love live!! そして彼女達の青春が始まる 作:二階堂吉四六
「あー、暑い…」
「うるさいわね、そんなの分かってるから。言わなくていいわよ。」
「それにしても、今年は特に暑いですね…」
クーラーを着けてない職員室での僕、聡子、京子さんのやり取り。音ノ木坂学院も国立だけあって冷暖房の点灯は厳しい。µ’sの秋葉原ライブが終わり、7月間近。陽射しが厳しくなる時期、職員室はサウナ状態だ。海行きてぇ...海開きも職員室のクーラーも今週末からかよ…
「こう暑いとプール入りたくならね?」
「いや、それより海じゃない?」
「そうですね…海行きたいですね…」
胸元の服をパタパタさせる聡子。下敷きで自分を仰ぐ僕。ハンカチで汗を拭く京子さん。そんな最中、
「おっはよーございますー!今日も天気がいいねぇ!」
と入ってきたのは山田先生。
「博子…あんたがいると余計暑くなるからどっかいっててもらえる??」
と酷いことを言う聡子。ただ、少し同意してしまう。体育教師はジャージでいいから楽だよな。(偏見)
「ふふーん、そんなこと言っていいのかなぁ??」
「何かあったの?博子?」
京子さんも少しうんざりした様に言う。
「じゃじゃーん!!一泊二日、熱海リゾートホテルペアチケット二枚分!」
なんとぉ!海行きのチケットかよ!しかも四人分!この話の流れは…
「でかした!博子!今週いくわよ!樹、京子、空いてるわよね!」
と意気込む聡子。
「もちろん大丈夫だ!どうする?どうやっていく?新幹線か?」
ノリノリの僕。
「出来ればレンタカー借りて行きたいですね、車でドライブしながらなんて素敵ですもの。」
微笑む京子さん。
「いやぁー、昨日地元商店街の福引であたってさぁ、流石に急な話だったから他の友達はダメだったんだけどあんた達が行けて良かったわー!」
とご機嫌の山田先生。いや、本当に有難うございます。携帯のスケジュールに「熱海」と書き込む。早速パソコンでうまい飯屋を探そうとすると、他の3人も寄ってきた。暑い最中四人で僕のパソコンをのぞき込み、ここにいこう、あそこに行こう、と話していると
「ゴホンッ」
と咳払いが聞こえた。音のした方を見ると
「あ、絢瀬、何か用事…??」
少しむくれている絢瀬がいた。なんかこの流れどこかであったぞ!
#22 京子ブラヴール
「ほう、合宿ね。」
「はい、西木野さんの別荘を借りて合宿兼pv撮影をすることになりましたので、ビデオカメラの持ち出しの許可証を持ってきました。」
絢瀬にジト目で見られ、他の3人は散り散りに去っていった。少し針の筵感覚を味わいながらも何事か聞くと、意外な返答がかえってきた。連日の暑い最中、彼女らも屋上で練習するのは限界だったのだろう、合宿しようという話になったそうだ。
「提案者は?」
「高坂さんです。」
まぁ、そんな気はしていたが…
「分かった。一応生徒会の機材だからピーターソン先生にお伺いたてとくね。」
まぁ、ダメとは言われないと思うけど。
「有難うございます。こちらが合宿の予定表と西木野さんの別荘の電話番号です。何か問題があればこちらから電話しますので、よろしくお願いします。」
A4サイズのプリント1枚と電話番号が書かれている青色の付箋を渡してきた。
「了解。ただ、今週末は僕も外出しているんだよね。一応僕の携帯番号も教えておくけど、メインはピーターソン先生にお願いしておくね。」
こちらもピンク色の付箋に自分の携帯番号とメールアドレスを書いて渡す。
「分かりました。でも多分神波先生に電話すると思いますよ。」
「えっ?なんで?」
今週熱海なんだけど、呼び戻されるのは嫌だなぁ...
