に少し面をくらい眉を顰める。でも指を見る限りソウルジェムらしき指輪はない。多分単純に気になっただけだろう。ふぅと一息つき、ももこの声のトーンが落ちる。

 

「最近ちょっとね。まぁ物騒なんだよ。変な事件が多くてさ、夜になると特にヤバい。だからまあ――」

 

言葉を切り、ちらりと加月を横目で見た。「帰れ」と言いたいのか、「気をつけろ」で済ませるのか。その線引きを、ももこ自身が迷っているようだった。

 

「変な事件…ですか…?そういうお話し、興味あります。お聞かせ願いますか?」

 

少し前のめりに身体をももこに向けて加月の目がキラリと光る。

 

「事件と言えば事件なんだけど…うーん。なんで説明すればいいかな。」 

 

ももこが説明に困っているのは当然だった。「魔女」や「ウワサ」の存在を一般人にどう伝えるか――その匙加減は魔法少女にとって永遠の課題だ。

 

「まあとにかく、危ないもんは危ないの。君みたいな可愛い子がふらふらしてたら―」

 

そのとき、公園の街灯がちかちかと明滅した。周りの風景が変わり、公園とは全く別の砂漠のような空間へと変貌していく。

 

「あー。もうこのタイミングでこんな事なるなんて…。本当バッドタイミングだよなぁ。」

 

頭を抱えるようにしてすでにベンチとは別の何かに変わってしまったものから立ち上がり、加月を庇うように手を広げる。

 

「ねえ加月ちゃん、あたしと一緒にいたほうがいいかも。」

 

加月も立ち上がりももこの後ろに隠れるように身を寄せる

 

「それは…つまりデートのお誘いってことでしょうか?」

 

思わず噴き出した。

 

「こんな色気もクソもないデートある?!!!」

 

冗談を返しつつも、ももこの体は自然に加月の前で守るように位置取っていた。場数を踏んだ人間にしかできない動き方だった。

 

「悪いんだけどさ、ちょっと厄介なのが来てるっぽくて…」

 

その時砂の中から犬のような形の《なにか》が現る。一つではない。三つ、四つ――何かが這い出てこようとしている。小型の使い魔。だが一般人には十分すぎる脅威。

こうなったら仕方ない。一般人を巻き込む事になるけど…今は人命優先だ。そしてももこの指輪が黄色い光が弾けた瞬間、彼女の衣装が切り替わった。白と黄色を基調とした魔法少女としての戦闘姿。その変貌を目の当たりにしても、加月が驚いた様子を見せなかったことを、ももこは気づいただろうか。大剣を片手に構え、由月を背に庇うように一歩前に出た。

 

「加月ちゃん後で説明するから今は下がってて。すぐ終わらせるから。」

 

使い魔がぎざぎざの歯を剥き出しにして、甲高い鳴き声を上げながら二人に殺到する。

一体目を横薙ぎに両断。返す刀で二体目の頭部を叩き潰した。手際は鮮やかだったが―三体目が加月めがけて回り込んでいた。

 

「っ、しま――!」

 

「きゃ!!!」

 

後ろに下がって転ぶフリをして避け、そのまま足でももこの方へ使い魔を蹴り出す。尻もちをつきながらの一蹴りは、素人の偶然にしては余りにも正確だった。使い魔の軌道がそれ、ちょうどももこの剣の間合いに転がり込む。反射的に大剣を振り下ろし、使い魔を地面ごと叩き潰した。

 

「……ふう。」

 

四体目はいなかった。周りの砂漠が元いた公園に戻り、街灯の明滅も止んでいた。ももこは魔法少女から元の制服姿に戻り地面に座り込んだままの由月を見下ろした。

 

「大丈夫?怪我ない?」

 

ももこは手を差し出しながらも、その目が加月の足元をちらりと見た。今の蹴り――転んだ拍子にたまたま、で済ませるには、あの使い魔の飛来角度と蹴り出した方向が出来すぎている。

加月の顔をじっと覗き込んだ。

 

「十咎さん…今のは一体なんでしょか…?それにさっきの格好って…」

 

頬を掻きながら、明らかに言葉を選んでいた。

 

