love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
日差しの強い廊下を空き教室に向かって歩く。文化祭の実行委員の発足にあたり、またしてもアドバイザー役に任命されてしまったためだ。書類を生徒会で管理するからって都合よく「じゃ、文実も神波先生で!」ってなっちゃったからな!下っ端は辛いよ!集団における経験が少ない個体というものはいつでもヒエラルキーの下部にいなければならない、という真理を今更ながら痛感していると、スパッツにTシャツという、なんとも動きやすい格好で部活に向かっているであろう絢瀬に遭遇した。
「こんにちは、先生。今日は生徒会の集合はかかってなかったはずですが……?」
「こんにちは、絢瀬。今年の文実の顧問役は僕でね。今から会議だよ。あ、書類整理有難う。助かったよ。」
各部活の催事内容をまとめた書類はあらかた提出され、後は会場の抽選を残すのみ、となった。その後、文実が細かな段取りを決める事になっていた。その書類の取りまとめを生徒会がやってくれていたのだ。書類が揃ったら次の日には整理されてたな。絢瀬達の事務能力の高さは折り紙付きだ。
「いいえ別に。こちらの仕事でしたし。あ、それと先生。来週末の土曜日はお手隙ですか?」
頭の中でスケジュールを検索。白紙なのを確認する。
「ああ、その日は特に予定ないよ。大丈夫。どうしたの?デートのお誘い?」
「違いますよ。その日、ライブをするので、手伝っていただけませんか?」
呆れたような台詞の中の、ライブ、という単語を聞いて少しだけ驚く。この間やったばかりじゃないの?という顔をする。
「またやるの?次は何処を借りたんだ?」
文化部は特に文化祭に向けて気合を入れているだろうから、ライブをするようなスペースも観客もいない筈なのだが……
「はい、秋葉原です。」
「は?」
校内にアキハバラなんていう場所はなかったと思うのだが、聞き違いだろうか。
「秋葉原で路上ライブをします。撮影係、お願いしてもいいですか?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
なんかこの子達には驚かされてばかりな気がするなぁ!?よりにもよって秋葉原でゲリラライブかよ!?
「あ、そうそう、南さんが歌詞を書いて、西木野さんが曲を書くらしいので編曲もお願いしますね?」
相変わらずのむちゃ振り!?声もでねぇよ!?
#21 μ's,№4,『L'endroit où un rêve naît』
「美味しいマカロン……食べたい……あ~っ!分かんないよ~!」
放課後の教室。頭を抱えていることりは、どうやら歌詞を考えているようだ。前進はしていない感じではある。あっ、顔を突っ伏した。
「おーい、ことりー、もう教室締めるから出ていってもらってもいい?」
と声を掛ける。顔を上げると半泣きで、
「せんせぇ……歌詞が思い浮かばないよ~」
今にも泣きそうなその様子に少しドギマギしてしまう。僕はあんまり嗜虐的な性格ではないのだが、虐めたい欲求が起こってくる。その欲求を何とか抑えながら
う
「ほう、思い浮かばない……ね。どんなテーマで書こうとしてるの?」
「テーマ……?取り敢えず皆にぴったりの可愛い歌詞を考えようと思って……」
ことりはまたうつむく。
「ああ、なるほど、それは書けない筈だわ。抽象的過ぎるからね。」
「そう……ですよね……やっぱり私じゃ……」
彼女の問題は確たるメッセージ性の無さだ。可愛いものを並べても可愛くはなれない。美味しい物+美味しい物がいつでも美味しいとは限らないのと同様に。ただし、カツ+カレーは例外だ。あれはいつ食べてもうまいな!人生最後の晩餐は確実にカツカレーだ。
また泣きそうになっていることりに向けて話す。
「昔、僕の知り合いのある人が言っていたんだけど、和歌っていうのは『番を見つけるための手段』だったんだって。つまり、歌に恋しい気持ちを乗せることが『よい和歌』の条件だ、ということらしいんだ。だから、ことりも何かを歌うんじゃなくて、誰かに、何かに歌うような歌詞を作ったらいいんじゃないのかな? 」
言いながら、二つの光景がフラッシュバックする。
あの日、雨に濡れる図書館で、彼女はどんな気持ちで僕に歌を教えてくれたのか。
あの日、夜に沈む街で、彼女はどんな思いで僕に歌を捧げてくれたのか。
少なくとも、園田が作る歌詞には、その気持ちや思いが込められている、ような気がした。たがら、ことりもそうしたらいい、と思った。彼女はこちらをじっと見つめ、何かを言いかけた。するとーーーー
「ことりちゃん!こうなったら一緒に考えよう!とっておきの方法で!」
といつもの元気娘、穂乃果ちゃんが教室に飛び込んできた。今度はどんな思いつきをしたのやら……
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「なんで私まで……」
「海未ちゃん、穂乃果ちゃん、2人とも可愛いよぉ~!」
ことりのバイト先のメイド喫茶、二年生組の3人は制服であるメイド服を着ている。いやぁ、コスプレって本当にいいもんですねぇ。ヴィクトリアンメイドなロングドレスがよく映える。ちなみに、ミニスカタイプのものはフレンチメイドという。あれもあれでいいモノですね!
