love live!! そして彼女達の青春が始まる   作:二階堂吉四六

23 / 29
出来たので投稿します!


#23 聡子コムプリエレ

寝苦しさを感じ、ふと時計に目をやる。時刻は2:00。空調が効いているはずなのに寝付けないのは数時間前の熱の名残だろうか。外からはさざ波の音。穏やかなリズムは昔のことを思い出させた。

 

 

 

 

 

#23 聡子コムプリエレ

 

 

 

 

 

 

僕の母はもともと体が弱かったようだ。僕を産んだ後も死ぬ寸前だったらしい。父はその時のことを『もしあいつが死んでいたら俺も死んでいたと思う。』と冗談交じりに言っていた。

母は僕を20歳で産み、30歳で死んでしまった。母が死んだとき、両親がどのような恋愛の結果、僕を産んだかは詳しくは知らなかったが、小さい頃友達のみんなには2人ずついた『おじいちゃん・おばあちゃん』が僕には1人ずつしかいなかったことからも、『いとこ』と呼ばれる存在がいなかったことも、子供ながらに何かしらの事情を察するのに十分すぎる理由ではあった。

 

小学生に上がったころだろうか、母が弾いていたピアノを僕も弾けるようになりたいと思い、母にピアノを教わるようになった。当初、母は僕にピアノを教えるのを嫌がっていたらしい。どこかのピアノ教室に通わせる方がいい、と言っていたと聞いた。なぜ母は僕にピアノを教えたがらなかったのか、今では知るすべもない。最初の3年間は楽しかった。バッハやブルグミュラーを弾き、エリーゼのためにを何とか形にした時、母は逝ってしまった。そこから僕は母の面影を求めて、遺品であった楽譜をあさり、自分で弾けるものはすべて弾いていった。小学校の音楽の先生が音大でピアノ専攻だったらしく、よくピアノを教えてもらっていた。中学生になると友達が運動部に入部するのを尻目に、拘束時間が短い合唱部に入り、伴奏者をかってでて、土日になると父の店の手伝いと称して、店のピアノを弾いていた。目をかけてもらったピアニストの人たちから手ほどきを受け、いろいろなアーティストの薫陶を受けながらも、母の後を追いかけていた。

 

母が死んでからの数年間、ピアノは僕にとっての『義務』であり『方法』でもあった。死んでしまった彼女の分まで演奏することが。死んでしまった彼女を忘れないようにするための。

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

時はさかのぼり、ゴールデンウイーク。午後5:00。僕は聡子との待ち合わせのために新宿駅西口に立っていた。そういえば関西から来た友人に「新宿駅西口集合な。」と連絡したら新宿西口駅に来たことがある。実に紛らわしい。東京の人間からすると当たり前だが、地方から出てきた人間からすると新宿駅はダンジョンみたいなものらしい。まぁ、僕からすると大阪駅周辺もダンジョンだけど。ホワイティ梅田とか。

 

時刻が5:15になり、遅刻かどうか確認しようと携帯を取り出したとき、カツン、というヒールの音とともに彼女はやってきた。ミディアムの茶色の髪はそのままに、赤い膝丈までのドレスを華麗に着こなしていた。黒いヒールと黒のカーディガン、白いパーティバッグがワンポイントでその赤を際立たせていた。

 

「そのジャケット、おしゃれね。」

 

「そっちこそ、ドレスいい感じじゃないか。似合ってる。」

 

「まぁ。三つ星だからね。少しおめかししてきたのよ。さて、エスコートしてもらおうかしら。」

 

「承知しました、お嬢様。」

 

執事の物まねをすると、微笑んでやんわりと腕を組んでくる聡子。柑橘系のさわやかな香りが漂ってきた。人ごみの中をゆっくり進む。以前名前を呼んでほしい、と言われてから彼女との接触で一番近い距離だ。

 

「ちょっと、何緊張してんのよ。」

 

