love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
オープンハイスクールの結果、来期の新入生募集はもう少し様子を見ることになった。この話題で学院は持ちきりだった。特に穂乃果ちゃんと絢瀬は頑張ってきただけあって喜びもひとしおだったようだ。
そして週明け。夏がもう始まろうとしている六月上旬。あまり強くない音乃木坂学院運動部はインターハイの地区予選で敗退し、2年生を中心とする新体制で新人戦に向けて練習を始めた。一方、文化部はこれからがメインの大会が多いこともあって、全体的に士気が高いようだった。我らアイドル研究部も、全国大会であるラブライブ、その選考までちょうど残り一ヶ月となり、気合が入っているようだ。そんな中、生徒会は来る文化祭の準備に追われていた。一学期中に任期を終える生徒会の本格的な最後の仕事とあって、現役員はその日のために入念に準備をしている。
僕も他のサラリーマンと同様に祝日の無い六月を呪いながら、それでもアイドル研究部の、生徒会の活動のサポートをしていた。そんな中ーーーー
#19 ことりグラース
「生徒の肖像権の侵害、ですか……?」
「ええ、実はスクールアイドルとして人気が出た我が校の生徒のグッズが売りに出されているみたいなの。」
就業後、学院長室に呼ばれた僕はいきなりの出来事に耳を疑った。ただの学生アイドルにそこまでするの!?
「確にアイドル研究部はネット上では人気があるみたいですね。」
実際にラブライブ出場権をかけたネット投票ではもう50位以内に入っている。
「ネットでは問題ないのよ。だってアップしているのは彼女達の意思でしょ?でも、これが商売が関わってくると……少し問題なのよねぇ……」
と悩ましく溜息をつく学院長。漂う大人の色気。背筋がぞくり、とする。
「実際問題、保護者からのクレームが来る前に対処しておきたいの。」
「では、なぜ僕に?小売に直接言えばいいのでは?」
秋葉原は電気街であるのと同時にサブカルの街でもある。アイドルショップなんていうものもあるのだ。しかも、スクールアイドル限定の。確かに人気あるけどさぁ。どんだけニッチな所狙ってんの、その店。
「うーん、まず一つ、これは本人達と保護者の了承が得られた場合は問題ないの。だってアイドル側からしたら、無償で広告してくれるようなものでしょ?」
タダより高いものなんてないけどな!
「そして、二つ。貴方はアイドル研究部の顧問でしょ?彼女達や保護者への了承は貴方の担当だと思うのだけれど……」
あ、はい、そうですね。げに悲しきは下っ端の定めか。
「……はい、分かりました。まずは彼女達がどう思ってるかから聞いてみます。」
「お願いね。頼んだわよ。」
とにこやかに答える学院長。だから、何歳なんだよ!若いってレベルじゃねーぞ!将来、ことりもこんな風になるのかなぁ……
「あ、ちなみに、お嬢さんのグッズ、売りに出されている件はどう思われますか?」
聞いてみる。
「ええ、それは娘の判断に任せるわ。」
とにっこり。どうやら理解のある親御さんのようで。理解がある事と放任する事は紙一重だが。分かりました、と答え、学院長室を後にする。もう皆帰ってるだろうし、意見聴取は明日にするかな……
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給料日も来たことだし、新しいヘッドホンを買おう、と思い、秋葉原来た。それにしても、この街は雑多だな、と改めて思う。電気店、喫茶店、何でもアリだ。少し目線を変えると、モノづくりの街でもある。山手線の高架下何かお洒落すぎだろ!旅行で行った神戸とかアンダーグラウンド感半端なかったのに!
腹の虫が鳴り、小腹が空いた事に気付く。何時もなら秋葉原背脂最強、を謳い文句にしているラーメン屋にでも行こうかと思うのだが、その日の僕はどうかしていたらしい、メイド喫茶に行こう、と思ったのだ。なぜこの時こんな風に思ったのかは分からないが、東條は「スピリチュアルパワーやね!」と物凄いいい笑顔で言いそうな感じ。
メイド喫茶に入り、席に案内される。「ラブ注入オムライス特盛り」を注文しようと思い、メイドさんを呼ぶ。すると、メイドさんは銀のトレーで顔を隠しながらこちらに来た。
「ご注文はなんでぃすか?……御主人様?」
明らかに怪しすぎる。まずイントネーションがおかしいのと、色素が薄いにも関わらず、流れるような美しい髪。なるほど、髪質は親から受け継ぐ物だ、という。その美しい銀髪は母親によく似ている。ちなみに僕の祖父はハゲ散らかしていたみたいだから、そういう意味では遺伝的に呪われている家系だ。うるせぇ!男は髪の量で決まるんじゃない!ハートで決まるんだ!