園田はとても恥ずかしそうにしていた。まぁ、ミニスカでさえもあんなに恥ずかしがっていたのだから、ふりふりのメイド服とかも恥ずかしいだろうよ。えっ?制服のスカートが短い?あれはあれ。これはこれ。もうそのあたりの齟齬は無視することに決めた。
「で、お決まりのセリフは言わないのか、園田。一応客として来たんだけど。」
少しワクワクしながらセリフを待つ。だからSなんかじゃないんだからねっ!
「うぅ……お帰りなさいませ、御主人様……」
顔を赤らめると、目を伏せる園田。いや、なに、この子、すごくかわいい」
「むっー。」
「ん?どしたの?穂乃果ちゃん?」
「おかえりなさいませぇ!御主人様ぁ!」
いや、江戸っ子みたいに言わなくても!なんでそんなに怒ってるの?
「先生……恥ずかしいのでそんなこと言わないでください……」
顔を手で覆いながら主張する園田。やべ、またやらかした。
むくれている穂乃果ちゃん、動かない園田、そして戸惑う僕を見てことりはニコニコしている。何か眩しいものでも見るように目を細めることりの表情には先程までの不安は無さそうだった。
ドアベルの音が響く、どうやらお客さんが来たようだ。扉の方を見ると、
「にゃー!!遊びに来たよ!」
と元気良く星空が来た。飲食をやっているから分かるが6人分の伝票なんか誤魔化しようがないと思うんだけど...もしかして、僕支払いですか??
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「それにしても、ことり先輩活き活きしてますね...」
「流石、アキバ伝説のメイドなんて言われ方されてないみたいね。」
ことりの働きぶりを見て小泉と綾瀬が感心しているようだ。
「そうだね、ことりはこのバイト好きみたいだからね。」
と残り少なくなったアイスコーヒーを飲みながら答える。
「ところで、先生は穂乃果先輩とことり先輩だけ名前でよんでるにゃー?なんで?」
「ああ、言ってなかったかな、穂乃果ちゃんは実は小さい頃からの知り合いでね、久々に会ったんだけど、下の名前で呼ばれた方がいいみたいだったから呼んでるだけ。ことりはまぁ、担任ってのもあるけど、本人が望んだからね。」
「じゃあ、先生は私達が呼んで欲しいってお願いしたら下の名前で呼んでくれるんですか?」
「それを君が望むなら。どうする?絵里?」
少しニヤつきながら答えると、ぱっ、と顔を赤くした綾瀬が戸惑ったように
「えっ、あの、あ...いきなりはちょっと...」
と答えた。それをジト目で見てくる矢澤。
「ちょっと、あんた馴れ馴れしいんじゃないの?このセクハラ野郎。」
「セクハラは本人達が問題にしなければ成立しないよ、にこ。覚えておくんだな。」
「はっ、いきなり呼ばないでくれる?このスーパーアイドル矢澤にこ様の名前を呼んでいいのは選ばれた人間とファンだけよ、あんたに呼ばれたくないわ。」
とプンスカな矢澤。少しカチンと来たので押しておく。
「そっか...僕は矢澤の熱烈なファンのつもりなんだけどな...」
と寂しそうに下を向く。すると焦ったかの様に
「ばっ、そんなこと...じゃあ、仕方ないわね!呼ぶのを許してあげるわよ!」
ツンデレ頂きました。西木野といい、矢澤といい、ツンデレ具合がいい感じだ。
「おう、ありがとうな。何せ僕にとってYAZAWAっていったら1人だけだからな!」
「永吉の話はもういいのよ!ばかっ!」
ガムシロップの空き容器が顔に飛んでくる。いやー、いじり甲斐があってかわいいなぁ。
「じゃあ、もうええ時間やし、そろそろ帰ろっか?」
と打診してくる東條。
「そうね、先生と矢澤先輩の漫才もオチが着いたし、帰りましょうか。」
と冷静な西木野。それを見つけたことりが
「あっ、お帰りですか?行ってらっしゃいませ、御主人様、お嬢さま!」
と溌剌と答えてくる。それが余りにもスッキリした笑顔だったので、
「イイコト、あった?」
と聞くと
「はい!穂乃果ちゃんのおかげで!」
とこれまた眩しい笑顔で答えてくれた。なるほど、歌詞が浮かんだのかな、と安心するのだった。
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そして土曜日、ライブを行う皆のために機材を用意して家電量販店の近くに立っていた。すると向こうからメイド服に身を包んだμ'sのメンバーが歩いてきた。
「あれ?メイド服でやるの?」
と聞くと、にっこりと微笑んだことりが
「そうなんです、この歌を歌うときは、私らしくありたいと思って皆にお願いしたんです。」
と伝えてくれた。他のメンバーを見ると照れが入っている子もいるようだった。特に西木野。
「そっか、じゃあ、綺麗に撮っておくから、精一杯頑張ってきなよ。」
と伝えると更に眩しい笑顔で、はい!と答えてくれた。少し後ろに下がり、機材を整え、全員がポジションに入ったのを確認して合図をだす。緩やかなメロディとともに流れる優しい歌声。ここは不思議な、夢が始まる場所。自分を探す人が行き交う街。その背景の1つに自分がいることを、彼女達と居られることを噛み締めながらファインダーをのぞき込む。強くなれる未来が確かに見えたような気がした。