「いやいや、緊張するだろう。こんな経験数えるほどもないんだから。お前は慣れてるだろうけど。」

 

「私だってパパやおじさんとならこういうことしたことあるけど、年の近い人とはしたことないわよ。緊張がこっちまで伝わるからヤメテよ。」

 

お互いが歩きにくさを感じている状況がなぜかおかしくて、笑いあった。

 

「まぁ、じゃあ、初々しい感じで行こうか。」

 

「そうね、折角の機会だし、何事も経験よね。」

 

踏み出した一歩からは先ほどのぎこちなさが少しだけ、無くなっていた。

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

「いやーさすがに三つ星は違うわねー。料理の見た目もきれいだったわ。」

 

楽しい食事会を終え、近くの公園を腹ごなしにあることにした僕たち。というか、新宿にあるのに何でナイアガラの滝なんだよ!ナイアガラフォールズに失礼だろ!と昼間は都民の憩いの場になっている広場で思う。ともあれ、都庁を望むこの場所は僕にとってのお気に入りの場所でもあった。

 

「昔ここで花見した時のこと、覚えてる?」

 

「ああ、確か鈴木がここで泳いで無茶苦茶怒られてたな。」

 

鈴木は大学時代の友人だ。もれなく聡子に告白して玉砕していたうちの一人だ。今は栃木にある某バイクメーカーに勤務している。営業先からは「鈴木なのにこのメーカーなんですねw」と煽られていると聞いた。

 

「あの前後、私鈴木君に告白されたのよねー。」

 

「なんだよ、そのモテル自慢。知ってる。その反省会、俺も出たから。」

 

「そうなの?なーんだ、知ってたのか…」

 

少しうつむく聡子。表情はうかがい知れない。

 

「その話聞いて、どう思った?」

 

アルコールのせいだろうか、少し声が震えていた。

 

「…忘れたよ。」

 

ライトアップされた滝を見る。ゴールデンウイークの中日のためか、昼間イベントがあったのだろう、少し熱気が残っているような気がした。

 

「行こうか、もう酔いも醒めただろう?」

 

と伝えると、こくり、と小さくうなづいた聡子。連れだって歩くその距離は、まだ、ぎこちなさが残っていた。すると、かすかな抵抗を覚える。横を見ると聡子が顔を真っ赤にしながら僕のジャケットの袖を掴んでいた。顔が赤いのも、アルコールのせいだ、と心の中で結論付けて、駅まで歩いた。

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

ドンドンドン!!

 

ドアをたたく音がする。

 

「おーい!神波くーん!朝だぞー!ご飯食べにいこー!」

 

と山田さんの声がする。旅の間は先生呼びはやめておこう、という話になったのだった。眠気眼で時計をみると8:00。どうやら昔のことを夢に見たようだった。

 

「はーい、今行きまーす!」

 

手早くズボンをはいて、シャツを羽織り、ドアを開ける。すると準備ができていたのか、三人とも待っていた。

 

「朝はバイキングらしいよ!ソーセージ食べに行こう!」

 

とにっこりする山田さん。どうやらソーセージを食い尽くしたいらしい。確かにバイキングの時のソーセージは格別だ。

 

「おはよう、樹。よく眠れた?」

 

と聡子がにこやかに聞いてきた。夢に彼女が出てきていたせいか、すこし気恥ずかしかった。

 

「おはよう、まぁまぁかな、運転には支障ないから大丈夫。」

 

すこし僕の声が硬かったのか、聡子は訝しげな顔をしたが、その違和感を無視して、

 

「そう、ならよかった。じゃあ、行きましょうか。」

 

と言った。エレベータに向かう途中、京子さんと一瞬視線が交錯する。昨日のことがあったためか、こちらもすこし気恥ずかしさを感じてしまった。京子さんは少しだけ微笑む。僕はうつむく。その二人の空気を、聡子が感じ取っているのに気が付かないままに。