「あの……ことりさん……?」
「わっつ!?ことりぃ~?だれでぃすか~?」
おい、何だそのバレバレな態度……
「……そう言えば音乃木坂学院の校則では原則アルバイトは禁止。ただし、保護者の許可がある場合はその限りでない、とあったな。」
まるで独り言のように言う。次のセリフを予想したのか、メイドさんはビクリ、とする。
「……お母様はご存知なのかな?」
これがダメ押しになったのか、銀のトレーを下ろしながら
「いいえ、知りません……」
としょんぼりしたことりが顔をだした。
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就業後、ことりと待ち合わせをする。暫く店の外で待っていると、相変わらずしょんぼりしたことりが来た。
「お待たせしました……」
「いいや、今来たところだから。」
やりとりだけ見るとデートみたいだな。
「さて、じゃあ、落ち着ける所に行こうか。」
と、ことりを連れ立って落ち着いた雰囲気の喫茶店へ。店内に入るとコーヒーの香りが僕らを歓迎してくれた。僕はブレンドを、ことりは紅茶を頼んだ。席に座るにもどこか緊張していることり。さて、話を聞こうか。
「で、どうしてアルバイトを?」
その問いにたっぷり時間をかけて答える。
「……ちょうどスクールアイドルを始めた時でした。駅前でバイトの勧誘にあって、最初は断ったんですけど、衣装を着た時にすっごく可愛くて、そこからは接客してるうちに、楽しくなっちゃって……」
ふむ、特に不順な動機でもないのか。
「なるほど、でもそれでもお母さんに確認はすべきではないのかな?」
「はい……すみません……」
謝罪とともに、彼女はうつむく。どうやら悪い事をしている自覚はあるようだ。
「……今日、お母さんと話をしたんだ。この件とは全くの別件で。」
お母さん、という単語に一瞬肩を震わせる。
「アイドルショップにμ'sの皆のグッズが売りに出されているみたいだね、知ってた?まぁ、細かい話は省くけど、皆のグッズが勝手に販売されているのは問題が起きる恐れがあってね、それを丸く収めるように言われたんだ。具体的な方法としては、皆の意思と親御さんの了解を取ること。取れない場合はお店からそのグッズを撤収してもらわなきゃならない。」
運ばれてきたコーヒーを一口飲む。ことりは紅茶が来ても、それを見つめたままだ。表情は窺い知れない。
「……その時にね、ことりのグッズが売りに出されているのをどう思いますか?って聞いたんだ。そしたら『娘の判断に任せます。』って言ったんだよ。」
その言葉を聞いてこちらを見ることり。
「信頼する事と放任する事は似ているようで全然違う。それは責任の所在だ。」
信頼する事はあくまで「信頼した自分」に責任がある。放任する事はその責任を相手に押し付けている。別な言い方をすると、責任を取ることから逃げている。
「お母さんは、ことりのこと信頼してるよ。だからこそ、話すべきだと思うんだ。少し怒られるかもしれないけど、多分許してくれるよ。どう思う?」
「……そうですね。多分、正直に話したら許してくれると思います。」
よかった。これで彼女は自分から言ってくれるだろう。落ち着いてコーヒーを飲める、と思ったら、
「……樹先生、一緒に、居てくれませんか?」
といきなり言い出した。思わずむせ返る。ことりがハンカチを渡してくれたので有り難く使わせてもらう。あっ、いい香り。って、なんか僕、変態みたいじゃない!?あ、変態ですか、そうですか。
その香りを口の周りを拭くついでに堪能していると、
「お母さんに言う時、そばにいてくれませんか?」
という。うん、もうどんな時もはなさいよ!ってことじゃなくて、
「それは自分で言うべきだと思うよ?それが筋ってものだ。頑張りなさい。」
と伝える。あはは、と笑いながら
「……そうですよね、分かりました、話してみます……」
とどこかしょんぼりした様子だった。
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そして次の日、アイドル研究部の部室に行くと、そこでは皆が集合していた。
「おはよーす、皆元気か?って……ことりいないじゃん。」
「あっ!お兄ちゃん!おはようございます!ことりちゃん、『今日はちょっと』って言って帰りました!」
あらら、バイトか。まぁ、仕方ないか。
「そっか、まぁ別にいいか。今日練習後少し時間取れるか?話しておきたいことがあるんだ。後、絢瀬、東條。」
「はい?」
「なんやろ?」
「文化祭実行委員から上げられた各部の催事内容表、ぼちぼち上がり始めたから、処理始めとけよ。後、矢澤、アイドル研究部の催事内容も早めに提出しておいてくれると助かる。」
「はい、分かりました。」
「おっけーや。」
「は~い、分かりました~。」
おい、ほんとに分かってんのか。
「じゃあ、また後でな。職員室にいると思うから後で呼びに来てくれ。」
と言い、部室を後にする。廊下を歩きながら、保護者への確認は彼女達の意思を聞いてからでもいいかと思い、仕事の優先度を頭の中で確認する。だいたい整理し終わった頃に学院長室の前に差し掛かった。さて、優先度が割と高めな仕事だが、どうしようかな……一瞬考えて、ことりに任せよう。家庭の事情だしな、という結論に達する。彼女は多分ちゃんと自分で言えるだろうから。
しかし、この時は考えてもいなかった。こんな楽観的な、それでいて自分の勝手な印象を相手に押し付けるような、そんな考えを後悔する時が来るのを。結局、誰も彼もがそうなのだ。勝手に想像して、押し付けて、後悔する。トライ&エラーを繰り返す中で、取り返しのつかないエラーを起こしてしまった時はどうすればいいのか、この時の僕は考えていなかったのだ。
そのままドアを通り過ぎる。日の当たらない廊下は夏なのにどこか冷やり、としていた。
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