「あー……うん。まあ、見ちゃったもんはしょうがないか。」

 

ももこは腕を組み、しばらく黙った。魔法少女の存在を一般人に明かすことの重さは理解しているが、目の前で変身し、化け物を斬って見せた後では隠しようもない。

 

「あたしはさ、魔法少女ってやつでさ…さっきのは使い魔っていう……まあ、バケモンの手下みたいなもん。俄かに信じられないとはーー」

 

加月の表情を窺うように一拍置いて。

 

「ねぇ…普通は結構パニックになると思うんだけど、君、随分落ち着いてるね。」

 

ももこの声には感心と疑念が半分ずつ混じっていた。化け物に襲われ、魔法少女の変身を見せられた中学生が、膝の砂を払いながら平然と質問を返してくる。その不自然さに気づかないほどももこは鈍くない。

 

「ねえ加月ちゃん。聞いてもいい?…あんた――本当にただの中学生?」

 

表情は変えない

 

「…なんの話しをなさっていますか?」

 

はぁー、とわざとらしく大きなため息をついた。*

 

「もういいよ、そのお嬢様ごっこは。」

 

ももこは呆れたように腰に手を当てた。夕暮れが公園を包み、まるで世界に二人しかいないように人の気配がない。

 

「君も魔法少女なんだろ?」

 

彼女の目は、もう加月の顔ではなく、彼女のカバンに注がれていた。そしてももこがソウルジェムに魔力を込め光る。そしえ共鳴するように加月のソウルジェムが光る。

 

「カバンに中に入ってるやつ、見せてみなよ。それで話は早い。」

 

ももこの声は、もはや問いかけではなかった。確信に基づいた、有無を言わさぬ要求。彼女がここまで踏み込むのは、目の前の少女がただ者ではないと判断したからだ。そして、この神浜で正体不明の魔法少女がうろついていることを見過ごせないという、責任感からだった。

 

ももこの言葉が終わるか終わらないかのうちに、加月の手が動いた。カバンから取り出されたソウルジェム。それが宙に舞い、きらりと夕日の光を反射した。

次の瞬間ソウルジェムをから放たれた光が由月の身体を包み込む。セーラー服は紺と青の袴風のワンピース、白のボレロを羽織った神聖な雰囲気な魔法少女姿へと変貌し、両手には剣が2本握られていた。後ろに低い姿勢で下り、その剣がももこへと投げつけられる。

 

「っ!?なっ!!?」

 

瞬時にももこも魔法少女の姿になり、手には先ほどの大剣が握られる。

 

「くそっ!いきなりかよ!!!」

 

ももこがその2本の剣を下から上へと薙ぎ払う。その接触した瞬間、加月の投げた剣はまるで氷のように砕け、ももこの周りに破片が飛び散る。

 

「なっ!!?これ!?が、ガラス?!!」

 

まるでダイヤモンドダストのように砕けたガラスの剣はキラキラと舞う。そしてそのいくつかがより眩しく光を反射させる。

ももこはその破片を大剣で身を守るよう防ぐ。

そして破片が地面に着いたとき、ももこはその光景に目を疑った。なぜなら数秒の間に、加月の姿はーーもとの場所から消えていた。

剣が空中で砕け、粒子となって散る。その幻惑的な光景に一瞬目を奪われたその瞬間に。

 

「え…?ーーか、かつきちゃ」

 

背後からももこの首筋に、冷たく硬い感触。氷を削り出したかのような、透明で美しいガラスの剣がぴたりと添えられていた。

 

「あまり、人を詮索しない方が身のためですよ。十咎ももこさん。」

 

声は先ほどまでの「お嬢様」のそれではない。低く、冷徹で、絶対的な自信に満ちた響き。公園の空気が凍りついたように静まり返る。ももこは後ろからくびに触れられた剣から伝わる殺気を感じ、身動き一つ取れずにいた。

 

「……っ!」

 

首元に走る冷たい感触に、ももこの全身が硬直した。汗が一筋、こめかみを伝う。先ほどまで自分が優位に立っていたはずの状況が、一瞬にして逆転した。目の前の少女が見せた変身の速度、気配を消して背後を取る技術――そのどれもが、ただの新人魔法少女のレベルを遥かに超えている。

