love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
『それでは本年度の入学式・始業式を終了します。生徒は学年順に退出し、所定の教室にてホームルームを行ってください。また、新入生の保護者の方はこの後、保護者懇談会を予定しておりますので、参加される方はB棟多目的室にお集まり下さい。それでは一年生から退出して下さいーー』
式は恙無く終了し、生徒たちは各自の教室に向かう。片付けは午後から運動部の生徒を中心に行なうようだ。(もちろん僕も参加だよ‼︎若手だし‼︎)教職員は一度職員室に集合、との通達により、他の先生方も職員室に向かっている。僕も早々に立ち去ろうとすると、ぽん、と肩を叩かれた。
「掴みはオッケーだったじゃん、神波セ・ン・セ・イ」
くすり、と笑いながら茶化してくるのは深山聡子、忌々しいことに、本当に忌々しいことに僕の大学時代のゼミの同回生である。赴任早々の職員室で「神波、女にもてないからって女子校に侵入するのはどうかと思うよ?」なんて半笑いで声をかけてきたときは本当にびっくりした。思わずニートに戻ろうかと思ったほどだ。出身高校は音ノ木坂なので、結構なお嬢さんだと思った矢先にゼミの新歓コンパで潰された。しかもその一ヶ月後に開催されたゼミの麻雀大会でバイトで出た給料の四分の三を持っていかれたのは未だに記憶に残っている。こいつ麻雀強いだけじゃなくて引き強いんだよ。残り一枚の字牌をツモって四暗刻単騎とか咲かよ。その後悲しくモヤシ生活を送ったのであった。
「深山先生…勘弁して下さいよ。あれは俺が悪いんじゃなくて機械が悪いんでしょうが。」
「にしても無難な挨拶だったじゃない。あんたのことだから一曲弾き語りでもするのかと思ってたんだけど。」
どこか楽しそうな口調で彼女は言う。広い体育館を職員室のある方へ歩きながらも話を続ける。
「流石に女の園で調子に乗るわけにもいかないさ。『あの先生キモいよね!』なんて苛められるのはごめんだからな。」
「そう?少なくとも私はあんたが楽しそうに演奏しているのを聞くのは好きよ?謝恩会でも大盛り上がりだったし。」
「あんな酒でべろんべろんになってた場と一緒にするな。てか、あんだけしこたま飲まされて『神波、一曲弾いてよ!』とか無茶振りしたのはお前だろうが。」
「仕方ないじゃない、アンタ就職できなくてアメリカ行くって言うんだもん。最後にご機嫌な曲聴きたくなったんだから。」
「その割には『旅立ちの日に』だっただけどな。『A列車』なんか引く気分でも無かったし。」
「ねぇ、神波ーーーーーまた、ピアノ弾いてくれない?」
どこか綺麗な笑顔で彼女は僕に言う。そういえば大学在学中はよく告白をされていたらしい彼女は、他の皆が言うように、美人である。かく言う僕も一時期は彼女のことを好きであっただろう期間もあった。でも仲間として過ごすうちにその感情が恋慕なのか友愛なのか判断がつかず、なあなあになってしまった。こうやって再会できるとは思ってもいなかったけどーーーー
「店にいるのは土日の晩、機会があれば音楽室にでも行ったら弾いてやるよ。何時でも来いよ。歓迎する。」
彼女もまた、僕にとって無くしたくない青春の一欠片ではあるのだと、そう自覚していた。
♯2 穂乃果ヴィグュール
さて、朝会も済み、いよいよホームルームの時間だ。初担任ということで、楽しさ半分、怖さ半分だ。だってJKって箸が転げても笑う生き物だろう?
