love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
二度あることは三度ある。
アイドル研究部の人数が増え、その件を始めとする部活の統廃合がどうにか緩やかな歩みを見せた木曜日。次はいよいよオープンハイスクールだよ!と新たな仕事の種もまた一つ増え、仕事というのはまさにワニワニパニックのようなものだと目のハイライトが少なくなっている放課後、またしても事件は起きた。
「神波先生ー!」
「はーい、何でしょう、穂乃果君。」
またしても高坂穂乃果が声を掛けてきた。
「部活の顧問の件はどうなりました??」
ん?部活の顧問は既にいるんじゃないの?という顔をする。
「にこ先輩に聞いたら、『顧問?伊藤先生だったわよ。産休で今は顧問いないから、誰か確保してきなさい。部長命令よ!』って言われました!」
「なん…だと…」
思わず呟いてしまった。繰り返そう。二度あることは三度ある。一度頭を出した仕事を叩いて引っ込ませたと思ったら、次の瞬間には思わぬ場所から別の仕事が出てくるのだ。
#13 絵里ディミニュエ
どさっ、と職員室の自分の机に突っ伏してしまう。休み明けなのに仕事が多い。いや、休み明けだからかもしれない。本来、休みというものは肉体的、精神的なリフレッシュをするための時間である。ただし、目の前に山積する『やらないといけない事 』は一向に減らない。では、どうするか。答えは簡単。『やらないといけない事を放置する』だ。無理矢理にも目を背ける事でひと時の安寧を得る。しかし、いつかは来るのだ、そのツケを払うときが。今でしょ!?
ポン、と肩を叩かれて顔を上げる。そこには京子さんがいた。
「相変わらずお疲れですね。大丈夫ですか?」
「いえいえ、少し現実逃避していただけですから、全然行けますよ。」
全力で逃避したいけどな。前向きに後ろに走りたい気分。
「……そうですか、無理はなさらないで下さいね?」
「ありがとうございます……」
少しだけ寂しさを滲ませながら優しさをくれる彼女に、どこか後ろめたさを感じながら答える。休みの間の出来事にも目を逸らしている自分は、この精算をいつ、するべきなのだろう、と漠然と思った。
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なんだかんだで生徒会の打ち合わせも終わり、屋上へ足を伸ばす。アイドル研究部へ顧問の件を了承する旨を伝えるためだ。ただし、本業は生徒会の方なのであんまり顔は出せない、所謂いるだけ顧問になりそうな予感がするが。
屋上のドアを開けると皆が一斉にこちらを向いた。園田が手を叩こうとしていたところを見ると、どうやら練習をしていたようだ。
「樹先生どうしたんですか~。」
ど少し間延びした声のことり。
「いや、穂乃果ちゃんからお願いされた、顧問の件、了承するよって伝えに来ただけ。」
「はぁ?あんたが!?よりにもよって何でこいつなのよ!?」
とこちらを指さし、穂乃果ちゃんに詰め寄る矢澤。
「だって、誰でもいいからって言ったのはにこ先輩じゃないですか~。」
と少したじろぐ穂乃果ちゃん。
「でも、実際顧問の先生がいてくれるのは有難いですね。学校からのバックアップを受けるためにこちらから人員を割かなくて済みます。」
園田さーん。僕を馬車馬のように働かせる気ですかー??
「でも、神波先生が顧問だと色々言いやすいし、良いかもにゃ!ねっ
真姫ちゃん!」
「そうね、それに、編曲もそれなりに出来るみたいだし、いてくれたら助かるわね。」
星空と西木野も働かせる気満々だ~。
「で、でも、先生確か生徒会の副顧問やってるんじゃないですっけ……?」
少し訝しむ様に発言する小泉。それを聞いた矢澤が、
「はっ!まさか、あんた生徒会からの回し者??あのいけ好かない生徒会長の仲間でしょ!?」
「おい、とんでもない事を言うな、矢澤。僕は単に穂乃果ちゃん達に頼まれて顧問になっただけだよ。兼任してるのは、ほら、僕が若手だからさ。」
下っ端ともいう。
するとクスクス笑いながら後ろのドアの所に、
「神波先生は別にうちらの回し者でも、味方でもないよ。」
と標準語と京都弁がミックスされた、絶妙なイントネーションの美少女、東條希がいた。
相変わらず気配を断つのが上手くてビビる。
「じゃあ、何なのよ!」
と喧嘩腰の矢澤。
「ん~、何やろね。なんやと思う、先生?」
「そりゃ、顧問だろ。」
本当は副顧問だけどな!