 

「君は…一体…」

 

「質問は私が先です。十咎さん。一つ、この街には魔女とは明らかに別の反応がありますね?これはなんですか?そしてもう一つ、この神浜には魔法少女が魔女にならないシステムがあると聞いています。それをお教え願えますか?」

 

2人しかいない空間でそれでも囁くように問いかける。ももこはグッと唇を噛みしめ、目だけは加月を睨みつけるように後ろに向ける。

 

「……魔女とは別の反応ってのは多分ウワサの事…。最近魔女とは別にウワサって呼ばれるおかしな奴が出るようになったんだ。噂話のとこにいくとそのウワサのルールに乗っ取った行動して、結界の中に聞きつけた奴を誘い込む。そしてそのウワサのルールを破るやつに対しては…襲いかかる。」

 

加月は眉を顰め訝しげに首を傾ける。

 

「ウワサ…つまり噂話が魔女となるって認識なんでしょうか?中々興味深いお話ではありますが…」

 

考え込むように顎に手を当てるがそのガラスの剣はももこの首筋からは離れず刃を向けている。

まだだ。まだ早い。タイミングを合わせるんだ。

 

「……十咎さんはなにかウワサをご存知ではありませんか?…あっ!いえ!決して疑ってる訳ではないんですが…やっぱり一度自分の目で確かめない事には…」

 

「……。」

 

もう少し。わたしにちゃんとヘイトが向くタイミングを合わせないと。

 

「……聞いていますか?お返事がございませんよ…」

 

加月の握った剣により力が入り、目線が完全にももこへと向けられる。

 

「ご自分の立場、お分かりで…」

 

「かえで!!!今だ!!!」

 

ももこが叫ぶ。

その声に応えるように、反対側の物影から、もう一つの魔力が弾けた。緑色の光が迸り、小柄な魔法少女が出現する。――秋野かえで。彼女は最初からそこに潜み、ももこの合図を待っていたのだ。

手に持った杖を地面に突き立てる。

 

「ごめんなさいっ!」

 

杖の先から無数の木の根が地面を割って飛び出し、蛇のようにうねりながら加月に襲いかかった。その隙をももこは見逃さず身体を屈めて剣先から逃れ、大剣を横薙ぎに加月に向ける。ももこが接近戦で加月を足止めし、その隙にかえでが魔法で捕縛する――二人が何度も繰り返してきた連携だった。

ももこの攻撃とかえでの魔法。完璧な挟撃。だが、加月は笑顔を崩さないまま、右手の剣を軽く振った。

カリン、と涼やかな音が響く。ガラスの剣が砕け、無数の粒子となって周囲に舞い散った。それはまるでダイヤモンドダストのように煌めき、ももこの視界を幻惑する。

 

「何っ!?」

 

地面から突き出した木の根が加月を捕らえようと迫る。しかし、それは空を切った。ガラスの粒子が瞬いた次の瞬間、由月の姿はそこから掻き消えていた。ももこが横薙ぎの攻撃も、かえでの魔法の標的も、幻のように消え失せる。

 

「あっ……!」

 

自分の魔法が外れたことに驚き、かえでが硬直した、その刹那。彼女の背後に、ふっと影が現れる。そして、その手には先ほどと寸分違わぬガラス剣が握られていた。

ひやり、とした感触がかえでの細い首筋に走る。

 

「なるほど…。確かに人を待ってるとは聞いていましたが…まさかこちらの方も魔法少女とは。」

 

声は氷のように冷たい。かえでは悲鳴を上げることもできず、恐怖に目を見開いたまま凍りついた。ももことの距離は十数メートル。助けに入るには遠すぎる。

 

「かえでっ!」

 

ももこの絶叫が公園に響き渡った。状況は、先ほどよりもさらに悪化していた。

 

「でも中々良い動きでしたよ。十咎さん…お強いんですね。でもーー今のは流石に裏切り行為とみなしますが、よろしいですよね?」

 

「……やめろ。お願いだ、やめてくれ。」

 