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

午前中にチェックアウトを済ませた僕らは、昼過ぎまでまた海で遊び、行きと同じように海岸沿いの道を帰っていた。行きと違う点は助手席に聡子が座っていることと、後ろの2人はぐっすり寝ていること、その2人に気を使って音楽はかけていないことくらいか。

 

 

「ねえ、あんたら2人、なんかあった?」

 

「…だれと?山田さんか?」

 

「とぼけないで。京子と、よ。」

 

「…」

 

「沈黙は肯定とみなすわよ。」

 

「うん。あったよ。何があったかは言えないけど。」

 

「そう。」

 

肘をついて窓のそとを見る聡子。あの公園のときのように表情は隠れていて見えなかった。しばらく無言のまま車を走らせる。山側を見るともうそろそろ太陽が沈みそうだった。

 

「ねぇ、樹。ちょっと車停めてもらえる?」

 

聡子が提案する。いいよ、と答えて路肩に車を停めた。聡子は外へ出ると防波堤の方へ歩いていった。僕もそれを追うように外へ出る。聡子の隣に並び、煙草に火を点けた。しばらく2人で暗がりはじめる海を眺める。煙草が尽きて、携帯灰皿にフィルターだけになった吸殻を入れると、ポツリ、と聡子がつぶやいた。

 

「…私、京子のこと好きなの。」

 

「…」

 

「高校生からずっと、正反対の性格をしてた。私はガサツで、気の利かない、ただのうるさい小娘だったけど、あの子は私にない何もかもを持ってる。正直羨ましかった。そして不思議に思ったわ。なんでこんなに魅力的な女の子が私なんかと友達になってくれているのかな、って。」

 

「…」

 

「京子に敵わないかもしれない。でも、あなたのことも好きなの。京子に渡したくないって思ってるの。私の方があなたを前から知っているのに、どんどん2人の距離が近づいて行ってる。もしかしたら、私は2人に置き去りにされちゃうんじゃないかって。」

 

「…そんなことないよ。僕らはどこにも行かないさ。」

 

もしくはどこへも行けないかもしれない、とも思う。停滞することが怖いくせに、踏み出せない。まるで命綱のないバンジージャンプを飛ばされる気分だ。

 

「ねえ、樹。」

 

こちらを向く気配がする。陽はもうほぼ沈み、西の空には宵の明星が輝いていた。聡子の方を向く。その表情はまるで迷子のように不安げであった。

 

「…友達が頑張っているから、私も頑張る、なんて言ったけど、怖いよ…」

 

その潤んだ目に、星が瞬く。その星がこれ以上滲まない様にしたい、と思った瞬間に体が動いた。

アスファルトに映る2つの影は、太陽が完全に沈む直前に1つになり、すぐに見えなくなった。

 

 

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 

 

無事東京へ着き、みんなを家まで送り、レンタカーを返して家に着いた。この疲労感は確実に運転だけではないと分かっていた。重苦しさを感じながらベッドに倒れこむ。携帯のランプが点滅しており、メーラーを開いて確認すると知らないアドレスからだった。

 

 

『件名:合宿についての報告

本文:音ノ木坂学園の綾瀬です、先日お伝えした合宿ですが、無事終わりました。pvも良いものが出来上がったと思いますので、下記のアドレスからご確認ください。再生数アップにご協力お願いしますね。ではまた明日、学校でお会いしましょう。』

 

 

教えていたメールアドレスに綾瀬が報告を入れてくれたらしい。メールの一番下にはスクールアイドル専用の動画サイトのアドレスが添付されていた。開くとμ'sの9人が到来した夏を楽しそうに歌っていた。その軽やかで、優しいメロディに誘われるように、僕は眠りに落ちた。




お察しの方もいらっしゃるかと思いますが、μ'sの皆が撮影したpvは『夏色...』です。アニメ劇中ではライブシーンが無かったので、こちらでもカットしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。