love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
ゴールデンウイークも明け、生徒達は少しだらけているようだ。どうしてもこの時期はサボリがちになってしまう。今年のゴールデンウイークは目まぐるしく過ごしていたせいか、僕は肉体的にだらけていないのが幸いか。精神的には疲労してるけどね!ゴールデンウイークの間に何があったか、それはまた別の機会に語ることにしよう。次の休暇は夏休みか……遠い……
意外に思われるかも知れないが、学校の先生、というのは忙しい職種である。特にこの時期は中間テストの準備、そして五月末に控えているオープンハイスクールの調整で忙しいのだ。世の中に楽な仕事など無いのである。
授業が終わり、生徒会関係の雑務の打ち合わせのために生徒会室へ向かう。その途中でまたしても絢瀬、そして東條が学院長室から出てくるのが見えた。相変わらず絢瀬はご機嫌ナナメなようだ。声をかけるべきか悩んでいると、東條がこちらに気付き、手を振ってきた。絢瀬はそれにつられるようにこちらを向くと、親の敵のような目でこちらを見てくる。ふぇぇぇぇ、やっぱりJK怖いよぉぉぉ……
#12 にこヴェルブ
「オープンハイスクールで生徒会独自の活動を??」
「そうやねん。エリチが学院長にお願いしにいったんやけど――――」
「あっさり断られました。本当に学院長が何を考えてるのか分からないわ……」
頭を抱える絢瀬。僕が以前話した内容が伝わっていないはずはない。この子は賢い子だ。本当は気付いているのだが、気付いていないフリをしているのだろう。それとも意地を張っているのか。どちらにせよ、僕には彼女の心を揺さぶる何かを持たない。その事が悔しい。その悔しさを押し殺しながらも仕事はせねばと思いつつ話を振る。
「まぁ、何はともあれ、反対されたのは仕方が無い。普段の仕事に取り掛かろうか。テーマになるのは……」
「部活の統廃合、やね。」
東條が言う。そう、音ノ木坂学院は部活が細分化されている。部費も生徒全員の年間諸費で、あるいは教育委員会からの助成金で賄われている以上無駄遣いは出来ない。それにもまして生徒数が減少したのだ。今までのように活動できない部活が出てもおかしくない。そもそもアルパカ研究部って何だよ。アルパカの毛でも刈って布作るか?アルパカの毛はなかなか高いらしいぞ。それを売ろうぜ!
と時給自足案を提出しようと思ったが、絢瀬のご機嫌がさらに悪化しそうなのでやめておく。ゴールデンウイークが明けたことで確定した部活動の名簿を見ると、出てくるわ出てくるわ所属人数5人以下の部活。その中で一際目立つのがーーーーアイドル研究部、部員数一名の部活だ。
ついこの間、穂乃果ちゃん達のライブを見た自分としては気に掛かる部活だった。
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そうして次の日、ただでさえ雨が降って鬱陶しいのに、部活の統廃合の件について頭を悩ませなければいけない時間が来る放課後、ホームルーム後に穂乃果ちゃん達から声をかけられた。
「神波先生!またしてもお願いがあります!」
「はいはい、なんだい、穂乃果ちゃん。もう先生は大抵のことでは驚かないよ。」
他の生徒はまた穂乃果が何か言い出した、といった目で見ている。3週間ぶり2回目。実際オリジナル曲を編曲してくれ、以上の驚きは今後無いだろう。という期待を裏切るように、朗らかに、
「私達スクールアイドル部を新設することにしたんです!顧問になって下さい!」
時計の秒針がたっぷり30度回り、
「えっ?なんだって?」
耳を疑う。
「はい、私達スクールアイドル部の顧問をお願いしたいんです!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
予想外の発言に顎が外れた。
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「いやー、ないわー、穂乃果ちゃん、ほんとないわー」
生徒会室に気だるい声がこだまする。声の出処は僕だ。半分白目の。
「部活の統廃合しよーって時に新しい部活の設立申請とかないわー。」
「だって……せっかく6人集まったんだもん!部活にしてもいいじゃん!ケチ!」
いーっ、と歯を向く穂乃果ちゃん。だから可愛くてイラつくからヤメロ!!