ももこの声は、怒りよりも焦りで震えていた。自分の判断ミスが仲間を危険に晒した。その事実が、彼女の冷静さを奪っていく。

ひっ……と、か細い息を漏らした。首筋に触れる剣の冷たさと、背後から感じる加月の殺気に、完全に体を強張らせている。涙が目に浮かび、今にもこぼれ落ちそうだった。

 

「も、もこちゃん……ごめんなさ……」

 

かえでの言葉を遮るように、剣先をわずかに動かした。

 

「黙っていてください。今、話しているのは私と彼女です。」

 

その冷徹な一言に、かえではびくりと体を震わせて口をつぐんだ。ももこは歯を食いしばり、動けないでいる自分の無力さを呪うように拳を握りしめる。

 

「……あんたが知りたいのは、この街のことなんだな。」

 

ももこはゆっくりと息を吸い、努めて冷静な声を出そうとした。かえでを解放することが最優先。そのためなら、今は相手の要求を飲むしかない。

 

「話す。話すから……まず、かえでから離れてくれ。その子に何かしてみろ、あたしはあんたを絶対に許さない。」

 

ニコリと微笑み、声を弾ませる。

 

「はい、"穏やか"な交渉をして頂き大変嬉しいです。こんな事にはなってはいますが、私も魔法少女を傷つけるような行為は本意ではないので。」

 

加月がふっと笑みを浮かべると、かえでの喉元にあった剣が光の粒子となって消えた。解放されたかえでは、へなへなとその場に座り込んでしまう。

 

「かえで!!」

 

ももこが駆け寄り、震えるかえでの肩を抱いた。加月は、その様子を静かに見つめながら、自身の変身を解く。魔法少女の衣装は光に溶け、元の習得院の制服姿へと戻った。まるで先ほどの戦闘がすべて幻だったかのように、公園には再び静寂が訪れる。

かえでが怪我をしていないことを確認し、安堵の息をついた。そして、ゆっくりと立ち上がり、加月に向き直る。その目には、もはや敵意はなかった。ただ、得体の知れない強者に対する警戒と、そしてほんの少しの畏怖が混じっていた。

 

「……あんた、一体何者なんだよ。」

 

ももこの問いは、先ほどとは重みが違った。圧倒的な実力を見せつけられた後では、その正体を知ることが自分たちの生死に直結すると理解していた。

 

「全て話すとは言ったけど…悪い。この場では二つめの質問に関しては答えられない。その…この子はまだ…。」

 

二つ目の質問。魔法少女が魔女化を逃れる方法について。つまり十咎ももこはその方法は知ってるが…もう1人が知らない。そもそも魔法少女の仕組み自体もおそらく。

 

「……なるほど、わかりました。ではそちらは後日でも構いません。私も無粋な真似はする気はございませんので…」

 

加月は2人から目を離さず、ただ表情だけは変えずに淡々と話す。それがより一層今の2人には恐怖を植え付けた。

 

「明日…時間あるかい?私の知り合いでウワサにもその事にも詳しい魔法少女がいる。私から会えるように手配する。そこで詳しく話すよ。」

 

ももこの言葉にかえでがはっと何かに気づき顔を見る。何か言いたがだが、何も言わずまた俯く。

 

「はい。構いませんよ。しばらくはこの街に留まりますので。では連絡先を交換しましょう。これで私たちはお友達ですね?」

 

顔の前で手を合わせて微笑む。加月とももこの表情は対照的だった。一方は余裕の表情で笑みを浮かべ嫌味のような冗談のような言葉を吐き、一方ではかえでを守るように身体を向け、顔を強張らせ無言で睨みつけていた。

2人は連絡先を交換し、また連絡する事を約束して加月はその公園から後にする。

 

「ももこちゃん…ごめんね。足、引っ張って…。」

 

かえでは涙を浮かべももこの腕にしがみつく。

 

「かえでは何も悪くない。わたしだって…あいつの動きすら見えてなかったんだ。…それより一度調整屋に行こう。レナも待ってるはずだ。それに…やちよさんにも…連絡しなきゃだし。」

 

 

