love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
アイドル研究部に新入部員が加盟し、9人になってからの一週間は目まぐるしく進んだ。生徒会長と部活の両立で絢瀬と東條は忙しくしていたが、どこか満足気だった。矢澤を初めとする従来からいるメンバーはライブのための衣装作りに忙しそうだったが、それでも練習は全員揃って行っていた。日々の朝練も欠かすことが無かったようだし、土日にはみっちりダンス練習をしていたようだ。
僕も生徒会、アイドル研究部の顧問としてグラウンドの使用許可だったり、音響の整備などで苦労した。穂乃果ちゃんの友達の123トリオも手伝ってくれたおかげで前準備自体は非常にスムーズに行った。そして、いよいよ明日、彼女達のステージがオープンハイスクールで開かれる。
#18 μ's,№3, 『vivant avec nous, vie avec vous』
「ねぇ!みんなで『明日頑張ろうの会』をしよう!」
といきなり穂乃果ちゃんが言い出した。
「それって壮行会のこと?明日も早いのになんで今それを言うわけ?」
と冷たく突き放す西木野。そこですかさず星空が
「真姫ちゃん、少しうれしそうにゃ~!」
と西木野の頬をツンツンしている。
次の日のオープンハイスクールのため、授業は午前中で切り上げ、どの生徒も
準備や最終調整をしていた放課後、アイドル研究部は本番さながらに、全員で衣装を着て最終調整をしていたのだ。僕は生徒会での打ち合わせ後、彼女達に合流し、ダンスを見て感想を言うお仕事だった。余りにも皆が可愛かったので心の底から褒めたたえると、全員照れていた。やっぱりJKは最高だぜ!
「で、何処でやるの?この間はハンバーガー食べに行ったし、どうせなら違うところがいいわね。」
と絢瀬。
「皆は何か食べたいものあるん?」
と東條。
それを皮切りに皆で何処に行きたいかを相談しているようだ。意見を出しては否定され、甘味についてのアウフヘーベンが収束を見せようとしていた時、嫌な予感が走った。
「……じゃ、僕はこれで退散しようかな。皆、買い食いは遅くならない程度にな……」
それじゃあ、と言いだそうとすると、穂乃果ちゃんが
「せんせ~い!皆、お洒落なジャズ喫茶のパフェが食べたいそうで~す!」
と来た。周りを見てみるとことりはわくわくしているようだ。園田と西木野は何処か落ち着きがない。他のメンバーを見ると?という顔をしていた。
「ほう、穂乃果くん、お洒落なジャズ喫茶って何処だい?」
いや、答えは分かってるんだけどさ。
「西口商店街にある『グランツリー』です!」
やっぱりな。大学生時代に聡子が言っていた「お洒落なジャズバーで飲みたいなぁ~。」というセリフとほぼほぼ一緒だ。
「はぁ、仕方ないな、10人予約してみるよ……」
やったぁ!と喜ぶ組と?が消えない組。さて、行けるかな、電話してみよう……
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「いらっしゃい。よく来たね。」
ダンディなちょいワルな父親が迎えてくれる夕暮れ時のグランツリー。この時間帯はまだ夕飯時に早過ぎる時間帯なのでお客さんは少ない。ちょうど今は夜営業の仕込みの調整で忙しいだろうに、有難い事である。
「さて、皆好きに頼め、と言いたいところだが、正直給料日直前で財布の中身は心もとない。遠慮しろ。」
は~い!と皆声を揃える。ほんとに分かってんのか!?