「私達の合宿先、熱海ですから。」
にやり、と答える絢瀬。まじか。熱海に別荘持っている西木野家パねぇな。
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という訳で土曜日。僕は京子さんと待ち合わせてレンタカーを借りに行き、東京駅にいる2人を迎えに行く。今回の熱海への旅に当たって、まずはロケーション第一、ということで首都高で横須賀まで、1号線を南下してバイパスを通り茅ヶ崎へ、あとは海沿いをひた走り熱海海岸道路へというオーシャンな感じで行くことになった。アメリカのルート66も良かったけど、こういう海が見える道路を走れるのは良い。ルート66を走っている時はナット・キング・コールだったが、今回はサザンオールスターズで走りたいね。
東京駅のロータリーに入り2人を確認する。大きめのワゴン車の後ろに二人の荷物を乗せ、いよいよ出発。旅に出る前の期待感で皆テンションが高いようだ。
「いやー、それにしても渡りに船だったわねー!」
とご機嫌の聡子。それに答えるように山田先生が
「ほんとに感謝して欲しいねぇ、今回の旅は私何もしないから、運転よろしく、神波先生!」
「任せて下さいよ、山田先生!安全運転でいきます!」
助手席の京子さんもニコニコしながら
「ナビもあるし、快適な旅にしましょうね!」
と伝えてくる。いや、本当にナビって便利だよね。日本に帰って来てしみじみ思ったよ。
「あ、そう言えばさっき博子と待ち合わせしてるときアイドル研究部にあったわよ。あの子ら何してたの?旅行?」
と聡子が後ろから身を乗り出してくる。
「いや、熱海で合宿だって。pv撮影も兼ねてるみたい。」
「熱海って…遠くない?そこに行こうとしている私たちが言うのも何だけど。親御さんも大変だねぇ、宿泊代もバカにならないだろうに。」
感心したような山田先生。あっ、もうビール飲んでるし。
「いや、何でも1年の西木野が熱海に別荘持ってるみたいですよ。」
「へーっ、熱海に別荘かぁ、いいなぁ。私の所、軽井沢だから海ないのよねぇ。京子は何処だっけ?」
「うちは和歌山の白浜だから、海は海だけど東京から遠いのよねぇ。なんで買ったのかしら。」
おい、お前ら何を言っているんだ。普通の家庭は別荘なんて持ってないから!
「あんたらのハイソぶりは初めての人は引くからあんまり言わない方がいいと思うよ?」
「あれ?博子の所は別荘無かったっけ?」
「うちは無いよ。強いて言えばあんた達の実家が別荘よ。」
イカを頬ばりながら答える山田先生。やっぱり普通は持ってないですよね。格差社会に絶望しながらCDをかける。一枚目は京子さんのリクエストのものだ。ベース音が効いたサウンドに力強い洋楽のラップ。意外な選曲だ。某アクション映画で使われていた曲だ。
「ねぇ、京子。何でこの曲にしたの?」
訝しむ聡子。
「だって、あの映画面白かったもの。ちょうどドライブだし。」
とニコニコして答える京子さん。続けて僕が
「まぁ、そうだね。でもごめんね、今日はダッジチャレンジャーじゃないんだ。」
と言うと隣からにっこり笑って、
「チャージャーをオークションでセリ落としときましょうか?」
と答えてくれるのだった。本当にセリ落として来る気がして不安になり、それをかき消すようにアクセルを踏み込んだ。
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「イェーイ!!あたーみー!!」
熱海海岸道路を走り初めてすぐ、窓から身を乗り出し叫ぶ山田先生。出来上がり過ぎだろ!
「「「イェーイ!!あたーみー!!」」」
叫ぶ僕達。いやー、ドライブってほんとにいいもんですねぇ!後ろの二人はもうビール開けすぎだろぉ!別にいいけど!しかも混んでないから気持ちがいいこと!またしても後部座席から身を乗り出してきた聡子が、
「なんかあっという間についたわねー。もっと時間かかると思ってたのに。」
と腕を僕の首に回してきた。いや、いい匂いするからヤメテ!