加月はホテルがある中央区へと向かうため、オリジンが手配している貸切タクシーで移動していた。初日としてはまずまずといったところでしょうか。魔女の気配を感じて1日大半を移動を費やしてしまいましたが最後の最後で有益な情報も手に入りました。まだまだ時間はあります。とりあえずウワサという存在については明日、十咎さんのお知り合いからお話しを聞いてからまた考えるとしましょう。それにしても…この街に着いてからもう使い魔も合わせると3回は魔女を見つけてる。たった半日で。そして東京にいる魔女に比べても明らかに強い。確かに報告通り何かおかしい、この街は。そんな中ーー携帯が震え、ももこからメールが届く。

 

「明日、12時、水名区の喫茶バンビーナで」

 

必要最低限の言葉だけ書き綴られてるがそれで約束としては十分だった。こちらも了解ですとだけ返信をする。とりあえずこれでいい。後は今後、私やオリジンには手を出せないようなーーなにかいい方法があれば良いんだけど…。

考えている間にホテルに到着する。タクシーの代金はオリジンが建て替えるため、そのまま降りる。一息つく間もなくすぐにソウルジェムが反応を示す。

 

「また魔女か使い魔ですか…それにこの反応。誰かもう戦ってますね。ナワバリ争いには巻き込まれたくはないですが…一応様子は見に行きますか…」

 

そこは中心街から少し離れた廃墟ビル。到着するとその中へと躊躇なく入り、魔女の気配を探る。

3階へと到着すると1番奥の部屋の壁に魔女の結界を見つける。

 

「…やっぱり誰かいますね。ただ手こずってるようですし…早く」

 

「あんた、誰?見た事ないけど…魔法少女?」

 

後ろを振り返りと青い髪を二つ結んだ女の子が立っていた。この子も魔法少女なのだろう。警戒しながらもやや威圧的な態度に見える。

 

「ねぇ、誰って聞いてるんだけど。」

 

結界の中も気になるし、ここは一度協力体制を取る方がいいだろう。

 

「申し訳ありません。ナワバリを荒らすつもりはなくて…私も魔法少女で那木加月って言います。東京から来たのですが…たまたま魔女の気配がしたので…。」

 

少し戸惑う顔をして頭を深く下げる。

 

「と、東京!?なんで東京からこんな所に。……私、水波レナ。とりあえず…中、ヤバそうだし…レナ、行くね。」

 

レナは魔法少女の姿になり結界へと飛び込む。加月も変身して後を追うように結界へと進む。

 

結界はまるで駅のプラットホームのように長くコンクリートが伸びていて両サイドは波打つ水で浸っていた。レナは魔力のする方へと走り出している。加月もその後を周りとレナを観察しながら進んでいく。そして水の中からまるで機械で出来た魚のような使い魔が飛び出してレナと加月に襲いかかる。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

トライデント型の槍を構えると一直線に何度も使い魔を突き刺し一掃させる。

なるほど接近戦が得意なタイプか。でも動きは悪くない。あとはどんな魔法を使うのか…。

 

「加月…だっけ?戦うならちゃんと戦ってよね。レナの足、引っ張らないでよ。」

 

そういうとプイッと前向いてまた走り出す。

 

「ご、ごめんなさい、水波さん。あまりに強かったから…見惚れてしまって…」

 

後ろを追いながらなるべく当たり障りないように答える。ここでムキになっても良いことはない。少し相手をたてるくらい褒めた方が良いことを加月は理解している。

 

「あ、当たり前でしょ!加月はちゃんとレナの後ろ、着いてきてよね!」

 

褒められた事に少し面食らいながらも、少し頬を赤らめる。効果テキメンだ。

そう話してると改札口のような扉がある部屋が見える。その奥から魔力が渦巻くのを感じる。

この奥に…魔女がいる。2人で顔を見合わせ、扉にぶつかるように入る。

そこはまるで配電盤の中のような部屋。ブレーカーのスイッチやコードがあちこちから出て漏電している。そんな中、1人の魔法少女が敵から距離を取るように後ろに下がり、さらに背後に2人の魔法少女。3人の魔法少女が確認できた。

 

「まどか!後ろ下がって!ほむら!もう一度行くよ!」

 

そして青い髪の魔法少女の前には黒い電線を結束バンドで束ねたような姿。そしてその先端から電流を流している中型の魔女が腕の電線をムチのように地面に叩きつけ、3人を威嚇していた。