「実際、あなた達の部活申請を受理する訳にはいきません。」
と冷たく言い張る絢瀬。
「どうしてですか?申請の際には5人以上集まればいいのでは?」
園田が噛み付く。どうやら園田は絢瀬を敵認定しているみたいだな。
「実はもう既に『アイドル研究部』というアイドルに関する部活が存在します。生徒数が少ない今、イタズラに部活を増やしたくはないの。」
「アイドル研究部??」
ことりが尋ねる。この間の書類で統廃合の代表格だったやつか。
「確か部員数一名のとこだよな、そこ。確か3年の矢澤って子が部長だったはずだ。」
気を取り直した僕が言う。矢澤、という名前を出したとき、絢瀬は苦虫を噛み潰したような顔をし、東條が寂しげに笑った。その少し歪んだ空気に気付くことなく、穂乃果ちゃんが、
「でも、部活には5人以上のメンバーが必要だって……」
「申請時には五人でも、その後は何人になってもいい決まりやからね。」
と東條が説明。それなら5人名前を借りて何でも好き放題な部活が出来る訳だ。僕ならアルパカ織布部を作る。そしてアルパカの布を作り、販売する。実際アルパカの毛は二年ほどで地面に着くほど伸びる。伸びればそれだけ値打ちが下がるが。一番価値のある毛は、アルパカの子供の毛らしい。あれ?厩舎にいる奴らオスとメスじゃ無かったか……?そこはかとなく金の匂いを感じていると、また冷たく絢瀬が
「というわけで、あなた達の活動を認める訳にはいきません。」
おじょうさーん、心の声ダダ漏れですよー。いつものクールなエリーチカはどこにいったー??
「というわけで、これで話は終わり。いいですね、神波先生。」
と話を振る。ヤベッ、アルパカの事と絢瀬の事しか考えてなかった。一瞬考えるフリ。こういうのが処世術というものだろう。
「終わりーーーーと言いたいところだが、終わりになりたく無ければ『アイドル研究部』と話を付けて来ることだな。」
「ちょっと……!」
と絢瀬がキッと睨む。二の句を継がせない勢いで、穂乃果ちゃんが、
「さすが樹お兄ちゃん!ありがとう!海未ちゃん、ことりちゃん、行こう!」
と忙しなく出て行った。うん。英単語テスト二倍な。台風が過ぎ去った後に来るのは厳しい寒冷前線。
「神波先生??どういうつもりですか??」
頭に青筋を浮かべる絢瀬。それにビビりながらも、気丈に言い張る。
「部活の数が増えるのが問題なのであって、現状維持ならさほど問題ないだろう。それにアイドル研究部はその性質上、何処の部活とも一緒になれない。すなわち残された道は廃部しかない。東條もそう思ったから何も言わなかったんだろ?」
と話を振るとにこやかにこちらを向く東條。
「そうやね。実際先生が言わんかったらウチが言うとったわ。」
「希まで!また二人で私を封じ込める気!?」
と怒る絢瀬。相変わらずこのお姫様は不満が多いな……では、さっき流れた空気を元に戻そうか。
「なぁ、絢瀬、東條。君らは矢澤と親しいのか?」
「「……」」
沈黙。しばらく待つと、東條がポツポツと語り始めた。
「にこっちは、一年生の頃、スクールアイドルをやってたんよ……」
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なるほど、理想が高すぎてついて行けなくなった他のメンバーがやめた、か。
東條の話を聞いてもっともだな、と感じた。音楽というのは、いや、音楽に限らず、部活というのは各自の温度差が決定的な亀裂に繋がる。ガラスのコップのように、熱いものが入るとその応力に耐えきれなくなるのだ。では必要なことは何か。金属のように比熱が高いものを用意すればいい。ただ、μ’sと矢澤の間は温度差が問題になっているのではないだろう。それは矢澤の意地だ。
文化部の部活棟に足を向けた。絢瀬と東條がそこまで気に掛ける、矢澤という生徒と直接話をしたかった、というのもある。部室前までくると、どうやら今まさに穂乃果ちゃん達が追い出されたようだ。すると後ろから
「やっぱり追い出されたみたいやね。」
と東條が登場。ビビるわ!気配くらい出せよ!