「それにしても……まさか先生のおうちがジャズ喫茶やってただなんて……以外……」
と絢瀬が少し緊張気味に言う。テーブルは華やかさで溢れ、ちょっとしたパーティーだ。
「決めました!チョコレートパフェ大盛り9つ!」
やっぱりな!僕の財布の中から諭吉さんが飛んで行くことが確定した。
「編曲できるって聞いた時も意外やったけど、先生楽器できるんやね?」
と東條が聞いてくる。まぁ、英語教師が編曲っていうのもちぐはぐだわな。
「まぁ、小さい頃からピアノ弾いてたしな。」
「穂乃果先輩と海未先輩、ことり先輩は知ってたんですよね……?」
とおどおどした小泉が聞く。
「なんでそんなにビクビクしてるんだ?」
と逆質問。
「だってお店がお洒落で……」
確に高校生は入りづらい雰囲気かもな。
「そうだよ~。あと真姫ちゃんも来たことあるんだよね~。」
とことりが言う。西木野はプチライブをした時の事を思い出したのか、顔を赤くして
「え、ええ、来たことあるわよ。あの時は恥ずかしかったわ。」
「何したのよ?」
と矢澤が半目で聞いてくる。
「えっとね、真姫ちゃんとお兄ちゃんが一緒に演奏したんだよ!二人とも上手だったなぁ!!」
と元気に言う穂乃果ちゃん。園田も
「あの時は電話で穂乃果がうるさかったんですよ。『お兄ちゃんも真姫ちゃんもカッコよかった』って。」
皆、へぇ~という声を漏らす。
「……じゃあ、先生、何か演奏してくれませんか?先生のピアノ聞きたいです。」
と絢瀬が奥のピアノを見ながら言う。父親がパフェを運んでくる。僕はそのついでに小さく息を吐きながら、
「マスター、ピアノ、使ってもいい?」
と聞く。
「構わんよ。今日はライブは無いしな。お好きにどうぞ。」
「だ、そうだ。一応聞いておくけど、何かリクエストある?」
すると矢澤が
「景気のいいやつ」
東條が、
「一応壮行会やし、元気が出るものがいいやろね。」
と言った。
「OK。ではその路線で。2、3曲は好きに弾かせてくれよ?」
頼んだコーヒーを持ち席を移動。カウンター最奥で煙草を吸う。心を落ち着けるためだ。テーブルからは意外なものを見た、という視線を感じるが無視。何人かお客さんが入ってきているが、皆テーブルに女子高生の集団がいる事が珍しいらしい。さて、始めるか。ピアノの前に座り、鍵盤の蓋を開けた。
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♭18 『It's a small world.』
コーヒーの香り漂う店内。暗い色の木のテーブル。何時も目にしている世界から離れた、非日常感。全てに目眩がするようだった。普段は質素倹約を心掛けている私としては華やかな過ぎる空間だった。
「にこ先輩、さっきから静かにゃ~。どうしたの?」
と凛が無邪気に聞いてくる。
「な、なんでもないわよ!」
目の前に置かれたパフェを見つめる。何時ものファーストフードで食べるものとは一味も二味も違う事を感じさせる、背の高いグラス。。高々パフェでしょ、何緊張してるのよ!と自分に喝を入れる。テーブルを見渡すと、1年生の凛と花陽は大盛り、という響きが気に入ったのか凄い勢いでパフェを食べている。その隣では真姫ちゃんが少しうんざりした顔で、頑張って食べている。2年生の子達は慣れた感じだし、希も、絵理も上品に食べている。それを見ながら、考え過ぎてたのかしら、と思う。
「それにしても、」
と希が皆に話を振る。
「先生、煙草吸うんやね、ちょっと意外だったかな?」
「そうですね、私は見るの初めてです。穂乃果は知っていましたか?」
「うん!お店に連れて行ってもらってたときはよく見たよ!」
「う~ん、私としてはあんまり吸ってほしくないですけど……悔しいけどかっこいいですよね?」
とことりが言う。皆はじっと先生の方を見る。先生はその視線に気付いたのかこちらを向いてにこやかに笑いかける。どうやら吸い終わったのだろう、ピアノの方へ向かい、椅子に腰を下ろした。
鍵盤の蓋を開け、布を取り、暫く考える様子をする。ピアノに指をかけると何処かで聞いたことのあるメロディが流れてきた。
「『いつか王子様が』……だよね?」
と花陽が聞いてくる。
「確にそうね。綺麗な音ね。」
と絵理。
「マスターに聞いたのですが、先生はいつもこの曲を弾くらしいですよ。」
と海未は遠くを見る目で答える。私も目の前のパフェの事は少し忘れて音の波に流される。真姫ちゃんが
「悔しいし、当たり前だけど……うまいのよねぇ……」
としみじみ漏らす。私はピアノのことなんか分からないけど、それでも先生が心を込めて弾いているのが分かった。切なくなる音だった。その後アップテンポな曲が2曲続き、他のお客さんも曲が終わる度に拍手をする。もちろん、私達も拍手をする。
「はぁ~、先生かっこいいにゃ~。」
と凛が言うと、皆が一斉に凛の方を向いた。
「えっ、何何、凛ちゃん先生のこと好きなの!?」
と少し焦った様子の花陽。
「どうなの?凛ちゃん?」
ことりが笑いながら聞く。あんた、目が笑ってないわよ、気をつけなさい。
「そうね、もしそうなら気になるわね。どうなの?花陽?」
と絵理が少し強ばった顔で聞く。皆恋バナには敏感ね~。まあ、お年頃ってやつかしら。
「ばっかみたい……」
と真姫ちゃんは言うが、意識は会話に向けているようだ。
「ええ~っと、凛ほ何気なくかっこいいって言っただけで、別に好きとかじゃないにゃ~。」
と答える、そりゃそうでしょ、何せ先生だし。
「でも、いいんやない?ウチは先生のこといいな、って思っとるよ?」
と希が爆弾発言。
「ち、ちょっと希……」
と絵理が焦っている。ん?という表情の希。するとピアノの方から
「リクエスト行くよ~」
と声が掛かった。
「とくに、矢澤~。一応お前のリクエストだからな~、聞いとけよ~。」
とのこと。
「分かったわ~。ちゃんと弾きなさいよ~。」
と返す。すると皆がじぃ~とこちらを見ていた。
「な、何よ……?」
と焦っていると、
「にこ先輩……お兄ちゃんと仲いいよね……。」
「怪しいです……。」
と穂乃果と海未が怪しんでくる。
「ほら、そんなことより、始まるみたいよ、演奏。」
と私も少しだけ焦りながら言う。あれ?私何で焦ってるんだろう?