 

 

「水波さん、前の青い魔法少女の子、サポート出来ますか?私は後ろの2人のサポートに行きます。」

 

「そ、それくらい!レナだってわかってるから!」

 

そういうと2人はそれぞれ二手に分かれてサポートへ向かう。剣を構えた魔法少女ーー美樹さやかの方へレナは向かう。2人は必要最低限二言三言交わし、魔女を挟み撃ちするように左右に分かれる。

 

「2人とも、大丈夫ですか?魔女退治、手伝います。私は那木加月。よろしくお願いします。」

 

ピンクの髪の魔法少女と眼鏡の魔法少女が顔を見合わせて安堵の表情を浮かべる。

 

「…本当に!?ありがとう!!魔女が強くて…ちょっと困ってたんだ!私、鹿目まどか。」

「…暁美…ほむらです、よろしくお願いします。」

 

2人の顔を見て小さく頷く。

 

「早速ですが……何か作戦はありますか?」

 

今のところ前の2人は牽制をするように魔女をいなしている。魔女の部屋に入った時に「ほむら、もう一度」と言っていた。多分何か作戦があるのだろう。

 

「……はい。」

 

眼鏡をかけた魔法少女。暁美ほむらは一瞬言い淀む。初対面の魔法少女に自分の手の内を明かす事を躊躇するように。しかしそうも言っていられない状況に覚悟を決める。

 

「実は…わたし、魔法で時間を止めれるんです。だから私が時間を止めたらみんなで攻撃を仕掛けます。さっきまでは少し火力が足りなかったけど…お2人が加わればいけると思います。」

 

……時間停止?そんな魔法…オリジンでもそうそうお目にかかれない。この子、見た目によらない。

 

「わかりました。じゃあ作戦通り行きましょう。暁美さん…でよろしかったですか?よろしくお願いします。」

 

「はい!いきます!」

 

ほむらの手につけていた盾の様な円盤が周り中の歯車がカチッと動く。

フッと周りの時間が止まっている。暁美ほむらは自分の肩に触れていて…鹿目まどかはさっき見たときは何もしてなかったのに魔女に弓を引いている。放った弓が魔女の手前で止まり、よく見ると前線の2人も攻撃をし終えて、距離をとっている。

 

「大丈夫ですか?驚き…ますよね?私が触れてる間は動けます。今のうちにお願いします。」

 

小さく頷く。手を広げるとガラスの剣が十本程現れる。ほむらはじっと加月の戦い方を見ている。そしてその剣が魔女を囲うように飛んでいき…手前で止まる。

 

「暁美さん、お願いします。」

 

ほむらは頷くとまた盾がカタカタと歯車を回して動き、時間が動き出す。

今まで止まってたいた加月の剣とまどかの弓矢が魔女へと向かい、レナとさやかの斬撃が魔女を切り裂く。金切り声のような叫び声をあげ、魔女の姿は消える。そして周りの景色が歪むようにして先ほどの廃墟に戻る。魔女がいた場所には倒した証でもあるグリーフシードだけが地面に残っていた。

 

「はぁぁぁ…良かった。倒せたよ…ほむらちゃん。」

 

全員変身を解き、まどかがほむらに抱きつくようにして力が抜けていく。

 

「2人が来てくれて助かったよ。本当に危ない所だったんだ!もしかしたらしてるかもだけど…一応自己紹介。私は美樹さやか。そっちの2人が鹿目まどかと暁美ほむら。見滝原から…ちょっと用があって神浜にきたんだ。そしたら魔女がいたからーー3人ならって思ったんだけど…」

 

青い短髪。いかにも正義感の強そうな雰囲気のありそうな女の子。さやかはグリーフシードを拾いあげ、2人に差し出そうとする。

 

「い、いらないわよ!そんな!その為に倒したみたいじゃない!レナは受け取らないから!それ!……あ…えっと…水波レナ…。」

 

まどかとほむらが自己紹介がまだな事に気づき恥ずかしそうに自己紹介をする。

 

「那木加月です。私も大丈夫です。それは3人で使ってください。それより神浜に用って。なにかあったんですか?」

 