「そうね、3時間弱で来られたから良かったわね。早く出た甲斐があったわ。樹さんもありがとうございます。運転疲れませんでしたか?」
とペットボトルのお茶のふたを開け、上目使いで渡してくる京子さん。気遣いができるのはいいですけど、ドキドキするからヤメテ!それを受け取りながら喉を潤す。
「いやー、運転していて気持ちよかったから全然問題ないですよ。」
実際車の中は姦しい会話のオンパレード。後部座席の二人はアルコールの力を借りてノリノリだ。
「どうでもいいけど、イチャイチャするなよー。私も混ぜろー!」
と右斜め後ろから山田先生が肩パンしてくる。痛いからヤメテ!
そんな一幕も楽しい旅を彩るスパイスでしかない。日々の憂さを晴らして走る白いワゴンの中は笑いが絶えなかった。出会って数年のもたった人間とも、出会って数か月の人間とも笑って過ごせる関係を築けたことは非常にありがたいことだ、と痛感する。
「どうしたんですか、樹さん。変な顔して。」
笑いながら京子さんが聞いてくる。ペットボトルを返しつつ、後ろで騒ぐ2人の声をBGMに乗せながら答える。
「いや、出会えてよかったな、と。」
その返答を聞いて一瞬ポカンとした顔を浮かべた京子さんは、少しはにかみながら僕のペットボトルを受け取る。その時一瞬触れた手の温度が、冷房の効いた車内の中であっても、夏を感じさせた。
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日が沈み、夜の帳が落ちる。昼間の喧騒はどこへ行ったのか、海岸は非常に静かだ。宿に到着して早々に海岸に繰り出した僕らは、昼間は遊び倒して、夕方は宿で飲み、部屋でゆっくり休むことになった。ちなみに部屋割りは女性陣1室、僕1室と贅沢に使わせてもらっていた。不幸なことに禁煙の部屋だったので煙草を吸いにロビーへ行くと、ふと夜の海が見たくなり外に足を向けたのだった。
海岸につながる階段に座り、煙草を吸う。すると隣に人の気配がした。
「お散歩ですか?」
浴衣姿の京子さんだった。先ほどの食事の時のアルコールが残っているのか、心なし顔が赤く見える。
「ええ、煙草が吸いたかったので少し出てみました。京子さんも散歩ですか?」
煙を風下へ送る。遠くの繁華街の光に照らされた少し紫がかった煙は、風に乗り、夜の闇に消えた。
「2人が寝てしまって1人で飲んでいたら樹さんが外に出ていくのが見えたので、後をつけました。」
クスクス、と悪戯をした少女のように笑う。その笑顔が遠い記憶の中の母に重なり、少し泣きたくなった。
「それは悪いことしましたね。どうします?帰りますか?」
「いいえ、私も散歩したかったですし。少し歩きましょうか。」
立ち上がり、腰についた砂を手で払う京子さん。サンダルを脱いで砂浜にジャンプした後でこちらを振り返り、手を招く。少しだけほほえましく思いながら僕も靴を脱いで砂浜に降りる。
少しだけ、温かいですね。
そうですね、昼間の熱が残っているんでしょうね。
昔よく砂浜で絵を書いていたんですが、波に流されて消えるのが悲しくて泣いていたんです。
へぇ、かわいい時期あったんですね。
今はかわいくないって聞こえますよ。
今はかわいいっていうより…
何ですか、途中で止めないで下さい。
「樹さん。」
「何でしょう?」
呼びかけられて、振り向いた瞬間に唇に柔らかい感触があった。
「今回は、失敗しませんでしたね。」
少し先に走って行った彼女がこちらに振り向き、笑いかける。一瞬、波の中、誰かの声が聞こえてきたような気がした。しかし、肌寒い空気と反するような熱がその声を遠ざけていった。砂浜に残る熱のように、僕の唇から感じるそれは冷めそうになかった。