至極当たり前の事を言うと東條はクスリ、と笑って
「そやね、確かにそうや。」
と穏やかに言うのだった。
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「部活動の紹介……ですか?」
「そやねん、今度のオープンハイスクールに向けて各部活動の紹介ビデオを撮ることになったんよ。本当は顧問の先生にビデオを渡して各部活から回収することになってるんやけど、アイドル研究部は顧問の先生おらんやろ?やから、ウチがインタビューしよっかなーって思ってたんや。」
ポカンとする穂乃果にニコッと返す東條。なるほど、視聴覚室の倉庫からビデオカメラを引っ張り出してたのはこれのせいか。あ、でも、今は僕が顧問なんだよな……正直これ以上仕事が増えたら抱えきれるかなぁ。と少し不安になっていると、
「まぁ、でも先生も忙しいみたいし、ウチがやってあげようかな?」
と言ってくれる東條。マジ女神。
「その代わり、その間エリチのフォローよろしくね?」
と言う東條。マジ悪魔。絢瀬怒ってばっかりだから怖いんだよー。
「え~っ!樹先生手伝ってくれないんですか~?」
「そうだよ、お兄ちゃん、私達手伝ってよ~。」
「凛もそっちの方がおもしろいにゃ~!」
「ことり、穂乃果ちゃん、星空……残念ながら僕はお仕事沢山らしい。よってここは東條に一任することにします!」
堂々たるバックレ宣言。残念そうなことりと穂乃果に比べ、他のメンバーの反応はタンパクだ。
「そう……ですね、私も男の人にビデオ取られるのはちょっと緊張しますし……」
と小泉。
「まぁ、仕方が無いですね。神波先生は顧問として頼れる時に頼りましょう。」
続く園田。
「まぁ、私はどっちでもいいけど。」
ツンデレ真姫ちゃん。
「どうせなら、あのいけ好かない会長にアイドル研究部を認めさせるような工作してきなさいよ!」
無理言うな矢澤。返り討ちに合うぞ。お前が。ということで、部活紹介のビデオは東條達だけで撮ることになりましたとさ。
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翌日、穏やかな午後の生徒会室。そこでは絢瀬が一人で作業をしていた。集中しているのか、こちらに目を向けない。開いたドアをコンコンとノックした。
「どうだい?絢瀬。各部活の進捗は?」
「先生……まぁ、今のところは順調です。体育会は集まりましたから、後は文化系だけですね……」
「実際、部活紹介のビデオはいつ流すんだ?」
「学校説明会の後で流そうと思います。その後で参加者には各部活を見学に行ってもらおうかと。」
うん。妥当だな。あまり進学に力を入れていない音ノ木は『充実したスクールライフ』をメインに押し出す方が受けはいいだろうし。
「そうか。生徒会は当日の司会進行を兼ねるとして、スピーチの内容はどうするんだ?」
「今考えている最中です。果たしてこれで良いものか……少し見ていただけませんか?」
クルッとノートパソコンをこちらに向ける絢瀬。そこにはワードソフトが立ち上がっており、学校紹介のスピーチが並んでいた。ざっと目を通すと、
「うん。悪くないんじゃないか。」
無難にまとまっているし、まぁ、生徒会長のスピーチとしては及第点だろう。
「先生、率直な意見を聞きたいです。これを、どう、思いますか?」
と詰め寄る絢瀬。いや、せっかく綺麗な顔してるんだから、怒ったら台無しだよ……」
「なっ!何を言ってるんですか!セクハラですよ!」
あ、どうやら心の声が出たみたいだ。気を付けねば。懲戒免職的な意味で。顔を真っ赤にして怒っている絢瀬に答える。
「ごめんごめん、じゃあ率直に言うね。『つまらない』だよ。」
「……どういう意味ですか?」
怒りながらもこちらの意見を聞く姿勢の絢瀬。ホントにアドバイス意味あるのか?この頑なさ。
「うん。このスピーチでは、学校のいい所は話せてても、絢瀬のいい所は伝わらないだろうね。」