さやかは少し意外そうな顔をしながらもグリーフシードをありがたくバックへと入れる。

 

「あの!私たちの先輩が…神浜に行ったきり帰ってこないんです。巴…マミさんって言います。なにか…知らないですか?」

 

まどかは今泣きそうになりそうなのを堪えながら2人に縋るように問いかける。

 

「…ごめんなさい。私もたまたま東京からこの街に来てて…。詳しくないんです。水波さんは?」

 

「レナも聞いた事ない…。一応私の知り合いにも聞いては見るけど。」

 

まどかはそうですかと小さく呟き少し肩を落とす。

 

「…お2人は…お友達同士…ではなかったんですね。」

 

ほむらが少しおどおどしながらも気になったようで話しかける。

 

「はい。たまたま魔女に苦戦してるような反応をお見受けしたので…水波さんとはその時たまたま。」

 

お互いのある程度の素性と目的がわかりひと段落しだ事で全員一息つく。レナと…一応加月にも何かマミのことで分かったら報告することを約束し、まどかと連絡先を交換して解散する事にする。さやかは一度周りを見渡し、加月とレナに片手をあげる。

 

「じゃあ、本当にありがとう。…何か分かったりしたらまどかに連絡して。よろしくね!」

 

そう言うとまどかは手を振り、ほむらはぺこりと礼をして3人は廃墟から夕暮れの神浜の街へと消えていく。

 

「じゃあレナも。友達待たせてるから…ん?」

 

レナは自分のスマホにかえでとももこから何件も着信が来てる事に気づき、加月に背を向け掛け直す。

 

「もしもし、かえで?……ちょ?!あんた、なんで泣いてるの?!何話してるかわかんないわよ!ももこは?!…うん、かわって。……ももこ。どうしたの?……え?!襲われた!?…って誰に?!!…東京から来た…黒い髪の中学生?…東京……え?…ちょっと待って…それって…」

 

レナはゆっくり振り返るーーすると加月は、もう、真後ろまで迫っていた。

 

「ひっ…!」

 

思わず携帯から手を離してしまい、加月の足元にカシャンと音を立てて落ちる。それをゆっくり拾いあげる。「おい!どうした!レナ!」と電話の向こうから聞こえる声を無視してそのまま電話を切る。

一度驚きと恐怖で一歩下がるが、すぐに仲間を襲った犯人への怒りが湧いてくる。

 

「まさか十咎さん達のお仲間とは…いやいや。中々の偶然。私も運がないですね。いやーーこの場合は逆にあるんですかね、運。」

 

レナへとポンと投げ渡す。加月のことを睨みつけながらその携帯を受け取る。

 

「かえで、泣いてたんだけど。あんた、何したの?」

 

「何って。私のこと詮索して来たので、少し教えてあげただけですよ。好奇心はーー猫を殺すってね。」

 

ニコッと首を傾げ笑う。その瞬間レナの姿は魔法少女となり、トライデントの槍を加月に向け突進していた。その目は怒りの炎が燃えていた。

 

「あんた!!謝っても許さないから!!!」

 

加月も変身し、剣を2本重ねてコンクリートの床に突き刺しその上に乗り、さらにふわりと一回転回りながらジャンプする。レナの槍はそのまま床に刺した剣にぶつかり、レナの周りに粉々になって舞う。

 

「なっ!なにこれ!?ガラス??!」

 

「水波レナさん。あなたにはなにも恨みも感情もありません。けど…少し、痛い目にあってもらいますね?」

 

レナの上を取っていた加月は一瞬で姿を消し、舞ったガラスの破片の一つキラリと光る。その瞬間ーー。

一瞬でいくつもの斬撃がレナを襲い、レナは叫び声を上げる間もなく切り傷だらけで気絶する。

その横にフワリと加月がその隣に立つ。気絶し血まみれのレナを見下ろしながら。レナの赤い血飛沫ーーガラスの光。そのコントラストが場違いにも幻想的な光景になっていた。

 

「急所は外してますからーー誰かに回復魔法で傷さえ治してもらえば魔法少女なら命に別状はないので。これで十咎さん達への見せしめにもなるでしょう。」

 

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