少し、不思議に思いながらまたしてもピアノの音に耳を傾ける。そこからは誰しもが一度は聞いたことのある、楽しげなメロディが流れてきた。
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『It's a small world.』
小さな世界、と名付けられたこの曲は余りにも有名だ。某夢の国のアトラクションの曲として作成されてから、世界中に広まって行った。それをアレンジして、彼女達を励ます様に演奏する。世界は狭い。袖触れ合うも他生の縁。では、この時、この瞬間に手と手を取り合った彼女達は何だろうか。運命?偶然?僕には分からない。けど、出会いがあったからには、そこに何かしらの意味を見出したいと思う。それは独善的な考えかもしれないけれど、以前三人のために思ったことをを今度は九人のために伝えたい、そう思える程度には、僕は彼女達のことを気に入っていた。
彼女達の今が、これからが、どうか続きますように。
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次の日、空は晴れ渡り、絶好のオープンハイスクール日和になった。去年に比べると参加者は二倍強となり、活気のあるものになっていたようだ。聡子や京子さんは張り切って自分たちの部活の方に参加しに行った。それに、絢瀬のスピーチも人が変わったかのようなものになっていた。
「ーーーーそういうわけで、私はこの学院がとても好きになりました。皆さんにも、この機会に是非私達の学校の良さを分かってもらえたら、と思います。この後各エリアで部活紹介の時間があります。もちろん、私もアイドル研究部の一員としてライブをするので、皆、見に来てね?」
という、スピーチからの異例の勧誘もあった。参加者は、見た目が麗しい大人な雰囲気の、でも親しみやすい生徒会長に黄色い声とため息を漏らしていた。さすがモテ女は違うな!
「どうした、絢瀬。めちゃめちゃ面白かったよ。見違えるようだ。」
と式の後声をかけると、
「先生が仰ったんですよ?学校でなく私を紹介しろって。だからありのままの私を出したんです。」
とウィンクしながら言う。その妙な色っぽさにドキリとさせられた。
「そうだ、先生、ちゃんとライブ映像は撮っておいて下さいね?後でネットにアップするみたいなので。」
OK、とサインを手で作ると後でな、と伝えてビデオを取りに視聴覚室へ向かう。ビデオを取り、会場であるグラウンドにライブが始まる時間になった。何時もの123トリオも今回はビデオ撮影をするらしい。これは本格的に動画編集する予感!またあの悪夢が!
「私達は、音乃木坂学院アイドル研究部、スクールアイドルのμ'sです!」
とたからかに穂乃果ちゃんが宣言する。
「私は、この音乃木坂学院が、大好きです!」
あの講堂のライブの時のように彼女は言葉を紡いでいく。
「この学校だから、このメンバーが揃い、この九人が揃ったんだと思います。」
世界は小さい。でも、そこには確かな意味がある。
「これから踊る曲は、私達が九人になってから、初めて作った曲です!」
喜びも、悲しみも、憤りも、そして迷いも分かち合えるものは沢山ある。それは心を通わせた相手ならなおさらだ。
「私達のスタートの曲です!聞いてくださいーーーー」
そうして曲が始まる。カメラ越しに彼女達の笑顔が光る。この二分弱の時間で、ここにいるすべての人がこの気持ちを共有出来るはずだ、そんな笑顔だった。
皆のダンスの途中にどこからかシャボン玉が飛んでくる。その泡は割れる事無く、小さな世界の中に、どこまでも高く、飛んでいった。
感想お待ちしています!