「だって、学校紹介ですよ?どうして私のPRをしないといけないんですか?」
「絢瀬、確かに紹介するのは学校かもしれない。でも、参加者の前に立っているのは紛れもなく君だ。つまり、生徒会長というのは学校の顔でもあるんだから、学校の楽しさを伝える為には、君がいかに楽しいかを伝えればいいんじゃないか?」
そう。プレゼンをする上で非常に大事な要素に「受け手の共感」を呼ぶ事が上げられる。受け手は「説得されてやろう」という気持ちで話を聞くことはない。だから、構成、話し方、もちろん内容を面白くする事が必要なのだ。
「もちろん、絢瀬の文章は下手とかじゃないよ、でも、この中には音ノ木の特徴はあるけれども、音ノ木である利点がない。これは受け手からすると相当につまらない。」
例えば凄く高性能な掃除機があったとして、そのスペックをいかに事細かに説明しようが、消費者はおそらく買わないだろう。(買うのは一部のマニアだけだ。)大事なのはその掃除機を買った後の、自分の生活を想像させる事なのだ。この掃除機があればこんなに部屋が綺麗になりますよ!という感じで。そういう意味では深夜の通販番組は非常によくできている。ワンモアセッ!!
「ほら、こんな風に。」
タスクバーに収められていた動画ソフトを前面に出す。そこにはまだ3人の時だったμ’sが踊っていた。あの講堂でのライブ映像だ。
「きゃーーーーーー!!」
ガタガタっと真っ赤な顔をしながら体全体でパソコンを隠す絢瀬。別に恥ずかしくないのに。
「その動画は初めて見るなぁ。良い動画じゃないか。」
手元のスマホで見る。どうやらあのライブを撮影していたようだ。
「『誰が』撮ったか知らないけど、楽しそうにしているじゃないか。これを見たら参加者も音ノ木の魅力を分かってくれるんじゃないかな。」
「……あんなお遊びで生徒が入ってくれるとは思いません。」
相変わらず頑固だな。この子は。
「お遊び、結構じゃないか。『音楽がもたらすもの以上に、人間が手に入れられる、より真実らしい真実はない。』って言うじゃないか。これが音ノ木坂学院の真実の1つだよ。これを見て、中学生はどう考えるかな?憧れたりするんじゃないか?」
憧れ、というところで顔をしかめる絢瀬。どうやら思う所がありそうだ。
「先生は……」
「ん??」
「先生は、何かを変えたい、と思う時にまず何をするんですか?」
「うーん、難しいね。ただ、本質的に僕は人のためになる事が好きだからね。エンターテイナーなんだと思う。だから、まずは相手が楽しむことを考えるかな。そしたら自分も楽しいし。」
win-winの関係って、素敵やん??
「もちろん、現実はそうそう上手くいかないのも知っている。だから、最終的には自分が楽しくなる様に動くよ。この間の答え合わせと同じだよ。」
と、どこか自嘲気味に言う
「先生のそういうすんなりと割り切れる所、嫌いです……」
それでも、僕のことは認められない、と言うように絢瀬は言い募る。彼女には見えているのだろうか。こんな事を言いながらも、肝心な所は何も変えれられていない僕の事を。停滞する事が怖い、というのは、裏を返せば停滞しかけている、ということでもあるのだから。停滞していない人間は停滞することなど考えないのだ。
「……そうだね。僕も自分のこういう所、好きじゃないな。」
自己肯定をする言葉を、僕は持ち得なかった。絢瀬はハッとして、
「ごめんなさい!そういうつもりで言ったんではないんです。ごめんなさい!」
そう優しさをかけてくれる絢瀬がどこか京子さんとオーバーラップして、また僕は後ろめたい気分になるのだった。二度あることは三度ある、という。三度目にこの後ろめたさを感じる時が来ないことを祈りながら、
「まぁ、考え直してみなよ。きっと絢瀬なら上手くいくよ。」
と言いながら、進捗状況の書いてある紙を持って生徒会室を後にする。手元には各部活の動画を取得出来たか、時間はどれくらいなのかの一覧が書いてある。その中にあるアイドル研究部の欄はまだ白紙のままだった。
感想お待ちしています!