「うわー、箸が転がってるよーチョーウケルーwwww」
「マジだわー、なんで転がってんのーwwwww」
とか言いだすんでしょう?ふぇぇぇ…イッくんこわいよぉぉぉぉなどど幼女退行してしまいそうになる。
気を取り直して、いざ教室へ‼︎
ガラッ
勢いよくドアを開ける。ざっと見渡すと生徒は全員席についているようだ。ツカツカと教壇に向かう。教壇から見渡すとクラス40人の視線が一気にこっちを向く。ふん、オーディエンスが女子だけってのも以外に悪くないな。さて、始めるか。
「皆、おはよう‼︎始業式でも紹介があったと思うけど、このクラスの担任をすることになった神波樹だ。担当科目は英語。皆、ヨロシクな。さて、君たちはこの学院に1年間通ってある程度お互いのことは知っていると思うが、当然僕とは初対面だろう。そこで今日は時間の許す限り僕の事を知って欲しいと思っている。質問形式でいこうと思うので何か質問がある人は好きに質問してくれて構わない。ただし、一つずつでお願いな。では何か質問がある人はいないか?」
「はい!先生!」
「はい、綾小路、どうぞ」
自分の名前を言い当てられてびっくりした女生徒は思わず、といった感じで言う。
「なんで私の名前を知ってるんですか!?」
「では一つ目の質問に答えよう。それは、昨日までにクラスの全員の名前と顔を一致させようと頑張ったからだね。こう見えても人の顔と名前を覚えるのは得意なんだ。他に質問がある人はは?」
綾小路は、しまった、という顔でこちらを見る。少し微笑ましくなりながらも他の生徒が次々に手を挙げる。
身長は?ーー178cm
体重は?ーー65kg
彼女は?ーー今は居ないよ。
年齢は?ーー今年で25歳だね。
好きな食べ物は?ーーうーん。魚の煮付けかな。この時期はメバルとか美味しいよね。
好みの女の子はどんなタイプ?ーー好きになった子がタイプの子だね。
趣味は?ーーなんでもやるけど、基本は楽器かな。ピアノ、ギター、ベース、トランペットかな。
住所教えて‼︎ーーそれはノーコメントでw
出るわ出るわ質問の嵐。やっぱり若いとエネルギッシュだねー。おっさん疲れちゃうわw何個かの質問に答えていると、はい!と元気よく茶髪のサイドテールが揺れた。
「時間的にこれが最後かな。では高坂、質問をどうぞ。」
高坂穂乃果ーーー今後の僕の学院生活で強烈かつ斬新な経験を僕にもたらす中心人物、その時の僕は呑気にも、可愛くなったな、位の印象しか無かったがーーーが、元気に質問した。
「先生は『グランツリー』っていうジャズ喫茶を知っていますか?私は和菓子の『穂むら』の娘です!」
いきなり何を言い出すのか、といった表情で高坂を見る周りの生徒。隣に座っているのは南、学院長の娘さん、その後ろが園田。近所で有名な剣道道場の娘さんだ。
「もちろん知っているよ。なにせ、僕の実家だ。そして君のことも知っているよ、穂乃果ちゃん。大きくなったね。穂高さんは元気かい?」
「やっぱり樹お兄ちゃんだ!アメリカに行ったって聞いてたのにどうしてーーーーーー」
キーンコーンカーンコーン。チャイムが響く。ホームルームの時間はここまでだな。
「質問は一つだけ、だったな。では今日のホームルームはここまで。さて、高坂。小さい頃からの知り合いといっても、この学院では僕のことは先生、と呼ぶように。もし違反した場合は君だけ英単語のテストを2倍に増やすのでそのつもりで。では連絡事項。バレー部とバスケ部の生徒は体育館に集合して入学式の片付けをする手筈になっている。深山先生が体育館に来るはずなので各自体操服に着替えて集合するように、とのことだ。それ以外の生徒は自由解散。ただし、生徒会役員はこの後生徒会室に来るように。では解散!」
教室にざわめきを残しながら名簿を持って退出する。さて、面倒な説明は穂乃果ちゃんに任せようっと♪さーて、仕事仕事♪
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♭2 高坂穂乃果と神波樹の関係について
「穂乃果ちゃん、神波先生と知り合いなの?」
「うん、そうなのことりちゃん。実は昔から商店街の付き合いで何度もお邪魔したことがあるんだ。グランツリーに。」
「グランツリーですか?西口の喫茶店ですよね。グランドピアノが置いてある。」
「そうなんだよ。あっ、海未ちゃんも行ったことあるんだ。あそこはね、夜はジャズの生演奏をしてくれるんだよ!樹お兄ちゃんはたまーにピアノを弾いてるの‼︎私が小学生だったから多分高校生か大学生の時だと思うんだけど、すっごい上手だったんだよ!」
「私は穂乃果が夜にそんな店に行っていたのが衝撃です!!」
「違う違う!!お父さんとマスターのおじさんが仲良しで良く話をしに行ってるの!!穂乃果と雪穂はついて行ってパフェ食べたりしてたの!!」
「そうなんだ〜。ちょっとびっくりしちゃった。じゃあお兄ちゃんっていうのもうなずけるな〜。」
他の子にも同じような説明をしたら、なーんだ、面白くなーいって反応だった。でも、私は本当に嬉しかったんだ。あの時のキラキラ輝いて見えたステージの上に立っている樹お兄ちゃんが目の前にいるのが。私も大人になったらあんな風にキラキラしたいって思ってたから。そうだ、久々にグランツリーに連れて行ってもらおう。そしたら樹お兄ちゃんのピアノがまた聴けるかな。楽しみ♪
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