「希先輩、樹お兄ちゃん……」
と寂しそうな穂乃果ちゃん。
「みんな、今日はもう無理やし、話したいことあるから、一緒に帰ろうか?」
と東條が皆を誘う。それに頷いた6人は連れ立って部活棟から去っていった。僕は彼女達とは逆にアイドル研究部のドアをノックした。反応がない。もう一度ノック。またしても無反応。少しイラついた僕はバンッとドアをあけて、大声で
「たのーもー!!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「何だ、居るじゃないか……って、君はライブの時講堂にいた……」
そこにいたのは大きく固まった、黒髪ツインテールの女の子だった。
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「で……英語の神波先生が何の御用ですか???」
と無愛想な矢澤。どうやら、警戒されてしまったようだ。個人的には小さい女の子がこういうふうに意固地な態度を取るとイタズラしてしまいたくなる。あっ、R-18的な意味ではないよ?
「いや、今一番ホットなYAZAWAさんと話をしたかった、と言うのが建前。生徒会の副顧問として引導を渡しに来たと言うのが建前。」
「どっちも建前じゃないの!あと、矢澤の発音おかしいでしょ!」
やばい、この子すごい面白い。意識せずに突っ込みに回ってしまうこの苦労人な感じ。正直好みです。
「本音はね、どうして高坂達を跳ね除けるかを聞きに来たんだ。」
と少し真面目なトーンで言う。すると矢澤はムスッとした表情で、
「そんなの、決まってるわよ。あの子達がアイドルをナメてるからよ。アイドルなんてそんな簡単になれるものじゃないんだから……」
悲しそうにうつむく矢澤。過去の傷を思い出しているのだろうか。温度差で砕けてしまったガラスのコップの事を。
「なぁ、矢澤。君って、小さい頃に友達作るの苦手だっただろう?」
「な、何よ!いきなり!そ、そ、そんなことなかったわよ!」
おい、動揺を隠しきれてないぞ。大丈夫か。
「実は僕はね、あの高坂とは昔からの付き合いなんだ。だから分かる。君は彼女に巻き込まれるよ。彼女はそういう事が得意な子だから。一度自分の気持ちに素直になってみたらどうだ?そうすれば楽しいことが待っているかもしれないぞ。」
「あんたに私の何が分かるっていうのよ!」
声高に主張する矢澤。
「何にも分からないさ。なぜ自分はアイドルをやりたいのに、やっている子達と仲間になれないのか。なぜたった一度の失敗でそこまで頑なになるのか。」
「……」
痛い所をつかれたような表情の矢澤。
「素直に『仲間に入れて』って言うだけで楽しく充実するはずなのに、ね。僕の尊敬する人がこんな事を言ってたよ。『人間というのは必ずドアを叩かなきゃいけない時が来る。その時が来て、そのドアを叩くということは、怖いけど、勇気がいることだ。どうなるかは分からないが、そこで叩く人間と叩かない人間に分かれる。』」
「……」
「君は果たしてどちらだろうね。ただ一つ言えることは、ドアを叩き続けるか、ドアを開けるかしないと、その先は見えない、ということなんだ。ちょうど僕が入ってきた時みたいに。」
「……そうね少し考えて見るわ。ところで、その尊敬する人って誰なの?」
すかさず、僕は言う。
「SEKAI NO YAZAWA。」
「あんた、私の事馬鹿にしてんの!!!!」
とても怒られた。ほんとなのに、グスン。
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そして次の日、相変わらずの雨模様だが、穂乃果ちゃんや、ことり、園田までも、どこかウキウキしてるように見えた。何を企んでいるんだ?と質問すると
「新しい友達を増やすの!」
と元気の良い返事。彼女達は自分達のやり方で矢澤を動かすつもりなのだろう。きっと大丈夫だ、と確信する。職員室に戻り書類を片付け、階段を上り、生徒会室に向かう。その途中で雨は上がったようだ。雲間から光が差し込む。やっと晴れたか、と近くの窓を開け、空を眺めるとから上から声が聞こえた。屋上を見上げるとそこからは楽しそうに笑い、ポーズの練習をしている7人が見えた。屋上のドアの向こうには、彼女達にとっての夢が、確かに広がっていた。
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